名物書店員であり「仕掛け番長」の栗俣力也さんが語る、マンガの素晴らしさと今注目している作品

マンガ

公開日:2021/6/18

 その年に“くる”であろう作品を選出する「次にくるマンガ大賞」。7回目となる今年もいよいよノミネート100作が発表され、マンガ好きによる投票がスタートした。過去には『SPY×FAMILY』『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』『僕のヒーローアカデミア』といった大ヒット作が選出されている。さて、今年はどんな作品が選ばれるのだろうか……?

 今回は「仕掛け番長」との異名を持つ、TSUTAYAの名物書店員・栗俣力也さんにお話を伺うことに。2018年から「次にくるマンガ大賞」作品発表会のゲストコメンテーターも務める栗俣さんは、この賞をどのように捉えているのだろうか。

栗俣力也

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■読者に面白い作品を知ってもらうため、「仕掛ける」

――栗俣さんは出版業界で「仕掛け番長」の異名を持つ人物として有名ですが、はじめましての読者に向けて、現在どんなお仕事をされているのか教えていただけますか?

栗俣:今はTSUTAYAの本部にある商品開発部に在籍しています。売りたい作品があった場合、「どうやってこの作品を盛り上げていけばいいのか」を広い意味で考える業務です。たとえば最近のヒット作でいうと、『呪術廻戦』。そのアニメーションを制作したMAPPAさんとコラボして、TSUTAYAで広く展開しました。文字通り、「仕掛けていく」のがぼくの仕事なんです。

――これまでに手掛けたお仕事で手応えを感じたものはありますか?

栗俣:5、6年ほど前に行った「コミックス1巻目サイン本フェア」です。マンガって、1巻目をどうやって手に取ってもらうかが非常に大事なんですよ。人気シリーズとは違って、新作となると簡単には手を出しづらい。でも、面白い作品はたくさんある。そこでさまざまなマンガの1巻目にサインをつけていただき、販売しました。

 それこそ何百種類ものマンガを集めて実施したのですが、それが大反響で。開店前から800人を超えるお客様が列を作って待ってくださっていたのを覚えています。それ以来、「コミックス1巻目サイン本フェア」は定番イベントになりましたね。

――世の中には「面白いのにチャンスに恵まれず、埋もれてしまった作品」もたくさんあると思います。栗俣さんはそういった作品を発掘し、読者に届けたいと思っているんですね。

栗俣:そうなんです。多分、これは多くの書店員が思っていること。お気に入りの作品をどうやって売っていくのか、それをヒットにつなげていくのかを考え、売り場で仕掛けていくんです。それが書店員という仕事の醍醐味でもあります。

■「忖度がない」ところが、「次にくるマンガ大賞」の魅力

――栗俣さんは2018年から「次にくるマンガ大賞」にも携わられていますが、その経緯を教えてください。

栗俣:2018年は『来世は他人がいい』が1位を受賞した年です。そのとき、たまたまニコ生のゲストコメンテーターとして呼んでいただき、そこから毎年関わるようになりました。

「次にくるマンガ大賞」って、売れている作品を選ぶコンテストではないんです。言ってみれば、「ガチのマンガ好きが、本気で今年くるだろうと思っている作品」を選ぶコンテスト。そういうランキングって、これまでなかったんです。個人的にはそれが面白いと思っています。毎年ランキングを見ていても「これは本気で選ばれているな」と感じますし、何にも忖度していないですよね。

――これまでの受賞作で印象に残っているものはありますか?

栗俣:たとえば第1回のコミックス部門で13位にランクインした『ib -インスタントバレット-』。作者の赤坂アカ先生は、第3回のコミックス部門で1位を取った『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』で知られるマンガ家さんです。でも、マンガ好きたちは、すでに『ib -インスタントバレット-』の時点で赤坂先生の面白さを見抜いていて、ランキングで推していたわけです。

 さらにいうと、『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』が1位になったとき、2位には『約束のネバーランド』が入っていました。『約束のネバーランド』は1巻目の時点で大きな話題になっていて、社会的なヒット作でしたよね。それでも『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』が評価された。それこそが「次にくるマンガ大賞」の面白いところなんです。

 2018年、『来世は他人がいい』が1位に輝いたときも、その下には『五等分の花嫁』とか『呪術廻戦』が名を連ねていた。どちらも大ヒット作ですが、それでも『来世は他人がいい』が推される結果になったというのも、あらためて「次にくるマンガ大賞」らしさを感じさせますね。

――昨年のランキングを見て、何か感じることはありましたか?

栗俣:やはり、世相が反映されていると思いました。コロナ禍で暗いムードが漂う中、ライトで楽しい作品が数多くランクインしましたよね。個人的にも推しているのは、コミックス部門で1位になった『アンデッドアンラック』です。ストーリー展開の早さと爽快さが両立されていて、とても面白い作品です。

■今注目している作品と、「次にくるマンガ大賞」に期待していること

――今年の「次にくるマンガ大賞」にはどんな作品が入ってくるのか楽しみですが、その前に、栗俣さんが最近注目している作品も知りたいです。

栗俣:まずは『夢見が丘ワンダーランド』。作者の増田英二先生が初期の頃に描いていた『透明人間の作り方』のホラー的な要素が盛り込まれていて、増田先生らしさが感じられる作品です。デビュー当時から知っている人からすれば、「昔の増田先生が戻ってきた!」とうれしくなると思います。

 あとは、『Mr.マロウブルー』。いわゆる“入れ替わりもの”なんですが、これまで見たことがないようなストーリー展開で引き込まれます。それと、絵が素晴らしく上手い。細かな部分の表現を言葉ではなく、絵でしっかり見せてくれるんです。まだ2巻目ですが、人によって読み取り方が変わる物語になっていて、考察のしがいもありますね。

「次にくるマンガ大賞」にも何度かランクインしていますが、『トニカクカワイイ』もあらためて今推したい。特に「第2部」に入ってからの展開が面白くて、テレビアニメ化されたことも相まって、これはくるんじゃないかなと思っています。

――どんどん作品が出てきますね。栗俣さんがガチのマンガ好きだということが伝わってきます。

栗俣:いや、まだまだたくさん挙げられるんですけどね(笑)。マンガって本当に素晴らしいと思うんです。短時間で濃密なストーリーを楽しむことができるじゃないですか。最高のコンテンツだと思います。

 それにマンガを読んでいると、その世界に没入できる。日々の面倒なことをすべて忘れて、泣いて笑って感情がぐちゃぐちゃになって、「あぁ、面白かった!」ってスッキリできるんですよ。

――たしかに。では、今年の「次にくるマンガ大賞」に期待していることをお聞かせください。

栗俣:書店員のひとりとしては、これからのヒット作がどんどん発掘されてほしいと思っています。そして個人としては、初期の「次にくるマンガ大賞」で見られたように、「こんな作品、知らなかった!」と驚かされるようなものがランクインされていてほしい。この賞を通じて未知の作品と出合えることに、誰よりもぼく自身が期待しているんです。

 ランキングを通して面白そうな作品と出合えたら、ぜひ書店にも足を運んでください。そうすると、さらに未知の作品と出合えるはずです。書店って、本を買うためだけの場所ではなくて、一人ひとりの書店員がお気に入りの作品を推している場所でもあります。みなさんが面白い作品と巡り会えることを願っています!

取材・文=五十嵐 大


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