清水ミチコ「“会って話す”ってやっぱり楽しい!」25組・50名の豪華ゲストとアドリブで語らう気ままな鼎談集《インタビュー》

小説・エッセイ

公開日:2021/7/12

清水ミチコさん

「3って不思議な数字ですよね。旅行に出かけてもふたりだと意見がぶつかるし、4人だといつのまにか2組に分かれるでしょう? でも3人なら、2対1で意見が分かれても必ずひとりが折れる(笑)。この企画も、続けるうちに“あ、すごくバランスがいい”と気づいて毎回楽しみになりました」

(取材・文=野本由起 撮影=種子貴之)

『婦人公論』で、3人でおしゃべりする連載企画を始めて早4年。このたび、『三人寄れば無礼講』に続く2冊目の鼎談集が刊行された。収録されたのは、計25組、50名のゲストとの気ままなトーク。アンガールズや三四郎のようにコンビで参加するゲストもいれば、作家の朝井リョウさんとラジオパーソナリティ・タレントの伊集院光さん、ミュージシャン・作家の尾崎世界観さんとお笑いコンビ・ハリセンボンの箕輪はるかさんといった異業種の組み合わせも。清水さんを含む3人が本音をぶつけ合うことで、笑いや共感、驚きなどさまざまな化学反応が生まれている。

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「まず“この人に会いたい”という方をひとり提案して、OKが出たら“この人に合うのはどんな方だろう”と、もうひとりを選ぶんです。キャスティングに時間がかかりますけど、話が面白く転がればガッツポーズ。私の実家はジャズ喫茶で、子どもの頃からカウンター越しに“こっちの人、全然しゃべってないな。もっと話を振ればいいのに”なんて思いながらお客さんの話を聞いていたので、ゲストに話を振り分けるのは案外得意かもしれないですね」

 テーマは設けず、何を話しても自由。例えばエッセイの名手として知られる女優の小林聡美さんと言語学者の金田一秀穂さんがゲストとなれば、言葉に関する話が広がると思うだろう。でも、蓋を開けてみれば、声について考えたり、「東京オリンピックで楽しみな競技は?」なんて話題が飛び出したり。打ち合わせなしのアドリブだからこそ、トークが思いがけずスイングする。

「そう、関係ないことばっかり話すんです(笑)。話がどんどん脱線していっても、そのまんま。人って集まるとすぐ話し始めるので、編集者には“録音ボタンを早めに押しといてください”ってお願いしました。何気ない雑談も面白いから、カットしちゃうのがもったいなくて」

人の内面、日々の暮らし……コロナ禍は話題にも変化が

 錚々たるゲストの中で、特に印象に残っている方を聞くと……?

「マンガ家のヤマザキマリさんがぶっちぎりですね。イタリア生活が長い方なので、向こうの暮らしがいかに素晴らしいかという話になると思ったら、全然そんな感じじゃなくて。“現実ってこんなもんだろうな”と思うような話がどんどん飛び出して、すごく面白かったですね。脚本家の中園ミホさんと作家・林真理子さんとの鼎談も楽しかった! やっぱりものを書く人、自分を表現する人は、話も面白いんですよね。どこかで聞いたような話ではなくて、えっと驚くようなことを話してくれるんです」

 2018年10月から20年10月までの鼎談を収めているため、後半からは新型コロナウイルス感染症が影を落とし始める。だが、休載やリモート収録は一度もなし。人と会うことがままならない昨今、清水さんたちの楽しいおしゃべりは、読者の癒しや希望にもなるはずだ。

「人と直接会うことのありがたさを感じましたし、“会話ってこんなに楽しいんだ!”とあらためて実感しました。ライブだってそう。配信ライブもいいけれど、その場の空気を生で感じることが大事だと思うんです」

 コロナ禍を経て、話題も少しずつ変わっていった。占いやスピリチュアルなど人の内面に迫ったり、日々の暮らしの中で得た実感について話したりする機会が増えたそう。

「“緊急事態宣言が出た時、どう過ごしてました?”なんて話題が増えましたね。以前よりも密な話が聞けて、これはこれで面白いなと思いました。ハライチの岩井勇気さんと作家の羽田圭介さんとの鼎談では、“コロナ禍で何を食べてた?”なんて話も。カッコつけた人だったら気取ったものを挙げますけど、ふたりとも正直だから“具のないたこ焼きを作ってました”だって。岩井さんが、湯豆腐のことを“豆腐をお湯に入れてびしゃびしゃにしただけ”なんて言ってたのもおかしかったな(笑)。俳優の榎木孝明さんからは、食事を摂らない“不食”生活について話を聞き、私も月曜だけ断食してみたり。まぁ、食欲に負けて続きませんでしたけど(笑)。食べ物の話は興味があるので、楽しかったですね。本当の自分、ありのままの生活について恥ずかしがらずに話しているのが、2冊目の個性だと思います」

 コロナ禍の中でも、深刻なムードになることなくカラッと明るく会話を楽しんでいるのも清水さんらしい。

「仕事やお金は減ったけれど、そんな中でもうまく生きることができたら、これから先、何があっても勝ちだと思うんです。なので、今の状況も明るく乗り越えていきたい。それは皆さんにもお伝えしたいですね。どこかで聞いたのですが、自然災害や疫病など誰のせいにもできない事態に見舞われると、怒りの矛先は自分に向かうんですって。一日中悶々としていると、人間って悪いことばかり考えてしまいます。明るい気持ちを保つのは難しいけれど、それこそこういう本でも読んで、気を紛らわすことが大事なのかなと思います」

ピン芸の達人が気づいた“誰かと組むこと”の楽しさ

 鼎談を通じて、清水さん自身の仕事観、人生観も伝わってくる。例えばモノマネをする相手への思い、モノマネと芝居の違い、コンビではない“ピン芸”について。どのような思いで演芸に向き合っているのか、その一端が明かされる。

「確かに、あまり話したことはなかったかもしれませんね。自分でも、言葉にしてはじめて“ああ、そんなことを思っていたんだ”と気づくことも多かったです」

 老後や介護、死について語る局面では、「家族がいたってみんな最後は孤独死なのよ」「最期ってそんなに大事かな」という言葉がさりげなく出てきて、ドキッとすることも。

「私、孤独死って言葉が嫌いなんです。“こうなったら大変でしょう?”と人を脅すような言葉だし、ひとりで亡くなられた方に対して失礼じゃないですか。そういう思いは日頃から抱いていたんですけど、こういう鼎談なら今思いついたかのようにサラッと話せるのもいいですよね」

 連載開始から100名近いゲストと語り合ってきたが、今も会いたい人は尽きない。

「テレビなどで、一本筋が通っている人を見かけると、話してみたいなと思います。今となっては叶いませんが、亡くなった忌野清志郎さんとはじっくり話してみたかったな。あとは、モノマネさせてもらっている矢野顕子さんやユーミン(松任谷由実)さん。あ、つい先日、矢野顕子さんと配信ライブをしていた上原ひろみさんもリクエストしたいです」

 鼎談を続けることで、清水さん自身にも変化があったそう。

「これまで演芸もライブもひとりでやってきたので、誰かと組んで仕事をするのが下手だったんです。でも鼎談を続けるうちに、他人の意図を汲んだり、会話を面白く膨らませたり、ツッコミを入れたりすることが楽しくなってきて。勉強になったし、テレビやラジオでの振る舞いも少し変わってきたと思います。この本は、自分の力ではなくゲストのおかげで面白く仕上がった一冊。だからこそ、いろいろな方に薦めやすいんですよね。どこから読んでもいいし、短い時間で落語のように楽しめるので、ベッドサイドに置いて楽しんでもらえたらうれしいです」

 

清水ミチコ
しみず・みちこ●岐阜県生まれ。1983年よりラジオ番組の構成作家として活動し、86年に渋谷ジァン・ジァンにて初ライブ。87年『笑っていいとも! 』レギュラーとして全国区デビューを果たす。独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、幅広い分野で活躍中。『私のテレビ日記』『主婦と演芸』など著書多数。