「序章」にして「集大成」。すべてを詰め込んだ1stアルバムを語る――富田美憂『Prologue』インタビュー(後編)

アニメ

更新日:2021/6/30

富田美憂

 好評連載中のコラム「私が私を見つけるまで」でも再三語ってくれているように、声優・富田美憂にとって、自身名義での音楽活動をスタートしてからおよそ1年半のタイミングで届ける1stアルバムは、とても特別な作品だ。そのタイトルは、「序章」を意味する『Prologue』(6月30日発売)。音楽活動で、培ってきたこと。声優として歩んできた道のりで獲得した経験。そして彼女自身の21年間の人生すべて。万感の想いを詰め込んだ『Prologue』は、歌・楽曲のクオリティの面でも、作品に込められたパッションの面でも、文字通り「力作」という言葉がふさわしい1枚となった。

 今回は、『Prologue』のリリースを機に、10個のテーマに沿って富田美憂が当てはまると感じる楽曲を挙げてもらいながら、アルバムへの熱い気持ちを語ってもらった。常に明確に自身のビジョンを口にする富田美憂のストレートな想いが伝わってくるはずだ。後編は、⑥~⑩のテーマと、9月に開催される初のワンマンライブについて、話を聞いた。

advertisement

まわりにいてくださる方に恵まれていて、今まで出会ってきた人たちがひとりでも欠けていたら、今の富田美憂の人格は出来上がっていなかった

――前編に続いて、10個のテーマをこちらから出していくので、富田さん自身が当てはまると思う曲を答えていってもらいたいと思います。⑥今後、もし気分が落ち込んでしまったときに、自分を奮い立たせてくれそうな曲。

富田:“Some day, Summer day”です。楽曲のコンペをしていただく前に、ライブでお客さんと一緒にタオルを振り回しながら歌えるような、グルーヴ感のある楽曲が1曲ほしいですってリクエストをさせていただいて。いつも、楽曲のレコーディングをするときはお客さんの顔を思い浮かべするんですけど、この曲に関しては、いつも以上にそれをやりました。イメージとしては、野外でやっている夏フェスです。応援してくださる方がたくさんいて、それってライブがオンラインになった今でも変わらなくて。画面越しにお客さんの熱量が伝わってくることって、やっぱりあるんです。目の前にいないはず、なのに。それはたぶん、自分のことを応援してくださっている人がいるんだっていう自信を持てているから、なのかなと思っていて。たとえば自分がしんどくなっちゃったときも、応援してくれてる人がいっぱいいると思えば、それを忘れられます。「自分には味方がいっぱいいるから大丈夫だ」って思わせてくれるのがファンの方で、“Some day, Summer day”はステージから観たお客さんの顔を、普段のレコーディング以上に想像しながら歌った曲です。

――⑦音楽活動を始める前の自分に、「こんな曲も歌えるようになるよ」と伝えてあげたい曲。

富田:2曲挙げてもいいですか? “ジレンマ”と“Letter”です。“Letter”は過去の自分を思い出しながら作った曲ですが、小さい頃は今ほど前向きではなかったし、自分に自信が持てなかったし、デビュー当時や音楽活動を始めるちょっと前までは、常にずっと不安を感じていました。いざアーティストとして「デビューします」となった時に、キャラクターが好きだからイベントに来てくださるお客さんはいるかもしれないけど、「富田美憂に興味を持ってくれる人ってどのくらいいるのかな」という不安はあって。でも応援してくださる人も、まわりで支えてくださる人がいっぱいいて、そのときに生まれた気持ちから作れたのが“Letter”なので、挙げさせてもらいました。

“ジレンマ”も、自分の中では挑戦した曲で、1stシングルのタイミングでこの曲を渡されたら、絶対歌えなかった曲だと思います。今回満足に歌えたのも、今までの経験があったからこそだと思いますし、数年前、不安な気持ちを持っていた自分に、「頑張って続けていれば大丈夫。こういう曲も歌えるようになるよ」って言える曲だと思います。

――⑧今後、富田美憂のワンマンライブの中で、鉄板でみんなと盛り上がれると思う曲。

富田:これも“Letter”ですね。なんとなく、毎回のライブのアンコールで歌いそう、って思っています(笑)。何回歌っても、自分自身が感動する曲だし、お客さんにとっても、今まで富田美憂と歩んできた道を思い出させてくれるような曲だと思います。歌詞の中で、「あの日」というワードを何度も使っているんですけど、私にとっての「あの日」は、声優になる夢を見つけた日や、初めてオーディションを受けた日が当てはまるんですけど、ライブに来てくれるお客さんそれぞれにとっての「あの日」って、それぞれあると思うんですね。もしかしたら、初めて私をイベントで見てくれた日が「あの日」なのかもしれないし、初めて私の声を聴いた日が「あの日」なのかもしれない。聴いてくださる皆さんそれぞれの「あの日」があって、それを毎回思い出させてくれる曲だと思います。

 今後、ワンマンライブを「あの日」にできたらいいな、という気持ちもあります。「一生思い出に残る日にしたい」って、言葉で言うのは簡単ですけど、実際にそれを実現するのはすごく難しくて。それでも、ワンマンライブを「あの日、最高だったよね」って言えるようなライブにしたいと思いますし、“Letter”を歌うごとに、1stライブを思い出してもらえたらいいなって、思っていたりします。

――⑨レコーディングしていて、気持ちが入るあまり思わずグッときてしまった曲。

富田:そうですね、“Letter”と……“Letter”ばっかりだ(笑)! あと“足跡”ですね。“足跡”は、実は“ジレンマ”の後日談のような曲になっていて、歌詞の中でもつながりがあります。“ジレンマ”は現在進行形でもやもやしている気持ちが出ている曲で、“足跡”は“ジレンマ”での出来事を精神的にも大人になってから振り返っているイメージです。特に“足跡”は、私自身が泣きそうになっちゃった表情が歌にも出ていると思うので、皆さんも感動してくれる曲になったんじゃないか、と思います。

――⑩「全部大事!」は大前提として、あえて一番大事な曲を選ぶとしたら?

富田:一番大事な曲を選ぶとしたら!! わあー、難しい。珍しくインタビューで迷ってます(笑)。いつもは即答するのに!

――「全部大事」と答えられない構造の質問になっているので(笑)。

富田:ですよね(笑)。難しい! でもやっぱり、これも“Letter”になりますね。今までの私の人生の曲なんです。自分で初めて作詞した特別感はもちろんありつつ、まわりにいてくださる方に恵まれていて、今まで出会ってきた人たちがひとりでも欠けていたら、今の富田美憂の人格は出来上がっていなかったと思います。だから“Letter”は「ありがとう」を伝える曲にしたんですけど、今までの私の人生を私自身も振り返れる曲なので、そういう意味でやっぱり特別です。

やっぱり、あくまで皆さんがいてくれるからこその、私

――10個のテーマの質問で、やはり自身で歌詞を書いたこともあり“Letter”が挙がる回数が多かったわけですけど、「自分で歌詞を書きたい」と思った背景について話してもらえますか。

富田:やっぱり、作家さんの人生観とか、「こういう人なんだろうな」ってちょっとのぞくことができるのが歌詞の面白さだな、と私は思っていて。表に出る仕事をしていると、Twitterでの言葉やメディアで発信していることが、お客さんにとって富田美憂という人間のすべてだと思うんです。だからこそ、コラムだったり、歌詞で自分を表現するのはすごく勇気のいることだと思うんですけど、初めての作詞曲には私の全部が詰まっていて、この曲を聴いて初めて、「こんなこと考えてたんだ」って気づいてくださる方もいると思います。なので、改めて「私は日々こういう気持ちで皆さんと向き合って、作品を作っているんだよ」という気持ちを聴いてほしくて、今回作詞をさせてもらいました。

――実際、こんなにストレートに気持ちが伝わる曲が他にあるだろうか、というくらい、まっすぐな歌詞になってますね。

富田:CDになって、作詞・富田美憂ってクレジットされる意味を考えたときに、私はプロの作家さんじゃないし、おしゃれな曲やカッコいい歌詞・素敵な歌詞は書けないな、と思いました。逆に、こういうストレートすぎる歌詞は、私にしか書けないんじゃないかなって思って――。

――間違いなく、これは本人にしか書けない歌詞ですよ(笑)。

富田:(笑)お手紙って、言葉に出せないことも素直に書けるじゃないですか。嘘偽りなく、言葉を飾らずにそのまま書こう、と思ったので、こういうストレートな歌詞が出てきたのかなって思います。

――なんか、曲に対して、斜めの場所にいられない感じがしますね。聴くときに、真正面から受け取らないといけない気持ちになるというか(笑)。

富田:そうなんです(笑)。

――“Letter”の歌詞の中で特に印象的だったのが、《誰かの物語の一部になれますように》というフレーズでした。

富田:歌を歌っていく中で、1年半の音楽活動を通して出てきた、「自分の中での音楽はこれだ」っていう答えのひとつでもあるかなって思っていることがあります。私も、アーティストさんのライブを観に行って、「こういう風になりたい」と思って、現に人生が変わって、今この場にいて、私がステージに立って歌う側になっているんですけど、大前提にあるのは「歌で人の心を動かしたい」という気持ちです。もしかしたら、私の曲を聴いて、「私もこうなりたい」って思ってくださったり、「しんどい気持ちが救われたりしました」って思っていただける人がいたとして、「歌は自分ひとりのために歌うものではなくて、誰かのために発信するものなんだ」って思うようになりました。それが、これまでの1年半の中で私なりに出した答えだったので、自分のことで精一杯でしたけど、だんだん誰かのために、と思えるようになったことを皆さんに知ってほしくて、書いた歌詞でもあります。

――“Letter”もそうだし、アルバム全体を聴いた印象として、“信頼”という言葉が浮かびました。富田美憂から受け取ってくれる人に向けての信頼、受け取る側から富田美憂に向けての信頼。その両者の絆を深めてくれそうなアルバムだな、と。

富田:それはすごくあると思います。やっぱり、あくまで皆さんがいてくれるからこその、私なんです。よくライブのMCで言ったりするじゃないですか。ライブって、ひとりで作るものじゃなくて、観てくださってるお客さんがいて、自信をもって舞台に出られるように「アーティスト・富田美憂」を作ってくれるメイクさんや衣装さんがいて、私のやりたいことを考えてくださって相談に乗ってくれるスタッフさんがいて、その全員がいてやっとライブ、やっと1枚のCDができあがっていく。そう考えると、ライブもアルバムも、あくまでまわりにいてくださる皆さんがいるからこそ完成するんだなって、今回のアルバムの制作で気づきました。その中で、私をよりよくしてくださっているのはお客さんだと思うし、これからも私をよくしてくださると思うので(笑)。そういう意味での信頼は確かにあると思います。

――まさに今話してくれたライブが、いよいよ開催されますね。9月のワンマンライブで伝えたいこと、表現したいこととは?

富田:抽象的になっちゃうんですけど、もしかしたら9月26日の富田美憂のワンマンライブが、「人生で初めて参加したライブだよ」という人がいるかもしれないし、ライブを観て「富田美憂みたいになりたい」って思ってくださる方も、もしかしたらいるかもしれないですよね。そう考えると、責任感とプレッシャーが自分の中でものすごいことになってくるんですけど、自分が胸を張って9月26日のライブを終えて、「この日のために生きててよかったな」って思えるような1日にしたいです。

――では最後に。言うまでもなく『Prologue』は大事な1枚だと思いますが、今後富田さんにとってこのアルバムはどんな存在になっていくと思いますか。

富田:現時点での富田美憂の最高を詰め込んだつもりではあるんですけど、あくまでスタート地点、あくまでプロローグだと思っています。これから、もっとたくさんアルバムを出していけるのだとしても、数年後にこのアルバムを自分で聴いてみて、「あのときの気持ちを忘れちゃいけない」って思わせてくれるアルバムだなって思いますし、本当にこだわりは詰め込んだつもりなので、きっと宝物になると思います。

前編はこちら

取材・文=清水大輔


あわせて読みたい