餓鬼が豊かな生き方を教えてくれるかも!? 『丁寧な暮らしをする餓鬼』の著者・塵芥居士さんとカレー坊主・吉田武士さんが初対談

マンガ

公開日:2021/7/17

ガッキーの生前は、承認欲求強めの平安貴族?

――いまや、フォロワー9万人を誇るガッキーですが、本来の餓鬼は決して人気があるような存在ではないですよね。

吉田 そうですね。どちらかといえば嫌われているというか、仏教のなかでもなるべく目にしたくないものだという感覚があります。

――そんな餓鬼という存在を多くの人に受け入れてもらうために、なにか意識したことはありますか?

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塵芥 実は、フィギュアを商品化してもらったとき、最初のサンプル写真を投稿したら「怖い」って意見が殺到したんです。しかも、フォロワーさんも一気に減ってしまって(笑)。だから、無意識のうちに少しでもかわいく見えるように描いているかもしれないです。もっと愛されたいという私の中の餓鬼が出てますね(笑)。行いがいいから可愛らしく思えるんだという解釈で見ていただければと思います。

丁寧な暮らしをする餓鬼
左はTwitterフォロワーから怖がられた最初のフィギュア。塵芥先生の修正により、右のように改良した。

丁寧な暮らしをする餓鬼
『丁寧な暮らしをする餓鬼弐』より
初期の頃より若干黒目がちになっている(?)餓鬼。

――ちなみに、生前のガッキーについて、なにか設定はあるのでしょうか?

塵芥 一瞬、糖尿病で亡くなったといわれる藤原道長にしようかと思ったんですが、有名すぎるのでやめました(笑)。今は、誰でもないけれど、歌を詠む人がいいかなと思っています。漠然と頭にあるのは、承認欲求の強い平安貴族ですかね。

吉田 僕は2巻を読んでいて、もしかしてガッキーは女性だったのかもしれないなと感じるところがありました。ずっと真面目に生きてきた人が、生前は押し隠してきた承認欲求を餓鬼になってから発揮しているというか。

塵芥 なるほど。そういう見方もありますね。でも、性別はとくに決めないようにしようと思っているんです。男でも女でもない餓鬼が楽しそうに暮らしているからこそ、たくさんの人に共感していただけるのかなと。そういう余白があったほうが、感情移入しやすいと思いますし。

――単行本に収録されているお話は、さまざまな時代が舞台になっているので、ガッキーが長い時間さまよい続けていることがわかります。いつか、人間として生まれ変わることは叶いそうでしょうか?

吉田 いやあ、僕が判断できることではないですよ(笑)。ただガッキーは、子守をしたり、お寺の掃除をしたり、一見自分の得にはならないようなことも進んでやっていますよね。これは、途方もなく長い時間を生きているからこそ身につく感覚だと思います。その行いを続けていけば、よりよいところに生まれ変われるのではないでしょうか。

丁寧な暮らしをする餓鬼
『丁寧な暮らしをする餓鬼弐』より「餓鬼の寺掃除」。
猫がたくさんいる「尼谷阿寺」の掃除をする餓鬼。

――そんなガッキーの周りには、牛鬼や小鬼たち、猫のマコチャンといった仲間たちがいますが、今後登場させたいキャラクターはいますか?

塵芥 地方の神様や妖怪を描きたいですね。徳島には妖怪がたくさんいるので、まずは四国がいいかなと思ってます。取材のために現地を訪れて、うどんめぐりがしたいです(笑)。それから、江戸時代に流行った「判じ物」という、なぞなぞみたいな絵が好きなので、そういうキャッチーなキャラクターも描けたらいいですね。

丁寧な暮らしをする餓鬼
『丁寧な暮らしをする餓鬼弐』より
餓鬼と友達の牛鬼、猫のマコチャン、近所に住む小鬼たち。

「丁寧な暮らし」に憧れるのは、過去と未来に縛られているから

―― さきほど、ガッキーにご自身を投影しているというお話がありましたが、塵芥先生も「丁寧な暮らし」を実践されているんですか?

塵芥 ずっと憧れはあります。本当は野菜を漬けたり、天然酵母のパンを作ったりしたいんですけど、今はなかなか時間がとれないです。1人目の子どもが生まれたころは、しばらく仕事を休んでいたので、布おむつを使ったりしていたんですけどね。今は犬の散歩に行くのが精一杯です。

吉田 そういえば、ガッキーが小鬼たちの世話をするお話の中で、おむつをスムーズに替えていたのが印象に残っています。僕は初めてのとき、ものすごく混乱してしまったので(笑)。

塵芥 赤ちゃんって、おむつをはずした瞬間に、うんちしたりしますからね……。

吉田 そうそう。こっちがパニックになりますよね。

丁寧な暮らしをする餓鬼
『丁寧な暮らしをする餓鬼弐』より「赤ちゃんを放っておけなかった餓鬼」
赤ちゃんだった頃の小鬼たちのおむつを替える餓鬼。

――生まれたばかりのお子さんがいると、「丁寧な暮らし」を実践するのは難しそうですね。

吉田 でも、スマホやテレビに向かう機会が減って、そのぶん子どもと一緒に過ごす時間が増えたのは、豊かな生活とも言える気がします。もちろん、大変なことも多いですけどね。

丁寧な暮らしをする餓鬼
『丁寧な暮らしをする餓鬼弐』より
成長した小鬼たちの縄跳びに付き合う、意外と面倒見のよい餓鬼。

――ここ何年か、「丁寧な暮らし」ブームが続いていると思いますが、仏教的な見地から何か思うことはありますか?

吉田 現代人は、いつも時間に追われていますよね。不思議なもので、世の中が便利になればなるほど、人は忙しくなるようです。時間に追われていると、常に先のことを考えて生きなければなりません。そうすると、どうしても未来への不安がつきまといます。そして、あっという間に過ぎてしまった時間をふと振り返ったとき、もっとこうしておけばよかったという後悔がよぎるんです。そうやって、過去と未来にとらわれてしまうと、目の前にある現在を大切にすることができません。「丁寧な暮らし」というのはまさに、今この瞬間を大切にするために、自分で手を動かしたり、何かを味わったりしようということなのだと思います。この「今を大切にしましょう」という考え方は、仏教の教えそのものなんですよ。

――長い時間を生きている餓鬼だからこそ、過去や未来にとらわれず、今を大切に生きられるのかもしれないですね。

塵芥 すごい! 「餓鬼」と「丁寧な暮らし」がつながりましたね。いいお話をありがとうございます。

吉田 実は僕自身も、よくスパイスカレーを作るので、「丁寧な暮らし」を実践してるんですよ。

塵芥 私も挑戦してみたいと思ってました! ガッキーにもやってもらいたいんですよね(笑)。

吉田 スパイスって実は仏教と縁が深いんです。塗香という、穢れを祓うために手に塗り込むお香なんかは、カレーのスパイスと似ているものを使ったりしますから。

――ということは、ガッキーがスパイスカレーを食べたら……?

塵芥 まさか、召されてしまうかもしれない(笑)。

吉田 その可能性はありますね(笑)。危険だから、使うスパイスには注意してください(笑)

塵芥居士
“丁寧な暮らしをする餓鬼”をよく知る人物。
日本画を7年学び、伝統工芸品関連会社にてECサイト運営を経験、Webデザイナー歴10年。2019年のお彼岸からTwitterにて“丁寧な暮らしをする餓鬼”の投稿を始める。
Twitter:@gaki_teinei

吉田武士
1984年長崎県大村市生まれ。浄土宗僧侶。
カレー版子ども食堂「いきなりカレー」主宰。
2020年一般社団法人仏教カレー協会を設立。
カレーを通じて仏教を伝える「カレー坊主」としてSNSでも発信中。
Twitter:@curry_boz

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