受け取ってくれる人の微笑みが、少しでも大きな笑顔になるように――高野麻里佳『New story』インタビュー

アニメ

公開日:2021/7/16

高野麻里佳

 2021年2月、1stシングル『夢みたい、でも夢じゃない』で自身名義の音楽活動をスタートした、声優・高野麻里佳。自身のクリエイティブを存分に発揮する、あるいはオーダーに徹底的に応える――音楽活動に臨むスタイルやモチベーションは当然それぞれだが、高野麻里佳の場合、その動機はシンプルかつ強靭だ。「誰かが求めてくれることが嬉しい」。1stシングル『夢みたい、でも夢じゃない』と、7月14日発売でTVアニメ『精霊幻想記』のオープニング主題歌を表題曲とする2ndシングル『New story』。この2枚に収められた全4曲から共通して伝わってくるのは、受け取ってくれる相手にまっすぐ向かう気持ちの強さ、である。この人の歌う楽曲は、この人が届ける言葉は、信頼できる。高野麻里佳の歌声を聴いていると、そんなことを感じる。これからさらに花開き、広がりを見せようとしている音楽活動と、その在り方を支える彼女のパーソナルの一端について、話を聞かせてもらった。

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気負わずに、「この色!」と決めつけずに変化し続けることが、アーティスト・高野麻里佳らしさ

──2ndシングルの『New story』について、どんな手応えを感じていますか。

高野:はい。実は1stシングルよりも前に収録していて、初めてアーティストとして歌わせていただくのがこの“New story”だったんです。アニメのタイアップということもあって、プレッシャーもありましたが、大前提として、大事にしなければならないのはアニメのことだと考えていて。アニメの内容を踏まえて一番いいものを、ということで、アニメの監督さんと一緒に曲を選ばせていただきました。

──TVアニメ『精霊幻想記』からはどのようなインスピレーションを受け取りましたか。

高野:作品自体は重厚感がありつつ、異世界転生ということで、新たな世界が広がっていく明るいイメージもあると思いました。なので、二面性を表現できる曲だったらいいな、と思ったんですけれども、“New story”はその間を取っていて、最終話に流れてもおかしくないような、希望を見せられる曲だと思いました。

──オープニングの主題歌って、ある種作品を背負う側面もあるのかな、と思うんですけども。

高野:はい。キャラクターソングと違って、作品全体の色がここで出てしまうと思ったので、わたしの1stシングルを聴いていただいた方にはなんとなく伝わると思うんですけど、ポップで明るい声をそのまま使ってしまうと、作品のイメージを壊してしまうかも、と思い、そこがプレッシャーでした。ですので、自分の声の色や歌い方で、どこまでこの作品を表現できるのかを考えたときに、わたしの中で「絶対にリアリティのある曲にしたい」と目指すところを決めて、なるべく自然でリアルなトーンを目指しました。ただ、歌の技術はまだ手探りの状態ではあったので、自分の技術的なものと客観的に見ているものの違いを細かく教えていただきながら、チャレンジしていきました。

──これまでにもキャラソンの収録は経験した上で、自身の名義で発表する歌について、どんなビジョンを持っていたんでしょう。

高野:キャラクターソングを歌っているときも、自分の芯みたいなものはまったく意識してなかったんです。キャラクターを演じる時もそうなんですけど、マンガや原作を読んだ時に、なんとなく自分の声で再生されるように、体ができている感じです。音楽をデモ曲でいただいた時も、キャラクターが歌うならこうだよねって、キャラクターのイメージで出てくるんですよね。なので、いざ「思うままに歌っちゃっていいですよ」って言われたときに、逆にイメージが湧かなくて(笑)、白紙の状態から始まりました。このアーティスト活動でチャレンジをしながら、自分探しの旅をしているようなイメージです(笑)。キャラクターソングは、そのキャラクターと離れないように、「高野麻里佳感」を出さないように歌っていて。

──逆に、タイアップであったとしても、今回の楽曲では「高野麻里佳感」を前面に出す必要があったんじゃないですか。

高野:そうなんです。「高野麻里佳感」を出さなければならないんですけど、1stシングルでも「わたしらしさ」をテーマにしているので、「自分ってなんだろう?」って掘り下げるというよりは、『精霊幻想記』はみんなにとってどういうイメージなんだろう?という。作品への客観的思考を忘れないように作っていました。

──音楽活動とともに、自分探しの旅が始まったのがこの“New story”ということですけど。それから少し時間が経ってみて、探していた自分は、なんとなく姿が見えてきつつありますか?

高野:そうですね。ある意味、「わたしってこの色だ」って決めつけなくていいんだなって。それが、「アーティスト・高野麻里佳」になっていくのかなって思いました。“New story”も、最初に録った曲ではありつつ、ファンの方から「1stシングルより進化してる」と言っていただけたりしていて。そうやって、みなさんが変化しているわたしを見つけてくれるので、いろんな表情を見せること、進化し続けることが、結果的に応援していただくときの活力になるんじゃないかな、と思います。わたし自身は気負わずに、「この色!」と決めつけずに変化し続けることが、アーティスト・高野麻里佳らしさでもあるのかな、と。

──“New story”の制作の過程で、高野さんが「ここだけは譲れない」と思っていたポイントは?

高野:わたしは、歌詞を読んで曲の最終目的地を決めることが多いんですけど。歌詞の中に《あとがきはきっと/わからないままが/ちょうどいい》という言葉があるんです。この曲って、頭から最後まで、芯を強く持っている主人公が、どんどん大切なものを見つけて、希望のある世界へ踏み出していく内容だと思うんですけど、自分の中で、「あとがきがわからないほうがちょうどいい」ということは、意外と……世の中の、自分が立ち向かう物事や人の深い部分に対して、案外知り尽くさなくても、事はうまく進んでいくのかな、と思いました(笑)。わたしはこの曲をいっぱい調べ尽くしたいけど、この曲自体は「別に知らなくてもいいんだよ」って言ってくれてる気がして、わたし自身もそれを聴いてくれる人に提示しなくちゃいけない、と思いました。曲の広がりをみなさん自身が作っていただくのが、この曲にとってのベストなんだって、歌詞が示してくれていて。わたしが歌う曲ではあるんですが、最終的には聴いてくれる人が作ってくれる曲だなって思いました。

──表現が難しいんですけど、高野さんの歌のよさを言語化できないかな、と考えていて。たとえば曲に対して一番の正解、スタンダードな路線があるとして、高野さんの歌って、そこから一歩踏みだしてるというか、いい意味で枠から飛び出しているような気がするんです。一歩踏み出しているのはエモーションの部分で、うまく歌う・収まりがよくする、ではなくて、気持ちを乗せることで踏み込んだ表現になっているような気がします。

高野:嬉しいです、ありがとうございます。わたし自身も気づかなかったわたしの魅力、ですね(笑)。わたし自身、歌のセオリーがまだわからないんですよね。なので、言葉を大切にすること、言葉を表現すること――わたしの役者人生観がちょっと出てるのかもしれないなって、自分でも感じます。予想通りにしないというか、聴いた人にどう思わせたいかをイメージすることは、大事にしています。

──歌詞の中で、《遠く離れても君に届けたい》《どんなに遠く離れても/君に届けたい》あたりは強く印象に残ったんですけど、それは歌詞の中の「君」に、曲を受け取る人を重ねているからなんじゃないかな、と思います。

高野:もちろん『精霊幻想記』の主人公が思う「君」でもありつつ、わたしにとって、この曲を受け取ってくれる人が「君」であったらいいな、という想いは、絶対的にありました。わたしが考えたのはこの『精霊幻想記』を観てくれた、アニメのファンの方です。やっぱり、作品を受け取る人って、きっとわくわくしてると思うんです。そんなわくわくした、少なからず微笑みをたたえた人がこのCDを手に取ってくれたときに、より喜びを届けられるような、その人の勇気になるような1枚であってほしい、と思いました。そういう人の表情を、思い浮かべたかもしれません。微笑みが、少しでも大きな笑顔になるように、とイメージしました。

自分がやりたいことよりも、誰かが求めてくれることのほうが嬉しい

──少し話はさかのぼりますが、自身の名義で音楽活動をします、やってくださいと聞かされたときに、高野さんはどう反応しましたか。「長年の夢が叶った!」なのか、「え、自分?」みたいな感じだったのか。

高野:どちらかというと後者で、驚きが強かったですね。しかもわたし、今年で声優歴7年になりますけど、わたしの中では新人声優さんがこういう活動をさせていただけるイメージがあったんです。なぜならば、ひと山登っていく上り調子のときに、アーティスト活動でより自分の幅を広げていく、というイメージだったので、わたしに「アーティスト活動をしてもいいよ」と言っていただけるのは驚きでした(笑)。実は前からお話自体はあって、7年目にしてもまだ「やってください」と言っていただけるのは、わたしにとってすごく幸せなことだったんです。

 今までの声優歴もそうなんですけど、表現者として過ごしてきた時間の中で、「求めてくれること」がどんなに大切なことか、身に染みてわかるようになりました。わたしが声優になる動機にもなった家族は今も応援してくれていて、たとえば家族に対しても、わたしの名前の作品が増えることは、きっと嬉しいことなのかな、と思いました。誰かにとって嬉しいことが増えるのは、わたしにとって断る理由がないことなんじゃないかなって。一般的に、声優は歌う人とイコールでつながるとは限らないと思うんですけど、どういう印象に転がるか不安になるよりも、喜んでくれる人がいることをイメージするのが、わたしにとっては大切なことだったので、踏み切りました。

──自分がやりたい・やりたくないよりも、誰かが求めてくれているか・そうでないかのほうが、高野さんの中で優先されるっていう。

高野:そうなんです。それが、わたしの喜びなので。自分がやりたいことよりも、誰かが求めてくれることのほうが嬉しいんです。

──1stシングルを発表した後、「ああ、こんなに喜んでもらえるんだ」という実感はありましたか。

高野:そうですね。でも、「こんなに喜んでくれるんだ?」って、意外に感じちゃいました(笑)。わたし自身は「自分の歌ってなんだろう?」から始まってしまっていたので。そう考えると、これからもチャレンジを止めちゃいけないな、と思う活力になりましたし、1stで喜んでもらえたら、2nd、3rdでも自分の新たな一面を見せられる作品を残していかないと、と思いました。

──面白いですね。喜んでほしいと思っているんだけど、実際に喜ばれたら驚いちゃったと(笑)。

高野:やっぱり驚いちゃいますね(笑)。「よかった!」っていう安堵も、もちろんあるんですけど。わたしのもとに直接ファンの方の声が届くことって、そんなに多くはないんですよ。なので、こうやって大きな出来事がひとつあると、みなさんからわーってコメントをいただけたときに、「わたしのことを見てくれてる人ってこんなにいたんだ!」って思います(笑)。

──応援されるほどに力が増していきますね。

高野:そうですね。続けることって、勇気も必要になることだと思うんですけど、その勇気をみなさんがくれるので、今こうして声優も続けられています。

──1stシングルを発表して、誰かにかけてもらった言葉で特に嬉しかったことは何ですか?

高野:わたし、イヤホンズっていうユニットを組んでいるんですけど、イヤホンズの高橋李依ちゃんと長久友紀ちゃんが、LINEで「発売おめでとう!」っていうことと、曲の感想を送ってくれたんです。一緒に歩んできたメンバーだからこそ、ソロの曲を聴いてくれることって、わたしの中では気恥ずかしさもありますし、ひとりになった途端、ふたりに支えられていたことを実感できるようなアーティスト活動でもあって。わたしが別の場所で、ひとり頑張っていることを認めてくれたような気がして、すごく嬉しかったです。わたし自身もこれをきっかけに、ソロも大切にしつつ、他の活動にもちゃんと目を向けられるように、大きな人間にならないといけないなって思いました。声優活動をしているだけでも、ありがたいことはたくさんあるんですけど、アーティスト活動はやっぱり自分の幅を広げてくれてるなって感じます。

──音楽活動を始めてみて、制作にもいろいろ関わったりする中で、表現者として、あるいは歌い手として、自分の強みに気づいた部分もありますか。

高野:そうですね……これ、パッと答えられないといけないとは思うんですけど(笑)。自分が今まで好きで聴いていた曲と、自分が歌ったら魅力的になる曲は全然違うんだなあ、考えさせられました。今でも胸を張って、「わたしの魅力ってこれです」と言うのは難しいですけど……ただ、わたしは声優として、意外と役を選ばない声優なんじゃないかなあ、と思っています。やっぱり根本的にあるのは演技で、自分の声の幅には少し自信を持っていて――いや、持たないといけないな、と思っていて(笑)。その幅の部分は、このアーティスト活動でも活かせるんじゃないかな、と思っていますし、大切にしていきたいです。

──声優として、こんな存在になりたい、みたいな目標はあるんですか。

高野:わたしはもともと大谷育江さんが大好きで、いつかはピカチュウやチョッパーのような国民的なキャラクターを演じたいと思って、声優業界に入りました。いつか大谷さんみたいな役を、という憧れは今でもあります。でも、自分が声優として活動していくと、憧れの人と自分がやるべきことは同じではないんだなって、いい意味で気づかされることもあって。大谷さんが憧れであることは変わらないですが、同じフィールドの中のどこかに自分の居場所が作れるように、今は頑張っています。

──居場所、あるんじゃないですか?

高野:居場所──あり……ます、かね?(笑)。なんだろう、いろんな作品に出させていただいてはいますが高野麻里佳というものが第一に求められているかというと……自分自身は、こう、自分を認めてあげたくない人なので。どんな役を演じても、「この役は高野じゃなくてもよかった」って思われてしまわないだろうかって、ずーっとどこかで不安に感じたりしています。もちろん、そう言われないように頑張る、いつも全力!がわたしのポリシーなんですけれども。でも、国民的声優と呼ばれる方は、それこそ仕事を選ばないと思うんです。アニメもやれば外画もやるし、表現をすべて網羅しているようなイメージがあるんですよね。だからわたしも、どんな色にでも染まることができる声の表現を磨いていきたいです。

──なぜ自分を認めてあげたくないんでしょう。

高野:逆に言えば、なんで自分を認めてあげられる人がいるのかがわからないんです――なのでこれはもう、生理的現象というか(笑)。

──(笑)とはいえ、自分の名前で音楽を届けていく以上、自分を認めてあげる瞬間、そうしてもいいんじゃないかと思える瞬間は、今後生まれてくるんじゃないですか。

高野:「認めてあげています」と言わないと、作品を出すときに失礼だな、と思ってしまうんですよね。「わたしの持ち味はこれです」って自分で言えないと、誰にも届かないよって今までも教えられてきたので。自分の魅力は自分で気づけなければ、って思っているんですけど、自分を肯定することによって、「自分にはこれしかないんじゃないか?」って思っちゃうのもイヤなんです。

──成長がそこで止まる、みたいな?

高野:そう、止まってしまうんじゃないか、とか。「自分のよさって本当にそれだけ?」って、自分を疑ってかかる視野をずっと持ち続けていたいんです。

──なるほど。それはとても、前向きな発想ですよね。

高野:そうですね。自分では、ハングリー精神だと思っています。「今のままじゃまだまだ足りない!」って思うからこそ、チャレンジをし続けて、何かを求め続けることは、自分の中で絶対にプラスに働いていると思っています。今までしてきたことも、後悔することはないって思える人間なんです。なので、もし自分を否定してしまっても、それが絶対にプラスに向くようにって考えています。

──高野さんのそのハングリー精神は、何をもって培われたんでしょう。

高野:なんででしょう? たぶん昔から、わたしは自分という人間が嫌いなんですよね。嫌いというか……小さい頃、あまり人と馴染めている記憶がなくて。学校の中や、友達との関係で、自分がよかれと思ってやったことが他人にとってはそうではなかった、みたいなことが多くて。それもあって「自分はあんまり世の中に溶け込めるタイプじゃないんだ」って思っていたことがあるんです。そういう過去があるからこそ、わたしはわたし自身を安心して見ていられないんですよね。

──だからこそ、表現の場に立ったときに頑張れる部分もあるんですかね。

高野:そうですね。ただ、そういう自分だから、反省会みたいなものは長くなったりします(笑)。自分の中で、今日一日どんなことがあった、こういう話をして、何が失敗してしまったって、ひとり反省会を開いてます(笑)。

──(笑)この音楽活動が、より前を向いて進んでいくきっかけになると思うんですが、高野さんが自分の未来に期待していることってなんですか?

高野:音楽活動をしていて楽しいと思うのは、いろんな音楽と出会えることです。1stも2ndも、「こんなに素敵な曲が世の中にまだ眠ってるんだ!」って思うくらい、ファーストインプレッションで「好き!」って思った曲をCDにさせていただいてます。なので、まだ出会っていない、人を感動させられる――少なくともわたしが感動できる曲とこれからも出会えるんだと思うと、わくわくします。「この曲が好きだから歌いたい」という気持ちで、活動を続けていくイメージを持っています。

取材・文=清水大輔


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