HSPである自分を知ることは「自分らしく元気に生きるためのスタートラインになる」《武田友紀さんインタビュー》

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更新日:2021/7/27

HSPイメージ

 生まれつき感受性が強く敏感な気質を持っていて、5人に1人は当てはまると言われるHSP(Highly Sensitive Person)。

 ダ・ヴィンチニュースでも2020年春に特集を組むなど、HSPという言葉はますます認知が広がってきた。だからこそ、HSPである人と、HSPではない人がお互いを知り、もっと歩み寄る段階になっているのかもしれない。そこで、前回の特集記事に続き、HSP専門カウンセラーである武田友紀さんに、今、HSPについて考えておきたいことを聞いてみた。

 なお、記事内では、武田さんの著書にしたがって、HSPの人を「繊細さん」、HSPではない人を「非・繊細さん」と呼んでいる。お互いにわからないだけに、すれ違いがちな繊細さんと非・繊細さんが、機嫌良くともに生きていくには何が必要なのだろうか。

(取材・文=吉田あき)

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「繊細さ」と「神経質さ」は、似て非なるもの

武田友紀さん
撮影=山下哲矢

——以前のHSP特集から1年以上経ちました。その後、繊細さんを取り巻く環境に変化を感じることはありますか?

武田友紀さん(以下、武田):最初の著書『「繊細さん」の本』(飛鳥新社)を刊行してから3年近く経ちますが、いまでも「HSPについて初めて知りました」とお便りをいただきます。認知が広がったことで、SNSなどのプロフィール欄に「HSP」と書く人も増えましたね。HSPの交流会など、オンラインやリアルで繊細さん同士がつながれる環境も増えて、参加するかしないかは別にして、「自分と同じような人がいる」とわかることは繊細さんにとってホッとできることなのかなと。

——認知は広がっているものの、繊細さんの本質はきちんと理解されているのでしょうか。

武田:じつは、理解している人のほうが少ないんじゃないかなと感じます。繊細さんの本質は何かというと、ひとつはエレイン・アーロン博士が言っている「DOES(ダズ)」ですね。最近では、環境感受性という言葉で、アーロン博士以外の研究者によっても研究が進んでいて、繊細さんはまわりの環境から影響を受けやすいことがわかっています。悪い影響だけではなく、良い影響も受けやすいんです。そんななかで誤解されやすいのは、繊細な気質と神経質がごっちゃになっていることです。

※DOES=「深く考える」「過剰に刺激を受けやすい」「感情反応が強く、共感力が高い」「些細なことにもよく気づく」という4つの特徴で、HSPにはこの4つがすべて備わっているという。

——武田さんとラジオ番組で共演されて、その後自らをHSPであるとSNSに投稿したタレントの田村淳さんも、「ずっと神経質だと言われてきた」とおっしゃっていました。

武田:HSPと神経質は別物なんです。HSPは先天的で自然な気質ですが、神経質は後天的なものであり、背景に不安があります。たとえば、書類をパッと見て、誤字や「こうしたほうが見やすい」と細かいところに気づくことが繊細さんにはよくあります。一方で「間違えたらどうしようと不安で、何度も書類を見返してしまう」というのは神経質な状態です。背景に強い不安があるのかどうかが大きな違いです。なかなか説明が難しいので、そこまでは理解されず、細かいことを言う人がまとめて繊細さんと言われている、という現状はあるかもしれません。

——繊細さんは、感情を抜きにして、ただ細かいことを感じ取る、というイメージでしょうか。

武田:自然体で過ごしていても細やかにいろんなことに気付く、ということですね。ごく普通に過ごしていても感じる量が多いし、感じたことを処理する、つまり考える量も多いです。たくさん考えるぶん不安になることもありますが、それと同じくらい、いいこともたくさん感じられるんです。

——その違いを理解していないと、間違えて認識することもあるわけですね。

武田:はい。カウンセリングをしてきての印象ですが、自分は繊細さんだ、という人は、HSPの本を読んで「これだ!」と確信を持つ傾向にあります。一方で、非・繊細さんで、過去にパワハラを受けたりして、いろんなことが気になる状態の時に繊細さんの本を読むと、「HSPのような気がするけど当てはまらない気もするし、どっちだろう」ってなることがあります。そんな時は、アーロン博士のHSPセルフテストに加えて、DOESすべてにあてはまるかをチェックすると、自分がHSPかどうかがわかりやすいと思います。

■アーロン博士によるHSPセルフテスト
http://hspjk.life.coocan.jp/selftest-hsp.html

非・繊細さんは、繊細さんを特別視しなくてもいい

——繊細さんの認知が広がって思うのは、HSPだと公表している繊細さんに対して、非・繊細さんが「どう接したらいいのか」迷うことがあるのではないかと。そもそも、繊細さんに対する配慮は必要ですか?

武田:うーん、一概には言えないですね。ただ、繊細さんたちからは「特別扱いしてほしいわけじゃない」とよく聞きます。今回に限らず一般的な話ですが、配慮するのってそもそも難しいですよね。配慮してねって言われても、何をどうしたらいいのかわからないし、わからないからこそ「際限なく要求されたらどうしよう」みたいな懸念を生むというか。どこまで対応すればいいのか掴めない状態は、対立を生みやすいんじゃないかと。だから、私からお願いしたいのは、特別視はしなくていいということと、何か相談されたら耳を傾けてほしいということの2点です。

——言われないうちから心配する必要はないと。

武田:そうですね。配慮って、相手が気持ちよくいられるように察して先回りする、というニュアンスがあると思うんですが、それってそもそも難しいものなんです。繊細さんといっても、人によって困りごとが違うからです。ある繊細さんは音に敏感だし、ある人はパーソナルスペースに敏感という具合に。繊細さん同士でも配慮するのは難しいので、「相談されたら話し合う」というのがスッキリしていいんじゃないかと思います。

——非・繊細さんのなかには、「なぜ気を使わないといけないの? 自分だって生きづらいことはたくさんあるのに」という反発意見もあるようで。

武田:ああ、なるほど。繊細さんか非・繊細さんかにかかわらず、みなさん、仕事や人間関係での困りごとっていろいろありますよね。いろんなことに悩みながら生きているという点では、繊細さんも非・繊細さんもなんら変わりません。だから基本的には特別視しなくていいと思います。

——普通でいいんですね?

武田:そうです、普通の接し方でいいんです。繊細さんの悩みって、質的に特別なものではないんです。私自身の例を挙げますね。会社員時代に商品開発の仕事をしていて、朝、出社して実験機材を車に積んで実験場まで運んで作業してたんですが、毎日夜中まで働く長時間労働でヘトヘトになってしまって。前日の夜に車に機材を積んで帰って、朝、家から実験場に直行していいですか? って上司に相談したことがあります。でも、それが「繊細さんだから悩んでいる」と言われたら、違うと思うんですよ。

——確かに。誰にでもありえる悩みです。

武田:はい。繊細さんの悩みって、よく考えたらそれって普通にしんどいよね、ということばかりです。細かく感じて考える分、悩みの量が多かったり、ほかの人よりもしんどいと感じるしきい値が低かったりするだけで。繊細さんが困っている状況は無限に考えられますから、先回りして配慮するということではなく、相談されたら耳を傾ける、というのがいいと思います。

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