50代になった娘が選ぶ母のお洋服とは?『魔女の宅急便』角野栄子さんの娘・くぼしまりおさんインタビュー

小説・エッセイ

公開日:2021/8/8

くぼしまりおさん

“こんな歳の取り方をしたい”と誰もが憧れる美しい86歳、『魔女の宅急便』でおなじみの角野栄子さん。そのファッションスタイルを生み出した、娘のくぼしまりおさんの綴った一冊が刊行された。オールカラーの写真とイラストをふんだんに用いた実例と、シニア世代をおしゃれで元気にするエッセンスいっぱいの、キュートなファッション・ブックに込めた想いを伺った。

(取材・文=河村道子 撮影=馬場わかな)

“これからはママが着るお洋服を、リオちゃんが、代わりに考えてくれないかしら?”。80歳になったある日、にっこりと微笑みながら、角野さんが告げた言葉。それはくぼしまさんにとって、魔法の呪文だったに違いない。

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「まさか、おしゃれ好きな母が、“毎日のお洋服を考えるのが面倒になっちゃった”なんて、私に愚痴る日が来るとは想像もしていなかったので、びっくりしました。でも、実際、母のコーディネートをはじめてみたら、思いのほか面白くて(笑)。母親を着せ替え人形にして遊んでる!って感じでしょうか。最初は“ちょっと派手すぎない?”と、少し抵抗もされたのですが、今ではすっかり母も楽しんでいます」

 ページを開くたび、思わず笑みがこぼれる。カラフルな色が溢れ出す。そこには、憧れの“角野栄子スタイル”のエッセンスが詰まっている。見た目はもちろん、着心地よく、家事をするとき、動くときの機能性や安全性、冷えなどの体のことにも気を配ったこまやかな心配りとセンスが息づいている。

「世の中に溢れる洋服や靴やアクセサリーは、健康な若い人が身に着けるものばかり。それ以外の人、殊にシニア世代のことはまったく考えられていないなぁって。還暦を過ぎた人が、明るく、楽しく、面白く、ファッションを楽しめる空気感が街に溢れてほしいと、心から思いました。角野栄子ファッションが、シニア世代のファッションの環境を変えるキッカケになったらいいなぁって」

 STEP1は角野栄子スタイルの代表アイテム、ゆるっとラクちん、体型が変化してきたシニア世代のスタイルをスラッと見せるワンピースについて、STEP2は、おうち時間が楽しくなる部屋着、そしてSTEP3はスカーフ、くつ下、ネックレスやメガネなど、身に着けるだけで、本人も周りも笑顔になる小物について語られている。そこには、試行錯誤の末に得た、驚きの知恵やエッセンスが詰まっている。

「母がとても喜んでくれたコーディネートは、ワンピースにド派手なくつ下を合わせたこと。明るい色のくつ下を身に着けることは、母に大きなパワーを与えてくれました」

“母にはいつまでも綺麗でいてほしいし、おしゃれな母であってほしい。歳を重ねてしょぼくれていくより、年齢に負けることなく明るい気持ちをもって、元気でいてほしい”。くぼしまさんの願いは、“娘”共通の想い。さらに「自分が40代の頃はまだわからなかったと思います」と語る、母80代、娘50代となったことで、初めて手にした楽しみもあるという。

「近頃、よく耳にする“お友だち母娘”みたいな感覚は、昭和世代の私と母にはありません。殊に思春期の頃は、洋服に関して、母とは意見が合わず、喧嘩ばかりしていたんです。けれど互いに歳を重ねてきたことで、ようやく今、私たち母娘は“装う”という共通の趣味を見つけられたんです」

 あれこれと母の装いを考える楽しみのなかから見えてきたのは、母のスタイリングをすることは自分自身のためにもなるということ。なぜなら母の姿は自分の未来図なのだから。

「80代の母だからこそできる装いがある。どんなに素敵にコーディネートできたとしても、50代の私が今したら似合わないなぁ、ということを日々感じています。80代だからこそピンクの花柄のワンピースが着られる。ピンクのくつ下を合わせられる。80代ファッション、楽しみだなぁと未来が楽しみになりました」

 母娘でページを繰っているうちに日常のなかの楽しみがどんどん増えていく。これはそんな魔法の一冊。

「自分が楽しくなれる、ラクに生きられる、そして母がラクちんに過ごせる服選びにトライしてみてください。そしてぜひ母娘で心弾む色を楽しんでくださいね」

ワンピースはいいことだらけ!

「さらりと着るだけでシンプルにおしゃれになるし、着ていてすごくラク」なワンピース。シニア世代にとってのメリットをご紹介! ワンピースに華やかな黄色のくつ下を合わせているのは、くぼしまさんの母・角野栄子さん。

『50代になった娘が選ぶ母のお洋服 魔法のクローゼット』

白色のワンピース
「顔の周りがふわっと明るくなり、白色に光が反射することで、気になるシミやシワを飛ばして若々しい顔映りにしてくれる」という白色のワンピース。シニア世代の悩みを軽減してくれる優れもの。くぼしまさんの一押しは全身を白色でコーディネートすること!

『50代になった娘が選ぶ母のお洋服 魔法のクローゼット』

ワンピースの重ね着
「一枚一枚のワンピースが薄くても、重ね合わせることで空気の層ができ、これがびっくりするほど暖かい」なんて、寒い日にはもってこいのスタイリング! 軽いので身動きもしやすい。初めは無地のカラーワンピースを選ぶとコーディネートしやすいとのこと。

『50代になった娘が選ぶ母のお洋服 魔法のクローゼット』

カラフルなワンピース
「イメージ的にカラフルに縁遠いシニア世代だからこそ『おしゃれに気を遣っているんだなぁ』と思わせることができる」うれしいアイテム。派手にならないか心配な方への秘訣は「ワントーンでまとめること」だそう。

『50代になった娘が選ぶ母のお洋服 魔法のクローゼット』

シニア世代ならでは!小物と遊ぼう

 顔周りを華やかにする、体を冷やさない、という実用的な小物使いはもちろん、シニア世代だからこそ楽しめる小物の選び方は? 写真の角野さんもメガネ、ネックレス、縞々くつ下とかわいい装い。

『50代になった娘が選ぶ母のお洋服 魔法のクローゼット』

派手なくつ下
「気づいてくれた人に微笑んでもらえて、ほめられる。かわいいくつ下はシニア世代にとって簡単に評価をもらえる、お得なグッズ」とくぼしまさん。派手なものは手に取りにくいと思われるかもしれませんが、見えるのはくるぶしから上の15cmほど。悪目立ちはしません。

『50代になった娘が選ぶ母のお洋服 魔法のクローゼット』

かわいいネックレス
プラスチックやアクリルで仕立てられたネックレスは「貴金属より軽くて疲れないし、パールのネックレスや宝石にはないおしゃれな雰囲気を醸し出して、シニアを素敵に見せる威力がある」。ここでのポイントはひもの色を黒にすること。汎用性が高い。

『50代になった娘が選ぶ母のお洋服 魔法のクローゼット』

メガネも顔の一部
派手な単色のフレームは「『かわいいおばあちゃん』に見られて笑顔を誘う」おすすめアイテム。なかでもオレンジ色はスタイリングしやすいし、顔色に近い色のため、色白で綺麗に見える効果も。(写真提供:角野栄子オフィス)

『50代になった娘が選ぶ母のお洋服 魔法のクローゼット』

くぼしまりおさん

くぼしま・りお●1966年、東京都生まれ。子供の本の創作や翻訳に意欲的に取り組み、イラストレーターとしても活躍。著作に「ブンダバー」シリーズ、「ブンダバーとなかまたち」シリーズ。訳書に『チビねずくんのながーいよる』『チビねずくんのあつーいいちにち』『チビねずくんのクリスマス』『サリー、山へいく』『サリー、海へいく』など。

『50代になった娘が選ぶ母のお洋服 魔法のクローゼット』

『50代になった娘が選ぶ母のお洋服 魔法のクローゼット』
くぼしまりお KADOKAWA 1650円(税込)
シニア向けの既製品は老けた色とデザインばかり、と感じる母世代へ。母親の地味なファッションに、自分の未来が不安になった大人女子へ。問題はこの一冊で解消! 気持ちが前向きになる色合わせ。安全で動きやすく、機能的なデザイン。こんなにかわいいのはなぜ──? 大人になった娘と母のための、思わずマネしたくなるファッション・ブック。

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