「良い意味で馬鹿っぽい、面白い話が描きたかった」SNSで話題の『ダンダダン』作者・龍幸伸インタビュー

マンガ

公開日:2021/8/5

 スマホで手軽に読めるWebマンガ。日々、さまざまな作品が誕生しているが、その中で、いま最も勢いのある作品のひとつが『ダンダダン』(龍幸伸/集英社)だ。

ダンダダン
『ダンダダン』(龍幸伸/集英社)

 本作は2021年4月6日に「ジャンプ+」で連載が始まった。第1話が公開されると、その面白さがSNS上で話題を集め、なんとわずか2日間で100万PVを突破したという。その後、3話続けて公開から1週間以内に100万PVを突破し、これは「ジャンプ+」初の快挙として讃えられた。

 本作は「オカルト」をテーマにしたバトルマンガだ。幽霊を信じないオカルトマニアの少年・高倉と、宇宙人を信じない霊感少女の綾瀬がタッグを組み、人間を襲う怪異に立ち向かっていく。……と、こう書いてみるととてもシンプルで王道なストーリーのように読めてしまうが、決してそうではない。オカルティックな能力を使ったバトルを下敷きにしつつ、ギャグやラブ、青春などのさまざまな要素がバランス良くミックスされている。手に汗握るシーンがあれば、ついつい噴き出してしまうシーンもあり、ときにはホロッとすることも。読み手の感情は四方八方に振り回されてしまう。

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ダンダダン

ダンダダン

 そんな本作に魅了されたマンガ好きは多い。それを裏付けるように、なんと本作はコミックス発売を前に「次にくるマンガ大賞2021」Webマンガ部門にもノミネートされたのだ。

 いまとてもアツいマンガ『ダンダダン』。その作者である龍幸伸さんはなにを思うのか。その胸中をうかがった。

■映画『貞子vs伽椰子』がアイデアのベースになった

――本作はどのような経緯で生まれたのですか?

龍幸伸さん(以下、龍):2019年頃、マンガが描けなくなってしまったんです。そのとき、編集さんから「1ページでもいいから、何でも好きなように描いてみてほしい」と言われて。それでなんとなくネタ帳を見返すと、「映画『貞子vs伽椰子』が面白い」って書いてあったんです。

 あの映画って貞子と伽椰子の夢の共演じゃないですか。ホラーはあまり得意なジャンルではなかったけれど、『貞子vs伽椰子』は良い意味で馬鹿っぽくてすごく楽しめた。それを思い出して、マンガに活かせるかもしれないと思ったんです。

――第一話では幽霊の他に宇宙人も登場します。

:オカルトをテーマにしたときに出てくるのが幽霊に限定しちゃうと、怖くなりすぎてしまう気がしたんです。幽霊って、哀しい背景があるものも少なくないですし。でも、ぼくは楽しいマンガが描きたかった。そこで幽霊以外のオカルトも取り入れてミックスしてみようと思いついたんです。

――たしかに本作はギャグ要素も、笑えるシーンも満載ですね。

:そもそもホラーとギャグって隣り合わせだと思うんですよ。伊藤潤二先生の『富江』(朝日新聞出版)とか、「すごく怖いんだけど、一歩間違えると笑っちゃうよね」という仕上がりになっている。だからぼくは、ホラーの中にある笑いの要素を前面に押し出していこうと思いました。

――その一方でバトルシーンはシリアスで迫力もあり、とても盛り上がります。しかも主人公のひとり・高倉健は、自分を呪ってきた「ターボババア」の力を使ってオカルトと対峙する。この設定が秀逸です。

:これも『貞子vs伽椰子』の影響なんですけど、劇中で「化け物には化け物をぶつけるんだよ」というセリフがあるんです。それが決め手になりました。ただ、化け物同士の対決にするからには、あまりみんなを悪者にしたくなくて。それぞれに理由があって戦っているし、本当に悪いのは人間なんだ、という思いが根底にあります。

ダンダダン

――そもそも、本作で重要な立ち位置で登場する怪異になぜ「ターボババア」をチョイスされたんですか?

:「ターボババア」って音の響きが好きなんです。ぼくが小さい頃は「100キロババア」なんて呼ばれていましたけど、その頃からめちゃくちゃ面白いなと思っていて。それがいまでは「ターボババア」に進化していて、「ターボとババアって真逆じゃん!」と(笑)。とにかく面白くて大好きなオカルトなので、最初に登場させることにしました。

■不安が大きい分、読者の応援が原動力に

――本作は連載開始当初からSNS上で話題になり、公開からわずか2日間で100万PVを突破しました。しかも第1話から3話連続で公開1週間以内に100万PVを突破し、それは「ジャンプ+」初の快挙だとか。この結果をどう受け止めていますか?

:いや~、自分だけの力で成し遂げたことではないと思っています。「ジャンプ+」では、これまでいろんな作家さんがマンガを描かれてきた。そういう方々が土壌を作ってくれて、「ジャンプ+」のファンも増えてきたところにぼくがポンッと入っていったんです。そのタイミングが良かったので、こんなにも多くの方たちに読んでいただけたんだと思っています。だから、みなさんのおかげですね。

――大勢の読者に応援されていることを実感する瞬間はありますか?

:ぼく、めちゃくちゃエゴサするんです(笑)。すぐに不安になっちゃう性格なので、描いたものの反応が知りたくなってしまって。だから「面白い」という声を見つけるとすごくありがたいですし、うれしくなりますね。

 ただ、たとえ100人から肯定的な意見をいただいても、たったひとりに「つまらない」と言われてしまうとめちゃくちゃ落ち込むんです……。だから、あんまりエゴサはしないほうがいいのかな。とはいえ、応援コメントは描く原動力になっています。いつもありがとうございます!

――「次にくるマンガ大賞2021」のWebマンガ部門にもノミネートされました!

:もう「え、いいんですか?」という気持ちです(笑)。なんらかの賞やタイトルを獲ることはあまり考えず、ひたすらマンガを描くことだけに注力してきたので。それと、やっぱりどうしても不安のほうが大きいので、余計なことは考えられないんです。「いまはやることをやろう!」と常に考えている気がします。

――そんなに不安が大きいんですか……!

:これまでに二度、打ち切りを経験しているので、その影響が大きいのかもしれません。本当にずっと不安で、「いつ打ち切りになるんだろう……」って思っていますね。マンガ家あるある、だと思いますけどね。

――でも、本作はとても高評価で人気を集めていますし、もう少し安心されてもいいかもしれませんね。

:たしかにそうですね(笑)。

■バイト先の店長に勧められ、マンガの道へ

――龍さんはどうしてマンガ家になろうと思ったんですか?

:就職氷河期真っ只中で就職できなかったんです。なので、コンビニでアルバイトをしていたんですが、そのときの店長から「きみ、絵が上手いんだし、マンガ家になったら?」と言われて。それがきっかけでマンガを描き始めました。

 それまではマンガ家になるなんて考えたこともなかったんです。でも、子どもの頃から絵を描くことは得意でした。特に絵の学校や塾に通っていたわけでもなかったんですけど、賞をいただくこともあったくらいで。

――アルバイト先の店長に褒められたことがきっかけだったんですね。それからマンガ家になるまでは?

:ガンダムが大好きだったので、ガンダムマンガを100ページ描いたんです。それを「ガンダムエース」に持ち込んだところ、ボロクソに言われました(笑)。でも、「絵が上手いから、アシスタントをやってみませんか?」と誘われて。

――マンガ家になることをまったく考えていなかった状況から、いきなりアシスタントとしてその世界へ入ってみて、いかがでしたか?

:ものすごく過酷でしたね。朝10時から次の朝5時くらいまでマンガを描き続けていて、コピー機の横で寝るんです。でも、ぼくが寝る頃には違うアシスタントさんたちが出勤してくるので、コピー機もガンガン稼働する。うるさくて寝られないわけです(笑)。若かったので乗り切れましたけど、とにかく大変でした。

 でも、マンガの勉強なんて一切したことがなかったので、一からすべてを教わることができました。現場には絵が上手い人がたくさんいましたし、良い経験になったと思っています。

 3年ほどアシスタントをしながら、持ち込みもしていたんです。その結果、連載が決まってデビューすることになりました。

――マンガ家になってみて、あらためて「影響を受けている」と感じる作品はありますか?

:上山徹郎先生の『LAMPO-THE HYPERSONIC BOY-』(小学館)です。小学生の頃から読んでいて、模写もしていました。それくらい大好きな作品ですし、間違いなく影響を受けていると思います。

 中学生の頃に読んでハマったのは、三浦建太郎先生の『ベルセルク』(白泉社)。世界観が大好きですし、人間ドラマも重厚でしたね。あとは、『ARMS』(皆川亮二、七月鏡一/小学館)、『スプリガン』(たかしげ宙、皆川亮二/小学館)、『AKIRA』(大友克洋/講談社)とか……。バトルものやアクションものが好きでした。このジャンルには爽快感があります。ヒーローものの映画を観ているみたいに、「ぼくにもこれ、できるんじゃない?」と思いながら読んでいましたね。自分を登場人物に重ね合わせて、勝手に気持ちよくなるみたいな感じです。

――それこそ、『ダンダダン』のアクションシーンにも爽快感やスピード感がありますね。

:そうですね、そこは意識しながら描いています。とにかくぼく自身が描きながら楽しんでいるんですよ。だから、ずっとマンガを描いていたい。ひとりでも多くの方に作品を愛してもらって、息の長いマンガ家になることが目標です。

取材・文=五十嵐 大

©龍幸伸/集英社

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