「漫画村」の実刑判決に抑止効果はあるのか? コロナ禍で変わるマンガ、同人活動のありかた。『ラブひな』赤松健先生に聞く!

マンガ

公開日:2021/8/6

コロナ禍で同人にもたらされた危機

――ある意味、コロナ禍で生まれた巨大な巣ごもり消費が、出版社や電子書店、マンガアプリにいわば「マンガ景気」をもたらしていて、それが横断型の取り組みからは各社を遠ざけてしまっているのが、気になるところです。他方、同人の世界ではコミケが1年以上にわたって開催されないという状況が続いています。(※取材後となる8月2日、コミックマーケット準備会は、“コミックマーケット99”(コミケ99)を、2021年12月30日~31日の期間、東京ビッグサイトにて開催することを発表した)

赤松:日本ワルワル同盟の有馬啓太郎さん( https://twitter.com/aryaryaman )などにヒアリングしたんです。同人サークルの人たちは締切がないとなかなか創作に向かいにくい。有馬さんとかはプロだから商業誌のペースで描いていけますが、そうではない人たちは、コミケは1年半ないんで締切がこない。それで、いろんなものを忘れていっているという。

――画力が落ちる、ということですか?

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赤松:それだけじゃなくて、コミケとかってどうするんだっけ? という段取りを忘れてきている。いつ頃何をするのかっていうのがそろそろ忘れてきているんですよね。夏コミ、冬コミが定期にあればいつ頃申し込みがあってとか、どれくらいまでにやらないと絶対落ちるというのがあるので、いつもそれを気にしてやっている。そういうことが続くと新しい世代に運営ノウハウが継承されなくなってしまう。

 これがもし2年・3年になってくると、「え、売り子が何をするんですか?」「出し子って何ですか?」ってなるんですよね。巨大サークルでは箱から出して並べる人がいないと間に合わないんですよ。ノウハウが蓄積されないというのは、コミケの準備会もそうで、今までの伝統の継承が停止してしまう可能性が危惧されている。もうコミケに出るのも別にいいかなっていう若手作家がそろそろ出てきているらしい。

 1年目の人たちが我々先輩につられて、原稿をやりとりしあって楽しいってなって11月頃には何をしなきゃいけないというのを学んで引き継がれてきたことが、おそらくここで切れてしまうんじゃないか、これ以上長引くと。コミケの準備会の人たちも同じこと言ってましたね。コミケの準備会の集会をやろうとしてもこられないし、わからない人たちがこのまま増えていくと準備会のスタッフになろうという発想がまずなくて、みんな老人になっちゃうと。

――たしかにちょっと気を抜くとあっという間に皆年をとりますからね。売上という意味からも深刻かも。

赤松:1、2年ならだったらまだいいかもしれない、2年前あったなあって思い出してやるので。その辺の伝統の継承が切れてしまうと文化が死滅するのではという心配はしていました。そして、同人に関してはお金じゃないですよ、みんな本職があってやってますから。これで食べている人もいますけど、そういう人たちは電子で生計を立てているという事情があって、商業をやっている人は商業に集中しているということですね。

――なるほど。そんな状況のなか、赤松先生はじめ関係者は、同人イベントに対する支援を国に要請するといったことも行っていました。国はそれに対してレスポンスよく応じてくれているのでしょうか?

赤松:最近は政府の人たちも、公務員、官僚なんかもオタクがとても多くて理解はすごくあります。国会議員もこれがネットで受ける話題だってわかっているので、みんな快く対応してくれていて、J-LODlive(コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金)とかいろんなシステムがあって日々改善されている実感はあります。もちろん批判もあるところなので、申請書式もどんどん簡易なものになっていき、徐々にラフ・ジャスティスでやっていいことになっている。そこは評価すべきだと思います。

――文化庁長官も「文化芸術活動の休止を求めることは、あらゆる手段を尽くした上で」というメッセージを出すなど、支援の姿勢は明確にしてきています。制度も整ってきたなか、あとは何が必要でしょうか?

赤松:オリンピックより優先するのは無理だろうけど、「日本はマンガアニメってものが売りなんだ、オリンピックに匹敵するんだ」と、そのために同人イベントの会場費全額免除とか、トップクラスの人たちが急に言ったならば「おーっ」てなりますよね。

――コロナがなくとも会場の確保やスケジュールなどで割を食っていますからね。

赤松:いろんなイベント運営者に聞くと、やっぱり厳しいのは会場費ですよね。ソーシャルディスタンスもそうですけど、人をあまり入れられないのに、会場費は同じってきついだろうなって思います。なので、ワクチン接種が加速して、以前のようなぎゅうぎゅう詰めのコミケが戻ってくる、というのが望ましいとは思いますけどね。もう無理かな。今は、入場前の検温も必要なのでそこで滞留してしまう。その行列を抜けたら走り出す人もいて、なかなか大変です。

 大手の壁サークルなんかは、開場からずっと行列で13時には売り切っちゃおうみたいな流れだったけど、これからは1時間に何冊売るかをちゃんと計算して、1時間ごとに同じ人数を入れるといった工夫が必要になってくるかもしれない。でも、開場と同時に「ウオー」と目当てのサークルに向かう、あの勢いも捨てがたいですよね。

――コロナ後は同人イベントのあり方は変わりますかね?

赤松:うーん私は変わらないと思う。まだ大きなイベントはコミティアしか行ってませんが、「喜びポイント」も「面白ポイント」もあんまり変わってない。私はいつも現状肯定派なんですよ。今コミケもコミティアもたくさん新人が出てくる虎の穴じゃないですか。新人育成所なので、そういうものっていうのは、なるべく今のまま残った方が漫画界のためではあると思いますよ。

――そのためにも支援が必要だという話ですね。

赤松:そうですね。希望としてはワクチンなどほかにもいろんな手法がありますけど、それを導入して、乗り越えて同じ形で続いていってほしいと思っています。

 我々作家は紙が好きなんですよ。コミケを全部電子化して電子で買えばいいじゃんという人もいますが、紙で売って手渡しするというのが楽しいみたいなお祭りなんですよね。そこは継承されていってほしいと思ってますが、もしこれから3年5年というスパンでコミケをやらなかったら、その価値観は継承されないんですよ、おそらく。

 その場合、電子に移行すると思うんだけど、それはそれでそういう道もあるのかなと思ってます。なぜかって今出版社は持ち込みが減っているんですよね。感染拡大でちょっと危険な時期もあったので。そもそも全て紙で描いているのは、マガジンでも『はじめの一歩』と『七つの大罪』と『炎炎ノ消防隊』の3作品位ですし、電子で投稿してZOOMで編集者と打ち合わせするのがなんでいけないの? と言われると確かにそうだよな、と思うので、そういう形が増えてよりいいものができるのであれば、受け入れていくべきだと思っています。

はじめの一歩
七つの大罪
炎炎ノ消防隊

――コロナ禍のなか作家や作品の発信の仕方が変わった、新たな手法が生まれたと思います。

赤松:Twitterを使ってどんどん宣伝していく人たち、結構いますよね。今は過渡期なので、そういう人たちも出版社に声をかけてもらって紙の単行本になって書店に並んだらいいなとみんな思っているみたいだけど、それさえも別に望まない人たちが出てきたら彼らは大成功するかもしれない。

 縦読みマンガに関して日本漫画のコマ組みの練習・訓練をしなくても描けるんだという意見があって、僕もそれはそうかもしれないと思うんです。SNSでは新人が日本漫画の練習や下積みが少なくても才能を発揮していくことができるかもしれない。紙でぱらぱらめくるよりも面白さを訴求しやすくなるかもしれないし、そうなるとネットで新人が作品を発表することはかつてより有利かもしれないし、その辺の技術開発をどんどん進めていくことはすごくいいことだと思います。

――赤松先生はウェブトゥーン的な縦読みは描かないんですか? 読んでみたいと思いました。

赤松:私もベテランになったので、何かいろんな会議にも出るようになったし、その辺は若手にお任せします(笑)。でも、もし私がやるなら縦横両用にしますね。紙にもできるし縦読みの特殊性も使えるみたいな。とにかく紙が好きなんです。

――わかりました。そうなれば赤松先生の「新機軸」が見られるかもしれませんね。本日はお忙しい中ありがとうございました。

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