身近で寄り添う存在になりたい。確かな信念を抱いて進む、音楽の道――大西亜玖璃『Elder flower』インタビュー

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公開日:2021/8/6

大西亜玖璃

『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』など、さまざまな作品で活躍中の声優・大西亜玖璃。今年3月に1stシングル『本日は晴天なり』で個人の音楽活動をスタートした彼女の2ndシングル『Elder flower』(8月4日リリース)は、さわやかでキラキラしたポップスを届けた前作とは大きく異なり、ハードなイントロから幕を開ける1曲であり、2枚目にして表現者としての新たな一面を披露している(キレ味のあるダンスを見せるMVにも注目だ)。声優として音楽活動をすることに憧れを抱いていたという大西亜玖璃は、「アーティストって言うとカッコよすぎるというか、キマってる感じがしちゃう(笑)」とも語っている。聴き手の近くに寄り添いたい――そんな信念をもって音楽活動に臨んでいる大西亜玖璃に、2ndシングルの手応えと、理想とする自身のあり方について話を聞いた。

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音楽活動を通して、身近で皆さんに寄り添えるような存在になりたい

──2ndシングルの『Elder flower』に収録された2曲を聴かせてもらいました。それぞれ手触りが全然違う2曲になっていますが、大西さん自身はどんな1枚になったと感じていますか。

大西:おっしゃっていただいた通り、“Elder flower”と“初恋カラーズ”は全然違う曲で、“Elder flower”はわたしにとっても挑戦をした曲です。“初恋カラーズ”は、今までのわたしのような曲で、2曲あわせて今のわたしが詰まった1枚になったんじゃないかなって思います。

──なるほど。自信作ですか?

大西:……はい(笑)。

──(笑)挑戦という話が出た“Elder flower”はイントロからわりとハードな印象が合って、まさに始まって数秒で「これは新しい大西亜玖璃です」と示せる曲なんじゃないかな、と思うんですけども。

大西:やっぱり、最初にカッコいい、強いイメージがドーンと来る曲ですね。TVアニメ『精霊幻想記』のエンディングテーマと聞いていたので、曲を通して「こういう作品になるのかな」っていうイメージもつかみやすくなりましたし、原作の小説を読んだりもしました。純粋に、エンディングテーマを歌わせていただけることが、すごく嬉しかったです。

──『精霊幻想記』の物語や登場人物から、どんなインスピレーションを受け取ったんですか。

大西:ヒロインたちがみんなかわいらしくて。主人公に対しての思いやりとか、手助けしてあげたいと思う気持ち、優しさにあふれる女の子たちがいっぱいいて。その子たちの思いには共感しやすかったですし、“Elder flower”の歌詞にもリンクする部分がいっぱいあるな、と感じて。彼女たちの思いを反映できていたらいいな、という思いで歌いました。歌詞にも、全体的に熱い思いが書かれているんですけど、Bメロに《君にとっての居場所になりたい/忘れないでいつも一緒だよ》という部分があって、これはヒロインたちの想いでもあるし、わたし自身もこのアーティスト活動を通して、皆さんの心に楽曲を通して寄り添えるような存在になれたらいいなと常々思っているので、素敵な歌詞だなって思いました。

──自分自身の活動にも重ね合わせられる言葉だったと。

大西:そうですね。楽曲全体を通してカッコよさ、強さもありつつ、繊細な気持ちも描かれていて。普段の生活で、大変だな、つらいな、と思うこともあるかもしれないですけど、そういう方の背中をグッと押しつつも、そっと寄り添うような優しさもあるのかな、と感じます――わたし自身、アーティスト活動を始めてみて、アーティストって言うとカッコよすぎるというか、キマってる感じがしちゃうな、と思っていて(笑)。「近所のおねえさん」みたいな、音楽活動を通して身近で皆さんに寄り添えるような存在になりたいし、『精霊幻想記』のヒロインたちは、主人公にとってそういう存在で、わたしの気持ちとも重なるところがあって、歌いやすかったです。

──アーティストと自分で名乗るのは、なかなか気恥ずかしい部分もあるわけですね。

大西:やっぱり、わたしの見てきたアーティストの皆さんは、憧れの存在、「カッコいい!」っていうイメージが強くて。わたしがそういう存在かというと、なんかしっくりこない感じがするんです。わたし自身も、アーティストの皆さんに元気をもらったり、笑顔になれたりしてきたので、カッコいいとは違うかもしれないけど、身近で悩みを聞くような、そんな存在になれたらいいなって思います。

──冒頭に“Elder flower”は挑戦だった、と話してくれたけど。大西さんの中で探り当てた楽曲に対する方向性やアプローチというのは、どういうものだったんでしょう。

大西:まずは……恥を捨てる(笑)。わたし自身はカッコつける……というのはあまりよい言い方ではないかもしれないですけど、得意としてこなかったんです。そういう一面って、自分の中にはどこにあるだろう、堂々としていられる自分はどういう感じだろうと、まずはイメージをしました。カッコよく歌いすぎてもわたしのよさが出ないような気もしたので、優しさとか、寄り添う気持ちを頭の片隅に置きつつ、でも堂々と歌いました。

──実際にやってみて、結果、曲を自分に引き寄せることができたと思うんですけど、その過程で新しい自分の一面を発見したり、自分らしさを自覚するきっかけにもなったんじゃないですか。

大西:わたし自身、普段はけっこう静かで、緊張しいで、あまり自信がなくて、みたいなところもあるんですが、(1stシングルの)“本日は晴天なり”でも、自分の明るい一面、元気な一面を思い浮かべながら歌いました。自信はないけど、自信を持って「これが好き」「こういうのがカッコいいよね」って思えるものはあるので、“Elder flower”では、「わたしはこういうカッコよさが好き」という引き出しを探ることができたのかなって思います。逆に自分らしさは、優しさとか寄り添うという部分が根本的にあって、常にそうありたいと思っていて、心の底からそう思ってるよ、という、内面の強さのような部分を歌えたのは、自分らしい……のかな?って思います(笑)。

──(笑)MVでも、バキバキに踊ってましたね。

大西:はい。カッコいいダンスを踊ったことがなくて、最初はどんな振りになるのかも想像がつかなかったし、振りを教えてもらっても、うまく踊れる気がしなかったです(笑)。でも、家でこつこつ練習を重ねて、。本番で、カメラの前に立ったらやるしかないと腹を括り、徐々に自信をつけていきながら、撮影できました。

──いい意味で開き直るというか。

大西:そうです、開き直るのが得意かもしれない(笑)。いつも、本番前になると「無理だ!」ってなりがちですけど、たとえば目の前にお客さんが1万人いるとしたら、失敗したりめそめそしてるほうが恥ずかしいなって思うので、堂々とできるんです。「カッコよくしてやろう!」「楽しくしてやろう!」って。

──完成した映像で自分の表情を見て、どうでした? 自分が表現できる領域が、思っていた以上に広いかもしれないって実感できたんじゃないかな、と想像してたんですけども。

大西:まさしくそうでした。いつも「できない」って思いがちだけど、やってみたらできることがたくさんあって。今回は皆さんも喜んでくださったし、いいものができたんじゃないかなって自分でも思うことができました。

──シングルに収録されたもう1曲の“初恋カラーズ”は“Elder flower”とは真逆の手触りで、さわやかでポップな曲になってますね。

大西:そうですね、曲を最初に聴いたときに、“本日は晴天なり”に近い楽曲だと思いました。“本日は晴天なり”のときに、自分の歌について「これは元気なのか?」「これはかわいいのだろうか?」と悩んでいたんですけど、“本日は晴天なり”を好きだと言ってくれる方がたくさんいたからこそ、この“初恋カラーズ”を選べたし、堂々と「これがわたしです」って見せられる楽曲になりました。

──歌詞の中の《君を足して七色》というフレーズが印象的ですが、《君》は何をイメージしながら歌っているんでしょうか。

大西:いつも応援してくれるファンの方が《君》だったらいいなって思っていました。でも、ファンの方から見たら、わたしも《君》になっていたいですね。アーティストや声優、いろんな方々がいる中で、ファンの方から見てわたしがいるからこそ七色になるよね、と思ってもらえたらいいですね。

たくさんの楽曲を歌っていくことで、自分自身のいろんな一面を見つけていきたい

──話はさかのぼりますが、大西亜玖璃として音楽活動をしましょう、となったとき、どんなリアクションをしましたか?

大西:「やったあ!……でも、だいじょぶかな?」みたいな感じだったと思います(笑)。もともと憧れはあって、やってみたいなとは思っていたので、嬉しさが最初に来て、その後一瞬で「え……? 本当ですか? 大丈夫ですか?」って。最初は受け止めきれる器がなかったです(笑)。ただ、声優になりたいと思ったのも、声優の皆さんがアーティスト活動もされていて、そういう方々に憧れがあったし、いつかはわたしも、と思っていたので、夢に近づけるのはすごく嬉しかったです。

──自身の名前で音楽活動をするということは、大西さんも自分を表現することになるわけですけど、「らしさ」を前面に出すことについては、どう考えていたんですか。

大西:デビューが決まったときは「嬉しいけど自信ないな」って思っていたんですけど、それを発表したときに、いつも応援してくれている皆さんがとても喜んでくれたんです。家族みたいに、むしろ家族以上にみんなが喜んでくれて。そういう方々の前に立つと、自分の味方がこんなにいてくれるんだって実感できるからこそ自分自身を出しやすいし、わたし自身も楽しめるようになってきました。何をしても受け止めてくれる、優しい方々ばかりなんです。もう、家にいるときと同じくらい、素で楽しめてるんじゃないかなって思っていて。

──理想的な関係ですね。

大西:本当にそうですね。皆さん優しくて、わたしの成長を見守ってくれてる方たちばかりなので、その期待に応えたいです。

──プロの表現者になる前の大西さんにとって、歌や音楽はどういう存在だったんですか。

大西:切っても切れない存在ですし、毎日何かしら音楽聴いていました。聴いていくうちに自分も歌ってみたくなって、家族の前で歌うようになって、それで家族も楽しんでくれて……という感じでした。皆さんにとっても、歌があることで救われたりすることはあると思います。だから、絶対的に大切なもの、だと思います。歌うことは大好きで、一度お母さんの前で歌って、「すごい下手」って言われたことがあったんですけど(笑)、逆にそれで頑張ろうってなって。合唱曲や民謡のような曲をお母さんの前で歌っていくうちに、「上手になったね」って、日々こつこつやることで成長を認めてもらえる瞬間が嬉しかったしし、心地よかったです。自分の成長を感じられたのが、歌でした。

──実際に音楽活動を始めて、3月に1stシングルをリリースしたわけですけど、自分の歌が届いてると実感できた、あるいは受け取ってくれた人からかけられて嬉しかった言葉はありますか?

大西:「いつも元気もらってます」「この曲を聴くと明るくなれます」と言っていただけると、皆さんの日常生活の一部になってるんだなって感じられて、すごく嬉しいです。お手紙でも、「つらいことがあったけど、曲を聴いたことで逃げずに済みました」という声もいただいたりして、「この曲を歌えてよかったなあ」と思いました。そういう方がひとりでも多くいたら、活動していてよかったなって思いますし、わたしも皆さんの言葉から元気をもらえて嬉しいです。

──みんなの期待に応えるために、これからどういう自分でありたいと思いますか。

大西:“Elder flower”で新しい自分を表現することができましたし、今後もたくさんの楽曲を歌っていくことで、自分自身のいろんな一面を見つけていきたいです。それを表現することによって、今まで応援してきてくださった方には、「こういうわたしもいるんだよ」って見せられたらいいな、と思いますし、喜んでもらえたらいいなって思います。

──これからの音楽活動で、特に楽しみにしていることは何ですか?

大西:やっぱり、ライブはしてみたいので、いつかできたらいいなと思います。グループとかユニットとは違って、キャラクターでもなく、わたしを見に来てくれる方々に届けるライブって、どういう景色なんだろうって、まだ想像がつかないですけど、でもきっと楽しくなるんだろうなって思います。あとは、ファンクラブができたので、皆さんと何かできたらいいですね。よく言ってるのは、バスツアーとか(笑)。苺狩りとか行けたら、楽しくないですか? バーベキューも楽しそうですよね。ファンの方同士が仲良くしてもらえたらいいな、と思いますし。そのおかげで巡り会えた友達がいたりしたら嬉しいです。

──今後、さまざまな作品や楽曲との出会いを通して、大西さん自身はどんな人になりたいですか。

大西:なんだろう……まずは、声優としてもっと力をつけて、いつかは憧れた皆さんのようになれたらいいな、と思います。タイアップのおかげでアニメからわたしを知ってくれた方々や、わたし個人を知らない人にも、楽曲を聴いたことで勇気づけられたり、想いをいっぱい届けられる人になれたらと思います。

取材・文=清水大輔

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