人気YouTuberが作家デビュー! コウイチが選ぶ今年印象的だった本

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更新日:2021/9/27

 チャンネル登録者数59万人を超える人気YouTuberで、今年3月刊行の著書『最悪な一日』で作家デビューを果たしたコウイチ。『ダ・ヴィンチ』本誌10月号からは初の小説連載を開始。そんなコウイチが今年読んだ一冊とは?

取材・文=吉田大助+ダ・ヴィンチ編集部 写真=山口宏之


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作るのも読むのも短編が好き

 YouTubeチャンネル「kouichitv」を運営するコウイチは、3分以内のショートストーリー、小説ジャンルで言うところの「ショートショート」の動画をハイペースで公開し、YouTuber界で唯一無二の地位を築いている。脚本・監督・主演を務める動画はミステリーでホラーで、シュールかつコメディ。中毒性が高い。

「映画も小説もマンガも、短編が好きなんです。星新一さんのショートショートは昔から大好きですし、村上春樹さんの小説は短編ばっかり読んでいます。石黒正数さんのマンガ『それでも町は廻っている』も大好きですね。短い中で起承転結がしっかり味わえるのはお得だし、短いからこそ何回も読んだり観たりできる。僕も動画を制作する時は、“何回も観てもらえるようなものを”と意識しています。特に、1回目に観た時と2回目に観た時で印象がガラッと変わるような作品ができた時は、満足感が高いです」

 今年読んだ本の中で印象的だったのは?

「panpanyaさんっていうマンガ家がすごく好きで、描かれるのは独り言が多いマンガというか、すごく日常的なんですけど、キャラクターは摩訶不思議で。今年は『魚社会』という新作が出たんですが、魚が普通に喋っています(笑)。主人公がスーパーで売ってた菓子パン(カステラ風蒸しケーキ)にひとりだけずっとハマってたけど、それが廃盤になっちゃって、いろんなスーパーを回って最後の在庫を買いそろえたりとか。その味が忘れられなくて、最終的に自分でつくってそのレシピがのってたりするんですよ(笑)」

小説の自由度の高さにハマりました

 そんな彼に書籍の執筆依頼が届いたのは、昨年のことだった。編集者からは「ちょっとおかしなエッセイを」というオファーだったが……3月刊の著書『最悪な一日』は、7割が小説で占められることになった。

「僕が他のYouTuberの方々と違うかなと思うのは、人間性を出してやっていないんです。コウイチTVの視聴者は、たぶん僕の中身に関してはわりとどうでもいい(笑)。エッセイを書いたところでそんなに興味を持ってもらえないかなと思い、フィクションメインでやってみようと、試しにいろいろ短い小説を書いてみたんです。高1から動画の脚本を何百本と書いてきたせいか、自分でも意外なほどスラスラ書けました」

 初めて小説を書いた感想は、「楽しかった」。

「自由度がものすごく高いんです。小道具もいらないし場所も好きなように書けますし、いっぱいキャストも出せる。予算も無限なので、UFOでも隕石でも出したければ出せる(笑)。動画には動画の面白さもあるんですが、ストーリーが好き放題に書ける魅力は、小説ならではのものだと感じました」

 本を書き上げたら、しばらく文章からは離れるつもりだったそうだ。しかし、1週間とたたずに手が疼き出した。「小説の楽しさにハマってしまった」からだ。小説に対する表現欲を満たすためには、小説を書くしかない。そんな時に本誌の編集者と出会い、意気投合。今月号より、小説の連載が決定した。タイトルは『スピンオフな町』だ。

「編集さんから“連作短編はどうでしょう?”という提案をいただいて、ひとつの町を舞台に、町のいろいろな場所で起こる事件を書こうと思いました。全編に登場する主人公らしき人はいるんですが、その人自身のストーリーは直接書かないことにする。周りにいる脇役たちの話をスピンオフ的に書くことで、結果的に主人公の輪郭が見えてきたらな、と」

 第1話「一方通行サウナ」は、田舎町にある銭湯のサウナ室で、大学生2人が“事件”に巻き込まれる物語。時間経過の表現が巧みで、サプライズも効いている。

「まずサウナというシチュエーションだけ先に決めて、そこで何が起こるか。非日常的なことを起こすんだったら……というところからお話を作っていきました。サウナって雑談している人が多いイメージがあるので、会話が思いっきり書けるぞ、とテンションが上がったんです。僕はタランティーノの映画が好きなんですが、タランティーノ作品はストーリーそっちのけで会話ばっかりしているんですよ。しかも、それが面白い。考えてみると、ストーリーは1回知っちゃったらもういいかなってなるんですけど、会話って何度も味わえる。そこを目指しました」

 ネタのストックは数話分ある。脳内で細部に至るまでアイデアを磨き上げ、頭から終わりまでの「映像」が見えたところで、一気に書くスタイルだ。現在は、第2話の構想を練り上げている。

「第1話を書き上げた時に、これが続いていけば面白いものになりそうだな、というワクワク感がありました。今後はホラーありコメディありと、いろんなお話のパターンを考えています。最近、“もう25歳になってしまった……”と落ち込んだんです(苦笑)。でも、ここで頑張っておけば、未来の自分に繋がる。書く力を鍛えることは、“いつか長編映画を撮る”という夢に一歩近づくことでもあると思っているんです」

(プロフィール)
「こういち●1996年、北海道生まれ。高校1年生のときにYouTubeチャンネル「kouichitv」を開始。3分以内の自作自演によるショートコメディが主で、ホラーやSF、都市伝説など様々な要素を取り混ぜたシュールな世界観が支持を集める。2018年には札幌短編映画祭で『最悪な一日』が特別賞を受賞。著書にフェイクエッセイ『最悪な一日』(KADOKAWA)がある。