マンガ読みのプロに聞く・マンガ業界の明日はどっちだ!?

マンガ

公開日:2021/9/19

 読まれ方、流通、ビジネスモデル―あらゆることが変化しているマンガ業界の今&未来を、識者はいかに見ているか!?

Q1マンガ業界で注目しているトピックスは?
Q2マンガ業界において、これから変わると思うこと、変わらないと思うことは?
Q3注目している「次マン」は?

読み切りが文化的な価値、商業的な価値を持つ時代になるか

ライター/批評家 飯田一史

飯田一史さん

A1
「少年ジャンプ+」が膨大な数の読み切りを掲載して次々にSNSでバズを起こして読み切りの楽しみをスマホでマンガを読む人たちに知らしめ、藤本タツキ『ルックバック』によって読み切りは必ずしも新人育成の場というだけではないというイメージも定着させた。こんなに読み切りが熱心に語られる時代は『COM』や『ガロ』の全盛期まで遡らないと存在しないのではないか。小説では学研の5分後シリーズをはじめ短篇集、ショートショートブームが続いている。マンガでもテーマごとの短篇集・アンソロジーが作られて売れるようになれば、読み切りが文化的な価値に次いで商業的な価値まで転換するかもしれない。もしそうなればマンガ産業史的に興味深い。

advertisement

A2
[変わると思うこと]
2010年代後半に生まれたマンガ動画/SNSアニメ、2020年代初頭に増えているボイスコミックがますます伸長し、決定的な作品・作家が現れるのでは。また、韓国ではウェブトゥーンのOSTが配信されるようになっているし、日本でも小説ならYOASOBIをはじめ音楽連動企画がいくつもあるのだから、マンガと音楽でやれば成功するものが出てくると思う。動画や音声、音楽と連動したマンガ表現が広がってさらに市民権を得る。

[変わらないと思うこと]
日本式のマンガに関して言えばウェブやアプリを使ったビジネスモデルは2010年代半ば以降の数年である種の完成を見せたので、商売の仕方はしばらく変わらないと思う。売り方の洗練によって市場が拡大する一方で、慢性的にマンガ家と編集者が足りていないという作り手不足の問題も、業界一丸となってのマクロレベルの施策によって解決するといった動きが見られない以上、構造的に変わらない。

A3
『僕とロボコ』宮崎周平
キッズが『鬼滅の刃』に夢中になったけど今の『ジャンプ』には幼児~小学生向け作品がないから『魔入りました!入間くん』に流れているのではと思っていたら始まった小学生主人公のギャグマンガ。え、子どもに通じるパロディネタじゃない?

『僕とロボコ』書影
『僕とロボコ』(1~4巻)
宮崎周平 集英社ジャンプC 各484円(税込)

いいだ・いちし●1982年生まれ。小説誌、カルチャー誌、ライトノベルの編集者を経てライターに。マンガ、ネット動画、ラノベ、ウェブ小説について取材を続けている。著書に『いaま、子どもの本が売れる理由』『ライトノベル・クロニクル2010−2021』『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』など。

 

これからのマンガ業界は韓国と中国を中心に回っていくのでは

【インタビュー】
マンガ編集者/コルク代表 佐渡島庸平

佐渡島庸平さん

A1
 いま注目しているのは、具体的になるけど、とにかく「少年ジャンプ+」。ジャンプは「ジャンプの漫画学校」もやっているし、ツールも開発しているし、ヒットした後にその作品を広げる仕組みも準備されているし……完璧な体制を整えている。ヒット作品が出る確率も昔よりずっと上がっているんじゃないかな。マンガ家に対してすべてのリソースがひらかれていて、担当編集との相性といったことも関係なく、結果さえ出せばそれらに手伝ってもらえると考えると、まあ僕がもしマンガ家だったら、まずは「ジャンプ+」に行くだろうなと。

A2
[変わると思うこと]
韓国と中国を中心に回っていくんじゃないだろうか。日本の出版業界はマンガというものを尊重しすぎていて、スマホ対応とか、時代に合わせて変化に取り組める総量が少ないんじゃないかと。たとえるなら、もともとゲーム作りをしていた人たちが、ソーシャルゲーム対応が遅れた、あの感じ。ソーシャルゲームは日本のソシャゲ会社すら勝てなくて、中国に持っていかれてしまった。マンガもそれと同じ轍を踏むのでは、と。中国や韓国のマンガ業界は一気に成長が進んで面白くなってきているから、その流れは急速に進むかもしれない。

[変わらないと思うこと]
紙の本はなくならないとは思う。ただし、かなり縮小はする。向こう10年はまだ拡大するかもしれないけれど。だって今の10代はもう紙より断然スマホでマンガを読むでしょう。紙のマンガは嗜好品みたいな役割になっていくだろうけど、スマホで読むのに慣れている世代はその嗜好品もあまりほしがらないかもしれない……。たとえばマンガの原画とか、もっと別の嗜好品のほうがいいもんね。

A3
『ダーウィン事変』うめざわしゅん
社会の変化などに対する問いを投げかけていて、物語も面白い。『アフタヌーン』らしい作品だなぁと感じる。

『ダーウィン事変』書影
『ダーウィン事変』(1~2巻)
うめざわしゅん 講談社アフタヌーンKC 各726円(税込)

『夏目アラタの結婚』乃木坂太郎
もう、とにかく先が気になる。そして、人間の不思議さがみごとに描かれている。乃木坂太郎さんの作品は鉄板だ。

『夏目アラタの結婚』書影
『夏目アラタの結婚』(1~6巻)
乃木坂太郎 小学館ビッグC 各650円(税込)

さどしま・ようへい●1979年生まれ。『週刊モーニング』編集部で『バガボンド』、『働きマン』、『宇宙兄弟』などを担当。退社後、作家のエージェント会社コルクを創業。著書に『ぼくらの仮説が世界をつくる』『WE ARE LONELY,BUT NOT ALONE.』など。

 

掲載メディアのブランドイメージは今以上に薄まっていくと思う

ライター/批評家/マンガ原作者 さやわか

さやわかさん

A1
 いわゆる「異世界転生もの」の、ジャンルとしての定着です。いまだに「オタク向け」とか「深い内容のものはない」と思っている人もいそうですが、そういう人はかつての「グルメ漫画」を思い出すといいのではないでしょうか。あれが読者の性別や嗜好を越えて定着したように、異世界転生ものも、幅広い漫画読者に読まれるジャンルとして成長したと思います。今後は、多彩な異世界転生ものの中から、自分の好きな作品や、玄人好みの内容を見つけていく時代になっていくのではないでしょうか。

A2
[変わると思うこと]
漫画の掲載メディアのブランドイメージは、今以上に薄まっていくのではないでしょうか。つまり読者が、どんな雑誌、どこのサイト、どのアプリに掲載されている作品だから面白いはずだ、と判断することが減っていくと思います。既にネット系の漫画の場合、複数のサイトやアプリで同時に掲載されていることも多いので、「あの漫画は、この雑誌が生んだ作品だな」というイメージも持たれにくくなっています。

[変わらないと思うこと]
一方で、出版社の編集者がかかわって作る、昔からある漫画の作り方は残り続けると思います。ネット時代というとすぐに編集者不要論などを唱える人がいますし、また近年は海外由来の縦読み漫画も人気を集めるようにもなりました。しかし従来の商業漫画作りのノウハウを知る編集者たちは、なにせ商売でやってますから、商売でやっているからこそ、きっちり対応して、ますます面白くて意義深い作品作りにかかわってくれると思っています。漫画は商業的な文化ですから、それが健全なことです。

A3
『この世界は不完全すぎる』左藤真通
「この世界はVRゲームだ」という定番の異世界転生ものですが、主人公はそのゲームのデバッグ要員として参加した開発スタッフ。地形にハマって動けなくなるような「バグあるある」も面白いですが、そんな世界にも大きな謎や悪が現れ、バグを利用して戦ったりするのも熱い。面白いです!

『この世界は不完全すぎる』書影
『この世界は不完全すぎる』(1~4巻)
左藤真通 講談社モーニングKC 704~726円(税込)

さやわか●1974年生まれ。音楽・出版業界での会社勤務を経て執筆活動に入る。『僕たちのゲーム史』『文学の読み方』『僕たちとアイドルの時代』『キャラの思考法』『名探偵コナンと平成』『世界を物語として生きるために』など著書多数。『永守くんが一途すぎて困る。』『キューティーミューティー』などのマンガ原作も手がける。