8人の小説家が仕掛ける、鮮烈なミステリー体験。「さあ、どんでん返しだ。」特別対談①(五十嵐律人×三津田信三編)

文芸・カルチャー

公開日:2021/9/10

さあ、どんでん返しだ。
イラスト:石江八

 五十嵐律人三津田信三、潮谷験、似鳥鶏、周木律、麻耶雄嵩、東川篤哉、真下みこと。8人の小説家による多彩なミステリー作品が連続刊行される講談社の「さあ、どんでん返しだ。」フェアでは、作家同士が互いの作品に抱いた印象や、自らの創作へのこだわりを語りあったインタビューを配信中。第1弾に登場するのは7月に『原因において自由な物語』を刊行した五十嵐律人さんと、『忌名の如き贄るもの』を刊行した三津田信三さんのおふたり。「仕掛け番長」こと栗俣力也氏がMCを務める、対談の模様の一部をご紹介します。

「さあ、どんでん返しだ。」特別対談

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「最終的に書き終えられるのかとデビューからしばらくは不安になることばかりでした」(三津田)

栗俣:五十嵐先生はプロローグからしっかりと練りに練っている印象がありますが、三津田先生はどのように小説を書き始めているのでしょうか?

三津田:いやー、五十嵐先生は非常にしっかりされていますね。私の場合、物語の核・中心となるアイデアはもちろん書き始める前に固めていますが、ストーリーについては書きながら考えています。つまり、いわゆる“プロット”と呼ばれる小説・物語の構成を用意していません。物語の舞台やテーマについての参考文献を読み込みながら頭の中で整理していき、「よし、これで書き始められるぞ!」という目処がついてようやく書き始めます。

正直、このような書き方をしていて「自分は本当に作家なのか?」と不思議に思うこともありますし、最終的に書き終えられるのかとデビューからしばらくは不安になることばかりでした。なので、自分の作品の原稿チェックをするときは、「しっかり書けているなぁ」と感心することもありますね(笑)。

栗俣:そうなんですか!? 三津田先生の作品はどれも設定がしっかりされている印象を受けていました。

三津田:周りからもよくそう言われています。他のミステリー小説の作家の方たちは、私とは違って一から十までプロットを決めて小説の骨組みをしっかりと決めてから書き始められることが多いと思いますね。とはいえ、小説を書き続けていく中で、ようやく『山魔の如き嗤うもの』を執筆した頃に自分の書き方でも「小説家として作品づくりができる」という自信が湧いてきました。

「さあ、どんでん返しだ。」特別対談

「意地でも答えを見つけ出してやると、ベッドの上で体育座りしながら頭を悩ませています」(五十嵐)

栗俣:五十嵐先生も、作品ができるまでに不安を感じることはありますか?

五十嵐:『原因において自由な物語』のプロローグを書いたときのエピソードからすると、一から十までプロットをしっかりと固めて書き始めるタイプの小説家だという印象が強いと思いますが、「タイトル」「プロローグ」「謎」まではしっかり決め、その先は思うがままに筆を走らせています。

今回の『原因において自由な物語』では、中盤で3つの謎が提示されますが、それらの謎解きの答えは執筆時点では決めていないわけなので、いざ答えを書くぞ!! という段階に入ったら小説を書く手を止めます。もともと設定していた3つの謎の整合性を取れる答えは何かを、その時に見つけ出します。

安易にその時に思いついた答えを優先して謎の方を変更したりせず、意地でも答えを見つけ出してやると、ベッドの上で体育座りしながら頭を悩ませています。長い時には1カ月ほど答えを探し続けていることもありますね。だから、しっかりと最初に構成を決め切る“ちゃんとした”新人作家ではないんですよね。

三津田:五十嵐先生、その小説執筆時の取り組み姿勢、素晴らしいです!!

栗俣:ありがとうございます。いや、もう一度言いますが、五十嵐先生、三津田先生、お二人の作品はいずれも設定がしっかりされているので、ミステリー好きの私としては、先生たちの執筆方法がとても意外でした。

三津田:いわゆる一から十まで設定された“がっちり”とした作品を、頭の中で考え尽くせる作家は「天才」ですよ、ある意味。私もそうですが、頭の中で考えを巡らせつつも、筆を走らせることでどんどんアイデアが生まれて、作品ができあがって行きます。

アスリートも毎日練習をして身体を動かしていくことで、少しずつ少しずつパフォーマンスが向上していきますよね。私たち作家も同じなんです。作家で言えば、小説を読んだり、映画を観たりすることが作家としての“基礎体力づくり”と言えるかもしれません。五十嵐先生は、この“基礎体力”がしっかりしている印象ですよね。お話を伺っていると。知的な職業と言われることの多い作家ですが、実は体力仕事なんですよね。

対談インタビューの模様は、動画でもご覧いただけます。
TSUTAYA Newsに掲載のインタビューとともに、ぜひチェックしてみてください。

ダ・ヴィンチニュースでは、「さあ、どんでん返しだ。」に参加する8人の小説家への単独インタビューも公開中!特集はこちら

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