8人の小説家が仕掛ける、鮮烈なミステリー体験。「さあ、どんでん返しだ。」特別対談②(三津田信三×潮谷験編)

文芸・カルチャー

公開日:2021/9/17

さあ、どんでん返しだ。
イラスト:石江八

 五十嵐律人、三津田信三、潮谷験、似鳥鶏、周木律、麻耶雄嵩、東川篤哉、真下みこと。8人の小説家による多彩なミステリー作品が連続刊行される講談社の「さあ、どんでん返しだ。」フェアでは、作家同士が互いの作品に抱いた印象や、自らの創作へのこだわりを語りあったインタビューを配信中。第2弾は『忌名の如き贄るもの』の著者・三津田信三さんと、『時空犯』を刊行した潮谷験さんのおふたり。「仕掛け番長」こと栗俣力也氏がMCを務める、対談の模様の一部をご紹介します。

「さあ、どんでん返しだ。」特別対談

advertisement

もちろん、あの展開も最初から想定していたものではありません(笑)(三津田)

栗俣:前回の取材(五十嵐律人×三津田信三両氏の対談)をさせていただいた時にも驚きを隠せませんでしたが、あの三津田先生の作品の数々がプロットなしで執筆されてきたものだとは想像してもいませんでした。

三津田:はい、パソコンに向かって書きながら、いつも「本当に最後まで書けるのか?」と不安を覚えています。今回の新作も含めて、どうにか納得のいく結末へ物語を着地させられていますが、万一そういう風に筆が進まなくなれば、もう引退を考えなければいけませんね(笑)。

栗俣:ファンとしてはこの先何十年も先生の作品を読み続けたいので、ぜひよろしくお願いします!! それにしても、“プロット”がない中でとは思えない最後の一言。緻密に設計され尽くした作品設定が最後の最後で回収されて、恐ろしすぎて読んだ瞬間、ゾクゾクっと鳥肌が立ちましたよ。

三津田:もちろん、あの展開も最初から想定していたものではありません(笑)。執筆のどの段階だったか定かではありませんが、物語を書き進めていくうちに閃いたアイデアでした。

栗俣:あの部分も構想にはなかったものだったのですか!? 私はあの一言のために、物語の設定が用意されたものだと思っていました。

三津田:そうですよね。僕も書き上げた原稿を読んで、まったく同じように感じましたから(笑)。今回も最後まで小説を書き上げられたことが、僕自身も不思議で仕方がないといいますか。

栗俣:潮谷先生は、プロットはご用意されて執筆されていますか?

潮谷:デビューしてからは編集の方から「プロットは書いたほうがいい」とアドバイスをいただいていますが、新作の『時空犯』についてはあまりきっちりとしたプロットを用意していませんでした。「タイムリープ」と「ミステリ」という大きなテーマは設定していましたが、執筆しながら微修正を繰り返していきました。「微修正」とは言いましたが、実は“犯人”が途中で変わっています。あ、このままこの人が犯人だと話が成り立たない!! と。

栗俣:え!! 『時空犯』のあの犯人はもともと犯人じゃなかったのですか!? それは驚きです。

潮谷:はい、そうなのです。プロットがあるほうが物語を書き進めていく上で躓くことが少ないため、あったほうが執筆は“楽”だと思います。

三津田:ミステリは非常に論理性を重んじる文学なので、まずプロットが存在するのは自明の理とも言えます。作家も安心して執筆に専念できますからね。それは重々わかっているのですが、どうしてもプロット作りができないまま、20年も作家をやってきてしまいました。

「さあ、どんでん返しだ。」特別対談

“明日の自分が生み出す作品”を楽しむことができる作品づくりの方が退屈しません(潮谷)

栗俣:プロットなしで作品づくりをしているお二人にお伺いしたいのですが、「プロットのあり・なし」が作品にどのような影響を与えますか?

三津田:そもそもプロットを書いたことがないので、作品の“完成度”への影響はわかりません。ただ個人的には、プロットがあるとその通りに書けばいいという安心感と引き換えに、次に何が起こるのか? という“ワクワク・ドキドキ”の感情を覚えなくなると思うのです。僕にとっての自作って、僕自身が初めの読者である――そんな感覚があります。よって作者の僕が“ワクワク・ドキドキ”できないと、きっと読者も同じではないか……と。

潮谷:三津田先生と同じく、「この先どうなるのか?」と作家自身が物語を体験しながら筆を走らせ、“明日の自分が生み出す作品”を楽しむことができる作品づくりの方が退屈しません。プロットが細かければ細かいほど、単調な作業のようになってしまう気がします。

三津田:以前もお話ししましたが、一から十までプロットを用意してあとは書くだけという作家は、本当にすごいと感心します。事前にすべて頭の中だけで、一度は書き上げるようなものですからね。一種の天才ですよ。僕は刀城言耶と同じように、試行錯誤をしながらでないと執筆できません。

潮谷:三津田先生の新作の犯人当て、見事にミスリードして騙されてしまいました。

三津田:それは嬉しいです。ちなみに誰が犯人だと思いましたか?

潮谷:「◯◯◯◯」です。かなり具体的かつ詳細に人物像が描かれている登場人物だったので、もしや犯人なのでは!? と思ってしまいました。また、ある人物を犯人から除外するような一文があり、まんまと候補から外してしまいました…。後々の展開で「この手があったか!!」と膝を打ちましたよ。

三津田:あの部分は完全に確信犯です(笑)。作家として何作も書き続けていくことで、自然と身につくテクニックのようなものですね。それ以前にミステリ読書体験でも得られると思います。

潮谷:思い返せば、過去に読んだミステリ作品にも採用されていた前例のあるトリックでもあったため、しまったなと悔しい思いでした。

三津田:前例があるトリックや仕掛けを、いかにオリジナリティを感じさせる作品へと仕上げるか。それが作家としての腕の見せ所だと思います。ミステリ好きの読者は「この分野のパターン」をよく知っています。だから勘が鋭い。「このパターンなら、犯人はこの人だ」とすぐに察してしまいます。つまり逆に考えれば、罠にはめやすいとも言えます。一番やってはいけないのは、過去の作品のアイデアをそのまま使うことです。かなり昔ですが、アガサ・クリスティの『アクロイド殺し』の仕掛けを、何の工夫もせずに使用している作品を読んだことがあります。すぐに犯人がわかっただけでなく、作者が何も考えていない、最初からあのアイデアに“おんぶに抱っこ”していることが丸わかりで、がっかりした覚えがあります。

潮谷:そうなのですね。でも、『アクロイド殺し』のトリックは私も一度は挑戦してみたいと思っています。

三津田:現代のミステリ作家が扱うとなると、相当な力量が問われる挑戦になるでしょう。少なくとも別の魅力的なアイデアと組み合わせて、わざわざ今“あれ”をやる意味を打ち出す必要があると思います。それでも挑戦したくなるのが、ミステリ作家の性でしょうか。

対談インタビューの模様は、動画でもご覧いただけます。
TSUTAYA Newsに掲載のインタビューとともに、ぜひチェックしてみてください。

ダ・ヴィンチニュースでは、「さあ、どんでん返しだ。」に参加する8人の小説家への単独インタビューも公開中! 特集はこちら

あわせて読みたい