1st EPの楽曲群から滲む、表現者としての揺るがぬ哲学――永塚拓馬『dance with me』インタビュー

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公開日:2021/10/6

永塚拓馬

『ヴィジュアルプリズン』『アイドルマスター SideM』などの作品で活躍する声優・永塚拓馬が、自身名義の1st EP『dance with me』(10月6日発売)をリリースする。MVでもキレのあるダンスを披露する表題曲“dance with me”に始まり、全編英語詞への楽曲にもチャレンジするなど、聴き応えある5曲が収められた1枚だ。やわらかい声質や、優しげなビジュアルは永塚拓馬のオンリーワンな特徴だが、『dance with me』の5曲から伝わってくるのは、表現者としての強靭な哲学だ。人前に立つ・表現を届ける・それを受け取ってもらうために何が必要なのか、を突き詰め、自覚的に思考し実践する彼の音楽は、この先多くの聴き手の心を動かしていくのではないか――確かにそう感じさせる、1st EPが完成した。声優としての自身のあり方とともに、『dance with me』について話を聞かせてもらった。

また、ダ・ヴィンチニュースでは、声優・永塚拓馬のルーツや想いをつづるコラム「永塚拓馬です。」も好評連載中。こちらもあわせてチェックしてみてほしい。

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一番にあったのは、「毒にも薬にもならない音楽はやりたくないな」ということ

――1stEPの『dance with me』、めちゃくちゃカッコいいですね。

永塚:ありがとうございます!

――いい意味で聴く人に驚いてもらえる作品になっているんじゃないかと思います。永塚さん自身は、このEPにどのような手応えを感じています。

永塚:手前味噌ですが、いいアルバムができたのではないかな、と思います。一曲一曲にそれぞれのよさがあって、どんどん深いところに入っていく感じがあるというか。作詞作曲をしてくださった方も豪華な方々で、本当に豪華なアルバムになったと思います。

――永塚さん自身の名義で音楽活動をすることになった経緯と、話を聞いたときにどんなリアクションをしたか教えてもらえますか。

永塚:音楽活動が始まったのは、僕のステージ上でのパフォーマンスをレーベルの方が見てくださっていて、ステージングに何かフックを感じてくださったそうです。ある日、事務所に呼ばれて、「アーティスト活動の話が出てるんだけど、どう?」という話をいただいて、驚きはしたのですが、数日考えて、受けさせていただきました。

――音楽活動は、いつかはやってみたいと思っていたんですか?

永塚:正直、想像していなかったです。声優としての活動をしっかりやっている中で。キャラクターソングや、キャラクターとしてステージに出ることも多かったので、そちらを頑張っていこうかと思っていました。なので、「なんで自分なんだろう」と(笑)。

――(笑)数日考えて「やってみよう」と踏み出せた決め手とは?

永塚:求めていただけることはすごくありがたいことですし。アーティスト活動をすることによって「自分の表現の幅を広がるかも」「自分にはなかった表現ができるようになるんじゃないか」と思ったことは大きいです。

――作品でステージに立つ経験はこれまでにもしてきた中で、歌って踊る表現の喜びはどういうところに感じますか?

永塚:そもそも、音楽が好きだし、踊ることも好きなんです。そこに楽しさがありますし、自分が歌って踊ることによって、お客さんが何か受け取ってくださって、レスポンスとして返してくださることが、自分としては一番の嬉しさですね。

――ひとりの表現者になる前のいちリスナーとして、永塚さんにとって音楽はどういう存在でしたか。

永塚:僕が音楽にハマったのが、一番現実を見たくなかったときなんです。将来に悩んでいて、いい未来、ビジョンもまったく浮かんでいなかった高校の頃のことなのですが、音楽を聴くことで、ある種違う世界に自分を連れて行ってもらえる感覚があって。目の前にある問題を見なくていい安住の地といいますか、音楽を聴くことによって自分の居場所を作ってもらえる気がしました。

――その音楽を自分の名前で発信していくことになって、最初にリリースする作品はどういうものであるべきと考えていましたか。

永塚:一番にあったのは、「毒にも薬にもならない音楽はやりたくないな」ということでした。曲を聴くことによって、何かしらメッセージを与えることができたらいいな、と思っていて。聴く方も、音楽を聴くことで何かを受け取りたいと思っているのではないかと思います。自分はその想いに応えたいと思っていて。今回のEPには5曲入っているんですけど、それぞれメッセージが違っています。5曲すべてで何かしらの感情を与えられるような音楽を届けたいと考えていました。実際に、5曲ともいい曲になりましたし、捨て曲がないアルバムにできたと思います。

――お話を聞いていても、永塚さんの中にはっきり目指したいこと、実現したいことがある印象を受けます。内側に表現への情熱を抱えている方だなって感じるんですが、今回の制作で譲れないと思っていたポイントは何でしたか。

永塚:こだわりはあるほうかもしれないです。自分が納得していないものを出したところで、それはきっとお客さんにも伝わってしまいますし、自分自身も苦しくなってしまうし、それは誰も望んでいないことになってしまう。自分が表現していきたいものを出していくことが、みんなにとって一番いいことなんじゃないかな、と思います。

基本的に、人間にはいろいろな面があると思っているんです。そのときによって考えることも違うし、性格もひとつではない。今回の5曲は、僕の性格や考えていることに一致するものがある曲になっています。自分が共感できない歌は、歌っていても何も届かないと思いますし、そういう意味では自分としても共感できる5曲になりました。

――最初に受け取ったのはタイトル曲の“dance with me”だと思いますが、リード曲って、ご自身の音楽活動のイメージを決定づける大事な曲ですよね。受け取ったとき、どんなことを感じましたか。

永塚:最初に聴いたときは、単純にカッコいい曲だな、と思いました。アップテンポで、お客さんもノリやすいですし、表題曲にもピッタリな楽曲ですよね。

――“dance with me”はMVでダンスを披露していますけど、歌の表現力とともに、けっこう大胆な表情をするなあ、と思って印象的でした。

永塚:パフォーマンス中の表情に関しては、もともと僕が役者ということもあって、楽曲に影響されていると思います。明るく楽しい曲だと、知らないうちに笑顔になっていたりしますし。それは、意識しているというより、楽曲を表現しようと思うと、自然と表情が出ていると思います。激しいダンスだったから、きっと力強い表情になっていたのかなと思います。

――レコーディングやMVの撮影も含めて、今回のEP制作を通して見つけた自分の強みと、逆に今後の課題かなって感じたことは何ですか。

永塚:自分自身の強みとして、よくレコーディングでおっしゃっていただいたのは、感情の込め方でした。自分自身が役者としてやっているので、そこが優れていると作曲された方におっしゃっていただいたので、そこは自分にとっての強みなのかなって思います。楽曲によって声質を変えることも、得意です。課題としては、ダンスはまだまだ始めたばかりなので、もっともっとうまくなりたいし、歌に関しても成長途中だと思います。始まったばかりなので、成長していきたいです。

――音楽活動が始まる前と今とで、永塚さん自身の内面にはどんな変化が生まれていますか。

永塚:「もっとインプットしないと」と思うようになりました。声優として表現することはあるんですけど、それは自分の中にあるものを表現するというより、キャラクターが持っているもの、キャラクターが感じている感情を分析して表現するのがお仕事なんですね。だけどアーティスト活動は、自分の中にあるものを出していかないといけない。そのためにも、常に何かしらインプットしておかないと出せるものがなくなってしまうな、と感じたので、以前よりも映画を観たり、本を読んだり、音楽を聴いたりすることに割く時間はかなり増えました。

僕自身が音楽に救われていたので、誰かにとっての救いの場に僕がなれたら

――5曲を収録した中で、自分の中に「こういう表現があったのか」って感じたことはありますか?

永塚:“dance with me”が、そうかもしれないです。僕自身、基本的にエスコートするようなタイプではなくて、どちらかというと「伺う」みたいな感じなので(笑)。“dance with me”のように、積極的にリードする感じは、自分の中にないものを作れたのかなと思います。「そういう男になってみたい」という理想はあるんです。でも、自分自身がそういう人ではないし、楽曲の上でならそれができる、変身できるので、そういう意味でもすごく好きな曲になりました。

――まさに、キャラクターを表現するときには出せるけれども、永塚拓馬としては出せなかった表情が、この曲に収められている感じがしますね。

永塚:ありがとうございます。キャラクターとして表現するときに、自分自身って邪魔でしかないんですよね。キャラクターにとっては、声優は存在しないものなので、それを出してしまうと邪魔になってしまう。逆にアーティスト活動は、自分自身を出すしかないので、そういった意味では、違った表現の楽しみ方ができていると思います。キャラクターは作品の世界に存在していて、そこには声優は存在しない。そこをできるだけ排除するのが、声優の仕事だと思っています。

――制作の過程で悩んだり葛藤したこともありましたか?

永塚:全曲、大変ではありました。「この曲はどう表現すればいいんだろう?」と――やっぱり、道しるべがなくて、唯一の道しるべが曲の中にあったので、曲や歌詞が何を表現したいのかを分析して、自分の中で読み取って、新しく作り上げていったので、そういう大変さはありました。

――今のお話だと、聴いたときに5曲それぞれ永塚さんの中で「イメージの種」みたいなものが生まれていたのかな、と想像するんですけども。

永塚:そうですね。“dance with me”に関しては、「一緒に踊ろうよ」という明るい感情が、ぱっと浮かびました。その中でも、ただ「イエーイ、踊ろうぜ!」というのではなく、王子様のようなな人が「踊ろうよ」と言っているような、爽やかに誘っているイメージでした。

2曲目の“Spiral Truth”は、悩んでいる、混乱している、混濁しているイメージが最初に浮かんできました。そのあとで詞を読ませていただいたのですが、歌詞の中でも真実が渦巻いていて、何が正解なのかわからない、だけど一筋の光として君を求めている、というメッセージを読み取りました。主人公は強くない人だと思うのですが、必死に世間の中を戦い抜いて、「君」を求めているイメージです。

3曲目の“ネオンズナイト”は現代的といいますか、楽曲もおしゃれで、少し引いて見ている、まわりを俯瞰して見ているイメージでした。都会の中に入っている感じです。ただ歌詞を読んでみると、実はその都会に馴染めていなくて、まわりの目も気になってしまう、ひとりで生きていきたいとは思っているんだけれども、心の底では自分の声を誰かに聞いてほしいし求めてしまう、という矛盾をはらみつつ、月を眺めているのかな、とイメージしました。

4曲目の“Broken Memories”は全編英語詞で、単純に言ってしまうと失恋の曲なんですが、それを伝えたい曲ではないのかな、と思っていて。どちらかというとメロディーの良さを伝えたい曲なのかなと勝手に解釈して、自分自身が楽器になったつもりで歌わせていただきました。

5曲目の“Do This, Do that”も音楽としての迫力、力強さを伝えたい曲だと思ったので、メロディーラインの持つ力強さだったり、そこから解放されるところの爽やかさを、声色を変えたりしながらいろいろ試して、表現できたらいいな、と感じました。

――なるほど。5曲とも、ご自身の曲へのイメージを見事に言語化されてますね。

永塚:ありがとうございます(笑)。分解しないと、自分が言いたいことが表現できないと思っているんです。それは演技も同じで、しっかり噛み砕いて、自分が理解してからでないと、誰かに伝えることはできないと思っていて。特に、自分自身が作った曲ではなく、作っていただいた曲たちなので、自分の外にあるものを自分のものとして表現しないといけないから、しっかり噛み砕かないと、と思いました。

――自分が理解するまで納得も妥協もしないし、曲の深いところまでつかんでから表現していく。それは音楽活動の指針であり、表現者としての永塚さんのスタンスなんでしょうね。

永塚:そうですね。でないと、聴いてくれる人に対して誠実じゃないと思ってしまうんです。「自分自身で理解していない曲をなんとなく歌って、それを販売するってどうなのかな」って思いますし、CDにしてお客さんに届ける以上は、お仕事なわけですよね。遊びではないし、なんとなくでやっていたら、それは職業として認めてもらえないと思います。もちろん、自分自身が好きなことをやっているのですが、そこできちんと解釈をしているからこそ、ようやく職業として成り立っているのかなって。正直、分析をすることって、あまり楽しい作業ではないんです。でも、楽しいだけでやっていいわけではなくて、表現として昇華するには、大変なことをつらいこともしっかりやらないといけないと思っています。

――永塚さんにとって、「受け取ってもらうこと」は当たり前のことではなく、受け取ってもらうまでに力を尽くさないといけない、という考えが根底にあるんですね。

永塚:はい。高校時代や、市民ミュージカルをやっていた頃は、もちろんファンなんていなかったですし、「観てください」という感じでした。その関係が変わらないように気をつけないといけないと思っていて、お仕事をいただくのも自分がオーディションとかで頑張って勝ち取るものではあるのですが、そのお仕事が成立しているのは、お客さんがチケットやDVDを買ってくださったりする上で、そのお金が巡り巡って自分のところにきていることは、絶対に忘れてはいけないと思います。最初にいるのはお客さんなんだ、ということは、常に忘れないようにしています。

――その考え方は誰かに教わったのではなく、自分で見つけた答えなんですか?

永塚:そうです、常に自分の中であるものですね。

――では、今後ご自身の音楽を受け取ってくれる方、待って入れる方の存在を、永塚さんはどのように感じていますか。

永塚:やっぱり、お客さんがいなければ成立しないんですよね。お客さんがいないところでやっていても、表現として成立しないし、聴き手がいるからこそ表現をする意味があります。だから、なくてはならない存在だと思いますし、お客さんがいることも常に当たり前ではないので、本当にありがたい存在です。CDを出せるのも、僕がステージに立てているのも、お客さんが見てくださっているからこの道ができたわけです。その応援に対して僕が返せるのは表現、歌だったりダンスだったりなので、しっかりとお返しをしていきたいです。

――お客さんに届けるための表現をするためなら、たとえばどんな苦労をしてもかまわない、くらいの覚悟を持っていますか。

永塚:そうですね。声優になろうと決めたときに、ある種割り切りました。世間一般でいう楽しいこと、幸せなことは、ある程度捨てないといけないなと思っていて。声優になる前は公務員として生きていて、突き詰めることがなければ、アフターファイブを楽しみつつ、お芝居をする仲間とみんなで仲良く過ごしていく道も選べたと思います。でも、表現の世界にいきたい想いがあったので、そこは割り切りました。その覚悟がないと、たぶん公務員をやめられなかったと思います (笑)。でも、そういう覚悟をせずにできる職業ではないと思います。

――では、これから本格的に動き出していく音楽活動を通して永塚さんが叶えたい夢、達成したいこと、あるいは楽しみにしてることは何ですか。

永塚:目標としては、僕自身が音楽に救われていたので、誰かにとっての救いの場に僕がなれたら、それはアーティスト冥利に尽きるな、と思います。正直、アーティスト活動によって僕自身の何かを変えられるとは思っていないんです。ただ、聴いてくださっている方の何かを変えることはできるのかな、と思っていて。聴いてくださる方に真摯に向かい合って、その人の救いの一部になれたら、こうして活動している意味があるし、報われるな、と思います。

――声優としてもシンガーとしても永塚さんはどんどん進化していくんだろうな、と思います。この先、どんな表現者になっていきたいですか?

永塚:今おっしゃっていただいた通り、常に成長し続けたいと思っています。完成形を見せることも大事ですが、それより大事なのは、常に成長している姿をお見せすることです。表現者として変化していくのが面白いと思っていますし、観るたびに違うものを感じさせられるような、常に変化し続ける表現者でありたいな、と思います。

取材・文=清水大輔

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