10周年を経て拡張を続ける、表現の幅と新たな可能性――LiSA『往け』インタビュー(前編)

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公開日:2021/10/15

LiSA

 LiSAのソロデビューから、今年で10周年。5月19日に発売された『LADYBUG』のヒット、ミニアルバムの楽曲を引っさげての全国アリーナツアーに続いて届くのが、3ヶ月連続でCD/配信にてリリースされる新曲たちだ。7月から放送されたTBS系火曜ドラマ『プロミス・シンデレラ』の主題歌、『HADASHi NO STEP』(発売中)。10月30日公開の『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』の主題歌、『往け』(10月15日配信リリース)。そして、テレビアニメ「鬼滅の刃」無限列車編のオープニングとエンディングを飾る両A面シングル『明け星 / 白銀』(11月17日発売予定)。10周年を経て、さらにギアを上げて走り続けるLiSAの姿は、本当に頼もしい。多様な作曲者たちと邂逅を果たした『LADYBUG』で、自らの表現の領域と可能性を拡張したLiSAの現在を、2本立てのインタビューでお伝えしたい。前編では、『LADYBUG』で得たものを振り返るとともに、LiSA楽曲史において特殊な存在感を放ち、さらに新たな扉を開くこととなった名曲『HADASHi NO STEP』について、話を聞いた。

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自信を少しつけて、挫けたり、不安になったり、戸惑ったりもしながら、やっぱり進んでいく

――今年は10周年イヤーということで、まずは5月19日にリリースしたミニアルバム『LADYBUG』について振り返りたいです。非常に内容が充実していたし、たくさんの人が受け取ってくれた1枚になったと思うんですけども。

LiSA:10年やってきたからこそ、関わらせてもらえたビッグアーティストの方々に参加していただいて、わたし自身も「ここまで来たんだな」という実感がありましたし、ファンの子たちも同じように、その実感を誇らしく一緒に感じてくれていたのが、印象的でした。『LADYBUG』を掲げてライブを行っていますけど、みんながライブを楽しんでくれた上で、(『LADYBUG』に収録されている)“Letters to ME”を、わたしの10年間とともに受け取ってもらえているような気がします。

――“Letters to ME”がどう届いたと感じたんでしょう。

LiSA:今回、“往け”が主題歌になっている『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』は、“crossing field”を歌わせていただいた《アインクラッド》編よりも前の話になるんですけど、わたしが出会った時点で、アスナはもうすでに強かったんですね。でも今回の《プログレッシブ》編では、その強さに至るまでのお話が描かれていて。それと似ているかもしれないです。今まで見えていなかった“Letters to ME”に至るまでの過程も、アルバムを通してより伝わったような気がしました。

――『LADYBUG』は10年間の感謝の証でもあり、同時にゴールではまったくなくて、まだまだ先に進んでいくという誓い、決意表明のようなものだったのかな、とリリース当時に話を聞いたときに感じたんですけども、半年弱の時間とライブを経て、『LADYBUG』はどんな存在になっていますか。

LiSA:表現の幅を広げてくれたと思います。LiSAの可能性と、表現の幅。もちろん、今までの楽曲もとても素晴らしくて大好きなんですけど、これまで届けられなかったような遊び方、音の伝わり方が、『LADYBUG』の曲たちによって、可能性が広がっている感じがします。

――ちなみに、『LADYBUG』のときに話を聞かせてもらったときに面白かったのが、「イビツなくらいがちょうどいい」という話で(笑)。

LiSA:はい(笑)。

――イビツであることを自分の中で認めた、と。実際、前を見ても後ろを見てもLiSAと同じような存在はいないわけで、その意味ではイビツでもありつつ、そのイビツさはもはやひとつの正義でもあると思うんです。そういう今の自分自身のあり方について、どう感じてるんでしょうか。

LiSA:今、すごく冷静なんです。『LADYBUG』のときはお祭り気分で、ちょっと浮かれていたというか、「10周年だあ!」ってなっていて。もちろん今も10周年なんですけど、自分自身のあり方としては、やっぱり目の前のことを大事にやっていく、出会わせてもらった人に対して一生懸命に注いでいく。その出会いの中で新しい楽しみ方をみんなと探していこうっていう――「さっ、祭りは終わりましたね! 仕事に戻りますか」みたいな(笑)。10周年のお祭りの中で、今までやってきたことを肯定してもらえて、ひとつ「10周年迎えたぞ」のバッジをもらった感覚です。「武道館に行ったぞ」「さいたまスーパーアリーナ行ったぞ」「アリーナツアーしたぞ」とか、いろんなバッジがありましたけど、「10周年を迎えたぞ」のバッジをもらって、また進んでいる感覚ですね。だから、モードとしては、新しいバッジをもらって、自信を少しつけて、挫けたり、不安になったり、戸惑ったりもしながら、やっぱり進んでいくんだなっていう気持ちです。

LiSA

(“HADASHi NO STEP”は)今は直接会える場面が少ない分、曲やMVから受け取ってもらうものが、すごく貴重で大切なものなんだなって実感した曲

――いま話したイビツさというのはまったく悪い意味ではなく、とてもいいことだと思うんですけど、その話とはある意味真逆の衝撃だったのが、“HADASHi NO STEP”だったんです。聴いた人が全員好きになっちゃうんじゃないかっていう、王道のポップスで。LiSA自身はもちろん、作曲した田淵(智也)氏も新しい扉を開いている、ものすごい曲だなあ、と思うし、実際手応えもかなりあったんじゃないかなと。

LiSA:“HADASHi NO STEP”に関しては、10周年で『LADYBUG』を作って、スーパースターの方たちが力を貸してくださったことで広がった枠の中で、また先輩(田淵)と踊りたい、と思いました。先輩に素直に話して、こういうお話のドラマで、「先輩とここに行きたいんです」と。そのためには、いつものイビツさやトゲではなく、スーツを着る感じがいいな、と思って。いつもはジーパンとボロボロのTシャツで、足を上げている先輩ですが、今回だけはちょっとタキシードを着てもらって(笑)。そういう相談をして、先輩が一緒に探してくれた答えが、“HADASHi NO STEP”でした。

大人になると、それこそ余裕……とは違うかもしれないけど、そういう楽しみ方もあるのかなって思います。自分たちの好きな動きやすい服を着て暴れるのとはまた違う、ちょっとお洒落して出掛けてみる楽しさも、わかるようになってきた気がします。それだけをずっとやりたい、そこにずっと住み続けたいという感覚ではないですけど、それが楽しいことだと思える感覚は身についてきました。「それをやれるのって大人だけじゃん?」みたいな(笑)。『LADYBUG』で枠を広げた話でいうと、また違うところに点を置いた感じがします。オセロで全部白にするために、角に置いた感覚です。

――なるほど。そして“HADASHi NO STEP”は、歌詞がとにかく素晴らしい。

LiSA:わたしも、“HADASHi NO STEP”の歌詞はすごく好きなんです。

――それこそ《いびつな旋律も》って言ってるし。

LiSA:確かに(笑)。

――特に印象的だったのは、《私らしくない 趣味も 主義も 思想も 嫉妬も》、ここです。《主義も 思想も》というフレーズは、今までに書いてきたいろんな歌詞の中でも、異質な存在感があるなあ、と。リズミカルに歌えるから「し」で始まる言葉を並べてる、だけではない意図があったんじゃないか、と感じたんです。

LiSA:たぶん、自分が歌詞に書いたときの気持ちに合う言葉を見つけられなかったけど、本当は自分の心の中にあったものがあると思うんです。自分の新しい思想や主義に気づいたり、誰かが自分の言葉として発してくれた気持ちを聞いて、わたし自身の気持ちが解決したりすることが、大人になって多くなりました。たとえば先生が言ってくれたことの中に、子どもの頃には気づけなかった思想や主義があったとして、それに気づいたときに、その人のことをすごく身近に感じたり好きになったりする。自分の気持ちばっかりで生きてきた子どもの頃はわからなかったけど、大人になってから、ある言葉の本当の意味を理解したときに、好きになる。そういうことを意識し始めたような気がします。

――でも実際、シンガー・LiSAには主義も思想も最初からあったんですよね。何も考えずにガムシャラに走ってきたのではなく、最初から行動の指針がはっきりしていたし、だからこそ今この場所に立っていると思うんだけども、それがついにゴロっと言語化されたイメージがあって。

LiSA:なるほど。でも、そうかも。無意識ですけど、『プロミス・シンデレラ』という作品自体が、20代後半の自立した女性の話で。わたし自身も歌詞を書くときに、自分自身が大人であると理解していて――よく使う言葉ですけど、1回憑依して自分として歌詞を書いていったときに、思想とか主義が必要だったし、その言葉が表現として正しいと思ったんです。

――きっかけは作品に呼ばれた、でもそれだけではなくて、深層の部分からアウトプットしたい言葉が出てきた、というか。LiSA史上、屈指の名曲だと思いました。

LiSA:たぶん、今までは「わたし、この曲ちゃんとライブで育てるので、出していいですか」みたいな感覚が強かったと思います。実際、一番花開く場所はライブだと思ってましたし、ライブのことを思って曲を書いて、作って、「最終的にそこでわたしが全員まとめて面倒見るんで、よろしく!」みたいな感じでした。だけど“HADASHi NO STEP”は、それこそちゃんと楽曲を聴いてもらって、今は直接会える場面が少ない分、曲やMVから受け取ってもらうものが、すごく貴重で大切なものなんだなって実感した曲でもあります。そして、そこで届くもの、そこでしか届かないものもあるんだなって思いました。もちろん、ライブで育てていく自信はありますし、みんなと一緒に楽しめる楽曲としても連れていくつもりですけど、それぞれの場所にいても受け取ってもらえる曲のあり方という意味で、よい曲になったな、と思います。

後編へ続く(後編は10月16日配信予定です)

取材・文=清水大輔  写真=中野敬久
スタイリング=久芳俊夫(BEAMS) ヘアメイク=氏家恵子




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