『ソードアート・オンライン』と再びの邂逅。気づき、深めた自身への理解――LiSA『往け』インタビュー(後編)

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公開日:2021/10/16

LiSA

 LiSAのソロデビューから、今年で10周年。5月19日に発売された『LADYBUG』のヒット、ミニアルバムの楽曲を引っさげての全国アリーナツアーに続いて届くのが、3ヶ月連続でCD/配信にてリリースされる新曲たちだ。7月から放送されたTBS系火曜ドラマ『プロミス・シンデレラ』の主題歌、『HADASHi NO STEP』(発売中)。10月30日公開の『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』の主題歌、『往け』(10月15日配信リリース)。そして、テレビアニメ「鬼滅の刃」無限列車編のオープニングとエンディングを飾る両A面シングル『明け星 / 白銀』(11月17日発売予定)。10周年を経て、さらにギアを上げて走り続けるLiSAの姿は、本当に頼もしい。多様な作曲者たちと邂逅を果たした『LADYBUG』で、自らの表現の領域と可能性を拡張したLiSAの現在を、2本立てのインタビューでお伝えしたい。後編では、2012年の<アインクラッド>編の放送から長くともに歩んできた『ソードアート・オンライン』への想いと、“往け”の制作の先に得た気づきについて、語ってもらった。

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不安を振り払うためには、やっぱり目の前のことを一生懸命やっていくしかない

――9月リリースの“HADASHi NO STEP”は、ド真ん中をぶち抜いた最高のポップソングでした。“HADASHi NO STEP”が「新しいLiSA」だとすると、続く“往け”は「非常にLiSAらしい楽曲だな」と感じたんですけども。

LiSA:この曲は、わたし自身の今です。今この瞬間、太陽の下や希望の中にいなくて、晴れやかな気持ちでいなかったとしたら、暗闇から抜け出そうとしている、振り払おうとしている今、だと思います。暗闇にいる、でもその先に光があることを知っている、という。

――その走っている感じというのは、余裕を持った走りではなく必死さを伴うものなんでしょうか。

LiSA:そうですね。余裕を持って走っている、遊びながら楽しんでいる、踊ってる感覚に近い走りではなくて、ちゃんと全力疾走している感じです。

――なぜ今、暗闇を振り払わねばならないのか、全力で走らないといけないのか。

LiSA:自分の中に解決していない気持ちや不安があったり、自分が正しかったと言い切れるところまではまだ行けていないことがあったとして、その決断や気持ちが正しかったんだと、自分を完全に肯定してあげられる日を目指して走っている感じです。

――決断とは?

LiSA:たとえば自分が発した言葉に対して、とかですね。この曲を作っていたのは、それこそ去年“炎”や『LEO-NiNE』が出る前だったんです。まだずっとお家にいて、世の中はどうなっていくんだろう、オンラインライブを計画する、でもライブ自体はどんどんできなくなっている状況でした。それもいつかは明けると思ってはいるけど、それがいつなのかはわからないし、その時点では自分がずっと同じモチベーションで走っていけるのかもわからなかったです。だから、まだ暗闇が明けていない、だけどそこは暗闇やトンネルの始まりではなくて、途中にいたときに書いていたイメージです。

それと、“紅蓮華”という当時想像していた以上に大きな存在になった曲がありつつ、「“炎”と『LEO-NiNE』を作ったけど、大丈夫かな?」みたいな不安も同時にあって。いつか、ずっと先の未来では肯定できると思っていたし、それを素晴らしいものにしていく自信もあるんだけど、そのときがいつ来るかわからない気持ちで作っていたんですね。わたしはすごく心配性なので、この状況がいつ明けるかわからないって考えるうちに、「その間にわたし、歳取っちゃうなあ」って思ったりもしたし(笑)。「今できることってなんだろう?」という焦りがないわけじゃないけど、不安を振り払うためには、やっぱり目の前のことを一生懸命やっていくしかないことも、知ってる。なので、解決していない問題や不安を抱えながら、この状況はいつか明けるかもしれないと思いつつ、走っていた感覚です。

――振り払うために走ってるけど、完全に振り払えることではないから、ある程度引き連れて走っていく部分もあるんでしょうね。

LiSA:はい、そうですね。

――“炎”や『LEO-NiNE』の前となると、実は1年以上経ってはいるけれども、状況が100%改善したわけではない。その意味では、当時感じていた気持ちは今もリアリティがある、というか。

LiSA:そうですね。やっぱり、10周年を迎えてもずっと不安はあります。ライブに来てもらえるのもまだ制限があるし、毎日世の中でもいろんなことがありますし。今までみたいな世界に戻るには時間がかかるだろうし、みんなが音楽に注ぐ気持ちがどうなるのか、自分自身の未来はどうなのか、考えますね。

LiSA

『ソードアート・オンライン』は、わたしにとって家族だったんだなって

――アニメ『ソードアート・オンライン』の主題歌を担当するのは何度目か、という話ですが、“crossing field”に始まり、“シルシ”“No More Time Machine”に、“ADAMAS”“unlasting”。ゲーム版では“Thrill, Risk, Heartless”、劇場版の主題歌を担当した“Catch the Moment”も、LiSAの歴史において重要な位置を占めるようになった楽曲ですよね。まずは、再び『ソードアート・オンライン』の劇場版の楽曲を担うことになって、どんな気持ちが湧きあがってきたのか、を聞かせてもらいたいです。

LiSA:今回のお話は、やっぱりわたしにとってもすごく光栄でした。10年前、『ソードアート・オンライン』に関わらせてもらうようになったのが“crossing field”で、劇場版はその前の話ということもあり、始まりへとつながる「本当の始まり」を一緒に作らせてもらえるのは、とても光栄なことです。

――『ソードアート・オンライン』の楽曲の話をすると、関わり方や位置関係が徐々に変遷していってるじゃないですか。“crossing~”や“シルシ”は「関わらせてもらう」的な立ち位置で、“Catch~”のときには横に並んで一緒に作っていく感じ。で、“ADAMAS”は作品を引っ張る存在になり、“unlasting”ではついに先輩になっちゃった、みたいな(笑)。

LiSA:OBでしたね(笑)。そこからさらに、ちょっと血縁関係に変わってきて、今回思ったのは家族です。『ソードアート・オンライン』は、わたしにとって家族だったんだなって思いました。その中で、自分は歌部門の長女として、いろんな関わり方をさせてもらってきたけど、今回は長女としての役割なのかなって。家族の中のみんなを見守る役割というか。この間、松岡(禎丞・キリト役)さんと戸松(遥・アスナ役)さんと会ってお話したり、実際に今回の劇場版『プログレッシブ』で松岡さんと戸松さんの演技を観たときに、昔にタイムスリップしたような気持ちになったんです。物語もそうですけど、《アインクラッド》編の当時の自分の感覚とはまた違って、帰ってきたような感覚になったんです。家族のところに帰ってきたような感じでした。

――その関係は、もはや他人ではない、と。

LiSA:はい。それこそアスナが強くなった理由とか、気持ち的な変化を描く上で、家族だからこそ話してもらえたような感覚がありました。

――これまで『ソードアート・オンライン』の楽曲でアスナに気持ちを寄せて歌詞を書いたことはないですよね。

LiSA:そうですね、なかったです。

――作詞についてよく話してくれるのが、「1回憑依させて、LiSA自身として書く」というパターンがあるけど、自分にアスナを1回通してみて、どんな感覚があったんでしょうか。

LiSA:アスナも最初っから強かったわけじゃないんだなって思っていて。わたしが知ってる《アインクラッド》編のアスナは、最初からツンケンしてて強かった。でも、それこそ《マザーズ・ロザリオ》編では、家族とちょっとこじれている部分や、自分の中の本当の気持ちを少しずつ見せてくれて、今回の『プログレッシブ』では、アスナにとってキリトくんがどんな存在だったのか、ということも、描かれているんですね。人に出会って強くなれた。その人と一緒に生きたい、この人みたいになりたい、この人と一緒に上を目指したい――と思ったアスナの感覚は、希望を見つけたわたしと同じだなって思いました。

――アスナは《アインクラッド》編の時点では強い剣士だけど、『プログレッシブ』とリンクする“往け”の歌詞を読むときに、一回アスナを通した前提だと考えると、めちゃくちゃ弱い存在でもあるな、という印象があって。それは過去のLiSAのマインドと通じるものがあるからこそ書ける言葉でもあるんですかね。

LiSA:「往け」という言葉にも通ずるけど、ほんとはこういう気持ちをずっと持っていたけど、当時のわたしは言葉にはできなかったんですね。だけど、ちゃんとここまで走ってこられたから、改めてここに帰ってきたときに、この歌詞に書いている気持ちの本当の理由を、自分で素直に表現できた気がします。自分で自分を理解したような気がする、というか。で、その弱い気持ちが、自分の中でなくなったわけではないんです。そういう気持ちと一緒に、上手く生きていくことができるようになってきたのが、今なんだと思います。

――なるほど。ちなみに、“往け”には“HADASHi NO STEP”と同様に、《悪くない》という歌詞が出てくるんですよね。書いた時期は違うとはいえ、この言葉キーワード、マイブームなのかな?と(笑)。

LiSA:ほんとですね(笑)。

――しかも、“往け”では印象的に使われているフレーズだなと。この言葉を選択した気持ちの背景を知りたいな、と聴きながら思いました。

LiSA:今思ったんですけど、たぶん大人になるにつれて自分を認められるようになって――走り始めた頃は、できない自分・期待に応えられない自分を認めたくない、できないことを隠すためにどんな努力をしたらいいか、どこまで頑張れるのか、を考えてました。でも、自分はもうそういう性質で、その考え方と一緒に生きていかないといけない、上手くやっていくしかないんだって思うようになって。で、そのことを認めるための言葉が、きっと「悪くない」だったんだと思います。自分の性質を肯定するとか、棚に上げてそれのせいにして生きていく、ということではなく――。

――見ない振りをするわけでもなく。

LiSA:うん。「悪くない」って、そういう状況や自分を、少し認めてあげる。だから「悪くない」って言葉を使ってるのかもって思います。

――10年を振り返ると、「best day, best way」という曲も、LiSA楽曲の中で大きな存在感を放ってきたわけで、「ベスト」というワードを繰り返し言ってきたからこそ、ここにきて「悪くない」っていう歌詞は刺さるなあ、と思うわけです。

LiSA:はい(笑)。

――「best day, best way」は、ある種自分に言い聞かせる側面もあったかもしれないし、もちろん本気でそう思っている部分もあっただろうし、「そうであれ」という願望だったこともあるかもしれない。それを経て「悪くない」って深いなと(笑)。

LiSA:(笑)最初に必死に走っているのかを聞かれたときに、「必死には走っているけど、泣きながらガムシャラに走っている感じではないな」と思ったんです。余裕があるわけではないけど、自分自身のイヤなところや不安を振り払おうと無我夢中で走ってるわけではなく、それを抱えていても光の中にたどり着けるんだ!って思いながら走っている感じ。「ワ~ン!」ではなく、「ホロッ」です――伝わりますか?(笑)。

――(笑)ちょっと泣いてる?

LiSA:そうそう(笑)。ザーッて涙が流れてるんじゃなくて、ホロッてくる、ポチポチ流れてる感じです。

――そして今回は、作曲がYOASOBIのコンポーザーでも活躍しているAyaseさんということで。

LiSA:今回の“往け”で気持ちを歌うのに、旋律として浮かんできたのがAyaseさんでした。アスナの物語で、女性らしい切なさと、芯のある強さを持ち合わせているのはAyaseさんの曲だなって。自分が出会った人で、いつか一緒にやりたいと思っている人たちの中で、Ayaseさんかなって思いました。

――「LiSA発信」だったと。

LiSA:そうです。これに関しては、いつもそうかもしれないです。先輩(田淵智也)にお願いするときも、そう。誰と行きたいか、誰と作りたいか、です。

――『ソードアート・オンライン』との歩みはもうすぐ10年になるわけですけど、位置関係は変わりながらもともに進んできて、『ソードアート・オンライン』が終わってない以上、この先も何かしらの形でLiSAと『ソードアート・オンライン』の道は続いていくのかなって思います。改めて、『ソードアート・オンライン』という作品に対して伝えたいことは何でしょう。

LiSA:好きに暴れてください、です。何があっても、たぶん『ソードアート・オンライン』とはずっと一緒にいられるような気がします。わたしもずっと一緒にいるんで、暴れてください(笑)。

LiSAインタビュー前編はこちら

取材・文=清水大輔  写真=中野敬久
スタイリング=久芳俊夫(BEAMS) ヘアメイク=氏家恵子

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