注目のミステリーを、視覚からも楽しむ――「さあ、どんでん返しだ。」漫画家・石江八インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2021/10/18

さあ、どんでん返しだ。
イラスト:石江八

 五十嵐律人、三津田信三、潮谷験、似鳥鶏、周木律、麻耶雄嵩、東川篤哉、真下みこと。8人の小説家による多彩なミステリー作品が連続刊行中の「さあ、どんでん返しだ。」(講談社)は、ミステリーを愛する読者にとって、必見のフェアである。この「さあ、どんでん返しだ。」キャンペーンのポスタービジュアルを担当しているのが、漫画家の石江八さん。冒頭に掲載した小説家8人のイラストが入るビジュアルだけでなく、8作品それぞれ登場人物×作家のテーマで描いたという個別のポスターも、小説の世界が視覚化されており、面白い。「さあ、どんでん返しだ。」への参加の経緯から、ビジュアルに込めた意図など、石江さんにメールインタビューを試みました。

(取材・文=朝宮運河)


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――「さあ、どんでん返しだ。」キャンペーンのオファーを受けて、最初にどんな感想をお持ちになりましたか。

石江八さん(以下、石江):「よくわからないな…」と、依頼内容に正直あまりピンときていませんでした。

 お電話にて詳細をお聞きしたところ、今までにやったことのないキャンペーンとのことだったので、「それはやってみないとわからないな!」と、新しいものやことが好きなので食いついた感じです。

――石江さんは日常的に読書をされますか? 普段からミステリー小説をお読みになったりすることはあるのでしょうか。

石江:本職が漫画家なので、資料としてたまに学術書や専門書を読むことはあるのですが、最近は小説のほうに手を伸ばすことがあまりなく…。でも、飛行機での移動が多かった時期は、搭乗前に本屋に寄って小説を買ったりしてました。その時は、ミステリーを選ぶことが多かったですね。

 最近は映画やドラマ、ゲーム実況などの映像系を観ることが多いのですが、思い返すと、10代の頃や20代前半までは、ミステリー含む小説をたまにではありますが今よりは確実に読んでいたなぁと、少し反省しました…。

――ミステリー小説の中で、お好きな作家・作品などをいくつか教えてください。

石江:うーん、ミステリーというよりはバトルものかもしれないんですが、中学生の時に西尾維新さんの戯言シリーズを夢中で読んでいたのを覚えています。ファンアートを描くくらいハマってました。

――メインのポスター(冒頭に掲載)についてうかがいます。全体にクールな印象のポスターですが、制作にあたって気をつけた点、工夫した点を教えてください。

石江:ラフの段階では、それぞれの作家さんに合わせた細かな背景を入れるつもりだったんです。だけどそれだと、ただでさえ主役が8人いて目が定まらないのに、ここに文字が入ることまで想定するとさらに全体的にごちゃついてしまうかなと思い、背景をああいった幾何学模様的なものに変更して、人物だけに注目できるようにしました。

――作家さん8名をさまざまな角度から描いた構図もかっこいいですね。このような構図を採用された理由は?

石江:「どんでん返し」というコンセプトをどう表現しようかなと考えた時に、普通の集合絵というか、同じ空間を8名の作家さんが共有しているだけだと、リレー小説か何かの企画ポスターみたいになってしまいそうだなと思ったので、同じ時代を生きながらも個々にまったく違う世界観を持っていて、それを繋いでいるのがミステリー…のようなイメージを背景に。

 また、どんでん返しってどの角度から攻めてくるかわからないので、作家さんの配置は上下左右バラバラにしてみました。視点の違いみたいなものも表現できてたらいいなと思っています。

――人気作家の皆さんをイラスト化するにあたって、どんな点を重視されましたか。

石江:作品別ポスターで各作品の主人公と対峙するのを考慮して、「リアルに近い似顔絵」にならないように気をつけました。各作品の主人公たちがこちらの現実世界に来るのではなく、作家さんたちが作品世界に身を投じている、赴いているイメージです。また、顔出しされていない作家さんもいらっしゃいましたので、それぞれの作家さんをキャラクター化したほうがしっくりくるかなと。

――皆さんが共通して手にしている黒い表紙の本が気になります。あれは何でしょうか?

石江:あれは…、そうですね、できれば今回のキャンペーンの対象となっている本を手にしているように描けたらポスターとしてはわかりやすかったんですが、メインポスターのイラストを描いていた時はまだ、当然ですが各作品の書影が出ていなかったので、そちらの質問のように「あれは何だろう?」と考えてしまうような「謎の本」にしてもいいのかな、ミステリーにおいての謎解きの過程っぽいかなと思い、黒く塗りつぶされた表紙の本にしました。

――メインのポスターで石江さんが「ここが見所!」というポイントがありましたら教えてください。

石江:上下左右、どこからどう見てもイラストとして成り立つ構図になっているので、くるくる回して自分の好きな角度を見つけていただくのも面白いと思います。

――作品それぞれのポスターについてもうかがいます。『原因において自由な物語』は作者・五十嵐律人さんのノートパソコンに、登場人物がコーヒーをかけているというインパクトのあるイラストです。このアイデアはどのように浮かんできたものですか。

石江:(主人公である)二階堂紡季には誰にも言えない秘密があった、とあらすじにあったので、その秘密を知らないわけがない絶対的な存在である五十嵐さんが目の前にいたら、相当苛立つのではないかなと。お互いに作家で、目の前にいる相手が自分の知られたくないことを書いてると知ったら、コーヒーくらいかけちゃってもしょうがないですよね。

原因において自由な物語
イラスト:石江八

――三津田信三さんの『忌名の如き贄るもの』では、『原因において自由な物語』とは、がらっとタッチを変えておられますね。作品のテイストに合わせて変化をつけておられるのでしょうか。

石江:そうですね。ジャパニーズホラー的な要素を含ませました。作品の時代背景も考慮しています。三津田さんと(主人公の探偵)刀城言耶も互いに作家ですが、こちらは対決ではなく、共作しているイメージでしょうか。描いていた当時の感覚を思い返すと、この共作のイメージはシリーズものだからかなと、今ふと思いました。

忌名の如き贄るもの
イラスト:石江八

――潮谷験さんの『時空犯』は、タイムリープものの世界観をこうやってイラストに落とし込むのか! と新鮮な驚きがありました。同じキャラクターを並べるという構図は石江さんのアイデアですか。

石江:はい。少し漫画的な表現にしてみました。タイムリープって、同じ場面を何度も見るわけじゃないですか。だったら似たような絵を並べちゃえって、単純な発想ではあるんですが一番効果的かなと思い、ああいう構図にしました。

時空犯
イラスト:石江八

――『推理大戦』では作者・似鳥鶏さんと4人のキャラクターが同じテーブルについています。どのポスターも作家さんの紛れ込ませ方が絶妙ですが、重視されている点、工夫されている点はどんなところでしょうか。

石江:先にも話したんですが、作家さんたちが作品世界に赴いているイメージで、一時的だけど同じ世界線にいるわけですから、どちらかが浮かないようにする、という点でしょうか。ミステリー作家さん自身も、ある種名探偵のようですよね。かっこいいです。

推理大戦
イラスト:石江八

――ほか4作品のポスターも作品のテイストや世界観を見事に表現されていますね! 最後に、「さあ、どんでん返しだ。」キャンペーンに注目しているミステリーファンの読者へ、メッセージをお願いいたします。

楽園のアダム
イラスト:石江八

メルカトル悪人狩り
イラスト:石江八

居酒屋「一服亭」の四季
イラスト:石江八

あさひは失敗しない
イラスト:石江八

石江:キャンペーンの内容も大事ではありますが、こういったキャンペーンを催すことで界隈を盛り上げようと企画して行動する編集部の皆さんのその熱意は、ミステリーへの愛情からきているものだと思います。そしてその愛情は、読者の皆さんにまっすぐ向けられています。ミステリーが好きな方も、これから足を踏み入れる方も、みんなで楽しめるきっかけになれば嬉しいです!

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