「ネガティブ面全開なので、絶対に明るい場所で読んでください」――山田孝之の初詩集、刊行記念インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2021/10/20

山田孝之

 俳優・山田孝之さんが、雑誌『+act.(プラスアクト)』で13年にわたり綴ってきた、みずから“腐れポエム”と呼ぶ言葉の数々がついに1冊にまとまり、書籍化! 全編を朗読した特別CDも付録した『心に憧れた頭の男』にこめた想いとは?

取材・文=立花もも 写真=北島明(SPUTNIK)


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――『心に憧れた頭の男』は、前作『実録山田』とはまるでテイストが違うので、読んで驚かれた方も多いんじゃないかと思います。ご自身では“腐れポエム”とあとがきで書いていましたが……。

山田 ポエムというか、まあ、あんまりこれが詩だとも実は思っていないんですけどね。

――そうなんですか?

山田 もちろん意識的に詩として書いたものもありますけど、形式は関係なく、自分の感じたままを書こうとしたらそうなった、というものもたくさんあるので。そもそも、つきつめて考えると「何をもって詩というのか?」「どういう形式ならポエムなのか?」も、僕はあんまりよくわかっていないし、決めたくない。もっというと、この本に限らず、何に対しても決めつけたくないんですよ。自分がどういう人間か、も含めて、答えを出したくない。

――この本でも、読み手に問いかけてくるような作品が多いですよね。あと、他人の基準でジャッジされることや“自分”を決めつけられることへの抵抗や虚しさ、もありながら、同時に諦めて受け入れているような感じがありました。

山田 基本的に、“自分”なんてものはないと思っているんですよ。仕事柄、ないほうがいいというのもあるんですけど、俳優という仕事についていなくたって同じで、そんなものはなくていい。だって、私はこういう人間だ!ってどれだけ主張しても、目の前に人が3人いれば全員、違う捉え方をするでしょう? 誰からも好かれる善人だって嫌いになる人はいるし、極悪人にだって信じてついてきてくれる人はいる。何事も勝つ人がいれば負ける人もいて、笑っている人の裏には泣いている人もいる。表裏一体だなって思いますね。

――それもあとがきに書かれていた「50/50」ってことですよね。〈50/50のバランスが基本なので、生にもしがみついていないし、死も恐れてはいない。どっちにも向かっていない感覚なのだ〉と。

山田 そうですね。僕の右側と左側には常に、ポジティブとネガティブがあって。どちらも決して、真正面に持ってきちゃいけないと思っているんです。向きあいすぎちゃいけない。常に両半面でバランスよく置かれている、くらいがいい。だって、いやじゃないですか? 常にポジティブを真正面において押し出してくる人。何を言っても「なんでそんな暗いこと考えるんですか? とにかく楽しみましょうよ!」とか「つらいことなんて全部忘れて今を楽しみましょう!」って返してくるみたいな……。全部ネガティブに変換されるのと同じくらい、面倒でしょう。

――たしかに(笑)。

山田 だから基本的に僕は50/50、向き合いすぎないことをベースにしています。「死」もね、必死で築いてきたものが無に帰してしまうという意味ではネガティブだけど、もうこれ以上頑張らなくていい解放という意味ではポジティブでもある。人生、仕事が楽しいときもあれば素敵な人との出会いもある一方で、絶望するような出来事も起きれば、嫌な人とも出会ってしまう。どちらがいいとか悪いではなく、まんなかを探って生きていくしかないんじゃないのかな、っていう感覚でいる僕が、感じたままに書いたことをぽん、と皆さんの前に置いてみたのが今回の本……なんですが、テイストとしてはめちゃくちゃネガティブに偏っていますよね。

――白黒のデザインも、どことなくダウナーですね。

山田 『実録山田』がポジティブだったんで。あっちは、とにかく読みづらくて変な本をつくろうって思ったんですよ。目次からしてふざけてました。それぞれの章に所要時間って書いてあるんですけど、あれ、統計とったわけじゃないですからね。担当編集者に読んでもらった時間をはかっただけ。超個人的な目安。読み終わったとき、壁に投げつけたくなる本になったらいいなと思って書いてました。『心に憧れた頭の男』はその逆をいった、ネガティブ寄り。

――〈日曜日、家族がきゃっきゃしている公園で、この本を開くことをお勧めしたい〉と。

山田 あるライターさんは、夜にひとりで酒を飲みながら読んだらしいんですけど、そうしたらとことんダウナーな気分に引っ張られたって言ってました。そりゃ、そうなりますよ。作品のテイストがそうなんだから。50/50を保つために、絵に描いたようなポジティブな環境で読むことをおすすめします。

――でも、ご自身で書くときはかなりネガティブ寄りな思考になってしまっていたんじゃないですか?

山田 まあ、そうですね。だからしんどかったですけど、二十四時間、作品に向きあっていたわけでもないんで。逆に、ふだん横にスライドさせて向きあわないようにしている感情に、書くとき限定で向き合ってみるのは、大切な時間でもありました。

――どんなふうに向きあうんですか?

山田 なんでしょうね。iPhoneのメモ機能で書くのはずっと一緒でしたけど、シチュエーションはいろいろですよ。それこそ酒飲みながらのときもあれば、仕事の隙間時間を縫って書いたこともあったし……。まあでも、いつも書きだすまでの10分から15分はぼうっとしていましたね。僕たちのまわりって、常に自分以外のモノがたくさん動いてるじゃないですか。人の往来があって、車が走っていて、電光パネルになにかが映ってて。それは全部、人間が動かしているものなんだけど、いろんなものを手放してぼうっとしていると、人間が動かしていないモノの存在に気づくんです。

――人間が動かしていないモノ?

山田 風が吹いていたり、雲がいつもより速いスピードで動いていたり、その隙間から太陽の光が差し込んでいたり。そういう自然の動きみたいなものに意識を向けていると、自分の毛穴からじとっと汗が吹き出し始めていることにも気づく。瞑想している状態と似ているのかな。そうすると、ふだん見ている景色の“先”に行けるというか……「ああ、自分はこの地球上にたまたま存在している生命体の一つに過ぎないんだな」って、俯瞰して感じられるようになるんです。作品のなかでときどき“人類”とか“人々”って言葉を使ってますけど、僕もそのなかのひとつに過ぎない、って気持ちが常にあるんですよね。逆に“ボク”って一人称で書いていることが、僕自身のこととは限らない。読み手のあなたが“ボク”だとしたら、僕も世界に存在している無数の“人々”の一人だよねっていう。

心に憧れた頭の男
『無に全て』

心に憧れた頭の男

心に憧れた頭の男

心に憧れた頭の男

――〈君はいつだって世界の神だ この世界には70億もの神が存在する〉って文章が印象的だったんですけど、俯瞰的な視点をもつからこそ、自分は自分の信じるものを信じていればいいんだ、みたいなところにもたどりつくんでしょうか。

山田 地球の外に自分の視点を置いてみると、その表面には判別できないほど小さな命がわちゃわちゃ動いてるわけじゃないですか。その一つひとつに気を遣うのってそんなに重要なことか?とは思いますよね(笑)。みんな必死に生きてて、それだけで充分じゃんって。これをやったらあの人が文句を言うかもしれない、嫌われちゃうかもしれない、とかふだんみんな気にしているけど、もういいよ、全部いらない、好きにやりなよ、って。

――表現のテイストはネガティブですが、こめられているメッセージはポジティブですよね。

山田 「こう感じてほしい」みたいなのは特にないです。この本は13年かけて書いたものが1冊になってるわけですけど、その時々で僕の状態もちがいますし。「こういうことってあるよねえ。どう思う?」くらいのラフな感じだけど、その返事を別に僕に返してくれなくてもいいんです。「ああ、そうだなあ、自分はこう思うなあ」というように、その人がいつもよりちょっと引いた広い視野で、自分や世の中を振り返ってみるきっかけに、一瞬でもなってくれたらいいなと思います。

――鏡写しに文章を反転させたり、白黒で対比をつけたり、デザインに凝ったのも、「どう思う?」という問いかけの一つなんでしょうか。

山田 まあ、こういう本を出すと、文章のすべてが“山田孝之が考えていること”として受け取られがちじゃないですか。もちろん、そういうものもあるんだけど、実際は感じていることの真逆を文章にしていることもあるし、思ってもいないようなことを書き綴っているときもある。だから、反転させたんですよね。何が本当かわからないよ、って意味もこめて。でもだんだん、文字が多すぎていやになってきたので、もっと簡潔に伝えるにはどうすればいいだろう?と考えて、対比的な二文だけでずばっと言い切るような形にしてみたり、象徴的な一文字を大きく印刷してみたり……したんですけど、それじゃやっぱり言葉が足りないな、もう少しわかりやすく言わないと不親切だな、と思ったので、また文字を増やすようになりました。あとは、視覚的な効果を一切与えず、言葉だけで直接語り掛けるにはどうしたらいいかな、と黒一色のページをつくってみたり……。

――逆に、白いシンプルなページを挟みこんでみたり。

山田 いろいろ、試行錯誤しています。一貫して言いたかったのは、技法がネガティブだからといってそこに置かれている言葉もネガティブとは限らないよ、ってこと。黒いものって闇のイメージがあるからよくないものとして描かれがちだけど、実際のところどうかはわからない。あなたが読んで「ああ、山田さんってこんなこと考えてるんだ」って感じたとしても、それはあなた自身がイメージしている僕であって本当の僕ではない。逆にあなたが「自分はこうだ」「世の中はこうだ」って決めつけていることも、本当はどうかなっていう……いろんな対比を通じて投げているって感じです。

――ご自身で朗読したCDも付属されていますが。

山田 いや、しんどかったですね(笑)。13年かけて、一瞬一瞬で向き合っていたものに、3時間くらいぶっ通しで取り組まなきゃいけなかったんで。僕がしんどくなるってことは聴いている人はもっとしんどいかもしれない、と思って、あんまり気持ちをこめすぎないよう、フラットに吹き込むようにしました。一気に全部聴くのも、聴きながら読むのも、おすすめしません。最初に言ったように、とにかく環境はポジティブに整えて、明るい場所で読んでください。

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