森山未來「学術的な視点から精神性に響く。僕はそういうふうに世界を見たい」

あの人と本の話 and more

公開日:2021/11/20

NOAさん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、森山未來さん。

(取材・文=河村道子 写真=西村 康)

気が付けば今年、関わった作品も自身が創ったものも、生と死の端境を扱った作品で溢れていたという。

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「そんななか、“次、これですよ”と人から貰ったのがこの本でした。最近、サスティナブルという言葉が流行っているけど、本当のところのそれを考えなければと思っていた頃でした」

消費されたものは再び生産へ変化していく。それを陰で担っているのが分解であり発酵、腐敗。

「分解者というものが、どこの立ち位置にあるのかということが考察されている。生態学的なところのそれについてはもちろん、掃除のおじさんが家庭ゴミを組み立て直し続けた話、帝国の形態とその腐敗、フレーベルの積み木の哲学など、様々な観点から“分解、腐敗とはどういうことなのか”ということを取りあげているのが、魅力的だと思いました」

本書の語る“分解”は、古くは宗教、現在は科学に光を見出し、“死”というものから距離を取ろうとしてきた人間の発想も紐解き、昇華していく。

「僕たちの思想のなかで科学が精神的な支柱として存在している現在、学術的な視点を持ちながらも精神的なものに対してすごく当たってくる。“そういうふうにして世界を見たい”と感じさせてくれる一冊でした」

21歳から46歳までを演じた映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』も、誰かに出会うことで自分の人生が作られ、それが次へと繋がり、記憶と思いの分解と再生が起こる。

「原作や台本に書かれているエモーショナルな言葉に引っ張られ過ぎたくはなくて。佐藤を演じるなか、淡々としていたい、という思いがありました。彼はその場、その場で一生懸命に生きているだけなのだから。けれどそんな自分と、佐藤が人と出会っていく行為、そこで自然に立ちあがる感情、それを、25年を経て、彼が見たときの美化、客観性、自分がそれをなぜノスタルジーだと思っているのか、みたいなことを1カ月半ぐらいの撮影の間で全て経験した結果、感情がぐちゃぐちゃになりました」

その“ぐちゃぐちゃ”と観客は同化してしまう。見終わった後に囚われるのは言葉にならない感情。

「タイトルの言葉について、皆さんに訊いてみたいんです。佐藤が20代を過ごした90年代より、社会的な制限や規制のずっと多い今、“大人”というものはどう響いているのか。この映画を観て、大人というものに対し、どんなイメージを持つのか。すべての世代に訊ねてみたい」

ヘアメイク:須賀元子 スタイリスト:杉山まゆみ 衣装協力:コート4万9500円、シャツ2万6400円(全てJUN OKAMOTO TEL03-6455-3466)

もりやま・みらい●1984年、兵庫県生まれ。ダンス、演劇、映像などカテゴライズに縛られない表現者として活動。出演作に映画『怒り』『アンダードッグ』、舞台『なむはむだはむ』『未練の幽霊と怪物』、演出作品として清水寺奉納バフォーマンス『Re:Incanation』など多数。待機作に劇場アニメーション『犬王』。

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映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』

映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』

原作:燃え殻(『ボクたちはみんな大人になれなかった』新潮文庫) 監督:森 義仁 出演:森山未來、伊藤沙莉ほか 劇場公開中&NETFLIX配信中
●彼女(伊藤沙莉)の言葉に支えられ、がむしゃらに働く佐藤(森山未來)。だが1999年、彼女は去っていった。彼の前に現れては消えていく人々。2020年、46歳の佐藤が思い出す“あの頃”。25年を彩るカルチャーと“忘れられない恋”が胸に迫る!
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