想いをともにする作曲家と、一緒にたどり着いた境地――LiSA『明け星 / 白銀』インタビュー(前編)

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更新日:2021/11/22

LiSA

 LiSAの通算20枚目となる最新シングルにして、3ヶ月連続リリースのラストを飾る『明け星 / 白銀』。LiSA再びとなる『鬼滅の刃』の主題歌であり、テレビアニメ「鬼滅の刃」無限列車編のオープニングとエンディングを担っている、両A面シングルだ。今さら説明するまでもなく、“紅蓮華”と“炎”は我々聴き手のエモーションを揺さぶりまくったわけだが、大きな期待を背負って届けられた“明け星”と“白銀”もまた、シンガー・LiSAの真髄が存分に発揮された、会心の一発である。“from the edge”“炎”で制作をともにしてきた作曲家・梶浦由記によるクリエイションと、LiSA自身の進化を印象づける「対応力」が融合し、見事に結実している2曲について、ダ・ヴィンチニュースでは今回も2本立てのインタビューで、LiSAの最新モードに迫ってみたい。前編では、『明け星 / 白銀』の制作過程について、詳しく話を聞かせてもらった。

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梶浦さんと一緒なら、より高いところを目指せる気がしていた

――『明け星 / 白銀』は3ヶ月連続リリースの最後となるシングルですが、両A面の2曲を聴いた印象としては、とにかく音楽として気持ちがいいな、と。無限に聴いちゃいました。

LiSA:嬉しいです。

――「おっ」と引っかかりを感じるフックがいろいろあって、聴いてるうちにどんどん馴染んでいき、気づいたらとんでもない回数聴いてた感覚です。

LiSA:その感じ、すごくわかります。わたしも作らせてもらう段階で、フックになるメロディも、自分が表現したいこともいっぱいあって、面白い楽曲だなって思いました。歌えば歌うほど自分の表現が広がっていくし、できるだけいろいろなものをこの曲に詰め込みたいと思って、レコーディングにも気合が入ったし、ワクワクしながらいろんなプランを持っていきました。1ブロックずつ違う世界を見せてくれる楽曲だし、好きだなと思うところがいっぱいあるから、何回も聴きたくなるし、耳が離せない曲だと思います。

――聴いた人が喜ぶ姿がイメージできるし、スケールが大きくて懐も深い曲ですね。自身としても、相当手応えがあった曲なんだろうな、と。

LiSA:そうですね。梶浦さんに委ねてみて、素直に楽しませてもらった感覚です。謎解きというか、音符や楽曲や言葉、いろんなものを自分なりに紐解きながら作っていった感じがしています。

――今回は、作詞作曲ともに梶浦さんが手掛けていて、作詞・作曲にLiSA自身がクレジットされてないシングルはけっこう久しぶりな気がするんですけども。“明け星”と“白銀”がこの布陣になったのは、どういう経緯があったんでしょう。

LiSA:シンプルに、“紅蓮華”と“炎”にLiSAとしての言葉を全部詰め込んだような気持ちがありました。だから、テレビアニメで「無限列車編」をやります、と聞いたときに、どんなオープニング、エンディングを作るべきか、簡単には想像できなかったところはありました。その一方で、梶浦さんと新しい音楽を作れることに対しては、すごくワクワクしていて。梶浦さんと「無限列車編」の楽曲を作るなら、梶浦さんが持つシンフォシニックな部分や和の感じと、わたしが持つ鋭さやロックな要素を一緒にできるといいな、と思いました。梶浦さんとなら、一緒により高いところを目指せる気がしていたんです。

――アニメ『鬼滅の刃』関連楽曲の歌詞は、“紅蓮華”は自身で歌詞を書いていて、“炎”は梶浦さんと共作だった。だけど今回は、歌詞も曲も梶浦さんにお預けしてみたい、と。

LiSA:はい。すべてをお任せする心持ちだったけど、梶浦さんは梶浦さんで、いつも「何かあればいくらでも言ってください」というスタンスでいてくださるんです。だけど今回は、いただいた曲が素晴らしかったから、いただいた状態のままで歌いたい、と思いました。「無限列車編」を意識された工夫が曲の中にたくさんあったし、梶浦さんが書いてくれるわたしとは違った場所から表現する希望――わたしは希望をそのまま希望としてとらえるけど、梶浦さんは希望という言葉を裏表から見ていて、そのままひとつの言葉の意味だけでとらえていらっしゃらないんですね。“炎”を制作したときも、歌詞は悲しみを発散してくれる、悲しみに寄り添ってくれる楽曲として完成していたものだったけど、わたしが歌う上で、『鬼滅の刃』の物語から感じた希望を乗せたくて、そういう歌詞をわたしからも書き加えさせてもらって。

――梶浦さんが見ている、別の方向からの希望という言葉のうちにあるものは、何を指すんでしょう。

LiSA:人の気持ち、でしょうか。人からの期待や託されたもの、自分の使命、とかですね。梶浦さんともお話ししたんですけど、わたし自身は託されたものを希望だと思って走っているし、みんなのために歌いたい、みんなに喜んでほしいって思っているけど、逆に「みんながいてくれるから頑張らなきゃ」「いい子でいなきゃ」と思うことって、自分がそうじゃないのにそうであろうとする、という意味では、「希望という言葉の別の顔」ともとらえられるな、ということですね。そんな考え方や想いを、梶浦さんは“明け星”にも込められていると感じています。

歌詞に関しては、たとえば《車輪(くるま)》という表現もそうだし、物語に寄り添っていて――「くるま」と聞いて想像するものは、「無限列車編」を観ている人は列車の車輪だと思うかもしれないし、鉄の塊だと思うかもしれないし、シンプルに「車」だと思う人もいるかもしれないし。わたしとしては、走っている自分の車は足なので、自分の足を想像しました。そうやって、いろいろな解釈ができる言葉がたくさんある歌詞です。その中でも好きなのが《どうしても指して動かないから》というフレーズで、ここにはグッと来ました。梶浦さんとわたしの「希望」の表現の違いがどちらも込められている、どちらにも解釈できる言葉だと思います。

――最近のLiSA楽曲の主な制作工程として、まず作品があって、一度作品や登場人物をLiSA自身に通したあとに、LiSAとして言葉を書いていく作詞のフローが確立していたじゃないですか。そういう意味では、一度自分に通してない歌詞へのアプローチ方法が気になってたんですけど、その《どうしても指して動かないから》がポイントになっていた、ということですか。

LiSA:そうですね。あと、《僕らは光を祈る手のひらで》も好きです。同じ“手”という言葉ひとつでも、叩くのも包むのも、表現を自分自身で変えられたりしますよね。梶浦さんとご一緒させていただいて、すごく誠実な方だなと思ったのと同時に、魂の色が近い方なんじゃないかな、と思ったんです。梶浦さん自身が作品に向かう姿勢だったり、尊敬する部分や好きなところがいっぱいあります。同じものを指すときに違う言葉を選んでいたとして、魂の色は一緒のような気がしていて。梶浦さんの表現を見て、素直にすごいなって思うのは、きっと好きなところや大事にしていらっしゃる部分が尊敬できていて、とても好きだからだと思います。気持ちのブレもないし、お互いの根底は一緒のような気がするので、委ねてみたいと思いました。“明け星”は「希望」という言葉の別の顔の目線を含めて描いているけど、“白銀”の歌詞はわたしが普段歌詞で使う言葉と似ている方向からの“希望”が表現されていると思います。

――改めて今回「無限列車編」の楽曲に臨むにあたって、言うまでもなく大きな期待がかかる曲になるじゃないですか。レコーディングに臨むとき、どんな覚悟を持って向かっていったんでしょう。

LiSA:なんか、制作している中で変わった気がします。最初は、そこにLiSAとして存在しようと思ったんです。でも、LiSAとして存在してるんだけど――“HADASHi NO STEP”のときに、先輩(田淵智也)がスーツを着て踊りに来てくれた話をしましたけど、それと似てるかもしれない。わたしはLiSAとして存在してはいるんだけど、『鬼滅の刃』という作品に期待を向けている皆さんに向けて、「梶浦ワールド」に入れそうな洋服を着直した、というか。ドレスコードに沿ってわたしらしく踊ろう、と思いました。

――変わる前のマインドは?

LiSA:ドクターマーチンを履いてました(笑)。カジュアルなストリートファッションのわたしでいこうと思ったんだけど、録っていく中で、自分ひとりではドレスコードを見つけられなくて。「なんだか、ちょっと浮いてる気がするわ」みたいな(笑)。そこで時間をもらって、ちゃんと梶浦さんの舞踏会で歌える自分として、存在できた感じがします。

――確かに、「LiSAをどこに置くのか」が、“明け星”“白銀”では大事になったのかな、という気がします。作詞・作曲・編曲という、枠組みとしてはガッツリ「梶浦さん印」の曲だから、「いつも通りのLiSAです」ではなくて、モードチェンジが必要だったんだなと。

LiSA:“from the edge”のときは、梶浦さんがLiSAという楽器を使いこなそうとしてくださってた気がします。ストリートファッションのわたしを、踊らせる場所を作ってくれてたんですね。でも今回は、完全に梶浦さんの舞踏会の中で、踊り方を任せていただいている気がしました。

――まさに、この曲を聴いてパッと浮かんだ言葉が「対応力」という言葉だったんです。それは梶浦さんの楽曲世界に合わせるというより、そこに飛び込みながらもLiSAの最大限を出していく、というか。

LiSA:そうですね。梶浦さんとご一緒するのは3度目でもあるし、初めての“from the edge”のときは「粗相しないように」みたいな感じはありました(笑)。“炎”は、梶浦さんのピアノで導いていただいて、サポートしてもらいながらわたしが踊りたいように踊った感覚。で、“明け星”は、梶浦さんがピアノを弾かれている中、わたしはわたしでどう踊るのか、でした。わたし自身、世の中的にライブが開催できなかった期間に、自分自身の歌と向き合う期間を長くとることが出来て、歌の表現もたくさん研究できました。ちゃんと研究できたのは、初めてだったかも。ずっとライブをしていたから、その時間も余裕も体力もなかったので。

――今、振り返ってみると、“from the edge”のときは食らいついていってる感があったんでしょうね。だけど今回は、同じ枠の中に違うものがふたつ入っている状態、ではなく、梶浦さんの表現と融け合っているような印象があって。まさに、MVにもそういう感じのイメージが出てくるし。

LiSA:そうですね。だから、楽しかったです。レコーディングも、レコーディングする前も。“from the edge”や“炎”のときとはまた違う感覚があって、楽しかった。緊張よりも楽しさのほうが大きかったです。

LiSA

たぶん、自己犠牲をしてでも誰かを守るような、愛情や信念に弱いんだと思う

――『鬼滅の刃』のアニメーションについても、話を聞いてみたいです。今回のテレビアニメ「無限列車編」は、いち視聴者としてどう楽しんでますか。

LiSA:わたしは基本、リアルタイムで観ています。劇場版から1年の時が経っていて、“炎”を作ったばかりのときは、自分の中での答え合わせのような気がしたし、これだけ『鬼滅の刃』という作品がたくさんの人に愛されて、わたしも“炎”をたくさんの場所で何度も歌ってきたのちに、もう少し冷静になって今は観られています。第1話の新作エピソードが足されたことによって、あの「お弁当の意味」も深くなったし、煉獄さんとお父さんが重なっていた部分もあり、同じ場面ではあるんだけど、より深く観られている感覚があります。それは主題歌も同じで、梶浦さんが託してくれた言葉とメロディや、アニメを制作している皆さんたちが足してくださった画によって、新しい想いを感じ取れているし、深みが増している感じがします。

――話を聞いていると、今さらかもしれないけど、『鬼滅の刃』という作品に相当心を動かされている感じがありますけども。

LiSA:泣きますね。煉獄さんのシーンは、マンガで読んでゴリ泣きしました。本を閉じた後、自分のいろんな思いが重なってきちゃって、1時間くらい泣きました。

――LiSAが歌詞にする言葉が信用できる、信じられる理由がそこにあるって感じですね。それだけ作品から受け取っているものがあるから、歌にも熱量や想いが乗っていくわけで。

LiSA:ありがとうございます。ちなみに別作品ですが、エンディングテーマ“シルシ”を担当させていただいた『ソードアート・オンライン』の《マザーズ・ロザリオ》編も、本を閉じてから1時間は泣きました。もう、ふにゃふにゃになるくらいまで読んでます。たぶん、自己犠牲をしてでも誰かを守るような、愛情や信念に弱いんだと思う。誰かが何かに一生懸命に情熱を注いだり、信念を貫いたり、素直な一途さに弱いんです。だから煉獄さんに関しても、煉獄さんが母上に「よくできましたよ」って言われてるところで、大号泣です。

――なるほど。『鬼滅の刃』を楽しみにしている人の大きな期待に対して、今回の2曲でどんな答えが出せたと感じていますか。

LiSA:そのときどきで全力を注ぎながら、作品に対して誠実に向き合ってきましたけど、これまでの10年の経験と、梶浦さんとの3曲目のタッグという経験を経て、それらがしっかり注がれている楽曲だと思います。だからどこにも嘘がないし、作品と一緒に楽しんでもらっても、わたしや梶浦さんと同じ色の魂を持っている皆さんにとっては、きっとわかってもらえる楽曲なんじゃないかと思います。

後編へ続く(後編は11月20日配信予定です)

取材・文=清水大輔  写真=中野敬久
スタイリング=久芳俊夫 ヘアメイク=氏家恵子


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