8人の小説家が仕掛ける、鮮烈なミステリー体験。「さあ、どんでん返しだ。」特別対談⑥(麻耶雄嵩×東川篤哉編)

文芸・カルチャー

公開日:2021/11/29

さあ、どんでん返しだ。
イラスト:石江八

 五十嵐律人、三津田信三、潮谷験、似鳥鶏、周木律、麻耶雄嵩東川篤哉、真下みこと。8人の小説家による多彩なミステリー作品が連続刊行される講談社の「さあ、どんでん返しだ。」フェアでは、作家同士が互いの作品に抱いた印象や、自らの創作へのこだわりを語りあったインタビューを配信中。第6弾には、『メルカトル悪人狩り』の著者・麻耶雄嵩さんと、『居酒屋「一服亭」の四季』の東川篤哉さんが登場。「仕掛け番長」こと栗俣力也氏がMCを務めたインタビュー、その模様の一部をご紹介します。

さあ、どんでん返しだ。

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ミステリは”解けそうで解けない”というギリギリの感覚を味わうことで快感を得ることができますから、このパターンが最も読者にとってはおもしろい作品なのではないでしょうか(麻耶)

栗俣:麻耶先生の著書の多くは、作中で提示された謎の答えが明かされず、読者はその謎が気になるあまり、考察に明け暮れてしまいます。読者のみなさんに、ぜひ麻耶先生作品の考察のポイントについて教えていただけますでしょうか。

麻耶:前提として、物語の本筋の謎に対しては解を提示しています。その上で、作中に謎を残し、読者のみなさんに考察を楽しんでもらえるような余韻の残し方には、3パターンあると考えています。1つ目が、謎の答えが”○か×か”という二者択一のパターン。2つ目が、大方の答えの予想がつくパターン。そして3つ目が、さまざまな答えが頭に浮かび、どれが正しいか皆目検討がつかないパターンです。まずは考察したい作品が3つのうちどのパターンに当てはまるのか、それを見極めることが重要ですね。

栗俣:そうなのですね。ちなみに『愛護精神』はどのパターンなのでしょうか?

麻耶:『愛護精神』は3つ目、皆目検討がつかないパターンですね。

栗俣:やはり!! この作品はどのような解釈もできるな、と思っていました。余韻の残し方によって読後感はどのように変わるのでしょうか?

麻耶:1つ目と3つ目のパターンは、作中のヒントだけでは判断がつかないため、自分の好きな方向へ考察を重ねていくことになってしまいますから、作者が提示した謎を解くという快感は得られないかもしれません。一方で、2つ目の大方予想がつくパターンは、作者の頭脳に追いつける・謎が解けるかもしれないという興奮を得ることができます。ミステリーは“解けそうで解けない”というギリギリの感覚を味わうことで快感を得ることができますから、このパターンが最も読者にとってはおもしろい作品なのではないでしょうか。

さあ、どんでん返しだ。

私の作品ではユーモラスで茶目っ気のある探偵役を描くことが多いこともあり、愉快に作品を終わらせるためには、謎の答えについて読者にあまりなく提示したいという思いがあります(東川)

栗俣:ファンの多い作品である『神様ゲーム』も、答えが明示されない作品のひとつだと思いますが、こちらはどのようなパターンになるのでしょうか?

麻耶:『神様ゲーム』は続編を読んでもらうと答えはわかりますが、作中に残した「果たして神様は存在するのか」という謎に対しては、どちらでも解釈できる作品だと思いますよ。なので、1つ目のパターンになりますね。

栗俣:確かに、神様の存在について、多くのファンと語り合いましたね。作中に残された謎を見つけては、それについて激しい議論を交わす。もうこれがおもしろくて仕方がありませんでした。

麻耶:ありがとうございます。実は作者としては「神様はいたらいいな」と思いながら書いていましたが、読者のみなさんにはどのように解釈していただいても、問題ありません。ただし、作中に謎に通ずる伏線をいろいろと散りばめているので、なるべく拾っていただけたら嬉しいです。

栗俣:これからも麻耶先生の作品を読むときは、ヒントを漏らさず考察していきたいと思います! 一方で東川先生の作品は、明確な答えが提示される作品が多いと思いますが、意識して作品づくりをされているのでしょうか?

東川:謎を作中に残しておくと、どうしてもモヤッとした終わりを迎えてしまいそうで、できる限り説明するようにしています。私の作品ではユーモラスで茶目っ気のある探偵役を描くことが多いこともあり、愉快に作品を終わらせるためには、謎の答えについて読者にあまりなく提示したいという思いがありますね。

栗俣:ありがとうございます。読者に対する謎の提示の違いがお二人の作品のそれぞれの読後感につながっているのですね。

対談インタビューの模様は、動画でもご覧いただけます。
TSUTAYA Newsに掲載のインタビューとともに、ぜひチェックしてみてください。

ダ・ヴィンチニュースでは、「さあ、どんでん返しだ。」に参加する8人の小説家への単独インタビューも公開中! 特集はこちら

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