周りにはわからない、2人だけの“秘め事”感がいい――『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』著者・燦々SUNインタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2021/12/5

時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん
『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』3巻(燦々SUN/KADOKAWA)

 隣の席のアーリャは、ロシアの血を引くクールな銀髪美少女。何を言っているかわからないと思って時々ボソッとロシア語をつぶやいているが、何を隠そう主人公・久世政近のロシア語リスニングはネイティブレベルなのだ――!

 バレていないと思ってロシア語で甘々な本音を漏らすアーリャと、それを知りつつ、伝わっていないふりをする政近。そんなムズムズするような2人の関係を描いた『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』(燦々SUN/KADOKAWA)が、今大きな話題を集めている。気恥ずかしい2人のやりとりにニヤニヤしつつ、一緒に生徒会長選挙に臨むアツい展開にワクワク。そんな青春ラブコメが多くの読者の心を捉え、早くも累計35万部を突破! 12月1日に3巻が発売されたばかりの著者・燦々SUNさんに、この作品が生まれたきっかけ、2人の関係性の魅力、3巻の見どころなどについて語っていただいた。

(構成・文=野本由起)


advertisement

「ふふん、何言ってるかわからないでしょ」と優越感に浸る残念可愛いヒロインを描きたかった

――はじめに、燦々SUNさんのご経歴をお聞かせください。小説投稿サイト「小説家になろう」に短編小説を投稿していたことがきっかけでデビューにつながったそうですが、いつ頃から小説を書きはじめたのでしょうか。小説を書くようになったきっかけについて教えてください。

燦々SUN:「小説家になろう」に初投稿した短編が、私が初めて書いた小説となります。なので、小説を書きはじめたのもちょうどその頃で、2017年の10月頃ですね。4年とちょっと前になりますか。小説を書いたきっかけは……「なろう」小説をいくつも読んでいるうちに、自分の中でアイデアが湧いてきて、それが短編という形にまとまりそうだったので書いてみたという感じです。

――影響を受けた作家、お好きな作品やジャンルについて教えてください。

燦々SUN:影響を受けた作家さんというと、やはり川原礫先生でしょうか。他でもない、川原礫先生の『アクセル・ワールド』が、私が自分で買った初めてのラノベになるので。人物の動きを細かく書き込むところや、心理描写の書き方などは少なからず影響を受けていると思います。

アクセル・ワールド
『アクセル・ワールド』(川原礫/KADOKAWA)

 好きな作品といわれると数が多くて挙げたら切りがないのですが、間違いなく名作だと思う作品を挙げよというなら『鋼の錬金術師』と『進撃の巨人』です。この2作品は作中に無駄なエピソードがひとつもなく、物語としての完成度がずば抜けていると思います。

 好きなジャンル……は、雑食ですね。恋愛やファンタジーはもちろん、ホラーやコメディーも読みますし書きます。男性向け女性向けも選り好みしないですし、むしろ読まないジャンルというなら、SFはあまり読まないですね。

――『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』も、「小説家になろう」に投稿された短編から生まれた作品です。「ロシア語でデレる女の子」という発想は、どのようにして生まれたのでしょうか。ロシアという国を選んだ理由についてもお聞かせください。

燦々SUN:元々書きたいと思ったのは、「相手に伝わらない(と思っている)言語でデレて、『ふふ~ん、伝わってな~い♪』と優越感に浸る残念可愛いヒロイン」だったんです。このヒロイン像を書こうとした際に真っ先に思いついたのが、「なろう」テンプレである異世界転生モノでした。転生者のヒロインが、日本語で主人公にデレて「ふふん、何言ってるかわからないでしょ(ドヤッ)」とやるけれど、実は主人公も転生者で日本語がわかるという……短編にするつもりだったんです。

 ですが、考えているうちに「あれ? これ普通に外国語でやればいいのでは?」と思い、異世界転生モノだと世界観説明や舞台設定の説明が面倒だったこともあり、シンプルに現実世界恋愛にすることにしました。そこで、どこの国の言語にするかを考えた際に、まず英語はわかる人がいるからダメ。せっかく外国人の血を引いたヒロインにするなら、日本人とは全然違う容姿の美少女にしたい。そう考えた時に……直感で、ロシアだな、と。なんとなく、ロシアの美少女って妖精じみた神秘的な美しさがあるイメージがあったので。ロシアを選んだのはそれが理由ですね。

優等生のアーリャが、政近にだけバレるかバレないかのイケない遊びを仕掛けるのがいい

――政近に気付かれていないと思って本心を漏らすアーリャ、ロシア語がわかるけれどそうと悟られないよう振る舞う政近の関係にムズムズするようなときめきを感じます。燦々SUNさんは、アーリャや2人の関係性のどんなところに魅力を感じていますか? 政近は「精神的露出狂」とも評していますが、燦々SUNさんからご覧になったアーリャの可愛さについてもご意見を聞かせてください。

燦々SUN:アーリャはやはり、恥ずかしくてとても口にはできない言葉を、ロシア語ならバレないと思って口にしちゃうところが可愛いと思います。さらには政近の伝わってないふりにあっさり騙され、ニマニマしちゃうところもチョロ可愛いですね。

 政近が言っている「精神的露出狂」というのは私の造語ですが、これ結構共感できる人は多いと思うんです。一時期流行った、好きな人の名前を消しゴムに書くおまじないなんかは、それこそ好きな人にバレるかバレないかのスリルを楽しむ行為だと思いますし。それでなくとも、好きな人の写真をこっそりスマホの待ち受けにしたり、気付かれてないと思ってじっと好きな人の横顔を眺めたり。結構そのハラハラドキドキを楽しんだことがある人は多いんじゃないでしょうか?

 普段すごく模範的な優等生として振る舞っているアーリャが、政近に対してだけそんなちょっとイケない遊びをしちゃうところ、自分から隙を見せちゃうところがいいと思います。表面上は素っ気ない態度でツンツンしてますが、その実政近にだけは気を許してるということですからね。そして、そんなアーリャを政近は理解した上で、気付かないふりをして見守っている。アーリャの秘密の遊びに対して、政近はその秘密に気付いてるという秘密を抱えている。周囲にはまったく伝わらないこの“秘め事”感が、2人の関係の魅力だと思います。

――アーリャは、理想に向かって努力し続ける気高さ、全力を尽くす美しさも持ち合わせています。政近もそんな彼女を眩しく感じ、ともに生徒会長選挙に打って出ることになります。ただアーリャのかわいらしいところに惹かれるだけでなく、互いを尊敬し合う関係性にした理由についてお聞かせください。

燦々SUN:主人公が何らかの形でヒロインを助け、ヒロインが主人公に好意を抱く。この流れはラブコメの王道ですが、ヒロインが一方的に好きなのも、主人公が一方的に助けるのも、なんだかフェアではないと思うんですよね。主人公の手助けに対し、ヒロインは好意で返す。これは取引として成立していない。いや、そもそも恋愛を取引として捉えるのはどうなのかって話はありますが、この関係性って下手をすると「好きでいてあげるんだから助けられて当然」「助けたんだから好意を享受するのは当然」という形に見られると思うんですよね。

 私自身、ただ一方的に助けられるヒロインには魅力を感じなかったので、それは避けたかった。アーリャを気高く自立した女性にしたのは、それが理由です。同時に、相手に好意を向けられることを期待してヒロインを助けるような主人公も嫌だったので、主人公がヒロインを助ける動機は恋愛感情以外の何かであってほしかった。その結果、アーリャの眩しさに憧れる政近という構図ができあがりました。

――政近は、だらしないようで頭が切れ、しかもいろいろなものを背負っている人物です。燦々SUNさんは彼をどんなキャラクターだと捉えていますか? 主人公像を形作るうえで、大切にしたこと、ご苦労されたことがあればお聞かせください。

燦々SUN:私は、ラブコメにおいて最も大きな財産は、読者の中で主人公の好感度が高いことだと思っています(ヒロインの好感度が高いのは大前提として)。私自身主人公に魅力を感じないラブコメが苦手だったこともあり、政近にはとにかく読者に愛される主人公になってほしかったのです。

 そこでまず、アーリャを支えられるだけのスペックの高さを持っているのは必須だと思いました。ただし、そのスペックの高さに気付いていない無自覚系主人公や、そのスペックの高さをひけらかすイキり系主人公は絶対に書きたくなかった。その結果生まれたのが、「努力ができない天才」という政近の個性でした。政近は自分が天才であることを自覚していますが、同時に努力ができないということにコンプレックスを抱いています。でもだからこそ、努力してる人には報われてほしいと願っているし、報われるよう手助けしようとする。

 溢れる情熱で周囲を動かす、いわゆる少年マンガっぽい主人公とは違い、政近はだいぶネガティブで卑屈な主人公です。ですが、そんな彼が自分なりに頑張って前を向こうと努力する姿に、魅力を感じていただけたらと思っています。

綾乃は、作者として一切自重せずに属性を詰め込んだ思い入れのあるキャラクター

――実の妹でありつつ、会長選挙ではライバルとなる有希もユニークなキャラクターです。彼女の人物像はどのように作っていきましたか? 燦々SUNさんが魅力を感じるポイントについてもお聞かせください。

燦々SUN:まず1巻を書く時点で、メインヒロインであるアーリャのライバル的存在は登場させたいと思っていたんですよね。それは、選挙戦でのライバルでもあり、政近を巡る恋愛面でのライバルでもあります。そこでまず、アーリャと並び立つ名家のお嬢様というキャラができあがりました。でも、1巻時点で出てくる恋のライバルって、言っちゃなんですが完全に当て馬であり負けヒロインじゃないですか。どんなに政近との間に深い絆があり、その絆にアーリャが「ぐぬぬ」となっても、読者からしたら「でも、最終的にはアーリャに負けるんでしょ?」と冷めた目で見られてしまう。読者から見て最初から負けが確定してるサブヒロインって、果たしてライバルとして成立してるのかなという疑問があったんです。あと、個人的に主人公がむやみやたらとモテまくるラブコメはあまり好きじゃなかった。

 そこで、有希には「実は妹である」という個性を与えました。実妹なら、主人公を大好きでも問題ない。同時に学園では幼馴染みという設定なので、アーリャから見たら恋のライバルとして成立する。また、最初からヒロインレースのコース外にある実妹というポジションに置くことで、読者に対しても、負けヒロインという印象を抱かせずに強キャラ感を維持できるのではないかと思ったのです。有希が「幼馴染みと書いて実妹と読む」というキャラになったのは、それが理由ですね。

 実際のキャラ像に関しては、わかりやすく“お嬢様モード”では典型的なお嬢様、“妹モード”ではとことん可愛い妹として描きました。そのギャップ、ガチオタで厨二病な素の表情、何より兄・政近に全力で甘えるその姿が、彼女の魅力だと思います。

――ほかにも、綾乃、マーシャ、乃々亜、沙也加などひと癖もふた癖もあるキャラクターが登場します。燦々SUNさんがイチ押しの女性キャラクターは誰でしょうか。

燦々SUN:どの子も魅力的な個性を持っていますが、ひとりを挙げよというならやはり、属性盛り盛り綾乃さんでしょうか。作者として一切自重せずに属性を詰め込んだキャラなので、特に思い入れがあります。その結果、恐らく作中で最も癖が強いキャラになってしまいましたが、刺さる人にはぶっ刺さると信じています。

――ももこさんのイラストも、ヒロインたちの魅力をさらに引き立てています。燦々SUNさんが、特にグッときたイラストはどれでしょうか。

時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん
『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』1巻(燦々SUN/KADOKAWA)

燦々SUN:ももこ先生のイラストはどれも素晴らしく神懸っていますが、その中でも一番グッときたのは……やはり、1巻の表紙イラストでしょうか。

 あの表紙のアーリャは、私が短編当初から一番書きたかった、「ふふん、何を言ってるのかわからないでしょ」と内心ドヤるヒロイン像そのものです。その表情イメージをももこ先生にお伝えするに当たって、いろんなキャラのニヤニヤ笑いやドヤ顔のイラストを参考にしましたが……どれもしっくりこない。そこで、ふと気付いたんです。「ああ、アーリャはニヤニヤ笑ってるんじゃない。笑いを堪えようとして堪え切れてないんだ」と。

 そうももこ先生にお伝えして、できあがったあの表紙イラストを見た時に、「ああ、これがアーリャだ。これこそがアーリャだ」とストンと胸に落ち着きました。私の中の形になり切らないイメージを、ももこ先生が私の想像を超えて形にしてくださった。そういった意味で、あのイラストを一番に挙げさせていただきます。

互いに影響し合い、支え合う2人がどう成長するのか。アーリャと政近、2人の成長を描く物語

――最新刊の3巻では、催眠術や誕生会デート、自宅看病などのラブコメ要素が満載なだけでなく、会長選挙に向けた前哨戦となる知略攻防戦も描かれます。特に力を入れたシーン、ご苦労された点などについてお聞かせください。

燦々SUN:一番苦労したのは、やはり最後の有希との対決です。頭脳戦……と呼べるほどのものかはわかりませんが、ああいった駆け引きやトークバトルはあまり書いた経験がなかったので、いかに納得感のある展開にするかが非常に苦労しました。

――終業式でのあいさつを経て、アーリャも一段成長したように感じました。彼女の変化、そして政近との関係性の変化を、燦々SUNさんはどのように捉えていますか?

燦々SUN:終業式あいさつを経てアーリャが一番成長したのは、自分が完璧ではないことに気付き、周囲の人間を認めるようになったことだと思います。それまで、無意識に見下してしまうからと周囲と距離を取っていたアーリャが、その結果どう変化するのか。それが、今後の政近との関係性の変化にもつながると考えています。

――今後、シリーズはどのように進んでいくのでしょうか。今後の展開について、ほんの少しだけお聞かせください。

燦々SUN:この物語はアーリャの成長の物語であると同時に、政近の成長の物語でもあります。目標を目指して前へ前へと歩き続けるアーリャに引かれ、政近もまた自らの過去と向き合い、前へと進もうとします。互いに影響し合い、支え合う2人がどう成長するのか、見守っていただければと思います。

――1巻発売時から大きな話題を呼びましたが、燦々SUNさんご自身は人気の理由をどのように分析していますか?

燦々SUN:1巻発売時から話題になった理由に関しては、8割方が発売前からすごい勢いで宣伝を打ってくださった編集さんの手腕と、ももこ先生のイラストの力だと思っています。というか、自惚れないようにそう自戒しています。

 あとは、まあなんだかんだ純日本人がメインヒロインを務めることが多いラノベ業界で、外国人の血を引いた銀髪ヒロインをメインに持ってくるのが新しかったのかなと思います。“外国人要素”、“銀髪ヒロイン”、“メインヒロインポジション”、この3要素が合わさった結果、今までになかったヒロイン像として読者の心に刺さったのかなと。そう分析しています。

――シリーズのファン、そしてこれから同シリーズを読む方に向けて、メッセージをお願いいたします。

燦々SUN:4巻はサービス回です。夏休みです。生徒会メンバー全員で海に行きます。あとは……わかるな?

あわせて読みたい