表現者・梶裕貴を勇気づけ、奮い立たせてきた、5つの名曲たち――『woven songs』梶裕貴インタビュー

アニメ

公開日:2021/12/3

woven songs

 名曲に新たな魂が吹き込まれる。J-POPの名曲を声優たちが歌うミニアルバムシリーズ「woven songs」が、12月15日にリリースされる。4人の声優がこれまで親しんできた名曲をそれぞれ5曲ピックアップ。その名曲へリスペクトを込めて、まるで役を演じるかのように歌い上げた。

 この「woven songs」のリリースに合わせて、4人の参加声優にインタビューを実施。それぞれの楽曲に込めた思いを語っていただいた。

 第1回となる今回は、梶裕貴の登場だ。数々の作品で主演を務め、活躍している彼が選んだ曲とは――梶裕貴の声優人生を振り返るような5曲の物語《ストーリーズ》。

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その楽曲と自分との関係や歴史が、歌声に表れているはず

――声優のみなさんがそれぞれ思い入れのある歌をカバーして歌う「woven songs」。この企画にどんな印象をお持ちでしたか。

:自分の大好きな歌を集め、ボーカリストとして参加し、世界で1枚だけのCDを作る。まさに夢のような企画だなと感じました。キャラクターソングとはまた違った立ち位置で、今の自分がレコーディングをしたらどうなるんだろうというワクワク感もありました。しかも、今回のテーマは“カバー”。きっと完全なる新曲とは違って、その楽曲と自分との関係や歴史が歌声に表れるんだろうなと思うと、自分の年齢的にも、なかなか面白いものが出来上がるんじゃないのかなという期待はありましたね。素敵な機会をいただき、感謝です!

――今回、名曲と呼び声が高い、5曲を歌われています。選曲の基準となったものがあればお聞かせください。

:まずはシンプルに、好きな歌をピックアップしていきました。これまでの人生で何度も聴き、何度も歌ってきた思い入れのある楽曲のみを厳選したつもりが……気づけば候補が数十曲以上挙がってしまって(笑)。その中から、最終的に1枚のアルバムとしてのまとまりやバリエーションを考えて選ばせていただいたのが、今回の5曲です。いやぁ、本当悩みに悩み抜きました! なんせ、どの曲にも思い出や思い入れが沢山ありますし、当然アーティストの方々へのリスペクトもありますからね。

――先ほど「キャラクターソングとは違う立ち位置で」というお話がありましたが、やはり自分名義で歌を歌うと、おのずとキャラクターソングとは違うアプローチをされたということでしょうか。

:キャラクターソングは、その名の通り、“歌にキャラクターの性格や人生を乗せていく”ということが大事だと思うんです。歌唱力が高いか低いかも、そのキャラクター次第。歌い手のアイデンティティは関係ないんですよね。でも今回は、キャラソンではなく本人として。まさに、自分自身の楽曲への思いが鍵になってくるわけです。それぞれの曲への思い出を辿りながら、歌詞の意味をゆっくり味わうように練習して、レコーディングに臨みました。楽しみな反面、アーティストの方々へのリスペクトがあるからこそ、歌うこと自体への緊張感も大きかったですね。ボーカリストとして主な活動をしていない自分がカバーをさせていただくことについての責任やプレッシャーを感じていたのも事実です。でも、だからこそ、とにかく心を込めて歌うしかないな、と。

梶裕貴

自分の声優人生と結びつく5曲

――1曲目「Sign」はMr.Childrenの名曲。2004年にリリースされた楽曲です。梶さんにとっては十代のころの楽曲では?

:そうですね。ほとんどの人がミスチルを通って育つように、僕にとってもMr.Childrenという存在は、子どもの頃から常にそばにありました。ミスチルを聴くと、それぞれの楽曲を聴いていた小学校、中学校、高校時代のことを思い出します。「音楽と記憶って、結びついているものなんだな」と強く感じさせられるアーティストのひとりがMr.Childrenさんですね。僕がこの曲と出会ったのは、ドラマ『オレンジデイズ』の主題歌として。『オレンジデイズ』は、放送当時だけでなく、そのあと何度も見返している大好きなドラマのひとつ。きっと、その作品のイメージも重なって大好きな曲なんでしょう。

――ドラマ『オレンジデイズ』がお好きなんですね。聴覚を失ってしまった女の子をめぐるラブストーリーであり、大学の卒業を1年後に控えた大学生たちの日常を描いて大きな話題となりました。

:このドラマに出演されている俳優の皆さんは、いまでこそ国民的俳優と呼ばれるほどの目覚ましい活躍をされている方ばかりですが、当時は、これから頭角を表していくであろう期待の若手!ホープ!といったタイミングの役者さんたち。みずみずしさと勢いが本当に素敵でした。このドラマがオンエアされた頃、僕はまだ声優の仕事を始めたばかりのド新人。いわゆる下積み時代を過ごしていました。いずれは声優の仕事のみで生活していきたいと思っていましたし、自分もこういう素敵な作品で、素敵なお芝居ができる役者になりたいと思いながら、このドラマを観ていたんですよね。懐かしい。どん底でした(笑)。それから約17年の時が経った今……ありがたいことに声優として活動することができ、加えて今回、こうして「Sign」をカバーさせていただけることになって、本当に夢のようです。感慨深いですね。

――どのような思いを持って歌われましたか?

:ミスチルの楽曲はいつの時代も、街中やテレビなど、あらゆる場所で耳にしてきました。自分でも知らず知らずのうちに口ずさんでしまっていたり。桜井和寿さんの歌声は、それくらい脳と心に沁み込んでいるもの。なので難しく考えるより、そんな思い出や自分の人生経験と上手くリンクさせて歌えたらと思っていました。

――2曲目「3月9日」はレミオロメンさんの楽曲。2004年にリリースされ、長く愛される一曲となっています。

:10年ほど前に”卒業ソング”として話題になったときに触れ、そのメロディと歌詞に感動した曲です。この曲はもともと、藤巻亮太さんが学生時代に、結婚する幼馴染へのプレゼントとして書き上げた作品。ストーリーや世界観としては抽象的な部分もありつつ、歌詞の物語る内容自体は、非常に具体的で身近という独特の世界観なんです。だからこそ、結婚式だけでなく卒業式にもハマる広がりが出たんだろうなと。唯一無二の雰囲気を持った楽曲ですよね。

――レコーディングすることで、発見はありましたか。

:「3月9日」は、サビのニュアンスがとても繊細で綺麗なので、その歌詞を聴いただけでも、無条件でグッときてしまうところがあります。言葉遣いが個性的で、ストーリーとしても様々な解釈の仕方ができる一曲だなと感じています。だからこそ、いつの時代でも愛される楽曲として完成しているのでしょう。Mr.Childrenの桜井和寿さんと同じく、自分の脳や心には、ボーカリストとしての藤巻亮太さんのニュアンスが深く沁み込んでいるわけですが……当然、物真似をすることが目的ではないので、あくまで自分らしさのある歌になってくれたらいいなと、とにかく楽曲の世界観を大切にレコーディングをさせていただきました。

――3曲目「スパークル」はRADWIMPSさんの楽曲。新海誠監督の映画『君の名は。』の主題歌として大ヒットしました。

:RADWIMPSさんも昔からずっと好きなバンドです。実は、今回のカバー候補に「スパークル」以外にもRADWIMPSさんの往年の名曲をいくつか上げさせていただいていたんですが――最終的に、あえて比較的最近のお気に入りから選んでみました。僕のカバーアルバムのテーマは「STORIES」ですが、なにも十数年以上前の楽曲じゃないといけないルールはないので! 常に思い出は増え続けていますから(笑)。

――新海監督作品には、梶さんは映画『天気の子』に出演されていますね。

:はい。とても光栄です。もともと大好きだった新海誠監督作品ですが、「スパークル」が挿入歌として組み込まれていた『君の名は。』を観たときに、あらためてその素晴らしさに感動して。「僕もいつか声優として、新海監督作品に出演したい」という思いが強くなったのを覚えています。特に『君の名は。』には、身近な役者仲間や後輩たちも出演していて、正直うらやましい気持ちや悔しい気持ちもありました。「自分もそういう機会に巡り合えるように、もっともっと頑張らなくては」と心に誓った作品でもあります。そんな思い出もありつつ……この「スパークル」という楽曲自体にも、当然強い思い入れがあります。

――この楽曲は、作詞・作曲の野田洋次郎さんによる個性的なメロディと歌声が印象的です。

:洋次郎さんの作られる楽曲は、どれも本当に個性的ですよね。にもかかわらず、歌詞の内容が普遍的なのがたまらなく好きで。以前から、友人の神木隆之介くんと話をしていると「洋次郎さん」という名前が頻繁に登場していたので、いつかお会いしてみたいなとは思っていたんです。加えて、洋次郎さんと僕、実は同い年で。同い年って、どこか不思議な仲間意識がありませんか? 同じ時代の同じ景色を見て、同じ肌感覚で生きてきたんだなと思うと、きっと共通点もあるんだろうし、今こうして二人とも表現をする世界で生きている、そのご縁も感じるんですよね。初めてお会いできたのは『天気の子』の打ち上げのとき。洋次郎さんも気にかけてくださっていたようで、すぐに連絡先を交換しました。ただ、そのあとすぐにコロナ禍になってしまい、まだじっくりとお話する機会を持つことができていないままで……寂しいです。いつかゆっくり語り合ってみたいですね。

――それは楽しみですね。今回カバーすることを野田さんはご存じなんでしょうか?

:今回「スパークル」カバーの許諾を得る上で、ご快諾いただいたと伺っています。それから、楽曲が発表になった時点で、あらためて僕の方から「今回の企画で歌わせていただきます」と直接ご連絡をさしあげたら、「すごく楽しみにしています」とお返事をいただけて。そんなふうに言っていただけたからには、心からのリスペクトを持って、精一杯歌わねば!と、より気合いが入りましたね。自分らしい表現ができていたらうれしいです。

――4曲目「葛飾ラプソディー」は1997年にリリースされた楽曲。アニメ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』のオープニング曲です。

:そうですね。中学生のときに出会った楽曲です。その頃から、僕は既に声優を目指していたので、『こち亀』のアニメも勉強を兼ねて毎週のように観ていたんですよ。そんな馴染みやすい入り口だったからか、知らず知らずのうちに口ずさんでいた一曲でもあります。今回このアルバムで選ばせていただいた楽曲たちが、せつなかったり、ドラマチックだったりするものが多い傾向があったので、一曲カラッと明るく楽しいものを!と思ってチョイスさせていただきました。

――幼いころから口ずさんでいた楽曲を、実際にレコーディングしてみていかがでしたか。

:「カラッと明るく楽しいものを!」と思い選曲したものの……あらためて歌詞を振り返ってみると、かなり大人な内容で驚きました(笑)。ひとつひとつの情景を想像してみると、結構せつない歌詞なんですよね。子どもの頃って、あまり歌詞の意味を深く考えずに好きになったりするものじゃないですか? きっと『こち亀』のハチャメチャで賑やかな作品の印象と、堂島孝平さんの生み出された朗らかなメロディと歌声で、勝手にウキウキと楽しいイメージを持ってしまっていたんでしょうね。今回、あらためて歌詞を読み込んでみて衝撃でした! 子どもの頃には考えもつかなかった、想像したとしても理解しきれなかったであろう、この楽曲が持つ本当の魅力。こうして、自分の好きな曲をあらためて紐解く機会をいただけたのは、本当にありがたいなと感じました。悲しい歌詞を悲しいメロディで歌うのも素敵ですけど、そこを明るく歌うからこそ、湧き出てくる哀愁もあるんですよね。これはお芝居にも通じる考え方だなとも感じました。

――おっしゃるとおり、悲しいセリフを明るく言うことでホロ苦さが生まれる……という演技も素敵ですよね。

:そして、そういったニュアンスにこそ、不意に心を揺さぶられたりするものなんですよね。ちなみに「葛飾ラプソディー」は、レコーディング順でいうと最後に収録した楽曲なんです。なので、どこか達成感や解放感も加味されて、心の赴くままに気持ちよく歌うことができた気がしています。

――5曲目「ソラニン」は2010年に映画「ソラニン」の主題歌として発表された楽曲です。作詞は浅野いにおさん、作曲は後藤正文さん。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの楽曲ですね。

:僕は「好きな漫画は?」「好きな映画は?」と聞かれると、ことあるごとに『ソラニン』をその候補として挙げてきました。なので、今回の企画でも真っ先に浮かんだ楽曲でしたね。この曲がリリースされた2010年頃というと、僕にとっては、声優としてのキャリアを徐々に積み始め、少しずつ名前のある役でレギュラー出演させていただけるようになってきた時期。バイトを辞め、声優一本で生活できるようにはなってきたけれど、相変わらずオーディションには落ち続け、新しいチャンスとも出会えず、どこか周りに置きざりにされてしまうような歯がゆさや悔しさ、漠然とした不安を感じていたタイミングでした。そういったメンタリティが、ちょうど当時、浅野いにお先生の漫画『ソラニン』の世界観と重なったんだと思います。この作品では、夢や仕事や恋など、それぞれどうやっても上手くいかない、くすぶった若者たちの姿がリアルに描かれていて。きっと、そういう”まとわりつくようなダルさ”が、当時の自分にはザクザク突き刺さっていたんだと思います。

この『ソラニン』という物語の中に、どうしようもなく自分自身が描かれているような気持ちがありましたし、そんな自分はどう生きていったらいいんだろうとも考えていました。同時に、そこには確実に、自分には決して手が届かないような眩しい世界もあるような気もしていて。だからこそ『ソラニン』は、自分にとっていつまでも忘れられない作品なんでしょうし、好きなのに、どこか苦い印象もある作品なんです。そんな『ソラニン』が映画化するにあたって、アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)さんが主題歌を担当されることになって。アジカンさんもそれ以前からずっと好きなバンドでしたが、『ソラニン』を聴いて、あらためてそのセンスに圧倒されたのを覚えています。”漫画の中で既に完成されていた歌詞に曲をつける”って、凄すぎると思いません? しかも、もちろん音楽をつけるだけじゃなくて、この作品を描かれている浅野いにお先生の『ソラニン』に込めた思いが、これでもかとメロディに、シャウトに反映されていて。漫画で読んだ、あのライブシーンが見事に再現されている!と感動しました。今回レコーディングしてみて、あらためて『ソラニン』は自分の中に生きているんだなと感じましたね。あの鬱々としながらも、不思議とエネルギーに満ちている感覚を再び味わうことができて興奮しました。

――今回、梶さんは原曲と同じキーで歌われていますね。このあたりはこだわりがあったのでしょうか。

:デモ曲のやり取りをする中で、「もし可能であれば、自分にとって親しみのある、原曲のキーとテンポからは変えないでほしい」と、こちらからお願いしました。これまでお話したように、どの楽曲にも自分なりの強い思い入れがありますし、オリジナルのメロディや歌詞に込められた各アーティストの皆さんのハートを、何より大切にしたかったので。

――まさに原曲への愛が感じられますね。実際に『ソラニン』をレコーディングされてみて、いかがでしたか。

:楽曲へのリスペクトがあるからこそ、綺麗に、上手に歌おうというよりも、当時、作品に触れたときの思い出や、レコーディングする中で生まれるパッションを大事に歌えたらな、と考えていました。自分の中にある思いを一本通して歌いきることができたと思います。

歌に勇気づけられて、ここまでたどり着いた

――こうやって5曲への想いを伺ったことで、梶さんの人生の一部を伺えたような気がします。

:中学生の頃から、何を差し置いても“声優になりたい”と願いながら生きてきたので、やはりどの楽曲にも声優絡みの思い出がつきまとうんですよね。まさに、僕の「STORIES」です。

――普段の生活において、「歌」を歌いたくなるとき、「歌」を聴きたくなるときはどんな時間ですか?

:ありきたりですが、やはりお風呂で歌いたくなることが多い気がします。これはもう本能なんでしょう(笑)。よく聴くのは、今回歌わせていただいた楽曲たちはもちろん、自分が出演している作品の音楽、子どもの頃から大好きだったアニソンなど。聴きたくなるタイミングは、自分の気持ちを鼓舞したいときが多いですかね。人生で苦しかったときに聴いていた曲なんかは、当時の気持ちとリンクして、怖いもの知らずのエネルギーや熱さが蘇ってきたりするので、それを取り戻すために聴くこともあります。もちろん、癒されたいときにも音楽を聴きますが、どちらかというと「さぁ、今から戦うぞ!」というときに聴くことの方が多いですね。

――今回のアルバム「woven songs」を楽しみにされている方へ、どんなふうに楽しんでほしいと思いますか?

:僕と近い世代の方は、きっと「おお、梶! 選曲わかってるじゃん!」と思っていただけるはず。今回の5曲以外も含めた候補リストを見ていただいて、ぜひ一緒にお酒を飲みながら盛り上がりたいです(笑)。もし、今回の楽曲をご存じなかった方や、タイトルは知っているけれど聴いたことがないという方には、「こんな素敵な名曲があったんだ!」と知っていただく機会になってくれたらうれしいですね。その際には、ぜひ原曲も合わせて聴いていただけますと幸いです!

取材・文=志田英邦

声優カバーアルバム woven songsシリーズ
梶裕貴「COVER~STORIES~」
2021年12月15日発売
POCE-12171 2,420円(税抜価格 2,200円)
<収録内容>
1. Sign
2. 3月9日
3. スパークル
4. 葛飾ラプソディー
5. ソラニン 

声優カバーアルバム woven songsシリーズ
公式twitter:https://twitter.com/Woven_songs
公式サイト:https://www.wovensongs.net


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