EXILE小林直己「言葉を使って表現することで自分と向き合えた。今、思春期が来ているのかもしれません(笑)」

文芸・カルチャー

更新日:2022/1/7

小林直己さん

 EXILEと三代目 J SOUL BROTHERS(以下、三代目)のメンバーであり、三代目ではリーダーを務める小林直己さん。パフォーマーとしてまた俳優として、自らの体を使って表現し続けてきた小林さんが、初エッセイ『選択と奇跡 あの日、僕の名字はEXILEになった』(文藝春秋)では言葉を使った表現に挑んだ。「組織論」を書こうと始めた連載は、コロナ禍で別の方向へと進み始めたという――。執筆中に起きた大きな変化について、これからの自分について語っていただいた。

(取材・文=門倉紫麻 撮影=干川修)

当初は予想していなかったところにたどり着いた

――拝読していて最初に伝わってきたのは、EXILEや三代目というグループ、所属事務所であるLDHを小林さんがどれだけ愛していらっしゃるかということ、そしてその素晴らしさを読者に知ってほしいと強く思っていらっしゃることでした。

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小林直己(以下、小林):それはこの本のポイントの1つでした。自分がこの10年以上、EXILEや三代目の活動を通して感じたり学んだりしたことを伝えたいなという思いから始まった連載だったのですが、「組織論」のようなものを書けたらなと思っていました。元々ライブという総合エンタテインメントや芝居をやっている分、多角的に表現と向き合ってはきていて。それをこの本を作る時に生かせるかなと思っていました。

『選択と奇跡 あの日、僕の名字はEXILEになった』(小林直己/文藝春秋)

――前半は特に、今おっしゃったような組織論として読めますね。客観的というか、冷静な印象を受けます。

小林:へええ……! そうでしたか。

――ご自分ではあまりそうは思っていらっしゃらなかったのでしょうか。

小林:はい。そう書こうとしたつもりはないですね。もしかすると……グループの中で活動している時の僕の立ち位置というか活動のし方に、元々客観的なところがあるのかもれません。

――リーダーだからでしょうか?

小林:いや、リーダーとして意識してそうしているわけではないですね。のめり込んでしまう自分もいますし、同時に俯瞰で見てしまう自分もいるんだと思います。実は、当初予定していたものとは書きながら変わっていったんです。2020年から始まった連載なのですが、コロナ禍でステイホーム期間になって。パフォーマンスする場所がなくなったことで自分の存在意義についてちょっと悩んでしまったのもあって、途中からはどんどんその瞬間感じたことを書き留めていくようなスタイルに変わっていきました。当初は予想していなかったところにたどり着いたというか、紙面ワークショップみたいな感じになりました(笑)。

朝起きて、顔を洗って着替えて外に出て、そのままステージ!

小林直己さん

――確かに、拝読していて内容に変化を感じます。第四幕「小林直己」は第三幕までと比べて、ご自分の内側によりフォーカスした内容になっていますね。小林さんが苦しんだり感情が揺れたりしていることは第三幕までにも書かれているのですが、多くは見せていらっしゃらない印象でした。

小林:三幕までは元々予定していたものに近くて、四幕はコロナ禍だから書けた章かもしれません。それまではがむしゃらに活動してきて……1年間でドーム公演が40公演以上続くようなこともあったんですが、強制的に時間が生まれたことによって、今まで見過ごしていた、もしくは見ないようにしていた自分も振り返ることができたんだと思います。

――第四幕の四場、五場あたりでぱっと小林さんご自身がより前面に出てきますね。特に五場ラストの、BTSが掲げる「LOVE MYSELF」に共鳴したというお話から「This is me」の歌詞を引用しつつ「これが、今の僕だ」とご自身の決意を語る流れは、強いお気持ちがわかってぐっときます。

小林:嬉しいです。僕は今まで言葉を使わずに「印象」を強く与えるようなパフォーマンスという形で表現を多くしてきたんですよね。でも言葉を使って具体的な表現をすることで自分の失敗とか後悔みたいなものと向き合わざるを得なくなった。それはもうつらかったですし、書こうかどうか迷ったんですが、そのまんまを記録しようと思いました。

――ストレートに届きました。

小林:やっぱりステイホームが大きかったですね。文章だけじゃなくていろんなものを「このまま出してみよう」と思うようになりました。僕自身も悩んだ時にエンタテインメントに救われてきたという思いがあったので、今エンタテインメントを届ける立場にいさせてもらっている僕も、コロナ禍ですぐできることをしてみようと思って。インスタライブで簡単なダンスを作ってみんなで踊ったり、ギターを弾きながら鼻歌を歌っているところをそのまま上げてみたりもしました。今までの僕ならやらなかったと思うんですが、やってみたら観てくださった方から反応があって、繋がっているんだと思えたし、ポジティブな気持ちになれました。すごく嬉しかったです。

――それまでは作り込んだエンタテインメントを見せることを重視していらしたのでしょうか。

小林:そうです。好きだったんです、それが。

――YouTubeチャンネル「Naoki’s Dream Village」にアップされた「This is me」のカバーダンスも、作り込まれたものではなくてとても自然ですね。

小林:今は、できるだけ日常と地続きのものを出したいと思っていて。ステージ上でスイッチをパッとオンにするのではなくて、朝起きて、顔を洗って着替えて外に出て、そのままステージ! みたいなものを見せたい(笑)。その時々の空気やバイオリズム、余白を感じていただくことにすごく興味がある。この本を通してそれに挑戦できたので、これからあらためてダンスや芝居をやるとどうなっていくんだろうと、自分もワクワクしているところです。

――今も笑みがこぼれていらして、ワクワクしていることが伝わります。

小林:うん、そうですね(笑)。

映画やVRのような「体感型」の部分を作りたかった

小林直己さん

――読んでいて特に好きだったのが、時々差し挟まれるライブなどステージの描写です。カメラで追いかけて撮っているような臨場感があって読んでいてドキドキしました。

小林:めちゃくちゃ嬉しいです! そこは「仕掛け」として書いたところなので。

――仕掛けですか。

小林:書き分ける……とか偉そうなことは言えないですけれど、整頓された伝え方をする部分と、映画やVRのような感覚を味わってもらえる体感型の部分の両方を作れたらと思っていたんです。ステージの描写は体感型の部分のつもりで書いていました。

――どんなふうに書き進めていかれたのですか?

小林:HIROさんの引退公演や天皇陛下御即位20年をお祝いする祭典、あとはTAKAHIROが決まったオーディションのところも僕には忘れられない風景で、いつでもそこに入っていけるんですよ。なので目の奥に映っていることをただ書き起こしていくというか……それで読者の方に伝わるかな? と心配ではあったので、伝わったようでよかったです。

――ご意図通りに、体感しました。ただ先ほども「俯瞰で見てしまう」というお話がありましたが、ご自身も出ているステージの描写でも、中からしか書けない熱さがありつつやはり外からもカメラで撮っているような印象を受けました。

小林:もしかしたら、ダンサー特有の感覚なのかもしれません。ダンサーは練習の時に常に鏡で自分の体を確認しているんですよね。どこかから俯瞰で見ている感覚を持つことができる。でもそれを文章に起こす時にはまた1つハードルがあるんですが……。自分では伝え切れていると思い込んで書いてしまうと意外にそんなことなかった、ということにも気づいたんですが(笑)、航海士である編集の方々が導き手になってくださって。文章はフィードバックをいただいてかなり直しましたね。この本を通じていろんな人にアプローチしたかったので、プロの方の力を借りていいものを作ろうと思いました。今お話ししていても思ったんですが、本って……映像がないので、読んでいる人によって見ているものが違うんですよね。作者の話を読んでいるようで、実は自分の人生を思い返しているというか。だから自分も本が好きなんだなと思うんですけど。

――確かにいろいろな読み方がありますよね。小林さんと同じ年齢の、この記事の担当編集者は、会社でのポジションを小林さんに重ねて読んで「選択し続けることの覚悟や努力にぐっときたし、逆にそれが伝わり過ぎてつらくなった部分もありました」と話していました。

小林:そうやって読んでもらえるのも嬉しいですね。

自分がどういう人間か、決めるのが怖いのかもしれない

小林直己さん

――もう1つ興味深かったのが、自分と向き合って誠実に書かれている中でも、「どういう性格か」を言葉にしたり、「こういう人間」だとご自分を具体的に形容したりする部分がほとんど見られなかったことでした。

小林:もしかしたら自分が何者かということを決めて、言えないのかもしれない。それを言うために書いたり、踊ったり、芝居をしているのかも。いや……決めるのがただ怖いだけかもしれませんね。自分の可能性を閉じてしまうような気がするから。でもこの本を書いたことで、それはただの甘えだったと気づきました。言い訳をして、そこから動いていないだけだったんですよね。先ほども言いましたが、元々書こうとしていたものからどんどん変わっていったので、事実と違っていることとか、今の考えとは真逆の考えも書かれているところもあります。でも書き直さないで、その時本当に感じていたことをそのまま載せようと決めました。そうすることで何かに向かって一歩進めているんじゃないかと信じて……。この本を一つの区切りだと感じていますし、書き切ったことによって、これから自分がどういう人間なのかを言葉にしていけたらいいなと。

――本当に大きな変化を体験されたのですね。

小林:変わったなと思います。いろんな人と一緒に物を作ったりしながら影響を受けたいし、与えたいと思うようにもなりました。今までは普遍性があるものが好きだったんですが、それも変化が怖いからだったんだなと。それを認めたうえで、何かやってみようと思っています。正直に言ってしまえば……今、思春期が来ているということなのかもしれません。

――今思春期が来るのも、それをご自分で認めて口に出せるのも、素敵ですね。

小林:いやー、今ギリギリ言えましたね。……ギリギリということは、やっぱりまだ思春期を脱ぎ捨て切れていないんだな(笑)。

〈プロフィール〉
小林直己:1984年千葉県出身。2009年EXILEに加入、活動を続けながら2010年に結成された三代目 J SOUL BROTHERSにリーダーとして参加。俳優としても活躍、Netflixオリジナル映画『アースクエイクバード』、映画『その瞬間、僕は泣きたくなった-CINEMA FIGHTERS project-「海風」』等出演。2020年YouTubeチャンネル「Naoki’s Dream Village」を開設した。

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