『アイドルマスター シンデレラガールズ』の10年を語る(クリエイター編):作詞家・八城雄太インタビュー

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公開日:2021/12/24

2021年、『アイドルマスター シンデレラガールズ』がプロジェクトのスタートから10周年を迎えた。10年の間にTVアニメ化やリズムゲームのヒット、大規模アリーナをめぐるツアーなど躍進してきた『シンデレラガールズ』。多くのアイドル(=キャスト)が加わり、映像・楽曲・ライブのパフォーマンスで、プロデューサー(=ファン)を楽しませてくれている。今回は10周年を記念して、キャスト&クリエイターへのインタビューをたっぷりお届けしたい。クリエイター編の第1弾に登場してもらったのは、プロジェクトの初期から『シンデレラガールズ』を歌詞の面で支えてきた作詞家・八城雄太氏。「アイドルたちに寄り添う」ための極意と、多くのプロデューサーを熱狂させてきた楽曲の歌詞について、詳しく話を聞かせてもらった。


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プロデュースをしてあげないと、アイドルたちは輝けないんですよね。輝くために何が必要なのかを考えることが、すごく好きです

――まずは、八城さんの経歴を教えてください。

八城:2010年にバンダイナムコゲームスに入社しまして、最初はゲームプランナーでした。そのときに、当時のディレクターさんから、『シンデレラガールズ』で急遽CDを出すことになったけど、社内作詞家が足りてないから、双葉杏と渋谷凛の曲を試しにやってみないか、とお声をかけていただいて。どちらも共作でしたが、やってみたら採用された、というのがきっかけです。それが2012年あたりで、そこから『シンデレラガールズ』には作詞家として関わってきて、2015年に退社しました。その後別のゲーム会社を経て、3年前に独立して、今はフリーの作詞家・シナリオライターとして生きています。

――作詞はもともとやりたいこと、得意なことだったんですか?

八城:学生時代に自主制作で楽曲を作っていましたが、それを仕事にしようとは思っていませんでした。当時は浮ついた大学生で、楽しいことがしたい、ゲームが好き、じゃあゲーム会社だ!くらいのノリで、バンダイナムコに入った感じです。当時クリエイターとしては素人同然でしたが、業務の中で『アイドルマスター』の作詞や、ゲームのシナリオに関わることになり、そこからきちんと勉強し直しました。シナリオライターと作詞家としてのキャリアは会社に入ってからになります。

――『シンデレラガールズ』は10周年を迎えましたが、八城さんは2012年から関わっていて、まさに初期から携わっていますよね。10周年には、どんな感慨がありますか。

八城:ほんとにあっという間でした。私のキャリアのきっかけをくれたプロジェクトに、今も制作に携われているって、なかなかないことだと思うんです。プロジェクトが10年続くのもレアだし、そこにいちクリエイターとして10年関われるのも奇跡ですよね。幸福感と、感謝の気持ちでいっぱいです。これからも長く続くように、自分の力を発揮できたらいいな、と思います。

――キャストさんもクリエイターさんも『シンデレラガールズ』に関わる人の熱量は、10年経っても持続している、むしろ熱量が増してる印象がありますが、なぜ『シンデレラガールズ』は関わる人を熱くさせるんだと思いますか。

八城:歴史が積み重なっていることが理由の一つと感じます。たとえば、最近新しくボイスがついた3人組のユニット曲を書かれた方って、おそらく若い人なんじゃないかと思っていて。その方が20代だったとして、11年前は10代。そんな多感な時期に『シンデレラガールズ』に触れていたのかな、と。そういう方が、「憧れのコンテンツに曲を書けて嬉しいです」ってツイートをされていて。自分が作ったものが残っていって、それが誰かの希望や憧れになる。その人たちが『シンデレラガールズ』を盛り上げるために、熱い気持ちをぶつけてくれる。ひとりひとりの熱量には波があると思いますが、その瞬間その瞬間で波が高い人たちが入ってきてくれることで、全体として熱量が維持されているんだと思います。

――八城さん自身のクリエイティブと『シンデレラガールズ』は、どのような面でフィットしていると思いますか。

八城:『シンデレラガールズ』の特徴は「いろんな人がいて、それぞれでいい」ということだと思っています。多様性という言葉がありますけども、いろんなアイドルがいるから、いろんな人たちに愛されているんだと感じます。プロデューサーさんは、アイドルひとりひとりを人格を持った存在として見ていると思うし、私自身もそう感じています。ひとりひとりに人生があって、それぞれの持ってる葛藤や叶えたい夢、あるいは各自の強みがある。でも、プロデュースをしてあげないと、その子たちも輝けないんですよね。じゃあ輝くために何が必要なのか、それを考えることが、すごく好きです。アイドルたちが必要としていること、武器がほしいアイドルたちと、それを見つけて提供したい気持ちがある自分がマッチングしているから、続けていて楽しいのかなと思ってます。

――個性が違うアイドルがいる中で、そのひとりひとりに寄り添うための秘訣と極意はどういうことになりますか?

八城:まずはその子自身の気持ちになって――というか、その気持ちをよく観察して、セリフやイラストやエピソードを紐解いて、つまりは彼女ってこういう子なんだな、と掘り下げてあげる。もうひとつは、その子を応援してくださっているプロデューサーさんが、その子をどう見てるかをちゃんとチェックする。どういう文脈でその子が受け入れられているか、ですね。さらにその輪を少しでも広げるための要素として、今はまだ世に届いていないストロングポイントがどこにあって、どういう見せ方をすると、今はまだリーチしてない人に届けられるのかを考える。これが、私なりの「寄り添う」です。

私を作詞家にしてくれた、作詞家というアイデンティティを与えてくれたのが、『シンデレラガールズ』

――これまでに制作した歌詞に寄せられたプロデューサーさんのリアクションで、嬉しかった言葉はありますか。

八城:基本的には、すべての言葉が嬉しいです。「この歌詞をこの子にくれてありがとう」「この子の個性をこんなふうに表現できるんだって、ちょっとハッとした」「この面がいいと思ってたけど、別の面から見てもめっちゃいいじゃん」と思ってくれる人がいたら、その曲で私が実現したいコンセプトがちゃんと届いているということなので、とても嬉しいですね。

――その意味で、特に手応えを感じた楽曲は?

八城:印象に残っているのは“谷の底で咲く花は”という白菊ほたるちゃんのソロ曲です。私はそれまでパワフルな曲だったり、明るい曲、かわいい曲が多かったのかな、と思うんですけど。そのアプローチだとたぶん、彼女のよさが出ないな、と思って。そこで、悲しい童話のようなタッチで、絶望の中でも細やかな希望があるけど、その希望さえも、本当に希望なのか絶望なのかわからないという、彼女の不幸さにフォーカスした歌詞にしました。不幸な子に不幸な曲を歌わせるって、酷なことじゃないですか。彼女は幸せを願う子なんだから、幸せな曲を歌わせてあげればいいはずですけど、私がそうしなかったのは、彼女のよさって、不幸や困難があっても幸福を信じて、願いながら進んでいく強さだと思うんですね。ということは、その前提となる不幸をちゃんと描いてあげないと、わかりやすく伝わらないだろうな、と。この曲は自分なりにも挑戦でしたし、プロデューサーさんの反応が特に気になりました。

――タイトルも八城さんが?

八城:そうです。

――今のお話を聞いて、素晴らしいなって思いました。文字にしたらたった8文字で、白菊ほたるの人物像を言い当てている感じがしました。「谷の底」で絶望、「咲く花」で希望と、両方を8文字で表現してしまうという。

八城:ありがとうございます(笑)。なんか、ちょっと野暮かもですけど、「咲く花は」のあとは語られていんですよね。曲の中でもそう。「咲く花」がどうなっていくのかは、これから先のプロデューサーと白菊ほたるちゃんのアイドル活動次第ですよ、というメッセージも込めて、エールとしてつけたタイトルです。

――new generationsの3人の最初のソロ曲も、八城さんが歌詞を書かれていますね。

八城:“S(mile)ING!”は、私が単独名義で書いた初めての曲でした。だからめちゃくちゃ肩の力が入っていて、センターの子のソロ曲だなんて考える余裕がなかったです(笑)。特に当時は、島村卯月さん以上に、もっと個性が尖った子たちに注目が集まっていて、従来のアイドルらしいアイドルの卯月は、その陰に隠れがちだったような気がしていました。だから、卯月の個性がどういうものなのか、誰もわかっていなかったんじゃないかと思うんですよ。

――のちにTVアニメで卯月が悩むことになる話を、10年近く前にとらえていたわけですね(笑)。

八城:(笑)“S(mile)ING!”の歌詞は、わりとスッと出てきた気がします。彼女は普通の子で、まわりに目立っている人もたくさんいる中で、ただただ頑張るしかできない人の大変さは、すごく共感できる部分でした。それって、アイドルとして普遍的なテーマでもあると思うんですよね。私が経験してきた苦労と自身を普通の人間と思う人の苦労が適度にマッチして、でき上がったものなんだろうなと思います。本田未央の場合は友情がキーワードだな、と思いました。“ミツボシ☆☆★”は最初からニュージェネの3人を意識した曲になっていて、結果その3人の友情ストーリーがアニメで展開されていくのを見て――要は私が書いたものが伏線になって、エモさが爆発しているのを見て、アニメってすごいなって思いました(笑)。

――卯月とは逆に、双葉杏はキャラの濃いアイドルですが、“あんずのうた”はバチバチに攻めている曲ですよね。八城さんのTwitterもうさぎの写真になっているし、少なからず思い入れのある楽曲ではないかと思うんですけども。

八城:はい(笑)。圧倒的知名度を与えてくれた曲だと思います(笑)。八城雄太と名乗っても「誰?」って感じでも、「『シンデレラガールズ』で“あんずのうた”を書いた八城雄太です」って名乗ると、「ああ、あの」となって、自己紹介がしやすくなりました。杏自体も、「脱力系アイドル」という存在はみんなが面白いと思っていたけど、彼女がどういうステージングをするのかは、たぶん誰もが想像できていなかった部分だと思います。でも、“あんずのうた”を作ったことで、杏ってこういう人間で、こんな価値観や楽しさをみんなに届けてるんだよ、というメッセージが届いたと思っていて。私自身にとっても名刺代わりというか、ステージパスを手に入れた、みたいな感じです(笑)。

――“あんずのうた”が大きな存在になって、杏ソロの2曲目“スローライフ・ファンタジー”も八城さんが担当されていますよね。作曲は田中秀和さんで、以前お話を聞いたときに「どういう曲を書けばいいかわからなくなった」とおっしゃっていました(笑)。

八城:(笑)2曲目も歌詞を書いてよと声をかけていただいた時には、作曲が田中さんになることも決まっていたんですね。それでデモを待っていたら、「田中さんが曲の方向性に悩んでいる」と連絡をいただいて、パセラで打ち合わせをしたのを覚えています。そこでお話ししたのは、1曲目の“あんずのうた”がニートアイドルを面白おかしく描いた楽曲だったけど、2曲目は杏の神秘的な部分にフォーカスした曲がいいんじゃないか、ということです。ある程度絵のイメージがあったんです、妖精なのか精霊なのか大天使なのか。というのも、杏はアニメを経てすごく成長して、達観してる部分、超越的な価値観や思考を持っているから、大きく構えられる側面が描かれていたんですね。「サボるぞ~!」じゃなくて、「いいんだよ、放り投げて」って。その打ち合わせの後に田中さんから上がってきた曲が、“スローライフ・ファンタジー”でした。

――さらに楽曲の話をお尋ねすると、これまでのキャストインタビューでは“ガールズ・イン・ザ・フロンティア”がよく話題に挙がっています。音源に参加していない人も、ライブで歌えて嬉しかったとか、受け取ったときに泣いてしまった、など、エモい話もたくさん出ていまして。

八城:ありがたいです。この曲はデレステ(『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』)3周年の楽曲で。1周年、2周年、3周年と担当しましたが、毎年テーマをいただいてました。3周年は「挑戦」で、「未知なる領域に踏み込んでいくぞ」という感じですね。メッセージとしては「旧来の価値観を引きずり続けることは幸せにつながらない」ということだと思います。自分の考えですが、何かの規模が大きくなればなるほど、人は自分で何かを変える意志を持たなくなって、盲目的に前例に従ったり、上の人間や体制をフォローしていくようになりがちです。でも、自分の想いを持って何かを成し遂げるには、自分の足で踏み出していかないといけない。熱い愛を持って発信して、行動に移すことが大事なんだって――そのときの私は、たぶん何かに怒りを持っていたのかもしれません(笑)。

――『シンデレラガールズ』のクリエイターさんのインタビューでは、過去にも「このアイドルのソロをやってみたい」と発言したことが言質になってその後発注が来る、ということがあるそうですが、八城さんもぜひ表明してください(笑)。

八城:難しいですね(笑)。ただ私は、キュートとパッションのアイドルのソロ曲を書くことが多くて――だから、新田美波さんですかね(笑)。クールのアイドルって、手が届きにくい高嶺の花な印象があって、私なんかが近寄っちゃいけないって、今までずっと思っていたんです。ちょっと気持ち悪い話なんですけど(笑)。でも、私も10年歳を重ねてきて、今なら臆せずクールのアイドルさんたちと接することができるかなと。なぜ新田美波を挙げたかというと、カッコいい曲や壮大な曲みたいな楽曲を歌うイメージが強くて、「新田美波は女神のように神々しい」というイメージが自分の中にはあるんですけど、素の状態は性格が良くて賢くて、明るいお姉さんですよね。そういう方向のさわやかさにフォーカスした曲があってもいいのかな、なんて勝手に想像しています。新田さんの3曲目は、想像する余地がいろいろあるし、やりがいがありそうだな、と思います。

――最後に、『シンデレラガールズ』というプロジェクトがクリエイターとしてのご自身にどんな影響を与えてくれたと思うか、を聞かせてください。

八城:やっぱり私を作詞家にしてくれた、作詞家というアイデンティティを与えてくれたのが、『シンデレラガールズ』です。『シンデレラガールズ』に、作詞者として育ててもらったので、そこで得たものを通じて今後も恩を返して、共存共栄できたらいいな、と思います。『シンデレラガールズ』はとても素敵なプロジェクトですし、そこに関わることで育まれた価値観を、どんどん外にも発信していきたいと思っています。『シンデレラガールズ』は、作詞家としての私の土台のすべてを作ってくれたプロジェクトです。

取材・文=清水大輔

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