『takt op.Destiny』コンダクター座談会! 内山昂輝×日野聡×浪川大輔×花輪英司

アニメ

公開日:2022/1/8

takt op.Destiny
TVアニメ『takt op.Destiny』 (C)DeNA/タクトオーパスフィルハーモニック

 クラシック音楽から生まれた少女「ムジカート」と、彼女を指揮する「コンダクター」。音楽が禁じられた世界で、両者がパートナーとして戦いを繰り広げるTVアニメ『takt op.Destiny』が、ついに終幕を迎えた。コンダクターとしてそれぞれの旋律を奏でた4人の声優陣が、壮絶な戦いと激動のドラマを振り返る。

――『takt op.Destiny』は、ベートーヴェンの「運命」をはじめ、クラシック楽曲の力を宿した少女「ムジカート」たちが戦う物語です。はじめにこの企画を聞いた時の感想をお聞かせください。

内山 僕が最初に聞いたのは、ゲームとアニメで展開されるプロジェクトだということでした。企画書を読んだら、女性キャラクターが前面に押し出されていたので、「アニメはハーレムものになるのかな。そういう作品、久しぶりだな」と思っていたんです。でも、いざ始まってみたら意外と硬派で、ロードムービーでもあり、旅の中では様々なドラマが展開されて。事前の予想と全然違いましたね。

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日野 僕も、ゲームとアニメがあるという話をうかがっていました。壮大なストーリーだなと思いつつ、その時点では自分の役どころがまだわからなかったんです。

浪川 蓋を開けたらレニーだったんだ(笑)。

日野 そうなんです(笑)。

浪川 僕の場合、音楽や指揮者というモチーフを聞いて、上品な作品なのかなとイメージしていました。でも、実際は激しいバトルが始まったので、ギャップを感じました。役どころも、最初は「参謀の役です」って話だったんですよ。「主人公チームの参謀かな。長く活躍しそうだな」と思っていたら、全然違って(笑)。登場した時から「あ、これは雲行き怪しいな」と多少予想していましたが、最後まで抗って爪痕を残そうという気合で臨みました。

花輪 私の場合、事前にいただいた資料が、キャラクターのイラストだけだったんです。このところおじさんばかり演じていたので、久しぶりにきれいな顔の人だな、と(笑)。あまりに久しぶりで、ちょっとプレッシャーを感じましたね。

――みなさん、最初に抱いていたイメージからギャップを感じたようですね。演じたキャラクターの印象はいかがでしたか?

内山 タクトは音楽を愛するあまり、身の回りのことや日常生活には無頓着な人。アンナやコゼットといった家族のような存在に頼り切って生きてきたんだなと思い、そういうイメージで演じました。

日野 レニーは、次にいただいた資料がキャラクターの絵で。「ああ、ワイルドなおじさまなんだな」と思ったら……。

浪川 だいぶ違うよね、印象が(笑)。

日野 口調がとても特徴的で、「あ、そっちか……」って!? でも、女性的ではあっても決してオネエさまではなくて。口調もワイルドな印象を強く出すか柔らかくするかで、収録前にディスカッションさせてもらいました。父性と母性を兼ね備えたキャラにできたらいいなと思いましたね。

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浪川 上手に言ってるけど、癖が強いキャラってことだよね(笑)。

日野 端的に言うとそうです(笑)。でも、シントラーも癖が強いですよね。

浪川 いやいや。シントラーはザーガンの右腕なんです。でも、タクト君の言動がいちいち癇に障るんですよ。タクト本人はしれっとしてるのに、こっちだけイライラしていて。しかも内山昂輝が言うんです、「浪川さん、いつも怒ってますね」って(笑)。

内山 昔共演したときのキャラクターの印象が強かったのかも。

浪川 この流れをなんとか断ち切りたいと思いながら頑張りましたが、闇に落ちていきました(笑)。

花輪 ザーガンは、最初に作ったイメージのまま最後までやりきったキャラクターでしたね。大きな感情のブレもなく、最初から出来上がっていたキャラクターという印象。途中で何か盛り込もうとしても、「そんなに悪っぽくしなくていいです」って。途中で明かされる情報もありましたが、それは多少匂わせるくらいで、キャラクターの横に付け足していくような感じで演じていきました。

――ムジカートは「運命」「巨人」といったクラシックの楽曲をモチーフにしていますが、実はコンダクターにもモデルやモチーフがいるそうです。収録時には知らされず、今日の対談前に初めて明かされたようですね。それを知った感想はいかがでしょうか。

内山 収録の時から「朝雛という名字は、ある実在の指揮者にちなんでいる」と、なんとなくうかがっていました。でも、だからこういう風に演じた、ということはないんですけども。あと、先ほどいただいた資料だと、性格はベートーヴェンもイメージにしているそうですが、これは初耳でしたね。自信家で傲岸不遜だったらしいんですが、最近はミュージシャンの性格や素行が問われる時代なので、もし現代の人だったらネットで叩かれそうですよね。

日野 そうかも(笑)。レニーも、制作過程で影響を受けた方がいるというのは聞いていたんです。レナード・バーンスタインさんという明るい方だったそうで、そこは役柄の参考にしてほしいと言われました。それ以上の情報はさっき知ったのですが、得意なレパートリーはマーラーらしくて。なので、マーラーの「巨人」=タイタンが相棒なんですね。あとついさっき知った情報で、レニーの首元のタトゥーはハ音記号で、ヘ音記号とト音記号の中間に位置する音域であり、レニーの中立性と博愛精神を示しているという設定だそうです。

浪川 全然知らなかった!

日野 チェロ奏者なのは、メロディと伴奏どっちも弾けるし、後ろから抱きしめるように楽器を弾く愛の使者だからだそう。レニーの口調、包み込むような優しさの由来がわかったような気がします。

浪川 シントラーは、第8話で左手の指をこするカットがあるんですよ。弦を押さえる楽器をやっていた人は、左手の指にタコができるらしくて。ということは、シントラーもかつては演奏家だったってことですよね。でも、おそらく志半ばで挫折した。なるほど、そりゃタクトを敵視するわけです。

花輪 ザーガンは、ベートーヴェンを支援していた貴族がモデルらしいですね。ベートーヴェンからいくつか曲を献呈してもらい、そのひとつが「運命」だったとか。「タクトのムジカート『運命』は、本来ザーガンが手に入れるべきものだったのかもしれません」という資料を読んで、「ああ、なるほどな」と思いましたし、ドラマチックなものを感じました。そういう視点でもう一度アニメを観直すのも面白いかもしれないですね。

運命、巨人、地獄――ムジカートとの多様な関係性

――コンビを組んだムジカートとの関係性については、どう捉えていますか?

内山 タクトと運命は急造コンビですよね。大惨事が起きて、いきなり危機的状況に押し出されて、その結果ふたりがコンダクターとムジカートに変化して。コンダクターとしては初心者なのに、いきなりクライマックスの状況に放り出されてしまいます。運命も、コゼットとは似て非なるキャラクターなので、タクトとしてはどう接していいかわからない。ふたりが心を通じ合わせていくこと、ふたりの成長そのものが、ドラマの柱のひとつだったなと思います。

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日野 そんなタクトとコゼットを、師匠のように導くのがレニーとタイタンですよね。登場した時から、信頼関係が深く築かれたふたりです。百戦錬磨のコンビですし、人間的にも成熟した大人。タイタンは見かけこそ子供っぽくてかわいらしいんですけど、精神面はすごくしっかりしているんですよね。そういう意味でも、タクトと運命の指針となるようなコンビだったなと思います。

浪川 シントラーは地獄というムジカートを指揮するんですけど、地獄ちゃんを扱うのはかなり難しいのかな、と。味方にすれば心強いんですが、キャラクター紹介に「戦いを好み、闘争と悦楽の渦に共に墜ちていける相手を常に求めている」と書かれているとおり、もうヤバイやつなんです(笑)。痛みも好きだし、人をいたぶるのも好きな子なので。「……すごいな」って思いながら見てました(笑)。

日野 (地獄役の)上田(麗奈)さんが、またいいんですよね。

浪川 真逆だもんね、ご本人は地獄感がまるでないから。これが声優さんの面白いところ。すごいですよ、上田さんの地獄は。

花輪 誤解を招きそうな言い方(笑)。

浪川 ちょっと狂気じみたところを、すごく上手に表現されていて。戦いの最中も、笑っているんです。逆にシントラーに聞いてみたいくらいです、「今、地獄のこと、どんな気持ちで見てる?」って。コンダクターなんだけど、ムジカートに振り回されるようなところもあって、そういう意味でも面白いパートナーでした。

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花輪 ザーガンは、実際にコンダクターとして指揮するシーンがなかったんですよね。ムジカートを従えてはいましたけど、ザーガンが何をするでもなく彼女たちの意思で戦っていたので。だから、一緒に戦ったというよりは、「お願いしますよ」とすべてムジカートに任せて見守っていた感じ。本当は、指揮棒を振って「行け!」ってやりたかったんですけど。

浪川 シントラーは「行け!」って言ったまま、「ザーガンさん、あとは頼みます」って廃人みたいになっちゃいましたけど。あの後、どうなったんだろう。

日野 レニー側の陣営で保護してましたよ。

浪川 あ、そうなの!? よかった!

世界に危機が訪れた時、人はどう立ち向かうべきか

――終盤では、タクトとシントラー、レニーを交えたタクトとザーガンの戦いになだれ込んでいきます。まさに怒涛のクライマックスでしたね。

日野 レニーとしては、やっぱり第10話が印象的でしたね。タイトルも「レニー」でしたし、レニーとタイタンの出会い、レニーの師匠であるタクトのお父さんとのエピソードも語られて。「レニーという人物はこうして形成されてきたのか」と深く掘り下げられた回でした。コンダクターとして、音楽家としての生きざまを全部ぶつけられたんじゃないかと思います。

内山 タクトにとっても本当に大きな喪失でしたね。長い年月を一緒に過ごしたわけではないものの、密度の濃い交流だったので。その一方で、タクトも自分の体の変化に見舞われて。精神的にも肉体的にも疲労困憊の中、いつのまにか最終決戦に突入していったという感覚でした。

花輪 私が初めてレニーを見たのも第10話なんですよ。その分、過剰な思い入れがなく、非情に切り捨てることができました。ザーガンというキャラクターを深めるという意味でも、重要な回でしたね。ザーガンは、完璧だからこそ誰からも意見されなくなってしまった人物です。そこが大きな欠点でしたが、最終話ではそこにタクトが斬り込んできたんですよね。

内山 タクトからすると、ザーガンの思想を受け入れることはできないし、戦わねばならない相手だと直感的に思ったんでしょう。でも、最終決戦のように対峙したものの、そこでバチバチにやり合うかというとそうでもなくて。

花輪 対立とは、また違うんだよね。

内山 僕は、もっとタクトがザーガンの考え方を変えようと説得する雰囲気がいいのかと思って、テストで熱く演じたんですけど。でも、「そんなに熱くならなくていいです」と演出されたので、少し抑えて、自分の思いをシンプルに伝えるように演じました。

花輪 だからこそ、ザーガンの心に刺さったんじゃないかな。

内山 独自な終わり方でしたね。

浪川 ザーガンって感情があるのかないのか、わからないんですよ。

内山 典型的な悪役らしく声を荒げることもありませんしね。狂気的な人物で。

日野 レニーのことも親友って言ってくれたけど、心がないから信用できない(笑)。「シントラーと同じように、私のことも切り捨てるんでしょう?」って。

花輪 崇高な理想を掲げているし、そこに説得力もある。でも、感情的には納得できない人も多いので、対立する人が増えてくるということなのかなと思いますね。

――最後に、全12話を終えての感想、そしてこの作品のアピールをお願いします。

花輪 バトルシーンにクラシック音楽がかかるアニメは珍しくありませんが、日常シーンでもクラシックが流れたり、主人公の演奏シーンがあったり、全編にわたってずっと音楽が流れているのが新鮮でしたね。音楽を聴くのもひとつの楽しみでした。映像に関しては、一視聴者の立場で「今のアニメ、すごいな」と思いながら観ていました(笑)。

内山 バトルシーンは本当に全編通して見ごたえがありましたよね。スタッフの方々の熱く丁寧なお仕事を感じました。

浪川 バトル中の表情も、こだわって描かれていました。

花輪 演奏シーンも素晴らしかった。ピアノのハンマーまで動いていましたから。

日野 音楽の偉大さも、あらためて感じました。レニーが第4話で「音楽はみんなに幸せをもたらすもの」と言いましたが、この作品の根底にあるのは「音楽=平和」という思い。音楽を通して人とのつながりを感じたり、音楽が心の痛みを和らげてくれたり、明日への希望になったりする。「音楽を奏でられる平和な世界をみんなで作っていこうよ」という現実世界へのメッセージも込められた作品だなと最後まで演じて強く思いました。

浪川 今の日野君の話を聞いて、音楽って潤滑油なんじゃないかと思いました。さっきラストについて話しているのを聞いて、ザーガンって超優秀なビジネスマンなんだなと思ったんです。タクトが新入社員で、レニーは主任。同じ会社にいたら、ザーガンのやり方に「それはおかしいですよ」と言ってくる生きのいい若者の立場じゃないかと。

日野 現場と経営者の違いですね。

浪川 そう。だからこそ、胸がキュッとなりました(笑)。どっちの言い分もわかるけれど、どうしても両者にわだかまりができてしまうんです。そんな時、考えが違う人たちの潤滑油となってくれるのが、音楽だと思うんです。それくらい、音楽ってすごい力を持っているんです。見方によっては深いな、と。いろんな見方ができる作品なので、自分なりの楽しみ方を探してもらえたらうれしいです。

内山 リアルタイムで毎週追いかけるのはもちろん楽しかったと思いますが、オリジナル作品なので、最終回を観終えてからまたじわじわと違う魅力が感じられることもあるかなと思います。タクトとザーガンの考え方の違いもそうですし、世界に危機が訪れた時、人々はどうやって協力して立ち向かっていくべきかという問題もそうですよね。それだけでなく、クラシックにまつわる小ネタ、楽曲に込められた思いをひもとく楽しさもあると思います。これからもひき続き楽しんでいただけたら嬉しいです。

取材・文:野本由起 写真:山口宏之 (c)DeNA/タクトオーパスフィルハーモニック

 

内山昂輝
うちやま・こうき●1990年生まれ。埼玉県出身。劇団ひまわり所属。主な出演作品にゲーム「キングダムハーツ」シリーズ(ロクサス役)、アニメ『機動戦士ガンダムUC』(バナージ・リンクス役)、『呪術廻戦』(狗巻 棘役)、『月とライカと吸血姫』(レフ・レプス役)、映画『エターナルズ』(ドルイグ役)など。

日野聡
ひの・さとし●サンフランシスコ出身。アクセルワン所属。主な出演作品に『オーバーロード』(アインズ・ウール・ゴウン/モモンガ役)、『鬼滅の刃』(煉獄杏寿郎役)、『ハイキュー!!』(澤村大地役)、『弱虫ペダル』(新開隼人役)、『バクマン。』(高木秋人役)など。

浪川大輔
なみかわ・だいすけ●1976年生まれ。東京都出身。ステイラック所属。子役時代から声優として活躍。映画「スター・ウォーズ」シリーズ(アナキン・スカイウォーカー役)、アニメ『機動戦士ガンダムUC』(リディ・マーセナス役)、「ルパン三世」シリーズ(石川五ェ門役)など出演作多数。

花輪英司
はなわ・えいじ●山梨県出身。ケンユウオフィス所属。映画『エターナルズ』(デイン役)、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』(ジョン・スノウ役)、ゲーム『Detroit: Become Human』(コナー役)などメディアを問わず幅広く活躍。



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