「メフィストリーダーズクラブ」は、小説誌『メフィスト』のブランド力が凝縮された読書クラブ──有栖川有栖インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2021/12/28

森博嗣、舞城王太郎、辻村深月、西尾維新──。多くの才能を世に送り出してきた文芸誌『メフィスト』が、2021年10月に新たな形に生まれ変わった。それが、会員制読書クラブ「メフィストリーダーズクラブ」(以下〈MRC〉)。会員になると、小説誌『メフィスト』が年4回自宅に届くうえ、オンラインイベントへの参加、限定グッズの購入など、さまざまな特典がある。現在、小説誌で連載されているのは、五十嵐律人『幻告』、島田荘司『ローズマリーのあまき香り』、辻村深月『罪と罰のコンパス』、西尾維新『掟上今日子の忍法帖』、森博嗣『オメガ城の惨劇 SAIKAWA Sohei’s Last Case』という、豪華作家陣の書き下ろし。これらすべての作品を年額5500円、月額550円(ともに税込)で読めるのだから、謎とミステリーを愛する本好きは見逃せない。

そんな〈MRC〉を応援し、さまざまな形で協力しているのが有栖川有栖さん。綾辻行人さんとのオンライントークイベントに出演したほか、2022年からは『メフィスト』に国名シリーズの新作を連載する予定だ。そんな有栖川さんに、『メフィスト』についての思い出、〈MRC〉に期待することを語っていただいた。

(取材・文=野本由起)

有栖川有栖

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「自宅に本が届くというのは、サンタクロースがプレゼントを投げ込んでくれるような楽しさがあります」

──小説誌『メフィスト』は、1996年に創刊されました。有栖川さんは、いつ頃から『メフィスト』と関わりがあるのでしょうか。

有栖川:かつて『メフィスト』は、『小説現代』臨時増刊という形で刊行されていました。その頃から短編を書かせていただいていたので、もう思い出せないくらい長いお付き合いです(笑)。リニューアルした『メフィスト』にもお声をかけていただき、うれしく思っています。

──さまざまな小説誌がありますが、有栖川さんにとって『メフィスト』はどのような存在ですか?

有栖川:講談社の文芸第三出版部は、新本格ミステリーを世に送り出した部署です。そこから誕生した小説誌ですから、やっぱり特別な位置づけですね。メフィスト賞も創設して、実験的な作品、独創的な作家さんも次々に誕生しました。「ミステリーを動かしている雑誌」だと思っています。

──有栖川さんは、『メフィスト』創刊編集長の宇山日出臣さんとも交流が深かったそうです。

有栖川:宇山さんは型破りな編集長でしたね。私は平成元年1月に東京創元社から単行本デビューしたんですけれど、「こんな本が出ます」と告知された時点で、もう連絡をいただいて。本を読んで「面白かったので声かけました」じゃなくて、「名前が面白いから」とピンときて声をかけてくださったようです。ですから、デビュー直前からの古いお付き合いです。よくわからない新人に連絡してくるのですから、「大丈夫か?」となりましたが(笑)。

──草創期の思い出深いエピソードはありますか?

有栖川:宇山さんから、「今度、文芸第三出版部から新しい雑誌を出すんだけれど、名前は何がいいかな?」と連絡をいただいたことがありました。候補が3つあって、「どれがいいと思う?」と。私は、『メフィスト』ではないものを選びました。「『メフィスト』もいいですが、こちらもいいですね」と。

──ちなみに、有栖川さんが選んだタイトルは?

有栖川:第一候補が『メフィスト』で、ほかに『パンドラ』か『パンドラの箱』のような案がありました。私は「何が飛び出すかわからないということで、この案もいいんじゃないですか?」と、『パンドラ』を推したんですね。もうひとつの候補もありましたが、それは弱いな、と。どんなタイトルだったか、ちょっと忘れてしまいましたが。

──〈MRC〉も、リニューアルに際して小泉直子編集長からアドバイスを求められたと聞いています。

有栖川:早い段階から、「今度こんなふうにモデルチェンジをしようと思っています」とうかがっていました。書店で販売するのではなく、会員になった方に雑誌が届くと聞いて、面白そうだな、と。その頃から興味津々でしたし、今後の展開も楽しみです。

──「面白そう」というのが第一印象だったんですね。

有栖川:雑誌の発売を毎号楽しみにして本屋さんに行くのもワクワクしますけれど、自宅に本が届くというのは、サンタクロースがプレゼントを投げ込んでくれるような楽しさがあります。私が子どもの頃は、町の本屋さんが本の配達をしてくれていたんですね。発売日になると、私や弟あてに学年誌が届き、父親あてに文芸誌が届き、母親あてに家庭雑誌が届く。それが、とてもうれしかったのを覚えています。

──そういえば、かつては学習雑誌が家に届くシステムもありました。ちょっと懐かしくて楽しいですね。

有栖川:「今日はあの雑誌の発売日だ」と楽しみに待つのもいいし、忘れていたけど「あ、来た。今日が発売日だったんだ」というのも、なかなかうれしいんですよ。そういった体験の再現でもあるのかなと思いました。

──『メフィスト』は、書店で販売する紙の雑誌から電子版になり、一度休刊して〈MRC〉に生まれ変わりました。背景には、読書環境の変化もあるのではないかと思います。

有栖川:編集部でも分析・研究なさったのでしょうね。出版物は、より多くの読者に手に取ってもらうために書店に置きますが、〈MRC〉はあえてクローズにしてサロンのような雰囲気を楽しむ場です。そんな雑誌があってもいいだろうなと思います。そもそもミステリーは、謎と秘密を扱うジャンルです。同好の士が集まって「あの本を読んだ。ここが面白かったね」と語らうようなサロン的な性質がありますから、「ちょっとカーテンを閉めますね」とひっそり楽しむのは合っている気がしますね。もちろん、本当にクローズなわけではなく誰でも入れるわけですし、大勢の方に集まっていただきたいのですが、そういうポーズも楽しい。

メフィストVol.1

「小説誌は企画ページが大事。〈MRC〉は、オンラインイベントがその役割を果たしているので『こんなふうに分けるんだ』と驚きました」

──新しくなった小説誌『メフィスト』の感想をお聞かせいただけますか?

有栖川:デザインがすごくしゃれていますよね。猫が好きだからというわけではありませんが、猫はミステリーに似合うし、かっこいいなと思いました。しかも、中身は小説だけという潔さ。ちょっと意外でしたが、「これもアリか」と納得しました。

──有栖川さんは、小泉編集長に対して「文芸誌は小説以外の部分も楽しみだから、そこも大事にしてね」とおっしゃったと聞いています。どのような思いから、このアドバイスを送ったのでしょうか。

有栖川:雑誌には、好きな作家の新作が載っていたり、知らなかった作家の面白そうな作品がポンと提示されたりする楽しみがあります。でも、気になる小説は単行本になってから読むこともできますよね。その一方で、雑誌に掲載されたグラビア、対談やインタビューなどの企画ページが、本にまとまることはほとんどありません。面白い写真が載っていた、インタビューで興味深い発言があった、座談会がすごく盛り上がっていたと知っても、雑誌の現物を持っていなければあとから読み返すことができないんですね。そういう意味では、小説以外の部分こそ雑誌の本体だと思っている人も多いはず。私も、必要に迫られて古い雑誌を探すことがありますが、多くの場合は小説ではなくインタビューなどが目当てです。『メフィスト』も、小説のほかに企画がないと雑誌の楽しさが半減してしまうのではないかと思い、その大切さをお伝えしました。

──〈MRC〉で言えば、オンライントークイベントが企画の部分にあたります。有栖川さんと綾辻行人さんが名作ミステリーについて語る「ミステリー・ジョッキー」は、まさに〈MRC〉でしか見られないイベントでしたね。

有栖川:新しくなった『メフィスト』を読むと、潔いほど小説ばかり。〈MRC〉では、オンラインイベントが雑誌の企画ページの役割を果たしているので、「こんなふうに分けるんだ」と驚きました。私も「ミステリー・ジョッキー」に出演しましたが、このイベントがつまらなかったら大変だなと責任を感じました。綾辻さんも「我々は重責を担っているのではないか」とおっしゃっていました(笑)。

──雑誌ではなくオンラインで対談やインタビューを見られるようになったことで、どのような楽しみが増えると思いますか?

有栖川:ほかの雑誌との差別化ができますよね。雑誌のグラビアで作家の書斎やいきつけの店を見るのも面白いものですが、作家の声が聞けて、動く姿が見られるのは紙の雑誌ではできないこと。よりにぎやかに楽しんでいただけるのかなと思います。

──有栖川さんも綾辻さんも、とても親身になって〈MRC〉を応援されていますよね。オンライントークイベントの出演はもちろん、SNSを通じて〈MRC〉の情報発信もしています。

有栖川:いや、それは逆なんですよ。私のほうこそ、『メフィスト』に応援してもらっている立場。小説を発表する場を与えていただいて、「しっかり書きなさいよ」と応援してもらっているんです。いいものを書かないといけないなと思います。

──有栖川さんは、創作塾の塾長を務めるなど後進の育成にも取り組まれています。ミステリーを盛り上げようという気持ちが強いのかなと思ったのですが。

有栖川:自分の小説を好きになってほしい、私の愛読者になってほしいという欲求ももちろんありますが、ミステリーを好きな人が増えてほしいと、いつも思っています。ミステリー好きが増えれば、ミステリーを書きたい人がどんどん出てこられますし、編集者もミステリーを出版しやすくなります。そういう状況を作ることが大事ではないかと思います。

──そのためには、〈MRC〉のような場も必要というお考えでしょうか。

有栖川:ミステリー専門誌はいくつかありますが、それに限らず、幅広い小説誌や週刊誌にミステリーが載っている状況がまず大事です。今は、ミステリーを読める場もだいぶ広がりましたよね。そのうえで、〈MRC〉のようにミステリーをより濃厚に楽しむ場があるのがいいなと思います。

「国名シリーズの長編を、2022年から『メフィスト』で連載する予定です」

──今後、『メフィスト』で国名シリーズの連載が始まるというお話もうかがっています。

有栖川:そうですね。国名がタイトルについた長編を考えています。ふたつの案があり、今はあっちにしようかこっちにしようか、とふらふら迷っているところなんです。舞台はおそらく京都。2022年から連載を始める予定です。

──連載が始まれば、ますます『メフィスト』が盛り上がりそうです。オンラインイベントに関しては、なにかアイデアはございますか?

有栖川:新刊を発表した作家が、最後まで読んだ人だけを対象にして自作を解説するイベントはどうでしょう。私も講演会で話をすることがありますが、「この本を読んできてください」と言っても、読んでこない方もたくさんいらっしゃいます。そうなると、ネタバレするわけにいかないので、しゃべりにくいんですね。

 でも、オンラインであれば、「ネタバレを含めて全部しゃべります」というイベントもできるはず。「犯人はアイツだったでしょう? 本当はコイツにするつもりだったけど、こう考えてこっちを犯人にしたんです。どうでしたか?」という話もできてしまう。「取材でこんなところに行ってきました」なんて、写真を見せることもできるでしょう。通常のイベントではできないことも〈MRC〉だったら実現できそうですし、メンバーだけが入室して「じゃあ、ここだけの話をしましょうか」とこそこそ盛り上がるのは、この読書クラブに合っている気がします。コロナ禍で人と会いにくくなりましたが、オンラインイベントが増えたことで、今までにない試みもできるようになるんじゃないかと思います。

──まだ創設されたばかりですが、〈MRC〉に期待することはありますか?

有栖川:〈MRC〉は、すでにブランドを確立した『メフィスト』ならではの挑戦だと思います。『メフィスト』は新本格ミステリーとともに歩んできましたし、メフィスト賞という何が飛び出してくるかわからない、ある種「危ない面白さ」のある新人賞もある。そのブランド力、魅力が凝縮されたのが〈MRC〉だと思います。ですから、ほかの雑誌も同じように会員制読書クラブ化できるかというと、それは違うでしょう。すべての雑誌がこの形になったら、それはそれで困りますしね(笑)。「『メフィスト』だからできた」という成功例になれば、面白いんじゃないでしょうか。

──『メフィスト』に限らず、他社の小説誌もリニューアルを遂げています。現在のミステリー業界、ミステリー雑誌をどうご覧になっていますか?

有栖川:雑誌って、作家にとってありがたい媒体なんですね。小説やエッセイとは違う形で発信したい時に、インタビューを受けて話したり、そのテーマを語るのにふさわしいメンバーが集まってタイムリーな話題で盛り上がったりできます。自分が参加するのも楽しいですし、ほかの作家さんのインタビューや座談会を読んで「あの人は、今こんなことを考えているのか」と伝わってくるのも面白い。作家には、雑誌がないと満たされない欲求がありますし、読者もきっとそういう企画を読みたいのではないかと思います。

 昔に比べて雑誌が売れなくなったという現実はありますが、だからと言って「縮小しましょう」「廃刊しましょう」となるのではなく、できることはまだあるはず。雑誌には、時代の空気がパックされていますよね。対談を読んで「ああ、あの作品ってそんなに物議を醸したんだ」とわかったり、言葉遣いや用語が今とは違ったりするのも楽しいじゃないですか。雑誌には面白いことがいっぱい載っているのに、読む人がどんどん減っているのはもったいない。昔のような発行部数に戻すのは難しくても、まだまだ打つ手はあるんじゃないかな。そのひとつが〈MRC〉のやり方。まだほかにもやりようはあると思うので、可能性を模索してほしいと願っています。

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ロシア紅茶の謎 〈国名シリーズ〉 (講談社文庫)

著:
出版社:
講談社
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