「好き」を仕事にできるTikTokの可能性 マンガ紹介クリエイター「ヨル@『漫画が酸素』書店」インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2021/12/28

ヨルさん

 面白い本やマンガと出会うツールとして注目されているのが、ショートムービープラットフォーム「TikTok」だ。数十万人のフォロワーを持つ書籍紹介クリエイターたちは、ユーザーの読書体験だけでなく、作品の人気にも大きな影響を与えている。同時に、TikTokを主戦場として自己実現するクリエイターが多いのも事実だ。そんなTikTokの可能性に注目しクリエイターとして躍進しているのが、マンガ紹介の「ヨル@『漫画が酸素』書店」氏。マンガ紹介サイトを運営していたヨル氏がTikTokの世界に飛び込んだ理由や、自身の考え方に影響を与えた書籍、そして今後の展望まで話を聞いた。

(取材・文=川辺美希)

ヨル氏が選んだ、「自身の考え方に影響を与えた書籍」5選

神之塔

①『神之塔』SIU(※韓国語版のみ)
世界一大好きな漫画で、「自分の人生でこれを超える作品はない!」って思ってます。
漫画に死ぬほどのめり込むきっかけになった作品です。神之塔にハマりすぎて高校受験は失敗しそうになりました(笑)。

斉木楠雄の-ψ-難

②『斉木楠雄の-ψ-難』麻生周一
好きな子にフラれたときに、最新巻が発売されていたので読んだ作品です。
すごく悲しかったはずなのに、作品にものすごく笑わされて、フラれたことがどうでもよくなりました。
「漫画ってやっぱりすごいなぁ」って改めて気づかされました。

人を動かす

③『人を動かす』D・カーネギー
自分の考え方に一番影響を与えた作品です。
この本のおかげで、昔よりも人の気持ちを考えられる人になれたと思います。

仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法

④『仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法』内田和成
論理的思考を身につけることができた作品です。
この本に出会うまで、文系思考で何事も感覚で取り組んでいましたが、ゴールから逆算して論理的に物事に取り組めるようになりました。

⑤今まで出会った全ての作品
何事にも影響を受けやすい体質なので、今まで読んだ作品全てに何かしらの影響を与えられています。
特に漫画は自分とは全く違う人生を歩んでいる人の考え方を知れるので、日々感動してます。

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好きなことを仕事にするためマンガ紹介サイトを立ち上げ

――TikTokを始める前から、『漫画が酸素』書店というメディアを運営されていますよね。このメディアを始めたきっかけは?

ヨル:大学の頃に通っていたビジネススクールで、マーケティングなどを勉強していました。そこで学ぶ中で、自分の好きなことを仕事にしたいと思ったんです。「自分の好きなものってなんだろう?」と考えたら、それがマンガでした。マンガを紹介することで生計を立てたくて、『漫画が酸素』書店を始めました。

――『漫画が酸素』書店のプロフィールによると、これまでメディア運営やライターをされてきたそうですね。今のお仕事は、何がメインになっているのでしょうか。

ヨル:最近まではフリーで仕事をしつつ、知り合いの会社の役員として働いていました。でもTikTokを始めて約10カ月が経って、TikTok関連での収入が増えてきたので、今はTikTokの活動がメインです。

――マンガ紹介サイトで、人生が変わるマンガとの出会いを提供したいともサイトに書かれていました。マンガ業界に貢献して、マンガで幸せになる人を増やしたいという気持ちが大きかったのでしょうか?

ヨル:はい、大きかったです。僕自身、学生時代に勉強で疲れたり、好きな人にフラれて落ち込んだときに、マンガを読んで気持ちを切り替えることができたし、価値観を変えるきっかけもマンガが与えてくれました。自分と同じように苦しい思いをしている人が、マンガで気持ちを立て直してほしいという思いは根底にありますね。

――ヨルさんが、マンガを好きになるきっかけのような作品はあったんですか?

ヨル:『神之塔』というマンガが世界で一番好きな作品なんですけど、それにドはまりしてマンガが大好きになりました。『GANTZ』もマンガにはまったきっかけです。王道の少年マンガも読んできて、めちゃくちゃ面白いと思っていたんですけど、それを超える感動があったのが『神之塔』や『GANTZ』だったんです。マンガが本当に好きで、勉強や仕事のために、マンガを読む時間を削られるのがすごく嫌で。「だったらマンガを仕事にしたら好きなだけ読めるじゃん!」と思って、マンガ関係のサイトを立ち上げました。

――TikTokを始めたきっかけは何だったんでしょうか。

ヨル:SNSで、TikTokを使ってマンガを紹介しているもつもつさんやはなさん(書店員はな)を知って、動画を見たんです。当時、すでに10万人くらいのフォロワーがいらっしゃったんですけど、1分くらいの動画で、10万人に対する影響力を持っていることがすごいな、と思っていて。僕のサイトでは、マンガを4000~10,000文字くらいの文章で紹介しているんですよ。だけどTikTokのクリエイターの方は、1分の動画で、文字数にすると300字くらいの紹介でめちゃくちゃ影響力を持っている。TikTokに興味を持っていたとき、ちょうどTikTokの方から、「TikTokでマンガを紹介しませんか?」って誘われたんです。これはもう運命だと思って、連絡をいただいた数日後にTikTokを始めました。

――動画を発信してすぐ、TikTokの影響の大きさは感じましたか?

ヨル:半年くらいの間は、実感できませんでした。メディア運営もしながら動画制作に時間をかけるのが厳しくて、正直、やめようと思ったことも何度かありました(笑)。

――半年ぐらい経って、具体的に、手応えを感じた出来事はあったんですか?

ヨル:PR案件のお話をいただけることも増えてきて、それが手応えにつながっていきましたね。始めて半年くらいで大きなご依頼をいただけるようになってきて、よりTikTokの可能性を感じました。

――紹介がきっかけで本の重版がかかったというような、いわゆるバズった動画はあったんですか?

ヨル:残念ながら重版されたという報告はまだないんです。でも少し前に、10年ぐらい前から連載が止まっている『預言者ピッピ』という作品を紹介したときは、すごく反響がありました。ピッコマというアプリの検索ランキングの上位にあがってきたので、驚きましたね。自分の紹介で、過去の作品が人の目に触れる機会を作れたことはすごく嬉しかったです。

Twitterの「#今日買った漫画」やGoogle検索で情報収集

――動画で紹介するマンガを選ぶ基準は何ですか?

ヨル:根底にあるのが、自分が人に紹介したいと思えるほど面白かったかどうか、という基準です。それに、設定の面白さやストーリーに意外性のある作品を積極的に選ぶようにしています。そのほうが、紹介がしやすいんですよね。動画では、意外性を伝えるために、特に逆接を意識しています。あらすじを最初に説明して、そこから一気に真逆の展開を伝える感じです。「しかし」とか逆接の言葉を使って、動画の中で強弱をつけるようにしていますね。

――けっこう、破壊的なストーリーのものも多く紹介されていますよね。

ヨル:そうですね。過激なマンガやグロ系の要素を含む作品のほうが、キャッチーに伝えやすいところもありますし、動画を見てくれる方も多かったりします。僕自身、けっこうギャグ系も好きなんですけど、ギャグ系って紹介が難しくて(笑)。ギャグマンガの面白さって、読んだらわかる面白さなので……今は、そういった作品の魅力をちゃんと伝えられないのが悔しいので、もっと努力していきます。

――ヨルさん自身は純粋に、どんなジャンルのマンガが好きなんですか?

ヨル:刺激的な作品が好きですね。やっぱり、日常では味わえない感覚をマンガで味わいたい気持ちがあるので。あとは、SF系やギャグ系、最近では考えさせられるヒューマンドラマや、いろんな価値観に触れるような作品が好きです。

――電子コミックアプリの作品も含めて、たくさんのマンガをチェックされていますよね。その中で、面白いマンガは、どうやって見つけているんですか?

ヨル:日々の情報収集方法としては、まずはTwitterで「#今日買った漫画」というハッシュタグの投稿をチェックしています。その投稿写真を見て、表紙が好きなものをアプリで読んだり、購入して読んだりしています。あとは、スマホに40個くらいマンガアプリを入れているんですけど、その中でも特にお気に入りのアプリ10個くらいを定期的に巡回して、新作マンガや面白いものを探しています。有名漫画家さんの最新作も注目していますね。書店に行くことはあまりなくて、ネットやアプリで探すのがメインです。あとは、Googleで「SF作品 おすすめ」とかで検索しています。

――自分の考え方に影響を与えた書籍として、ビジネス本もあげてくださっているんですけど、ビジネス本もよく読まれるんですか?

ヨル:今は正直、あまり時間がなくて読めていなくて。ただ最近、僕は「TikTok Japan Creator Academy」の対象クリエイターに選んでいただいたんです。TikTokが運営しているクリエイター育成事業で、トップクリエイターの方のセミナーを受けられるんですね。だから今は、そちらで主に学んでいます。

――セミナーでは、どういうことを教えてくれるんですか?

ヨル:TikTokクリエイターの方が登壇して、動画の伸ばし方や、意識していることを毎回、お話ししてくれます。僕はセミナーに参加するまでは、あまり考えもせず、感覚で台本を作って動画をあげていたんです。セミナーでは、最初の2秒間で注意を引くことの大切さや、視聴維持率を伸ばすためのコツなども教えてくれるので、今は、画面や展開を変えたりして、よりユーザーの興味を引ける紹介を意識するようになりました。動画の反響にも変化が表れてきたので、このまま続ければ、より再生回数を増やしていけるんじゃないかと思っています。

自分の好きな作品で社会現象を起こしたい

――仕事や育児、家事をがんばっているビジネスマンや主婦などの大人世代におすすめしたい作品はありますか?

ヨル:白泉社の『人類を滅亡させてはいけません』というマンガはおすすめです。子ども嫌いの男性が、宇宙人の王女を育てる子育てコメディなんですけど、疲れがとれますね。僕もストレスがたまっているときに読んだんですけど、ストレスが全部ぶっ飛ぶくらい面白くて、癒されて、泣けます。王女がかわいくて、最高です(笑)。

――子どもが登場するマンガだと、子どもがいる主婦の方も楽しめそうですね。

ヨル:そうですね。あと、ジャンルはまったく違うんですけど、主婦の方には『金魚妻』という作品もおすすめです。不倫をテーマにした刺激的な作品なんですけど、作者の黒澤R先生が、家事や育児で忙しい方でも読みやすいように、読み切り形式で描いているんです。ちょっとした隙間時間で読めるので、忙しいけどマンガで刺激がほしいという方にはぴったりだと思います。

――ありがとうございます。TikTokクリエイターとしての、近い将来の目標は何ですか?

ヨル:紹介させてもらったマンガの重版を実現したいですね。今まで、100万回とか200万回再生された動画は、「○○なマンガ7選」とか、作品をまとめて紹介する動画で、単体のマンガ紹介でバズったことはほぼなくて。単体のマンガ紹介で、重版のきっかけを作りたいですね。僕は、自分の好きな作品で社会現象を起こしたいと思っているんです。どうにかして『神の塔』で社会現象を起こせないか、考えていますね。けんごさん(けんご@小説紹介)の動画がバズって、プチ社会現象が起きましたけど、世の中に衝撃を与える動画を作るのが目標です。それに今はTikTokに大きな可能性を感じているので、マンガ紹介以外のアカウントも作りたいと思っているんです。具体的に考えているのは、グルメ系やアプリ紹介動画ですね。将来的にアプリ開発をやりたいので、そのときに必要な発信力を確保するために、アプリ紹介アカウントでフォロワーを集めたいんです。ジャンルは違っても紹介動画の方法としてはマンガと同じなので、TikTokで活動を横に広げていきたいと思っています。

ヨル『漫画が酸素』書店さんTikTok
https://www.tiktok.com/@mangasanso

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この記事で紹介した書籍ほか

斉木楠雄のΨ難 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

著:
出版社:
集英社
発売日:

人を動かす 文庫版

著:
翻訳:
出版社:
創元社
発売日: