8人の小説家が仕掛ける、鮮烈なミステリー体験。「さあ、どんでん返しだ。」特別対談⑧(真下みこと×五十嵐律人編)

文芸・カルチャー

公開日:2022/1/15

さあ、どんでん返しだ。
イラスト:石江八

 五十嵐律人、三津田信三、潮谷験、似鳥鶏、周木律、麻耶雄嵩、東川篤哉、真下みこと。8人の小説家による多彩なミステリー作品が連続刊行される講談社の「さあ、どんでん返しだ。」フェアでは、作家同士が互いの作品に抱いた印象や、自らの創作へのこだわりを語りあったインタビューを配信中。8人の作家さんが刊行順に登場して行われてきた対談シリーズは、今回が最終回『あさひは失敗しない』真下みことさんと、『原因において自由な物語』五十嵐律人さんのおふたりの登場です。「仕掛け番長」こと栗俣力也氏がMCを務めたインタビュー、その模様の一部をご紹介します。

さあ、どんでん返しだ。

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若手作家だからこそ、”読みやすさ”については意識しています(真下先生)

栗俣動画のインタビューで、五十嵐先生から『あさひは失敗しない』について非常に的確でわかりやすい感想コメントをいただきましたが、本作品が好きだという気持ちがあふれ出ていましたね。

真下:とても嬉しいです! 実は、五十嵐先生と私は同じ選考のタイミングでメフィスト賞受賞が決まったので、まわりには同期作家だと言い張っています。けれども、五十嵐先生はすでに3作品を出版されていて、どの作品も人気が高い。そんな同期作家の五十嵐先生が書く私の作品の書評をぜひ読んでみたいです(笑)。

五十嵐:ありがとうございます(笑)。実は真下先生とお話をさせていただくのは初めてなので、お話ができて僕も嬉しいです。

栗俣:メフィスト賞の同時受賞者と考えれば、お二人は同期なのですね! 読者のみなさんも、2021年はお二人の作品を一緒にお店で見かけることが多かったのではないでしょうか。書店員としては、お二人を含めた若手作家の作品がここまでクローズアップされる機会は少なかったため、とても印象に残っています。また、お二人の作品は、読んでいると映像が鮮明に頭に浮かぶので、とても読みやすい。だからこそ、お店側もおすすめがしやすいのかもしれませんね。

真下:若手作家だからこそ、”読みやすさ”については意識しています。みなさん、本をお店で購入するとき、買う前にパラパラと数ページ読みませんか? そこで読者の心を掴むことができなければ、その先を読んでいただくことはできません。特に若手作家はほとんどの読者と“はじめまして”というタイミング。最初の数ページでも「この作品・作者、おもしろそうだな」と思っていただくことが大切ですよね。

五十嵐:私も、真下先生と同じように考えています。若手作家は、読者と「この先生の作品は買うべきである」という信頼関係をまだ結べていない状態です。ゆえに、作品タイトルが読者にとっての“作品の1行目”だと思って書いています。そして後に続くプロローグも読者にとっては、「この作品を読むべきかどうか」の重要な判断材料なのですよね。ここにひとつ物語の見せ場を作ってしまうことで、それでも読者の好みと合わなければ仕方がない、というくらいの気概で書いています。

さあ、どんでん返しだ。

(真下さんの作品は)読み進めていくとタイトルの伏線回収が行われ、それに伴い読者の解釈や目線も変化していく。とても魅力的だなと思いました(五十嵐)

栗俣:ありがとうございます。さて、この話の流れで五十嵐先生に、真下先生の作品である『あさひは失敗しない』のタイトルや、導入についての感想を教えていただけますでしょうか。

五十嵐:前作の『#柚莉愛とかくれんぼ』と同様、タイトルがシンプルなのですが、非常に魅力的ですよね。読み始めると「柚莉愛」や「あさひ」が主人公の名前であることがわかり、タイトルの表面的な意味も理解できる。そして、どんどん読み進めていくとタイトルの伏線回収が行われ、それに伴い読者の解釈や目線も変化していく。とても魅力的だなと思いました。

真下:ありがとうございます! 実は、登場人物を決める前にタイトルを考えています。『あさひは失敗しない』については、ふとこのタイトルが思い浮かんで、主人公が「あさひ」に決まり、物語が進みはじめました。偶然に近い感覚です。実際、タイトル以外は自分の手で生み出している感覚はあるのですが、タイトルは考えに考え抜くというプロセスを経て、急にパンッ!と世界が広がるイメージですね。

栗俣:お二人のお話を伺っていると、作品の作り方は違えど、作品づくりの目的地が一緒ですよね。面白い読書体験を提供する。この読者を意識した作品づくりが人気を得ている理由のひとつなのだろうなと実感しました。

対談インタビューの模様は、動画でもご覧いただけます。
TSUTAYA Newsに掲載のインタビューとともに、ぜひチェックしてみてください。

ダ・ヴィンチニュースでは、「さあ、どんでん返しだ。」に参加する8人の小説家への単独インタビューも公開中! 特集はこちら

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