出版社が自らの手で読者に本を販売することの大切さ。コロナ禍でも絶えず続く“BOOKMARKET”

文芸・カルチャー

更新日:2022/1/23

 BOOKMARKET

 昨年12月25日に東京、下北沢にある「ボーナストラック」で、BOOK LOVER’S HOLIDAY with BOOKMARKETが開催された。

 BOOKMARKETは、出版社が直接読者に本を手売りするマーケットイベントで、2009年に第1回が開催されてから毎年開催されてる。2019年には出展社が46社にのぼり本好きに人気のブックイベントとなっている。しかしコロナ禍により2020年は中止。2021年も本来の規模での開催は難しく中止となった。

 しかし、昨年末にボーナストラックで毎月開催されているマーケットイベントBOOK LOVER’S HOLIDAYとのコラボレーションという形でBOOKMARKETが復活した。

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 このボーナストラックは、内沼晋太郎さんと小野裕之さんが共同代表として運営するシェアオフィスやシェアキッチン、小商いの商店など、あたらしい“まち”のスペース。イベント開催日の12月25日はクリスマスともあって、多くの人たちが訪れていた。

 BOOKMARKET

 BOOKMARKETの特徴は、なんといっても本を作っている出版社から読者が直接本を買えることにある。読者は気になった本を手に、その本が出版されるまでのいきさつや本づくりについて、売り子である出版社の人から聞くことができる。また、書店ではなかなか見ることができない出版流通に乗っていない本に出会うことができ、読書だけでなく、本の周辺の奥深いところまで楽しめるイベントだ。

 BOOKMARKET
本について直接出版社の人に質問できるのがBOOKMARKETの楽しさ

 第1回からBOOKMARKETを主催するのは出版社アノニマ・スタジオの安西純さん。

 BOOKMARKETを開催するにいたったきっかけは、2016年まで開催されていた東京国際ブックフェアに出展した際に、出版社が自ら手売りで本を販売することの大切さを知ったからだという。

「それまで出版社と読者が直接会う機会はあまりなかったんです。いまでこそこういったマーケットイベントはたくさんありますが、当時は出版社自らがお店を出して読者に本を販売するというのも珍しかったですね」

 その後、いくつかの出版社に声をかけ、自社の1階にあったイベントスペースで7つの出版社が集まり第1回のBOOKMARKETが開催された。すると多くの読者が訪れ、継続して開催することを決めたという。

 当時から各出版社それぞれが手弁当で準備。告知もそれぞれが行っていて、それは現在も変わらない。

 7社から始まったBOOKMARKETは2019年には出展社が46社に増え、本のイベントとして大きな催しに成長した。

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7社から始まった第1回のBOOKMARKET(2009年)

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46社が出展した第11回BOOKMARKET(2019年)

 自社の本を手売りすることの大切さは、読者の反応がダイレクトにわかることだと安西氏はいう。

「書店で販売いただいている弊社の本は、だいたいが新刊になってしまうのですが、BOOKMARKETでは既刊も含めて並べているので、昔出した本が意外と人気だったり興味を持ってくれたりと新しい発見があります。読者の感想から、意外な読まれ方や使われ方を教えてもらうこともあり、出版社としての今後の企画や増刷の参考にもなりますね」

 また、出版社の名前を知ってもらいファンになってもらうことも大切だという。

「たいていの読者は出版社を意識して本を買うことはそんなにいないと思いますが、本を手に取って『この本はアノニマさんから出していたのね』と出版社に気付いてくれるのが面白いですね。本の作り手である出版社についてすこしでも気にしてもらえるのもイベントの大切な部分だと思います」

 この日のBOOKMARKETはコラボレーションによる特別開催だったが、次回は2022年の今年、7月23日(土)~24日(日)に東京台東区の台東会館7Fで、例年の規模で12回目となるBOOKMARKETが開催される。

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安西純さん(アノニマ・スタジオ)https://www.anonima-studio.com/

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慣れない手つきでブックカバーを付ける出版社の人。

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リソグラフで印刷された安達茉莉子さんのイラスト詩集『何か大切なものをなくしてそして立ち上がった頃の人へ』『The Feeling When…日常の中に生まれてくるある瞬間について』(ビーナイス)

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2019年に結成した出版ユニット「麓(ふもと)出版」

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水野仁輔さんのカレー専門の出版社「イートミ―出版」

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イベント当日は水野さんの絶品カレーを試食することができた。

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BOOK LOVER’S HOLIDAY with BOOKMARKET出展社

朝日出版社 https://www.asahipress.com/
アノニマ・スタジオ https://www.anonima-studio.com/
イートミー出版  http://www.curry-book.com/
カンゼン  https://www.kanzen.jp/
G.B. https://www.gbnet.co.jp/
トゥーヴァージンズ https://www.twovirgins.jp/
ニジノ絵本屋 http://nijinoehonya.shop/
ビーナイス http://benice.co.jp/index.html
麓出版 https://fumoto.club/
本の雑誌社 https://www.webdoku.jp/honzatsu/
雷鳥社 http://www.raichosha.co.jp/

全11社(50音順)

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 会場となった下北沢ボーナストラックには、醤油や味噌、漬物、発酵にまつわる商品の専門店「発酵デパートメント」や、「本屋B&B」、本の読める店「fuzkue」、日記の専門店「日記屋 月日」など、個性的な店が軒を連ねる“まち”。下北沢では普段からランチなどで賑わうスポットとなっている。

 ボーナストラック https://bonus-track.net/

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「発酵デパートメント」にも発酵にまつわる本が置かれている

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新刊書店「本屋B&B」

取材・文・撮影=すずきたけし

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