50歳、銀行の“お荷物おじさん”が人生逆転!? 話題の起業マンガ『スタンドUPスタート』の魅力とは? 作者を直撃!

マンガ

公開日:2022/1/30

『スタンドUPスタート』(福田秀/集英社)

「スタートアップしよう!」。『週刊ヤングジャンプ』(集英社)で連載中の『スタンドUPスタート』。渋沢栄一を尊敬している主人公の投資家・三星大陽(みほしたいよう)は、窓際のおじさんサラリーマン、指名最下位のキャバ嬢、就業経験のない主婦など、生きづらさを抱える人々に「スタートアップ」=”起業”を勧めていく。2020年6月に連載がスタートし、現在5巻まで刊行中だ。起業・経営コンサルタントの監修が入り、さまざまな起業のアイデア・実態が登場し、その多彩さに毎回驚かされます。漫画としての面白さに加え、知らなかった起業の世界の片鱗をのぞくことができる『スタンドUPスタート』。一体どんな風に作られているのか、作者の福田秀先生、監修を担当する上野豪さん、担当編集である中山航一さんにお話を伺いました。

(取材・文=宇野なおみ)

連載が始まるまでの道のり

――連載が始まった経緯はどのようなものでしたか?

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福田秀先生(以下、福田):自分自身は会社勤務をしたことがないのですが、元々ビジネスの世界に興味がありました。具体的なきっかけは銀行勤務の姉に話を聞かせてもらったことですね。

中山航一さん(以下、中山):連載開始当時は違う編集者が担当をしておりまして、私は3代目です。当時は大河ドラマや新札など、渋沢栄一がフィーチャーされ始めていましたし、題材としても面白かった。福田先生のプロットが連載会議にかかって、決まったという感じです。

――監修として、ご自身もベンチャー起業家である上野さんが参加されています。監修といってもさまざまな形があると思うのですが、どのように関わられていますか?

上野豪さん(以下、上野):やり取りはSlack(チャットツール)を使っていますが、僕はもう、とにかく投げっぱなし。その中でネタに落とし込めるものを、福田先生が漫画にしてくださっている感じですね。

福田:本当にたくさん、色々と投げてくださるので、ストックしています。

上野:でも、先生のストーリーへの入れ込み方はすごいんですよ。雑談でぽろっと言ったことが、作中で活かされていたりする。

中山:打ち合わせの時にも、そういうことがありますね。

――リアルな起業のプロセスや法的トラブルなど、隅々までビジネスネタが盛り込まれています。

福田:上野さんが裏付けを取ってくださるのが心強い。

上野:作中に土地の値段が出てきたことがあったんです。妥当な値段ってこれくらいで良いか、某上場不動産会社の知人に聞いたら、エクセルですごいデータを出してくれたことがありました(笑)。ほんの一瞬しか出ない小ネタでも、裏取りは結構しています。

福田:たまに、上野さんにプロットを「どうにか着地するように、あとお願いします!」って投げています。

上野:いやいやそんな……! ストーリーがリアルで、なおかつ漫画的なバランスがとれていて絶妙ですよね。起業家って漫画に影響された人が結構多いんですけど、『スタンドUPスタート』も読まれていますよ。

時事ネタ・ビジネスネタが盛りだくさん! 悩みは……主人公?

――1(号)は、窓際族でプライドだけは高いおじさん・林田がメインキャラクター。驚きました。

話数は会社法にちなんで(号)で表現されている

福田:実は編集さんに「1話が50歳のおじさんで大丈夫ですか」とは確認を取りました。

中山:今となっては『スタンドUPスタート』のヒロインですからね(笑)。本作のカワイイ担当です。

――女性キャラクターもたくさんいるのに! 主人公の大陽は基本的には手を差し伸べるのみ。起業し、変化していくのは登場する「普通の人」たちです。

福田:連載を始めるまで、起業に対するイメージを実はほとんど持っていなくて。だから、起業をする人のタイプに先入観がなかったのかもしれません。最初は手探り感がすごかったですよ。4話目に大陽の兄の大海(たいが)を出しました。ここで主人公と考え方が対になる存在ができ、話の軸が決まったと思います。

――4(号)の株主総会のシーンでは、印象的な……おじさんが登場します。

中山:4巻の表紙で泣いているおじさん・武藤さん。

福田:あの回はフリというか、伏線でしたが、4巻でようやく回収できましたね。ちなみに、表紙は当初悲しそうな表情だったんです。情けなくしたくて泣き顔に書き直しました。

――基本的には1話完結のスタイルの『スタンドUPスタート』。しかし連作短編集のように、登場したキャラクターのその後の活躍や成長、ある種の変わらなさなどが楽しめるところも魅力です。時事ネタも多い作品ですが、大変だったところはありますか?

福田:基本的には好き勝手に描かせてもらっているので、〆切りくらいでしょうか。描いているうちにコロナ禍になってしまったことは大変でした。取り入れないわけにもいかないですしね。

上野:コロナ禍で生まれたビジネスチャンスもありましたから。時事ネタといえば、2(号)で登場した神崎のビジネスモデルは、実は一番起業家としてリアルです。

――初登場時、意識高い系大学生で、独自の人材マッチングで起業した神崎ですね。

就活がうまくいかず、本音が飛び出した瞬間の神崎

上野:そこで「ビッグデータ」の話が出てきます。現代社会でビッグデータは馴染みある言葉になりつつあり、重要性が増していくワード。作中でどう取り入れられるか、いち読者としても楽しみにしています。

中山:5巻で扱ったM&Aの話など、作中が現実の先取りになったこともありましたね。本編とは全く関係ないんですけど、 編集者は単行本発売や雑誌の次号予告などでバナーや記事ページなどを作るんです。福田先生は大陽にコスプレというか、いろんな格好をさせるのがお好きなので「使える素材がない!」とはよく思っています。他のキャラもおじさん率が高いですしね(笑)。

福田:知らなかった……!今度ノーマルな姿の大陽描いておきます。

――大陽といえば、主人公なのにまだ謎に包まれていますね。

福田:わりとなんでもアリなキャラですが、「資産は人なり」と言いながら人の人生をエンタメと捉えているような、危うい部分があります。今後は、大陽の内面や三星家の話を描いていきたい。

異例づくしのキャンペーンで「新規読者」を獲得!

――『スタンドUPスタート』の読者層は幅広いのではないでしょうか?

中山:今は「となジャン」(となりのヤングジャンプ)、公式アプリの「ヤンジャン!」と流入経路もさまざまです。アンケートなどを見ると、その中でも『スタンドUPスタート』はかなり色々な層に読まれています。

――私も「ゼブラック」での試し読みがきっかけで全巻揃えました。東洋経済オンラインに、連載のようにして数話載せられていましたよね?

中山:東洋経済オンラインへの出稿は反響が非常に大きかったです。普段ビジネス書を読む方々がずいぶん読んでくださったようですね。

――他の出版社に、ああいう形で出稿するのは珍しいのでは?

中山:異例のキャンペーンでした。アマゾンの「Kindle Unlimited」を通じて期間限定で無料配信したことも、編集部初の試みです。ビジネスパーソンはやはりKindleを愛用されている方が多いかなというところで広告担当と打ち合わせしました。逆に『スタンドUPスタート』目当ての読者さんが、ヤンジャンの他作品も興味をもって読んでくださっていますよ。

――新規読者を獲得しているわけですね。作中、何度も意外な一手がトラブルを解決していました。現実でも思い切った施策を行われていたんですね。

上野:トラブルといえば、福田先生、アプリ凍結されていませんでした?

福田:「ヤンジャン!」はスクショ禁止ですが、告知用に撮っていたらアカウント停止になってしまって……。

中山:慌てて凍結解除の連絡をしました。担当部署の人から「誰が凍結されたの?」って聞かれて、「作者が」って(笑)。でもそれで、作家さんの告知用のデータ提供の話につながりましたね。

上野:やっぱりトラブルからイノベーションが起こるんですよ。これこそ、スタートアップです(笑)。

シビアな面も描かれるから面白い! スタートアップがしたくなるかも

 作家、監修、編集者、皆さん作品愛に溢れていて、これこそが作品を面白くしている秘訣かもしれません。夢がありワクワクする漫画ですが、ドキッとするほどシビアな側面も描かれます。ビジネスには失敗や悪意、そして詐欺などがつきまとうもの。「ダークサイド」も描かれているので、現実とつながったリアルさを感じるのでしょう。今後主人公・大陽と周りの人々がどうなっていくのか、目が離せません!

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