なぜ小学生に人気? “こどもの本”総選挙1位『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』廣嶋玲子さん受賞インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2022/2/15

 全国の小学生が「今まで読んだ中で1番好きな本」に投票する「こどもの本選挙」が3回目を迎え、2月11日(金・祝)にベスト10の結果が発表された。第3回の頂点に輝いたのは、廣嶋玲子氏による『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』(偕成社)。本作は、なんでも願いを叶えてくれる不思議なお菓子を売ってくれる銭天堂を舞台に駄菓子を買ったお客が、どういう運命をたどるのか、こどもだけでなく大人もその展開についつい夢中になってしまう作品だ。ダ・ヴィンチWebでは、廣嶋氏にメールインタビューを実施。1位を受賞した感想や執筆秘話、こどもの頃に読んで影響を受けた本などを伺った。

(取材・文=立花もも)

NPO法人こどもの本総選挙事務局

――「こどもの本総選挙」1位おめでとうございます。

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廣嶋玲子(以下、廣嶋さん):ありがとうございます。読者である子どもたちが投票して順位を決める賞の1位に選ばれたことは、本当に幸せで名誉なことなので、知らせを受けたときは、とびあがるほどうれしかったです。「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズは、子どもだけが主人公ではないこと、種類豊富なふしぎな駄菓子の存在、駄菓子屋というふしぎな空間など、キャラクターやアイテムの魅力が大きいと思っています。また、さまざまな悩みが登場し、ハッピーエンドばかりではないというところが、子どもたちに気に入ってもらえているのでしょう。この主人公はいったいどんな結末をむかえるんだろう? わたしだったら、こんなお菓子がほしいな。子どもだけでなく、大人たちも、そんな気持ちになって読んでいただければ、作者としてはうれしい限りです。

――読者である子どもたちが飽きることなく、シリーズとして長く楽しめるようにするため、気をつけていることはありますか?

廣嶋さん:ひとつひとつのエピソードを大事に書くということですね。そのためには、物語全体のストーリー展開とエピソードとのバランスを、いつも意識しています。そしてもう一つ大事なのが、決められたその時期に、読者を待たせることなく新刊をお届けするということ。あたり前のことかもしれませんが、「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズは、毎年春と秋に刊行されることになっており、半年に一冊書くというのはなかなか大変なのです。〆切までのスケジュールがかなり厳しく、四苦八苦することもあります(笑)。

――ふしぎな駄菓子を売る銭天堂と、まっしろな髪に赤い口紅、体の大きな女主人の紅子さん。この設定は、どんなふうに生まれたのでしょう。

廣嶋さん:画家のjyajyaさんのホームページに掲載されていたイラストを見ているうちに、「ああ、こういうレトロな路地や横丁に、ふしぎなお店があったらいいな。そこは駄菓子屋で、魔法のようなお菓子ばかり置いている……名前は銭天堂。そして、髪の白い、体の大きなおかみさんがいる。その人の名前は……紅子!」という具合に、どんどんアイディアが生まれていきました。紅子は、すべてにおいて淡々としていて、クールだけれど、実は人情味もあるところが私は好きです。担当編集者さんはハードボイルドの小説に出てくるようだと言ってくださっています。

――紅子のライバルであるよどみと六条教授、そして銭天堂に居候することになる健太は、どんなふうに生まれたのでしょう。

廣嶋さん:よどみは、「紅子のライバルを登場させましょう」という、担当の編集者さんからのアドバイスから生まれました。紅子に対して敵意をむきだしにしてくるところや、彼女のちょっとした邪悪さを描くのは楽しかったです。そのよどみとの決着がついてしまったので、次に登場させることにしたのが六条教授。こちらはよどみとは違い、正真正銘の人間で、だからこそよどみとは違う危険性を秘めているキャラクターにしたいと思いました。そのへんの違いも、読者のみなさんには、楽しんでもらいたいと思います。健太は、「銭天堂にたどりついたのに、いっこうに駄菓子をほしがらないお客さんがいたら、どうなるだろう?」というアイディアから生まれたキャラクターです。

――とくにお気に入りの駄菓子とエピソードはありますか? また、ご自身ではどんな駄菓子があったらいいなあと思いますか。

廣嶋さん:お気に入りのお菓子は、「つり鯛焼き」と「守らニャイト」。どちらも「この世にあったら、ぜひほしい!」と思う品物です。エピソードとしては、「虹色水あめ」や「底なしイ~カ」を気に入っています。「虹色水あめ」は色が変わっていくシーンを書くことが楽しかったし、「底なしイ~カ」では「胃袋に貪欲なイカが住み着く」というアイディアが、自分でも「おもしろい!」と思っているので。

――お話の展開や、ふしぎな駄菓子のアイディアは、いつも、どんなふうに思いつくのでしょう。

廣嶋さん:編集者さんとの打ち合わせでお話の展開を決めてから、どんな駄菓子がいいかを考えます。駄菓子のアイディアについては、アプローチは二通り。「ほしい能力」に対してお菓子をあてはめるか、あるいは、お菓子の名前から能力を連想するか……。たとえば、「孤独になれるお菓子」を作りたいときは、「アローン(孤独)」という言葉から、語呂がよく合う「マロン」を合わせて、「アローンマロン」にします。お菓子の種類から考えたい場合は、たとえば、「もち」のお菓子を作りたいとすると、「いそべもち」に名前が似ている「いそげもち」を思いつき、「『いそげもち』ってことは、食べればせっかちになれるもち、ってすればいい」という流れで駄菓子を作っていきます。

――物語には、ときどき、ダークでちょっと怖い駄菓子のエピソードも登場します。書くときに気をつけていることはありますか?

廣嶋さん:ダークなエピソードも、みなさんが楽しんで読んでくれる理由のひとつだとは思いますが、「怖い」というのは「暴力的」であることとは違うので、そこを間違えないように気をつけています。それと、ときに「憎しみ」や「怒り」を毒々しく描きすぎてしまうこともありますが、そういうときは、編集者さんがうまく食いとめてくださいます。

――「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズは、2020年にアニメ映画化およびテレビアニメ化されました。ご覧になって、いかがでしたか。

廣嶋さん:紅子や、銭天堂の看板猫・墨丸が動いていることに、まずとても感動しました。「銭天堂」の店内には、自分の考えたお菓子が色あざやかにあふれていたことも。それはまさに私が心に描いていた「銭天堂」そのものだったので……。お店のまねき猫たちも本当にかわいらしくて、わいわいしゃべったりするシーンには思わずにっこりしてしまいました。

――映像化されたことで、銭天堂シリーズに夢中になった読者もぐっと増えたことと思います。届いた感想で、印象に残っているものはありますか。

廣嶋さん:「銭天堂」を読んで、苦手だった読書が好きになったというお手紙をいただくことが、たびたびありますが、これこそ、作家にとって最高のほめ言葉です。そして、子どもといっしょに読んで、「どんなお菓子がほしいか、親子でわくわくしながら話し合います」という親御さんからのお手紙も、このシリーズが家族のコミュニケーションにも役立っていると感じて、本当に心に残るものでした。

――ちなみに廣嶋さんは、子どものころどんな本を読んでいましたか? 影響を受けた「こどもの本」を教えてください。

廣嶋さん:そそれはもちろん、数えきれないほどあるのですが……とくに夢中になったのは、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』やトールキンの『ホビットの冒険』、ルイスの『ナルニア物語』、ロフティングの「ドリトル先生」シリーズ。それからインドの昔話『ジャータカ物語』やフィンランドの絵本『星のひとみ』、ロシアの童話『イワンとふしぎなこうま』。まだまだ、たくさんあります。わたしも、子どものころにたくさんの本を読んだからこそ、今回のようなすばらしい賞をいただけたことに、心から感謝しております。これからもみなさんが楽しんで読んでくれる作品を書いていきます!

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