大ヒット上映中『真夜中乙女戦争』、原作小説の言葉のうち、現役大学生にグサッと来た台詞とは

文芸・カルチャー

公開日:2022/2/17

真夜中乙女戦争
(c)2022『真夜中乙女戦争』製作委員会

 10~20代から圧倒的支持を集める作家Fの初小説『真夜中乙女戦争』(KADOKAWA)。読者の“共感”から、SNSで拡散され続ける本作に書かれている言葉たち。

 本作の主人公は上京してきて友達もいない、彼女もいない、お金もない、やりたいこともない大学生“私”。そんな“私”は大学で冷酷で美しい“先輩”と出会う。そんな中“私”はさらに謎の男“黒服”と遭遇する。“私”が“先輩”や“黒服”とのかかわりのなかで出てきたさまざまな名言は、同じ立場だからこそ大学生たちの心に刺さっているのだろう――。

 このたび、7名の大学生がオンラインで刺さった名言や共感したポイントを発表。彼ら、彼女らの選んだ言葉から浮かぶ“青春”というキーワード、そしてコロナ禍のなかの学生生活のリアルが“刺さる言葉”から見えてくる。

(取材・文=河村道子)

advertisement

真夜中乙女戦争
『真夜中乙女戦争』(F/KADOKAWA)

――作中でグサッと来た名言、共感した言葉を教えてください。

R.Rさん(早稲田大学)

「青春は一秒ずつ散っていく。まだ私は傷つき足りていない」。

 この言葉は自分のなかにある“経験したりない感”に共鳴しました。今、私には後の人生で思い返したとき、絶対に忘れないような傷つき方や深く落ち込むことを青春時代に経験しておきたいという焦りがあるんです。その一方であまり傷つきたくない自分もいるんですね。傷ついてしまうことに挑戦できない自分にちょっと苛立ったりもするんです。

K.Kさん(お茶の水女子大学)私もR.Rさんと同じところが刺さりました。

 今、3年生なのですがコロナ禍になった2年生から3年生の今まで、オンライン授業がずっと続いていて、みんなと大学生らしいことが全然できてないなって思っているんです。青春とか、大学生はこうあるべき、みたいなものが自分にもあるし、世の中的にもあるのに、就活が始まってしまった今、私の青春はこのまま終わってしまうのかなという焦りがすごくあります。なかでも「一秒ずつ散っていく」という言葉はすごくリアルに響いてきました。

 私は、ネタバレになるので書けないと思うのですが、小説のラストの“先輩”のセリフも好きで。このひと言で物語が終わるというのがすごくいい。生きていることに対する無力感やなぜ自分は生きているんだろうというネガティブな部分に光が当てられる物語ではあるけれど、だからこその生きている価値みたいなものがこの作品には表現されているなと思って。それがこの言葉に凝縮されているなと感じました。

H.Kさん(信州大学)私は、

「青春を振り返るとき、振り返る私からはもう青春というものが跡形もなく簒奪されてしまっている」

がグサッと来ました。この言葉は、“私”が“先輩”と別れたあと、“青春は、青春の中にいるとき、それが青春だと気づけない”という教授の言葉を思い出しながら出てきた言葉。“私”は教授のことをネガティブに捉えていますが、知らず知らず、その考えに影響されているところが面白いなと思いました。先ほどのK.Kさんの“焦り”の話にも通じると思うのですが、振りかえったら青春が簒奪されているというところはやはり私も他人ごとではないと感じました。

真夜中乙女戦争
(c)2022『真夜中乙女戦争』製作委員会

――皆さんが選ぶ言葉のなかには“青春”がキーワードとしてありますね。青春って何だと思いますか?

H.Kさん 私は恋愛には疎くて、友達と過ごすほうがいいなと思っているんです。だから仲のいい友達とどうやって過ごすか、新しい友達とどうやって話すか、いろいろ間違いながら、迷いながら考えて実践し、自分にとって自信の持てるプロセスを見つけていくのが青春なのかなと思っています。

Y.Tさん(京都大学)相手とわかり合えなくても少しでも近づいてみようとする。“青春”ってそういうものかなぁと思います。

「たぶん、この世には、同じものを好きでも、ずっと互いにそのことを知らないまま別れてしまう人たちがいるんだよ」
「私たちはただ寂しかったんだと思う」
「でも相手のすべてはいつまで経っても確かめられないし、分からないんだよ、きっと」

からつながっていく“私”と“先輩”の会話が私は大好きで。自分が見ているこの色は他の人から見た色とは違うのだということが諦観とともに表されていきますが、それでも誰かと近づくために、言葉をはじめとする自分が持っているものを駆使して懸命に相手に近づこうとしている人たちがすごくいいなと思いました。

M.Kさん(お茶の水女子大学大学院)私は“先輩”の言葉で、

「LINEなんかなくても、メールなんかなくても電話も手紙も電車もなくてもさ、会いたい者同士はどんなに忙しくても必ず会うし、会いに行くし、会い続けると思う」。

 これは自分の学生生活に重ねて共感しました。たとえば同じクラスのなかで誕生日の人がいたら、みんなで“おめでとう”というLINEを送り合うとか、LINEの既読機能にもすごくストレスを感じていたので、会いたい者同士はどんなに忙しくても会う、という言葉に頷いていました。

A.Uさん(東京経済大学)僕は、

「四月に一つの物語も期待しないほど、私はまだ完全に人生を諦められてはいなかった」

が好きです。主人公の原動力でもある、自分の物語が始まることに期待する、夢見がちさを表したこの言葉で、“ここから物語が始まっていくんだな”と印象に残りました。そして、

「携帯を握りしめても思い出はできない」。

 本当にその通りだなと思って。僕はベトナムで実習予定のあったフィールドワーク系のゼミに入ったのですが、ちょうどゼミが始まる頃、コロナ禍が始まってしまったんです。もちろんベトナムには行けず、オンラインごしのディベートをしていたのですが、全然、思い出に残らない。コロナの合間を縫って、誰かと会ってちょっとだけ話をしたという記憶のほうが強く残っているんですよね。

真夜中乙女戦争
(c)2022『真夜中乙女戦争』製作委員会

M.Tさん(奈良女子大学)私が印象的だったのは、

「幸せになりたいと願う人間が、いつまでも幸せになれない理由を知ってるか?」。

 そしてその答えとして返ってくる

「今の自分は全く幸せでない、と、自分で自分を呪い続けるからだ」

という言葉にすごく納得しました。“幸せ”って、求めるとゴールがないというか、きりがない。普通に生きたいと思っても、普通を求めるのは、この物語のなかにも表されているように奇跡に等しいから。今が幸せなんだと自分で決めると、幸せだと感じられるのかなって考えさせられました。それから、

「この世で一番最初に傘を盗んだ人間がどこかの時代にたった一人存在する」

という言葉。ここでは“暴力の連鎖”について語られるのですが、悲惨な事件を起こした人も、それ以前に、誰かに嫌な思いをさせられるところがあって、むしゃくしゃした気持ちを表したのかもしれない、ということに思いが巡りました。時代を遡っていった世界のどこかに暴力の根源はきっとあるのだと。それは社会で起きているさまざまな事件にもつながることだと感じたので、なるほどなと思いました。

 

 登場人物たちとリアル世代の大学生たちが作中のなかから示してくれた“刺さる言葉”。響いたところはそれぞれに違うけれど、俯瞰して眺めてみると、そこには自分の深いところにある何かと向き合いたい、自分たちが今いる時間をたしかなものにしたい、という思いが見えてくる。挙げてくれた言葉のなかには、映画のなかでセリフとなり、音声として立ち上がっているものも。活字で読むのとはまた違う作中の“名言”を、映画作品でもじっくりと味わってほしい。

映画『真夜中乙女戦争』
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/mayonakaotomesenso/

企画協力=大学生協事業連合

あわせて読みたい