「お金の失敗談を子どもに隠さないことが大事」子どもにお金との“付き合い方”を教えてくれる児童書《インタビュー》

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公開日:2022/3/4

お金にふりまわされず生きようぜ! レストランたてなおし大作戦
『お金にふりまわされず生きようぜ! レストランたてなおし大作戦』(田中靖浩:著、ウサミ:著、秋山貴世:イラスト/岩崎書店)

 学習指導要領の改訂で、学校でも「金融教育」に力をいれ始めているのをご存じだろうか。これからの時代を生きるために「マネーリテラシー教育」が必要性を増しているということだが、お金の話をするのはニガテという大人も少なくない。一体、家庭ではどう向き合っていけばいいのか、このほど子どもにお金との付き合い方を教える書籍『お金にふりまわされず生きようぜ! レストランたてなおし大作戦』(田中靖浩:著、ウサミ:著、秋山貴世:イラスト/岩崎書店)を上梓した公認会計士の田中靖浩先生にお話をうかがった。

(取材・文=荒井理恵)


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大事なのは、お金との「付き合い方」を教えること

田中靖浩先生
田中靖浩先生

――まずは、今回の本を書かれた動機から教えてください。

田中靖浩先生(以下、田中) 今回の本の出版元でもある岩崎書店さんから、お金の絵本の翻訳のお仕事を数年前にいただいたことがあったんです。カナダの女性が書かれた本でしたが、それまでこういう本は日本になかったので、翻訳を終えたらむらむらと「自分でも書いてみたい」と思い始めたんです。ずっと会計士としてお金に近いところで仕事をしてきましたが、相手は大体「金もうけしたい」「節約したい」という大人が多くで、もっと大事なことを小さいうちから教えたいという欲求が何十年もふつふつとありましたから。今回あらためてお話をいただいて、「やります」と0.1秒でお返事しました(笑)。

――子ども相手のマネー教室で「投資ゲーム」をしたり、というのはこれまでもありましたよね。先生のいう「大事なこと」はもっと前段階のことですよね。

田中 やっぱり原点として「お金を『かせぐ』とか『つかう』とはどういうことなのか」という基本的な枠組みから教えないといけないんだと思います。学習指導要領の改訂で小中高で家計や金融について教えることになっていますが、ちょっと「株式投資」に関する圧力が強すぎるなと感じています。もちろん株式投資を否定はしませんが、それだけを教えて「これがお金の勉強だ」というのは大反対です。

――ゆうちょ銀行では硬貨で預け入れをする際などに枚数に応じて手数料がかかるようになるなど、お金をめぐる環境はどんどん変化していきます。変化に対応していくにも、この本が教えてくれるような「基本」が大事になりそうですね。

田中 この本で伝えたかったのは、お金の稼ぎ方の前の「付き合い方」ですね。「かせぐ」という中の一部が株式投資であるとするなら、株式投資や税金を払う前に、「かせぐ」とか「お金をまわす」ということがあって、もっと言うとその前に「お金と付き合うっていうのはどういうことなのか」があるわけです。金融教育自体は悪いわけではありませんが、大事なことはそれを一回勉強して、自分の中でどの程度それを信用するか、客観的に考えることだと思います。日本人は学校で教えてもらうことは絶対だと信じてしまいがちですが、株式とかNISAとか本当に大丈夫なのか、これからの時代は自分で判断していかなければいけない。それができる力をつけることが、本当のマネーリテラシーだと思います。

お金の教育には「親」が影響する

――お金の教育は学校だけでなく、親がすべき部分が多いと思われますか?

田中 そうでしょうね。実際、多くの方はそうだと思っていると思いますし、実はお金に対する感覚というのは、自分が親にどんな教育を受けたかが無意識に大きく影響するものです。おそらく自分にはお金の教育ができないという親御さんは、その親御さん自身が親から受けていないのではないでしょうか。今は圧倒的にサラリーマンの家庭で育った方が多く、父親がひとりで「収入だけは守っていた」みたいな姿が一般的で、自然に「いい会社、大きくて安定的な会社に入るのがいい」みたいなことが大事になってしまう。それでいいのかという思いはすごくあります。

 実は私の親は商売人だったので浮き沈みが激しく、最終的には商売に失敗して金銭的にすごく苦労しました。そんな父親でしたが、私にとっては全然問題なかったんです。彼は貧乏ではありましたが、まったく貧乏くさくなく、息子としてそれはカッコいいと思っていました。お金は稼げたらいいけれども、努力はしてもうまくいかないことはあるし、そこで人間の真価が問われる――そんなことを父から学びました。そういう感覚は自分の子どもたちに伝えたいと思ってきましたし、できれば今回の本を通じて読者の子どもや親にも伝えていけたらと思いますね。

――「貧乏」とか「生活保護」のこともポジティブに書いているのが印象的でした。

田中 貧乏であることと、貧乏くさいことは全然違うこと。金がなくて苦労することは全然恥ずかしいことではありません。だから生活保護や貧困、障害などについては取り上げたかったですし、本当に辛いときには絶対に逃げなさいということも伝えたかったことでした。実はお金の本で誰もそのへんは書かないんですよね。みんなキレイなほうばかりに逃げようとするので。「あんまりガツガツ稼ぐと人に嫌われる。別にお金がなくてもキレイに生きることはできる」というお金に対する精神的距離のようなものも、この本で伝えたかったことですね。

――「お金にふりまわされず」というタイトルにもそれが表れていますね。

田中 タイトルは本の内容から出版社と相談して決めましたが、大人は本当にふりまわされていますからね。この本の帯に「お金は大事だけど、もっと大切なことがあるんだよ。この本を読んで『お金の基本』を学んだら、ワクワクする人生を見つけにいこう!」と編集者が書いてくれたんですが、これにつきると思っています。「稼ぎ方」じゃなくて「付き合い方」であり、その付き合い方とは何かといえば、ふりまわされないこと。お金のことばかりを考えるのではなく、その先のワクワクに目を向けないと、一生そこで止まってしまいますから。

お金の「失敗」を言い出しやすい親子関係を

――親はこの本をどんなふうに子どもたちに渡したらいいでしょう?

田中 読者からの声を見ると、あえて読めと言わずに部屋に置いておいたら「かわいい」と子どもが読み始めたというのもありました。作者としては自由に読んでもらいたいですし、実は「大事なことを伝えるぞ!」と力が入りすぎてしまったので正直わからない(笑)。小学生相手だからと手加減するのもやめましたし、大事なことをぶつけて、それが心の片隅にでも残って、後からわかってもらえたらそれでいいですから。

――読後に親子の会話も生まれそうですね。

田中 実際、友人の弁護士の家では小学校高学年の息子さんと仕事の話をしたそうです。この本は「かせぐ」ことは時間や体や頭を使ってすることとして、だから仕事をどう選ぶかが大事で3つの職業のジャンル(グループ①~③、画像参照)を設定して考えさせるようにしていますが、息子さんが「パパはグループ2かな、3かな」と言ってきたそうです。「パパは3じゃなくて2かな」「どうして?」とやりとりがあり、自分で経営するとはどういうことなのか、自分はどうして独立したのか、真剣に答えたと言っていました。

お金にふりまわされず生きようぜ! レストランたてなおし大作戦
「かせぐ」上で必要な「仕事の種類」はこの3つのグループにわけられる!(p.90より)

――いいですね。子どもとお金の話をするときに気をつけることはありますか?

田中 押し付けないこと、「これが真実だ」としないことでしょう。お金に関することは絶対に正解はありませんから。子どももこれから自分で取り組んでいかなければいけないし、逃げられないもの。そこで大事になるのは「苦労話」や「失敗談」をすることだと思います。私はずっと独立して仕事をしてきたので経済的な浮き沈みが大きかったのですが、お金がないときや調子がいいときなど、積極的に子どもたちに伝えてきました。言ってみれば「親が弱みを見せる」ということなんですが、それで子どもも弱みを見せやすくなるんですね。

 今、子どもたちを取り巻くお金の環境は大きく変わっています。キャッシュレス化が進んでいて、電子マネーで投げ銭も行えるし、いまやカツアゲも「おまえスマホかせ」って言われて、勝手に送金されてしまう。そんな危ない状況にいることなんて、親にはわからないですよね。でも失敗を話せる環境があれば「こんな大変なことになった。ごめん」って言えるわけです。親はそこで怒らずに「よく言ったね。わかった、それ対処しよう」って親子でピンチに向かえたらいい。SOSが出せるってすごく大事で、それが笑い話になったら、次のトラブルも安心して相談できます。トラブルを未然に防ぐのは無理ですし、逆に防いでばかりいたら大人になって詐欺にひっかかるかもしれない。大事なことはトラブルにあっても、失敗しても、必ず家族や周りに言えること。お金だけじゃなくて、進路もみんな同じでしょう。

――カツアゲまで電子マネーというのは驚きです。現金が見えなくなってくる時代だからこそ、「お金の重み」をしっかり伝えるのも大人の役割ですね。

田中 昔、昭和から平成の時代に人気のあったドラマ『北の国から』に、上京する息子を乗せてくれたトラック運転手に父親がお金を渡すんですが、あとで運転手が息子にそれを返すというシーンがあります。その1万円札は大事にしろ。その1万円札には泥がついてるが、いまどき泥がついた1万円札を渡す父親はいない。そんな父親の生き方をお前はしっかり理解しろ、みたいな感じで。私はあのシーンをはっきり覚えていますし、あの感覚は自分の中にすごく残っています。

 この本の物語の舞台はレストランですが、どこかに「お母さんとお父さんがくれた1万円札にはケチャップがついてた」みたいな感覚を描きたいというのはありました。今はデジタルでみんな軽くなってしまいましたが、「この大事な1万円をどうするか」をどう伝えていくべきなのか――私も含めた昭和世代の責任として、考えていかなければいけないことなのだと思います。

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