『銭湯図解』塩谷歩波さんの人生をドラマ化した『湯あがりスケッチ』配信開始！「疲れ切っている人が、明日もがんばろうと思える瞬間になれたら」

　近年、“サウナー”という言葉が定着するなど、新たな盛り上がりを見せている銭湯カルチャー。その銭湯ブームの火つけ役となったのが、『銭湯図解』（中央公論新社）の著者・塩谷歩波さんだ。このたび、彼女のこれまでのあゆみが、オリジナルドラマ『湯あがりスケッチ』として、ひかりTVで独占配信されることになった。

　塩谷さんの人生をモデルに描かれる主人公・澤井穂波を演じるのは、本作が連続ドラマ初主演となる小川紗良さん。実在する都内の銭湯を舞台に、中川龍太郎監督の繊細な映像美で、今を生きる人たちのリアルを描き出すヒューマンドラマに仕上がった本作──ドラマ化のポイントは？　どんな人が楽しめる内容になっている？　お話をうかがった。

（取材・文＝三田ゆき）

小川紗良さん「塩谷さんと銭湯に行って、モーニングを食べながら絵を教えてもらった」

――塩谷さんにうかがいします。ご自身の人生を原案としたドラマの制作が決まったとき、どんなお気持ちでしたか？

　中川さんとはじめてお会いしたのは、銭湯を舞台に若者の成長が描かれる映画『わたしは光をにぎっている』のPRイベントでした。その後、一緒に散歩して仲よくなったんですよね（笑）。

中川龍太郎（以下、中川）：そうそう、塩谷さんがうちの会社に来てくださって、この作品のプロデューサーと僕とで町田を散歩したんですよ（笑）。そのときに、「『銭湯図解』を映像化したいっていう話があるんですけど」という話もちらっとしました。

塩谷：一緒に散歩をしているときも、「この建物いいよね」とか、中川さんと私の見ているポイントがまったく同じで。中川さんとは、世界を見る視点が同じなんだなという気がしたんです。中川さんなら、すごく素敵な作品を撮ってくれるはずだから、間違いないと思いました。

中川：照れるなあ（笑）。

――完成したドラマをご覧になったときのご感想は？

塩谷：私、開始1分半で号泣してしまって（笑）。作品そのものに感動したのはもちろんですが、現場にうかがったり、脚本を読んだりしてはいたものの、「自分がドラマ化される」という実感があまりなかったところ、ドラマの1話、主人公の穂波が設計事務所でうなだれているシーンなどを見て、はじめて「私が今まで経験してきたことを中川さんがかたちにしてくれたんだ」と思えて、うれしくて震え上がりました。

――主人公・澤井穂波を演じた小川さんは、本作の主演が決まったとき、どのようなお気持ちでしたか。

小川紗良（以下、小川）：私はもともと銭湯が好きで度々行くのですが、やっぱり銭湯界隈では、塩谷さんってすごく有名な方なんですよ。ですから、塩谷さんという人は知っていたのですが、書籍の『銭湯図解』を手に取ったのは、実は今回がはじめてでした。『銭湯図解』の緻密なイラストには、ぬくもりとか、建物に対する思いとか、年月とか、いろいろなものがこもっている。まずそれに圧倒されたということと、私には建築や水彩画の知識がまったくない状態だったので、「これから私は、こんなことに挑戦していけるんだ」とわくわくしました。

――映画監督、文筆家としてもご活躍の小川さんですが、イラストはお描きになりますか？

小川：イラストは落書きくらいしか描かないのですが、穂波を演じるこの機会に、スケッチブックや、塩谷さんが使っている画材を買ってみました。撮影期間にも、塩谷さんと銭湯に行って、モーニングを食べながら絵を教えてもらったんですよ！　そうやって塩谷さんと一緒に過ごしたり、実際に銭湯で働かせてもらったりといった準備期間を作れたことは、穂波という役に近づいていく上でとても大切でした。

――塩谷さんという実在の人物を演じるにあたって、こだわった点や気をつけた点は？

小川：私、『銭湯図解』を読んでいるときから、塩谷さんの持つ価値観に親近感を覚えていたんです。私も役者業や執筆などいろいろなことをやりながら生きているので、銭湯にいながらイラストを描くという生き方をしてきた塩谷さんとは、根底にある価値観が近いような気がしていて。実際にお会いして、銭湯でおたがいの制作の話などをしたときも、通じ合うものがあるなと思いました。ただ、イラストの描き方や、銭湯での建物の計測の仕方など、塩谷さんの中に積み重なっている技術的な部分は、私の中にはやはりない。そこは一番難しいなと思いましたし、近づこうと必死になりましたね。

息苦しい世の中でも心を癒して生きていく、それこそが僕らの仕事

――中川監督にうかがいします。このドラマは、どのような経緯で制作されたのでしょう？

中川：僕はもともと銭湯が好きですし、銭湯という場所の社会的な意味──人が集まって、裸になれる場所が街中にあるということが、すごく重要だと思っていて。銭湯を舞台にした映画『わたしは光をにぎっている』という作品の制作過程で、塩谷さんの人生を知り、塩谷さんと実際に関わらせていただく中で、『銭湯図解』にインスパイアされた物語を作らないかというお話をいただいて。銭湯はさんざん撮ってきたからもういいかなと思ったのですが（笑）、塩谷さんという人の生き方にフォーカスすれば、新しいものが作れるんじゃないかなと。塩谷さんがなぜ注目を集めているかというと、“ふつう”というレールから降り、銭湯という今の社会ではメジャーとは言いがたい場所で働いているという生き方が、多くの人の共感を呼んでいるからですよね。その生き方に、映像化の起点を置いてみたいと思いました。

　イラストを描くこと、銭湯で生きていくこと、執筆活動など、自分の求めていることをひとつも諦めず、すべてやろうとしている彼女は、いい意味で“わがままな人”。誰もが持つ「ここではないどこか」への欲求を実際に叶えてしまうところが、塩谷さんの人としての魅力ではないかなと思いますね。

――この作品は、どんな人に、どんなふうに楽しんでもらいたいと思われますか？

小川：私はやっぱり、同世代の女性に見てもらいたいです。私は今、25歳で、社会に出て少し経つ年代なのですが、みんなすごく疲れていて……（笑）。やりたいことがうまくいかなかったり、理想と現実のギャップを味わったり、いろんな壁に行き当たるときなんだと思います。ちょうどそういう年代の、日々に疲れを感じているような人たちに、このドラマに出会ってほしいですね。ドラマを見ると、銭湯に行ったくらいのほっこりした気持ちになれると思うので、ぜひその気持ちのまま、実際に銭湯に行ってみてください。

中川：紗良さんがおっしゃったことを引き継いで言うと、僕は32歳なのですが、32歳になっても状況は悪化する一方です（笑）。仕事だけではなく、人生に疲れている人が多い印象ですね。まわりは疲れ切っていて、幸せそうな同級生なんてなかなかいない……。

塩谷：ほんとにそう（笑）。

中川：（笑）。そもそも社会の空気がそんな感じなのかもしれないけれど、そういった状況の中でも、部分に目を向ければ、美しいものはたくさんある。たとえば銭湯に入ったとき、窓から射し込んでくる光だったり、お湯のやわらかさだったり、そういうものに目を向けて、息苦しい世の中だとしても、心を癒して生きていくということが重要です。そして、それこそが、僕らのやらなきゃいけない仕事なんですよね。とにかく疲れている人たちが、ふと目に留まったときに、なにも考えずに見てくれるといいなと思います。

塩谷：いろんな人に見てもらいたいと思いますが、今回はとくに自分をモデルにした物語なので、過去の自分のような人に見てほしいという気持ちが大きいですね。私も、ちょうど一番疲れ切っている時期に、深夜ドラマを見ながらなんでもないシーンで異常に泣いていたことがあります。この作品は、そういう時期にある人を救ってくれると思うんですよ。小川さんや中川さんがおっしゃったような、疲れた人、塞がっている人、なんだかうまくいかないなと感じている人が、一歩踏み出してみようと思えたり、明日もがんばろうと思えたり、そういう瞬間になれたらいいなと。少なくとも、疲れ切っていたころの自分に見せたら、すばらしいものを得られる作品になっているんじゃないかなと思いますね。

『湯あがりスケッチ』
原案：塩⾕歩波『銭湯図解』（中央公論新社）
監督・脚本：中川龍太郎
キャスト：小川紗良 森崎ウィン 新谷ゆづみ ／ 村上淳
伊藤万理華 安達祐実 臼田あさ美 室井滋 夏子 中田青渚 成海璃子
配信日時：2022年2月3日（木）より、毎週木曜22:00〜
配信話数：全8話

ドラマ公式サイト：https://www.hikaritv.net/sp/yuagari-sketch/

ひかりTVでは「湯あがりスケッチ」をはじめとして、銭湯・サウナを舞台にしたドラマを多数配信中！併せてお楽しみください
https://www.hikaritv.net/sp/hikaritv-drama/?cid=ent_video_yuagari_sketch_of_9

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