大前粟生「恋ってよくわからない 悩んでもがくむきだしの恋愛小説」『きみだからさびしい』インタビュー

小説・エッセイ

公開日:2022/3/7

大前粟生さん

 恋愛感情は一方的で、思いを向けられた相手からすれば、時に暴力的ですらある。そんな好意の加害性を自覚しながら、なぜ人は人を好きになるか。これは恋愛というよくわからないものに、誠実に向き合った小説だ。

(取材・文=野本由起 撮影=佐藤 亘(文藝春秋写真部))

「ジェンダーの不均衡、そこから来る暴力性、危うさを踏まえたうえで、恋愛ができるのかというところからスタートした小説です。時代が進むにつれて価値観や人間関係が多様化して、今までになかったような考え方も出てきています。今はちょうどすれ違いや衝突が起こる時期なのかなと思って。きっとこれから折り合いがついていくんでしょうけど、一旦解決すると葛藤していた時のことは忘れてしまいます。なので、恋愛小説を書きたいというよりは、いろんな考え方を小説に書くことで保存したいという動機がありました」

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 町枝圭吾は窪塚あやめに恋をする。恋と性欲は混同したくない。でも、100%の自分で、最高の恋がしたい。

「圭吾は、臆病で優柔不断で、思い悩んでしまう人。思い浮かべていたのは、『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジ。20代ですが、ずっと思春期みたいな人として描きました」

 一方のあやめは、つかみどころのない女性だ。複数のパートナーと合意の上で関係を持つ“ポリアモリー”であり、蓮本という恋人と付き合っている。

「好きな相手のことって一番わからないし、好きだからこそ勝手にその人の像を作りあげてしまいます。でも、圭吾はそうやって思いを馳せることにすら悩んでしまう。どうしたらいいんだろうねということを、ずっと書いています。最近はSNSでも、立場が違うだけで敵のように見なす傾向があります。でも、人はそれぞれ違うし、何を考えているかなんてわかりっこない。人と違うことは悪いことではないけど、人と違うことに悩むのも悪いことではない。そう言いたかったのかもしれません」

 これはコロナ禍の恋愛小説でもある。出会いは2018年だが、悩み、惑い、相手を思っている間に新型コロナウイルスが蔓延しはじめる。

「コロナ禍では誰と対面で会うか取捨選択することになり、親密さのあり方も変わりました。他人や自分自身のことをそれまでよりも深く考えさせるような時期なんだと思います。人恋しさが暴走するさまを描くことで、友情と恋愛の違いみたいなことも浮き彫りにできるのかなと思いました」

 時の流れとともに、圭吾とあやめの関係性も変化していく。もがきながら、新たな関係を築こうとするふたりの行く末は。

「わかりやすい答えを書くのではなく、他人に消費されない関係、当人同士だけがわかる関係を築けたらいいなと思いました。僕自身、書けば書くほど恋愛がわからなくなって。結局、“恋愛は誰もがするもの”みたいなノリに従ってるだけなのかな、とか。本当はよくわからないものだけど、恋愛みたいにみんながしてることってたくさんあります。そういうものについて、わからないねと言ったり、悩んだりする人をこれからも書いていきたいです」

 

大前粟生
おおまえ・あお●1992年、兵庫県生まれ。2016年、「彼女をバスタブにいれて燃やす」が『GRANTA JAPAN with 早稲田文学』の公募プロジェクトにて最優秀賞に選出されデビュー。著作に『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』『おもろい以外いらんねん』『話がしたいよ』など。

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