岸井ゆきのさんが選んだ1冊は?「たったひとり大宇宙を行く、主人公のポジティブさ、驚きの展開に大興奮!」

あの人と本の話 and more

公開日:2022/3/10

岸井ゆきのさん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、岸井ゆきのさん。

(取材・文=河村道子 写真=TOWA)

「この本を読んでいた数日間、主人公と一緒に宇宙空間を旅していました。夜、布団に入り、目を瞑った時も宇宙船内の様子が浮かんでくるほどに。こんなに没頭し、映画を観るように読める本ってなかなかない」

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「もう大興奮!」と岸井さんが語る一冊は『火星の人』の著者・アンディ・ウィアーの最新刊。人類滅亡の危機に向かい、大宇宙をひとりで旅する男を描いた物語は、彼が宇宙船内で目覚める冒頭から驚きの連続!

「学校で子どもたちに科学を教えていたはずの自分はなぜここにいるのか? 主人公のグレース博士が少しずつ思い出していく、ここに至るまでの経緯と現在が並行して語られていくなか、読む人もその真実を発見していく。でもそれ以前に、彼はここでどうにかして生き抜かなければならない。その精神力とユーモアが素晴らしくて。どんな困難に遭遇しても深刻にならず、間違えても“じゃあ、他の方法でやってみよう!”という柔軟さとエナジーが。宇宙飛行士でなくとも、たとえばものづくりの現場でも、それがあればどこかに辿り着けるのではないかということを物語から享受した気がしました」

 旅に出かけたままいなくなってしまった親友。5年を経た今もその不在を受け入れられずにいる真奈(岸井ゆきの)。忘れたくない思い出の中で日常を過ごすその心を掬い取った映画『やがて海へと届く』は喪失の果てに見る光を享受してくれる。

「すみれ(浜辺美波)がいなくなっても真奈は生きていかなければいけない。働きもするし、職場の人とも笑い合えるけど、やっぱり心には靄がかかっているんですよね。すみれがいなくなる前の生活には戻れるかもしれないけれど、いなくなる前の心にはもう戻れない。そしてその喪失感が薄れることも、彼女がいなくなったことを乗り越えようとする人のことも許せなくて。その本質とは、真奈がすみれをわかりきっていなかったんだなと思う心ではないかなって。そんな掴めない喪失感を感じつつ、役をつくっていきました」

“真奈の後ろ姿を撮りたい”。撮影現場で、殊に印象的な場面で、中川龍太郎監督はそう話していたという。

「セリフや目線で気持ちを伝えようとは考えていませんでした。真奈が、私が、何か感じているところを、捉えていただいたという感じです。いつかこの喪失がつくる空白を受け入れることができたら、と祈るように演じていました。真奈がもう少し、楽になりますようにと」

ヘア:YUUK メイク:Yumi Endo スタイリスト:Setsuko Morigami 衣装協力:ベスト2万9700円(welenode/アルファPR)(税込)

きしい・ゆきの●1992年、神奈川県生まれ。近年の出演作に映画『愛がなんだ』ドラマ『#家族募集します』、『恋せぬふたり』など。待機作に映画『大河への道』『ケイコ 目を澄ませて』。4月よりドラマ『パンドラの果実〜科学犯罪捜査ファイル〜』で主人公とバディを組む天才科学者役に。

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映画『やがて海へと届く』

映画『やがて海へと届く』

原作:彩瀬まる(『やがて海へと届く』講談社文庫) 監督・脚本:中川龍太郎 脚本:梅原英司 出演:岸井ゆきの、浜辺美波、杉野遥亮、中崎 敏ほか 配給:ビターズ・エンド 4月1日(金)より全国公開
●引っ込み思案の真奈は、自由奔放でミステリアスなすみれと出会い、親友になる。だが彼女は突然いなくなった。5年後、かつてのすみれの恋人から渡されたビデオカメラに残されていたのは……。真奈はすみれが最後に旅した地へ向かう。
(c)2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会