隠密お仕事小説にクライマックスが到来!『忍者だけど、OLやってます 遺言書争奪戦の巻』橘ももインタビュー

小説・エッセイ

公開日:2022/3/12

橘ももさん

 忍者の里から逃げ、会社員として働く陽菜子が、悩みながら自分の道を探す姿を描く人気シリーズ『忍者だけど、OLやってます』。著者の橘ももさんに最新4巻「遺言書争奪戦の巻」について、また自身に訪れた変化について話をうかがった。

(取材・文=門倉紫麻 写真=干川 修)

どんな形でも一緒に生きていけばいい

『忍者だけど、OLやってます』はタイトルが示す通り、忍者の里の頭領の娘・陽菜子が会社員として働く姿を描いたシリーズだ。今作はその第4弾。長らく読者が見守ってきた二人──陽菜子が忍者だと知らずに好意を寄せる社長の息子・和泉沢と、忍者であることと和泉沢への思いの間で葛藤する陽菜子が、今巻ラストで、その関係に答えを出す。

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「書きたいと思っていたラストに辿り着けてすごく嬉しいです。陽菜子と和泉沢を書くことを通じて、私も『誰かと一緒に生きていくこと』について考えてきたんですよね。相手が同性であれ異性であれ、その関係が恋愛であれ友情であれ、当人同士が納得していればどんな形でも一緒に生きていけばいい、と思ってはいるのですが、誰かと一緒に生きるには、まず一人で立つことが大事。それなのに陽菜子と和泉沢はずっと足元がぐらぐらしている(笑)。なので4巻では二人一緒にではなく、一人ずつ成長する姿を書こうと思いました。それもあって、交互に視点が入れ替わる構成になっていますが、思いのほか和泉沢が成長してくれて嬉しかったです。彼の優しさを、甘さではなくて強さに変えることができて本当によかった」

 忍者の社会に馴染めず、里を出て会社員になった陽菜子は、会社を愛し、同僚と共に常に真剣に業務に取り組む。時折忍びの技を駆使してピンチを回避したり、オフィスでビジネス上の敵でもある忍者と命がけで闘ったりもするが、一会社員、一人の働く人としても陽菜子は魅力的なのだ。

「私は〝ちゃんとする〟ことができない人間なので、日々あたりまえに周囲を気遣いながら、なすべきことをなしている家族や友人たちをとても尊敬しているんです。そんな彼女たちにおもしろいと言ってもらえるものを書きたいという気持ちがずっとありますね」

 今巻では「跡継ぎ・相続問題」と「合併」が大きなテーマ。和泉沢がその解決策を探り、将棋の「入玉」に例えて自分らしく一歩踏み出す姿にぐっとくる。こうした現実に即したビジネス小説としてのおもしろさも味わわせてくれる。

「株式をどう配分すればいいかを実際に計算してもらったりしました。ビジネスに関わる部分は書くのがつらい!(笑)でも1巻の頃から親世代の会社員の方に『ビジネスのことがちゃんと書かれていておもしろい』と言ってもらえたのは嬉しかったですね」

 陽菜子と和泉沢を取り巻くキャラクターも本シリーズの大きな魅力。特にクールで辛辣なエリート忍者で外務省勤務の惣真には多くのファンがついている。

「親切で面倒見がいい人だなあと思って書いているので、特に4巻ではどうクールさを保つか苦労しました(笑)」

 和泉沢の祖父であり、「人を踏みつけにした上には幸福も成功も生まれない」と言い切る会長・與太郎も、4巻でひと際存在感を放つ。

「大きい目で社会や人を見られる人に指導者でいてほしいし、きれいごとがまかりとおる世の中であってほしい、という私の理想を託したのかもしれません」

 4巻を書き終え、橘さん自身にも変化があったという。

「今までになく書くのに時間がかかったんですが、その間小説を書くこと自体にも向き合って、初心というか大切なものを取り戻せた。小説を書いてきて初めてちゃんと書きたいことが書けたと思えて……お風呂でちょっと泣きました(笑)。これからもっと、いろいろなものが書ける気がしています」

 

橘もも
たちばな・もも●1984年、愛知県生まれ。2000年『翼をください』でデビュー。著書に「それが神サマ!?」シリーズ、ノベライズに『小説 透明なゆりかご』『小説 空挺ドラゴンズ』『さんかく窓の外側は夜 映画版ノベライズ』『大怪獣のあとしまつ 映画ノベライズ』など。立花もも名義でライターとしても活動。

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