累計200万部突破、話題の京都×古美術ミステリーを読み始めるなら今! シリーズの原点に立ち戻る『京都寺町三条のホームズ・0』望月麻衣インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2022/3/31

京都寺町三条のホームズ : 0 旅のはじまり
『京都寺町三条のホームズ : 0 旅のはじまり』(望月麻衣/双葉社)

 京都の寺町三条商店街に、ポツリとたたずむ骨董品店「蔵」。扉の向こうで待っていたのは、「寺町のホームズ」と呼ばれる“いけず”な京男子だった──。

「京都寺町三条のホームズ」シリーズは、京都に引っ越してきた女子高生・葵と、美しき京男子・清貴がさまざまな謎に挑む古美術ミステリー。現在17巻まで刊行され、累計200万部突破のヒットを記録、アニメ化もされている。

 このたび、そんな大人気シリーズの原点に立ち返る「0巻」が発売された。清貴と葵の出会い、恋心を自覚する前の出来事、壁ドンエピソードなど、甘酸っぱい短編をギュッと凝縮。さらに、ふたりがめぐった四季折々の京都もカラーページで紹介している。今、あらためて原点を振り返った意図とは? シリーズの今後の展望は? 著者の望月麻衣さんに語っていただいた。

(取材・文=野本由起)

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シュッとした京男と、京都にやってきた女子高生の日常系ミステリー

京都寺町三条のホームズ
『京都寺町三条のホームズ1』(望月麻衣/双葉社)

──「京都寺町三条のホームズ」シリーズは、京都の骨董品店を舞台に、店主の息子・清貴とアルバイトの葵がさまざまな謎に挑むミステリーです。すでに7年以上続く人気シリーズですが、そもそもこの小説はどのようにして生まれたのでしょうか。

望月麻衣さん(以下、望月):私は、2013年に「エブリスタ電子書籍大賞」を受賞してデビューしました。それからまもなく、打ち合わせでお会いした編集さんから「望月さん、多分これからご当地ものが来るよ。書いてみたら」と言われたんです。私は北海道出身ですが、ちょうどその頃京都に引っ越したばかりだったんですね。長年住んでいた北海道については客観的に書くのが難しいと思いましたが、それなら京都の話を書いてみようかなと思いました。

 そこで、まずは1年かけて京都の春夏秋冬を経験し、2014年5月から「京都寺町三条のホームズ」を書き始めることに。最初は小説投稿サイト「エブリスタ」で連載して、翌年春には双葉社さんから文庫が刊行される流れになりました。その時は1巻で終わったつもりでしたが、楽しかったので個人的にWebで続きを書いていたんですね。そうしたら、ありがたいことに続編のご依頼をいただき、そのまま続けていくことになりました。とはいえ、その時も春夏秋冬で4巻出せればいいなと思っていました。

──17巻も続くことになるとは、望月さんご本人も思っていなかったんですね。

京都寺町三条のホームズ
『京都寺町三条のホームズ7 贋作師と声なき依頼』(望月麻衣/双葉社)

望月:そうなんです。4巻まで書き終えたら、「もっと続けましょう」という話になって。そこで「じゃあ、7巻で完結させよう」と仕切り直したんですけど、「まだ続けましょう」という感じでじわりじわりと続いていきました(笑)。今振り返って、思い出深いのは7巻ですね。ここで完結しようと思い、緊張しながら書いたので。そうやってところどころで伏線を回収して区切りはつけているので、私としては第2シーズン、第3シーズンと続けているような感覚です。

──古美術を題材にしたライトミステリーにしようと思ったきっかけは?

望月:アンティークショップがすごく好きで、あこがれがあったんです。「京都とアンティークショップは相性が良さそうだな」と安易に設定を決めたのですが、生半可な知識では書けませんから、あとになって大変な世界に手を出してしまったなと少し後悔しました(笑)。そこで勉強を始めたのですが、いきなりいろいろな知識や考えを取り入れるとブレてしまうと思ったんですね。ですから、私の場合は中島誠之助(『開運!なんでも鑑定団』にも出演する古美術鑑定家)さんの本だけを読むようにしました。

──望月さんにとっては、中島さんが師匠のような存在なんですね。では、清貴と葵が生まれた経緯についてもお聞かせください。望月さんは、ふたりをどのような人物だと捉えていますか?

望月:清貴は、関西弁で言うところの「シュッとした京男」です。色白で細面で黒髪で。そして頭が良くて、ちょっと変人みたいなイメージです。

 葵はよそから来た人代表、読者目線代表ですね。特殊な能力があるわけでもなく、いたって普通の女の子。そんな彼女が、清貴の骨董品店で働くうちにレベルアップしていきます。

──京都には、清貴のような「シュッとした京男」が多いのでしょうか。

望月:それが、そうでもないんですよ(笑)。京都に引っ越してくる前は、京大生に対して素敵なイメージを抱いていましたが、実際に大学周辺にいるのは髪もボサボサでスウェットを着て歩いているような男子。「あれ? 思っていたのと違う」と、外側から見ていたイメージとのギャップを感じました(笑)。

──清貴を、ちょっと変わった男性にしたのはなぜでしょう。

望月:完璧な人って、なんだか物足りなく感じてしまうんです。ちょっと抜けていたり、欠けていたり、変だったりする部分があるほうが、キャラクターとして魅力的だと思いました。私も、そういう人のほうが好きですしね。

──それに対して、葵は普通の女の子です。「よそから来た人代表」とのことですが、埼玉出身にしたのはなぜですか?

望月:私は北海道出身なので、「都内に住んでいる人=選ばれし者」という感覚があるんです(笑)。もっと一般的で、なおかつ標準語を話す人ということで、大宮や柏、松戸あたりに住んでいる人にしようと思いました。

風景や体験をリアルに描くことで、京都めぐりを疑似体験してほしい

──このたび、シリーズの原点に立ち返る「0巻」が発売されました。今、あらためて原点に戻ることに、どのような意図があったのでしょう。

望月:もともとは京都のガイドブックを作りたかったんです。以前にも「6.5巻」というガイドブックを出しましたが、その後も「京都の見どころを教えてください」と質問をいただくことが多かったんですね。私としては作品を通して書いてきたつもりですが、やっぱり四季折々の名所をまとめたガイドブックが1冊あってもいいのかなと思いました。そうすれば、季節ごとの見どころもわかって読者さんも観光しやすいし、シリーズを読んでいない方にも興味を持ってもらえるのかな、と。

 ちょうどその頃、京都の観光ガイドブックを制作している「らくたび」の方とお仕事をご一緒していたので、「京都寺町三条のホームズ」シリーズの担当編集さんにも企画を提案してみたんです。そうしたら「いいですね、じゃあ短編も入れましょう」となって(笑)。私は京都のガイドブックを出せればうれしかったのですが、短編も書き下ろすことになりました。

──このインタビューが掲載されるのは春先です。春の京都のおすすめスポットは?

望月:桜の名所・仁和寺はもちろん、高瀬川、鴨川のあたりもきれいな時期ですよね。場所を問わず、どこへ行ってもきれいな季節だと思います。

──望月さんのおすすめシーズンも春でしょうか。

望月:私は秋をおすすめしたいですね。春の桜もきれいですが、雨や風ですぐに散ってしまうので見ごろが短いんです。紅葉は長く楽しめますし、秋は食べ物もおいしいじゃないですか。秋ならではのスイーツもたくさんありますよ。

──作中でも、京都の魅力や四季折々の風景を丁寧に描いていますよね。京都を描くうえで大切にしていることは?

望月:できるだけ、リアルに伝わるように書いています。現地取材をしていても、いざ書こうとなると細かいところを忘れていることもあって。例えば神社の鳥居を抜けたあと、左右どちらに手水舎があったか。お参りしたあと、缶コーヒーを買ってベンチで飲むというシーンを書くなら、そこに自動販売機やベンチはあったのか。ざっくり書いたあと、もう一度確認しに行くことも多いですね。地面が砂利かそうでないかで、登場人物の足音も変わってきますから。本当にあるものを書き、見たものに対する自分の思いも盛り込むことで、読者の方にも疑似体験してもらえたらと思っています。そのうえで「自分も行ってみよう」と実際に京都を訪れるきっかけになればうれしいですね。

──京都に移り住んで約9年経ちますが、京都の印象は変わりましたか?

望月:それが、今も変わらないままなんです。ただ、ひとつ言えるのは、京都は観光で訪れるよりも住んだほうが数倍面白い街だということ。他の地域にお住いの方には、ちょっと感覚的にわからないようなことが普通に行われているんです。例えば、朝は神社から太鼓の音がしてきて、夕方になったら鐘の音が聴こえて。地蔵盆のようなお祭りも、昔ながらの日程にこだわって実施しています。歴史や伝統をとても大切にしていますし、それが当たり前という感覚なのが面白いですね。

──葵は「よそから来た人代表」とのことでしたが、今でも望月さんはよそ者視点を持つよう心掛けているのでしょうか。

望月:だいぶ慣れてきてしまいましたが、「ダメダメ。まだまだよそ者で行くよ」と思っています(笑)。それに、京都に引っ越してからずいぶんいろいろなところに行きましたが、まだ神社仏閣を回りきれていないんですよ。その奥深さ、層の厚さが京都ですよね。ですから、小説のネタもまだまだあります(笑)。

まだ自分の恋心を自覚していない、じれったい関係を描きたかった

──短編についても、お話を聞かせてください。今回の「0巻」には、ふたりの出会い、葵と清貴それぞれの視点から描いたバイト初日のエピソードなど、原点となる7つの短編が収録されています。

望月:3巻くらいしか読んでいなくても、楽しめる内容にしたかったんです。シリーズも17巻まで来ましたから、これまでのストーリーを全部追いかけていない方もいるでしょう。ですから、アニメをちらっと観た方、マンガは読んだ方でも楽しめるよう初期のお話にしようというのが、私の中でのコンセプトでした。「0巻」と言いつつ、「1.5巻」くらいの内容です。

──最初の頃と比べると、近刊では葵と清貴の仲もずいぶん進展しています。初々しいふたりにさかのぼって書くのは大変だったのでは?

望月:今はすでに婚約していますからね。あの頃に戻るために、アルバムをめくるような気持ちで最初のほうを読み返しました。両片思いのような状態なので、そのじれったさと言ったら……(笑)。でも、そこがいいのかなと思いながら、もどかしいふたりを書いていきました。

──他にもアニメオリジナルエピソードが収録されていたり、クリスマスなど季節ごとの短編など、バラエティに富んだラインナップです。望月さんのお気に入りは?

望月:あの頃の清貴は葵のことをどう思っていたのかを描いた、「あの夏の夜の後に……」が好きですね。清貴自身はまだ自分の感情に気づいていないけれど、ちょっと揺れているところが書けたのがうれしかったです。他には、クリスマスのエピソードも清貴と葵のすれ違いを楽しみながら書きました。

──短編以外にも、シリーズおなじみの登場人物が繰り広げる幕間の会話劇も楽しかったです。

望月:担当編集さんの発案です。ガイドブックのつもりが短編集になった時点で「えー!」という状態だったのに、「キャラクター同士の掛け合いもほしいですね」と言われて、さらに「えーー!!」となりました(笑)。でも、次の短編を紹介するつなぎになったり、裏話を語ったりするのも確かに特別感があっていいなと思ったので、短編を書いたあとに足していきました。

18巻では、香港の大金持ちお嬢様が波乱を巻き起こす!?

──3月に0巻、4月には18巻と、2ヵ月連続で新刊が発売されます。18巻の見どころも教えてください。

望月:最近、京都案内がちょっと少なくなっていたので、原点回帰して京都案内をふんだんに取り入れ、エンタメに振り切った作品にしました。香港から大金持ちのお嬢様がやってきて、清貴に京都を案内してほしいと言うんです。でも、清貴は全然乗り気ではなくて。すごいわがままなお嬢様に対して、さらに輪をかけて腹黒い清貴、みたいな構図を目指しました(笑)。こんなに性格悪く書いていいのかというくらい、振り切って楽しく書けました。

──近刊は、葵の成長ぶりがうかがえるエピソードが多かったですよね。先生ご自身は、あらためて葵の成長をご覧になってどう感じていますか?

望月:最初は、登場人物が年を取らないスタイルにしようと思ったんです。でも、京都の四季を描いているので、次の春が来ているのに年齢が変わらないのはあまりにも不自然なので、年を取らせることにしました。「それなら葵の成長も書こう」と思ったところ、読者さんからは親戚目線で成長を追っていただけたんですね。そういった一面も楽しんでいただけたらと思います。

──清貴と葵の恋愛については、最近は安定していますね。

望月:両片思いからスタートして、5巻で気持ちが通じ合い、7巻でライバルとの対決が終わり、10巻で仲が進展しました。12巻から小松探偵事務所で修業を始めることになり、今度の18巻も小松探偵事務所寄りの話です。これまでは葵視点でしたが、小松さん視点で清貴と葵について語る場面も。第三者の視点で語ることで、なぜ葵が清貴や円生に好まれるのかという理由も納得できるのではないかと思います。

──当初は長く続けるつもりではなかったという話がありましたが、今後このシリーズはどのように発展していくのでしょう。

望月:今はもう、目の前のことに一生懸命です(笑)。「0巻」と「6.5巻」を入れると、次の18巻で20冊目。20巻続けることも目標のひとつだったので、あとは楽しみながら、1作ずつ目の前のことを頑張っていきたいです。

 今回の「0巻」は、シリーズをすべて読んでいない人、まったく読んだことがない人でも楽しめる作りになっています。シリーズ累計200万部記念として、1、2、3巻にも新しいカバーがつくので、この機会にシリーズを読み始めていただけたらと思います。1、2、3巻を合わせるとカバーが1枚の絵になりますし、裏面にはショートストーリーも掲載しています。ぜひご新規の方にも楽しんでいただきたいですね。

<お知らせ>
文庫本1~3巻に新帯が登場!
文庫1~3巻が、イラストレーター・ヤマウチシズ先生の新規描き下ろしイラストを幅広帯(ダブルカバーサイズ)として期間限定で発売! 帯の裏面には書き下ろしショートストーリーも掲載される。

京都寺町三条のホームズ
イラストサンプル

 また、0巻と同日、3月10日発売のコミックス最新9巻を購入すると、「書き下ろしショートストーリー付描き下ろしイラストカード」がついてくる特典も! こちらは一部書店にて配布されているので、購入前に必ず確認を。

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