芦田太郎さんが選んだ1冊は?「“あざとさ”を知ることは、人に対する想像力を育む手段でもあるんです」

あの人と本の話 and more

更新日:2022/4/17

芦田太郎さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、芦田太郎さん。

(取材・文=吉田大助 写真=山口宏之)

 テレビ朝日の芦田太郎さんは、『あざとくて何が悪いの?』など数々のバラエティ番組の企画・演出・プロデュースを手掛けている。もう一つの人気番組『あいつ今何してる?』も含め、彼が関わっている番組は、テレビ的には切り捨てられがちな、人生の細部のディテールを掬い上げており、どこか「文学」の薫りがする……と思っていたらやはり、小説の熱狂的な愛読者だった。

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「大好きな作家はたくさんいるんですが、影響を受けたという意味では、村上龍さん一択です。中学1年生の時、哲学教授をやっている親父に『コインロッカー・ベイビーズ』を勧められたのがきっかけでハマり、エッセーも含めて本は全部読んでいます。例えば『希望の国のエクソダス』のストーリーは、一言でまとめると“中学生が80万人一斉に不登校して、北海道に独立国家を造る”。鳥肌が立つくらいに冴えたアイデアですよね。『才能とは危機感に支えられた意志』─村上さんの本を読んでメモった言葉は、企画出しや番組作りをするうえでも指針になっています」

 膨大な候補の中から今回選んだ一作は、『歌うクジラ』。2010年に刊行された近未来日本が舞台のディストピアSFだ。

「最後のほうで『生きる上で意味を持つのは、他人との出会いだけだ。そして、移動しなければ出会いはない。移動が、すべてを生み出すのだ』という文章が出てきます。コロナで移動の不自由に苦しめられるようになった今読むと、よりグッときますね。なおかつ、テレビマンとしての自分の根幹にあるものを言語化してもらった気がしたんですよ。テレビというメディアを介してたくさんの人と出会いたい、そして伝えたいことがあるから、僕はこの仕事をしているんだと思うんです」

『あざとくて何が悪いの?』は、ある種の教養番組だ。「あざとさ」を切り口に、コミュニケーションの仕方、自他の心理の裏にあるものを丁寧に読み解いていく。

「村上龍さんの本からもらった“想像力”というキーワードとも繋がっていると思います。世の中に、まったく同じ人っていないじゃないですか。ということは、その人ごとに対応の仕方だったり、接し方や配慮の仕方があるはず。“あざとさ”を知ることは、そうした想像力を育む手段でもあるんです」

 芦田さんの番組と、良質な小説の読後感が似ている理由がわかった。

あしだ・たろう●1985年生まれ。2008年、テレビ朝日入社。現在放送中の担当作品に、『あいつ今何してる?』『あざとくて何が悪いの?』『トゲアリトゲナシトゲトゲ』『まだアプデしてないの?』などがある。好きな作家は〈村上龍と阿部和重と木下古栗と川上未映子と松田青子〉(Twitterのプロフィール欄より)

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視聴者投稿をもとに、男女問わず「あざとい」とされる言動の数々を再現ドラマ化。山里亮太(南海キャンディーズ)、田中みな実、弘中綾香(テレビ朝日アナウンサー)のレギュラー3名およびゲストが、愛あるツッコミと解説を繰り広げる異色のトーク・バラエティ番組。「あざと連ドラ」「あざとディクショナリー」など、ミニコーナーも充実。テレビ朝日系、毎週日曜23:55〜放送中。芦田は演出とプロデューサーを兼務している。
提供:テレビ朝日