玉山鉄二さんが選んだ1冊は?「ニュースをいかに“選択”できるか。受け取る側の姿勢に気づかされた」

あの人と本の話 and more

更新日:2022/4/17

玉山鉄二さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、玉山鉄二さん。

(取材・文=河村道子 写真=大石隼土)

「僕はもともとドキュメンタリーが好きなんです」という玉山さんが選んだのは、総理大臣や官房長官に食い込んだ、ごく一部の記者を指す言葉をタイトルに冠した一冊。

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「フィクションなのに、文字から溢れる生々しさが表面的な部分を突き破ったところにあるリアリティを想起させてくれる。著者の相場さんはかつて通信社の記者だった方。お話ししたときに感じたのはニュートラルな印象のなかに垣間見える、見てはいけないものを見た人が持つ歯がゆさ、そこに溢れる熱量でした」

 著者と対話したのは本作のドラマ化作品で主演した際。トップリーグ入りを果たした新聞記者・松岡を演じていくなかで感じたのは「ニュースとは“自分がどう思うか”で完結するもの」ということだったという。

「たとえば政治家のひと言から報道記事を勘ぐって読むことがありますよね。ニュースの裏にあるものを、そうして想像することはすごく大事だと僕は思う。情報が氾濫する今、信頼できるニュースをいかに選択できるか。そこでは受け取る側のセンスや知識が問われる、という本作が示すものは、今まで自分が演じてきた作品のなかでも格別なものでした」

 幸せもその形は自分で選択できる。頑張らなくても幾つになっても――。かつて人気カメラマンとして脚光を浴び、バブル崩壊ですべてを失い15年。40代を迎えた今もリ・スタートできない主人公を演じた映画『今は、ちょっとついてないだけ』からはそんなメッセージが浸透してくる。

「今の日本社会って窮屈で、セカンドチャンスもなかなか与えられない。ゆえに歳をとればとるほど、保守的な生き方を選択してしまう人が多い気がするんです。自分に対して諦めを感じている人がもう一回スイッチを入れられるような作品になれば、と思いつつ、演じていました」

「40、50代のおっさんがここまで集まる作品はなかなかない(笑)」という本作に登場する人々は、人生の辛苦を味わった人ばかり。なのに彼らの姿を見ていると、ゆるやかに心の軸が整ってくるよう。

「僕らの世代は子供の頃、苦労は買ってでもしろとか、とにかくがんばれ!と言われ続けてきたんです。でも40代になってみると、どうやらそれは違うなと。“こうでなくてはいけない”ことなんてないんだとわかった。緩くていい、何度失敗してもいい。自分の思いをのびのびさせてあげていいんだ、ということをスクリーンから感じとってほしいです」

ヘアメイク:TAKÈ for DADACuBiC@3rd スタイリング:袴田能生(juice) 衣装協力:ジャケット7万3700円、シャツ4万9500円(ともにUJOH/M/エム TEL03-6721-0406)、ジャンプスーツ8万2500円(Kazuki Nagayama/STUDIO FABWORK TEL03-6438-9575) その他スタイリスト私物 *すべて税込

たまやま・てつじ●1980年、京都府生まれ。2010年、映画『ハゲタカ』で日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。NHK連続テレビ小説『マッサン』では主人公の“マッサン”こと亀山政春を熱演。出演作に映画『星守る犬』『亜人』、ドラマ『西郷どん』『トップリーグ』『全裸監督』シリーズなど多数。

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映画『今はちょっと、ついてないだけ』

映画『今はちょっと、ついてないだけ』

原作:伊吹有喜(『今はちょっと、ついてないだけ』光文社文庫) 監督・脚本・編集:柴山健次 出演:玉山鉄二、音尾琢真、深川麻衣、団長安田(安田大サーカス)ほか 4月8日(金)より新宿ピカデリー他全国順次公開
●かつて人気カメラマンだった立花浩樹(玉山鉄二)。住み始めたシェアハウスで出会った、日々を生きるのが不器用な大人たちが見出だす、“心が本当に求めるもの”とは――。
(c)2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会