芸人は「魂を売る」と褒められる。平成ノブシコブシ徳井健太が語る「売れる覚悟」《インタビュー》

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更新日:2022/4/29

徳井健太

 平成ノブシコブシ・徳井健太さんが、2月28日に『敗北からの芸人論』(新潮社)を上梓しました。本書は、「負けを味わった奴だけが売れる」というテーマで21組の芸人の生き様を語るエッセイ集。徳井さんの視点で語られる愛あふれる芸人論が話題となり、発売1カ月で3刷が決定しました。

 本書の中で、徳井さんはこう語っています。「芸人は大きく分けて『売れたい』か『面白く思われたい』かのふたつに分類できる」(p.122/「ニューヨーク」の章より)。実際、平成ノブシコブシも「売れたい相方、面白いと思われたい自分」だったそう。芸人にとって、売れるとはどういうことなのでしょうか。徳井さんならではの考え方を教えていただきました。

(取材・文=堀越愛 撮影=島本絵梨佳)


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視聴者と芸人、どちらにも媚びている人はダサいと思う

徳井健太

――本書には、「売れる」という言葉がたくさん出てきました。徳井さんが見ていて、芸人さんが「売れたい」と思っているなと感じるのはどんなときなんでしょうか?

徳井健太さん(以下、徳井):「同業者や関係者は面白いと思わないだろうな」ということを、「いかにも面白そうに言ってるな」と思ったときですかね。

――徳井さんがパーソナリティをしているラジオ『芸人ミチシルベ』(GERA放送局)※で、「売れたい」と言うTAIGAさんに「悪魔に魂を売れるか」という話をしていましたよね。つまり、そういうことですか?

編集部注※徳井さんがゲスト芸人の現状を聞き、ステップアップするためになにを目指すべきか一緒に考えていくラジオ番組(不定期配信)

徳井:そうなんですよ。バラエティ番組で動物を見て「可愛い」と言えるか、みたいなことです。これは、必ず若手芸人が当たる壁なんですけどね。「動物が可愛い」だけじゃない、もうひとひねり入れたことを言いたいと思ってしまうんです。今で言うと、真空ジェシカもそういうパターンなんじゃないかな。でも、やっていくうちに「ここで一番求められているのは、“面白い”ではなく“可愛いと言うこと”なんだ」と気づくんですよ。そのときに、口では「可愛い」って言ってるけど、どこかで「いや、俺は可愛いと思ってません」感を出す人がいるんです。これが一番ダサいと思ってて……視聴者にも芸人仲間にもどちらにも媚びてるみたいな。そういう人は消えていくと思います。

 動物を見て本気で「可愛い!!」とはしゃげる人か、もしくは、トガるならずっとやり続けられる人じゃないといけない。でも、みんな混ぜちゃうんですよ。そうじゃなく、ちゃんと本気で「可愛い」と言いつつ、大喜利大会で優勝しちゃうみたいな……麒麟の川島(明)さんとか、その最たる例ですよね。ここまで言ってしまうと仕事がやりにくくなる人もいっぱいいると思うので、悪いなと思いますけど(笑)。

――本書のかまいたちさんの章でも書かれていた、「売れる覚悟」と同じことですね。

徳井:濱家とか特に、そうでしょうね。すごく変わったと思います。でも、多くの人は魂を売り切れないんですよね。売ってるように見える人はいっぱいいるんですけど。

――例えばハライチの澤部(佑)さんなんかは、テレビで「魂を売って」いる芸人さんでしょうか?

徳井:いや、澤部はたぶんもともと「魂がない」です(笑)。うちの相方やオードリーの春日(俊彰)とかもそうですが、スタッフさんの意図することに全力で応えて番組を盛り上げようとする。それって芸人として素晴らしい才能のひとつでなかなか真似できないし、澤部や吉村がどの番組でも重宝されるのはすごくよくわかります。だから、「面白いと思われたい」出身の人が人気者になっていくのは、やっぱりすごく難しいんです。

――それが、平成ノブシコブシで言うと「売れたい」吉村さんと「面白いと思われたい」徳井さんだったんですね。

徳井:そうですね。うちは性格が真逆の2人がコンビを組んだようなものなので。足並みを揃えるのは難しかったですね。

――「魂を売った」人は、同業者からどう思われるんでしょうか?

徳井:売れている先輩は、マジで褒めてくれると思います。それこそ「敗北」を知っているからこそだと思いますよ。でも、今勝ちの真っ只中にいる若手は、例えば極楽とんぼの加藤(浩次)さんに敗北の過去があるなんて知らないかもしれないし、(こういう話は)鬱陶しいんじゃないかな。彼らは「俺らが負けるわけがない」と思って、頑張っているので。

ネタが評価されていなくても、面白い芸人はいる

徳井健太

――今はYouTubeをはじめ、テレビ以外にも芸人さんが活躍できる場所がたくさんある時代です。それでも、今もテレビは大事だと思いますか?

徳井:うーん、難しいですね。お金だけ考えるなら、テレビは出なくても良いと思うんですよ。YouTubeに力を入れるほうがよっぽどギャラが良いから。「テレビなんて」みたいなことを言う若手もいますけど、多くの芸人はテレビからオファーがあったら出ますよね。だから、やっぱりテレビを大事だと思ってるんじゃないかなぁ。

 そもそも、YouTuberと芸人は持っている感覚が違うんですよ。うちらは、劇場やテレビで「知らない人が見ても笑えるように」って教わってるんです。どっちがボケかツッコミかも知らない、漫才かコントかもわからないような、初見の人たちを笑わせるのが芸なんだと習ったんです。でもYouTubeは、ファン(登録者)をどれだけ増やすかっていうところが勝負で、みんなが知ってる前提で「この前、妹がさぁ」と語り出してもいい。逆に、みんな知ってるのに「僕には妹がいまして」からはじめたら、ファンからしたら鬱陶しいじゃないですか。でも、うちらはそういうことを「きちんと毎回出していけ」と教わってる。マジで真逆なんです。

――確かに。前提条件が違いますね。

徳井:知らない人にも楽しんでもらおうと思ってネタを作っているのが芸人だから、YouTuberに「俺のほうが金稼いでる」って言われても、それほど羨ましがってないんです。

 でも、(ネタに力を入れている芸人は)悔しい気持ちもあるんじゃないかなとも思います。ドッキリかけたりしたほうが再生数上がるのを、真横で見ながら愚直にネタをやれるって……なかなかできないことです。無限大(ヨシモト∞ホール所属の芸人)はそういう人が多いですよね。「ネタやらなくても、面白ければ良いでしょ?」っていう人は今でも少数派で、僕らが出ていたときもそうでしたけど、やっぱりピースみたいにちゃんとネタを頑張ってる人が正統という空気はいまも感じます。けど、ネタをやらない少数派の人も頑張ってほしいなと思いますよ。

――ネタをやることが正統派だから評価されていないだけで、ネタ以外で面白いことをやっている芸人ということですか。

徳井:別に、無理をしてネタやらなくても良いのになって思いますけどね。うまくいかないこと(ネタ)を頑張り続けなくても良い。周りに合わせて、頑張って「ネタをやるのが正しい」と思ってやってるけど、「ほかに面白いことができるんだから良いんだよ!」って言ってあげたい。……例えば、カゲヤマとか。YouTubeチャンネル※でギャンブルやったりしていて、それ自体は(ネタをすることが正統だとしたら)邪道じゃないですか。でも面白いんだから、もっと胸張って良いと思うんですよ。

編集部注※YouTubeチャンネル「あむあむWORLD」……お笑いコンビ・カゲヤマを含む4人組のユニットで、オリジナルゲームなどを投稿している

中途半端に残り続けることはできない世界

徳井健太

――徳井さんは、各所で「次に売れるのはダイタク」とお話されていますよね。同時に「可愛げが出れば」売れるとおっしゃっていますが、芸人さんの「可愛げ」ってなんなんでしょうか?

徳井:「いじられる隙があること」だと思います。いじられるって、同業者に好かれてるってことなんですよ。僕は全然いじられないんですけど(笑)。もちろん本人が嫌がるようないじりは良くないですが、「この人の面白さや魅力を伝えたい」と周りが思ってエピソードを話してくれることって「売れるため」にはかなり大事だと思っています。

――今はバラエティやネタ番組が多く、お笑いブームだと思います。いつかこのブームが去ったとき、芸人さんはどうなると思いますか?

徳井:歴史をひもとくと……『ボキャブラ天国』って出演者みんなキラキラ輝いてましたけど、番組が終わったら(半分は消えて)半分がMCをやりだしたんですよ。「今思えば」理論ですけど、番組が終わって20年後にはそうなった。だから『爆笑レッドカーペット』が始まったときも、(番組が終わったら)半分は消えて半分はMCをやるようになるんだろうなと思いました。

 だから、今テレビに出ている若手も半分が消えて、半分はMCになるんだろうなと思います。ずっと中段に座っていることってまずありえなくて、今の若手もいずれはいなくなるか、冠をゴールデンでやってるか以外はない。中途半端はあり得ないという感覚でいたほうが良いんだろうなと思います。

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