いま改めて証明される、「破格の才能」。初の武道館ワンマンも決定したReoNaに、充実のEPの背景を聞く――ReoNa『Naked』インタビュー(後編)

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公開日:2022/5/14

ReoNa

 2018年夏、絶望系アニソンシンガー・ReoNaの1stシングル『SWEET HURT』を紹介するインタビューで、「破格の才能、現れる」と形容した。それから4年弱。『ソードアート・オンライン』などのタイアップ楽曲において、アニメ作品やキャラクターに「リンクする・シンクロする」のではなく、依り代・器として「作品そのものになってしまう」歌唱をもって、聴く者に驚きを与えてきたReoNaは、着実に歩みを進め、その表現はリリースを重ねるごとに進化を遂げてきた。「剥き出し」「ありのまま」を掲げた、4曲入りのEP『Naked』は、これまでの楽曲で積み重ねてきた経験や、表現の原動力となってきた「絶望」との向き合い方を踏まえながら、ReoNa自身の感受性が確かに映し出された、新たな最高傑作と呼ぶべき充実の1枚となっている。そんな『Naked』の4曲はどのようにして紡がれていったのか、前後編2本立てのロング・インタビューで明らかにしていきたい。後編は、『Naked』の収録曲それぞれについて、詳細に語ってもらった。

 なお、ダ・ヴィンチWebでは、ReoNa初の連載コラム「あにめにっき」を公開中。2023年3月6日には初の日本武道館ワンマンライブも決定したReoNaの音楽、テキストに、ぜひ触れてみてほしい。

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お歌を受け取ってくれたあなた自身がどう感じて、どう立ち上がってくれるのかまでは、どうしても触れられない歯痒さがあります。それでも紡いでいたいし、歌っていきたい

――前編では、『Naked』を作り上げたアーティスト・ReoNaの「今」の話をさせてもらいました。楽曲の話に入っていくと、まずM-1“ライフ・イズ・ビューティフォー”は穏やかな曲調で、一瞬「絶望系」という言葉を忘れかけるくらいの曲だなと。一方で、思い通りにいかないことがある前提で、前向きにも進んでいけるというメッセージがすごく力強いな、と感じました。

ReoNa:芯のある楽曲だと思います。ReoNaとして伝えたいもののひとつに、傷つくことない人生なんてない、ということがあって。同時にわたしの感覚として、不幸とか理不尽って、雨に似てるな、と思うんです。防ぎようもないし、降られたことがない人もいないし、自分の力ではどうにもならない。絶望にもいろんな種類があって、挫折や暴言や暴力――自分から動くことによって受けてしまうものもあれば、理不尽とか突然の不幸って、自分のせいじゃないときもありますよね。

――行動の結果なのか、不可抗力なのかということ?

ReoNa:そうです。なんか、行動の結果だったらまだ耐えられたりすると思っていて。「自分がこうしたから、こうなっちゃったんだ」とか。でも、その不可抗力なものって、必ずしも絶対に受け止めないといけないものではないんじゃないかな、と思います。で、雨に対する傘って、優しい存在だと思っていて。作詞・作曲の傘村トータさんの名前の由来を聞いたときに、「傘になりたい」っておっしゃってたんです。その言葉や理念を聞いて、優しいな、素敵だな、と思いました。「そっと手向けられるような傘になりたい」という言葉はすごく優しいですけど、同時に“ライフ・イズ・ビューティフォー”は強い理念、強い覚悟が表れた楽曲でもあります。この曲に書かれていることに当てはまる人が、きっとたくさんいてくれるんじゃないかな、と思います。

――M-2の“テディ”は、前編で「ReoNa史上最も泣けるEPでは」と話したけど、この曲から特にそれを感じました。鼻の奥がツーンとする感じがあるというか。冒頭の《でこぼこの形になった心を/綺麗なハートに戻すには/どれくらいの力を込めて/君の心を削ろう》あたりは、天才的な歌詞だな、と思うし。

ReoNa:まず、この“テディ”は、傘村トータさんから2年前にいただいた楽曲なんです。「とんでもないものをいただいてしまった」と思いました。さっきおっしゃった鼻の奥がツーンとする感じ、涙が出てくる感じは、まずわたしがこの楽曲をもらったときにも、ものすごく感じました。泣きましたし、温かいな、優しいなって思いました。音楽、曲が持つパワーを感じたし、わたし自身が曲を受け取ったときの思いも強くあったので、逆にこの曲を受け取ってくれた人にも、わたしと同じくらい、この楽曲に感情を動かされてほしいなあって思いましたし、いざ自分がこの楽曲を届ける側に立つときには、絶対そういう曲にはしないといけないなと思いました。心の剥き出しの部分に触れられているような感覚がある曲ですね。それってきっと痛いことなんでしょうけど、痛いことであると同時に、心地よいことでもあってほしいと思います。

――痛みを伴った先に「元通りの綺麗なハート」があったと想像すると、ちょっと感動しちゃいますね。そういう深読みをしたくなる歌詞、というか。

ReoNa:この曲は、いろんな角度から思うことがいっぱいあります。お歌を通して、手も引かない・背中も押さないことについて改めて考えていた中で、「隣にいるだけ」というのはきっと、“絶望系アニソンシンガー・ReoNa”、という存在もそうなんですよね。お歌を歌うことはできて、こうして言葉を伝えることはできて、ライブで同じ空間にいることはできて。SNSやCD、いろんな形で自分の思いを発信することはできるし、お歌を歌うこともできるけど、誰かの手に触れることはできなくて。ただ、助かりたい誰かのことを想うけれど、その誰かに直接触れることはできないんです。お歌を受け取ってくれたあなた自身がどう感じて、どう立ち上がってくれるのかまでは、どうしても触れられない歯痒さがあります。それでも紡いでいたいし、歌っていきたいから、お歌を紡ぐわたし自身の場所について、すごく考えました。

――前編で話してもらった“生きてるだけでえらいよ”のコメント欄の話を聞くと、結果的に背中を押せている部分もあるのかもしれないですね。

ReoNa:でも、どちらかというと、「背中を押させてくれた」というか、受け取ってくれたあなたがあなたの力でこうしてお歌に出会って、立ち上がってくれて、それは紛れもなくあなた自身の行動で、あなた自身の思いで、あなた自身の力なんだよって、思ったりします。

ReoNa

“Someday”で、逃げたくても逃げられない人に寄り添えたらいいな、と思います

――M-3の“Someday”には「タテカワユカ」という主人公がいて、歌詞の中のストーリーが進んでいくわけですが、これはたぶん新録の3曲の中だと、最も自身の過去、そして最近感じたことを映し出している楽曲なんじゃないか?と思ったんですけども。

ReoNa:この歌詞が描いている物語に関しては、わたし自身の過去も含まれています。それこそ《逃げて逢おうね》という歌詞に込めた思いは、まさに今だったりもします。今回の『Naked』に関してはライブにも紐づいている1枚で、同じタイトルで回るライブツアーがあることも踏まえて制作がスタートしているので、1曲1曲ライブで受け取ってもらえる未来がはっきり想像できました。わたし自身、音楽が逃げ場所であり、逃げた先だったので。ライブハウスに音楽を聴きに逃げて、歌を歌いに逃げて、アニソンに逃げて、アニメに逃げて。わたし自身の逃げ場だったライブの空間で、今度はわたし自身が、もしかしたら逃げてきているかもしれないお歌を受け取りに来た誰かに、《逃げて逢おうね》と言える今――過去のわたしから見た未来に、すごくリンクしている気がします。これからライブでこの楽曲をお届けする空間の中に、過去のわたしもいるんだろうなって想像しながら、歌いました。

 この楽曲を作るにあたって、傘村トータさんと過去の話もたくさんしました。「わたしは逃げ出した人だったんです」って。曲の中の主人公は、家にも学校にも居場所がなかった少女で、電車で逃げて、でも子どもひとりじゃ遠くにも行けないし、何度も連れ戻されて、それでも何度も逃げる――わたし自身も、本当にしょっちゅう家出をしていたし、大人とか家とか学校とか――学校も、いわば理不尽の塊だと思っていました。選べるわけでもなく、家が近いだけの同い年の子たちがクラスに30人、40人いて、その場で同じ経験をする。だったら、わたしひとりくらい同じ経験をしなくても別にいいじゃない、逃げちゃおうって思って、いろんなところに行きました。

 あるとき始発の電車に乗ったら、電車の中がすごくアットホームだったんです。知らない人が同じハコにいっぱい乗っているはずなのに、早朝に朝練に向かう学生さんが、ご飯を食べていたり。まだガラガラの時間で、下りの電車だったので、快適に新聞を読んでるおじさんとか、学生さんが乗っていて、よっぽどこっちのほうが温かいじゃない、と思っちゃったんです。顔も名前も知っているはずのクラスメイトがギュッと詰まった教室よりも、当時のわたしは、何も知らない人同士が乗っている始発電車を温かく感じて、あの日の温かさを思い出しながら、お歌の中でその温かさが持てたらいいな、と思いました。

――“Someday”は、逃げたくても逃げられない人に届くといいですよね。

ReoNa:わたし自身は、逃げてもいいんじゃないかとか、わたしは逃げてきましたと言ってるけど。人によってはひとつのことで一生が決まってしまったりする場合もたくさんあると思うので、まさに逃げたくても逃げられない人に寄り添えたらいいな、と思います。

――曲を聴いただけで完結しないところがいいな、と。曲を聴いた先にアクションが起きて、何かが変わるかもしれない。それも含めて、素晴らしい楽曲だと思います。

ReoNa:ありがとうございます。まさに、曲を聴いた先の、未来も含めて作ってくれた楽曲だと思います。

――そして、M-4の“ANIMA -Naked Style.-”は、傑作としか言いようがないです。原曲のよさ、メロディのよさを活かすためにアコースティックでやってみました、という楽曲はたくさんあるけど、この“ANIMA -Naked Style.-”では奇跡が起きている。これ、一発のセッションでやったの?という驚愕が――。

ReoNa:もう、駆け抜けました。もちろん何度も全員で妥協せずに挑戦して、テイク自体は全カット止めずに録りました。歌のテイクも、途中で「ここだけ録り直します」をせずに、そのテイク丸ごと使ってもらっています。基本、レコーディングはせーの、の呼吸で録り始めました。

――もはやジャズのスタイル(笑)。

ReoNa:二度として、同じ演奏はなかったです。ニュアンスもそうですし、ブレイクするところはわたしの息や比田井(修。ドラム)さんのスティックがタイミングになりますし。まる2日間スタジオに入り。当日も「こうしよう」「ああしよう」がもちろん出てきて、プロのミュージシャンさんと1曲にこれだけ時間をかけて、あれだけの人数の知恵をもってアレンジして、楽曲ができていく経験をさせていただきました。

―― “ANIMA”をアコースティックでやったんだろうなって想像したら、それは全然違いますよ、とここでしっかりお伝えしておきたいですね。

ReoNa:“ANIMA”を通じてReoNaを知ってくださった方は多いと思うんですけど、“ANIMA”を頭に浮かべる方にこそ、ぜひ聴いてもらいたいです。音の波、厚みがすごく生まれています。

――“ANIMA”にしても“ライフ・イズ・ビューティフォー”にしても、EPのタイトルである『Naked』も、いろんなものが想像できるけど、いい意味でその想像が裏切られるし、予想を超えてくるアウトプットが詰まった1枚だと思いますよ。

ReoNa:はい。わたし自身も、超えていってると思います。

――作品やキャラクターの依り代になれてしまう点が絶望系アニソンシンガー・ReoNaのすごさでありつつ、今回の『Naked』には拾う力、つまり日々出会ったことや、絶望の体験から感情を拾ってお歌や表現にしていく手法が、さらに進化した印象があります。過去もありつつ、今をとらえている。今起きていること、感じていることをすくい上げてお歌にする表現が、この1枚で成し遂げられてますね。

ReoNa:ありがとうございます。今、同じ時を過ごしていて、今を生きている人にしか、今リリースするものは届かないので、その人たちに受け取ってもらいたいです。

――2018年の1stシングル『SWEET HURT』の時点で「破格の才能」だと紹介させてもらったけど、文字通り唯一無二にして破格の才能を示した1枚だと思います。そんな1枚が完成してみて、『Null』のときには、『Null』はReoNaの名刺になったと総括していたけど、『Naked』は何になったんでしょう。

ReoNa:なんでしょう…………浮かぶものはいっぱいあるんですけど、履歴書とか、お見合い写真とか、自己紹介とか、卒業アルバムとか。その人の人となりがわかるものっていろいろあると思うんですけど。『unknown』も履歴書だと思っていて、ただどちらかというと、『Naked』は手紙とか交換日記のような赤裸々なもののほうが、ニュアンスが近い気がしています。でもやっぱり、「今渡す名刺」、でしょうか。3年前に『Null』を受け取って、何年か経って裏側を見たらと想像すると……名刺も更新されるものですし、今のところ『Naked』には「今渡す名刺」が一番しっくり来る気がします。

――その『Naked』を携えてのアコースティックバンドでのツアーは全国9公演ということで、わりと規模が大きいじゃないですか。アコースティックなライブは過去にも二度やっているし、それはとてもよい記憶として残っているんじゃないかと思うんですけども。

ReoNa:今回、2019年以来ReoNaとして「アコースティック」と銘打って、ありのまま剥き出しの音色を7都市でお届けするので、“ANIMA -Naked Style.-”のように、その日その瞬間にしか感じられないことと――音って、その日の湿度や温度とか、いろんなところから感じられる部分により変わってくるので、より生のライブであることをすごく感じられるツアーになると思いますし、このツアーを経て受け取るものもきっとたくさんあるんだろうなって想像できるツアーになっています。各会場、どの公演もまったく同じようにはならないライブになるので、ぜひその日・その瞬間だけのものを受け取りに来ていただけたら嬉しいです。

ReoNa『Naked』インタビュー 前編はこちら

取材・文=清水大輔 写真=北島明(SPUTNIK)
ヘアメイク=Mizuho

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