ユニコーン・川西幸一さんが楽曲を作ってしまうほど愛読する『はぐれ又兵衛例繰控』作家・坂岡真さんが主人公について相談すると…!?

文芸・カルチャー

更新日:2022/6/6

(左)川西幸一さん(右)坂岡真さん

「TSUTAYA BOOKSTORE 梅田MeRISE店」フェアで、大の時代小説ファンであるロックバンド「ユニコーン」の川西幸一さんが「2021年時代小説上半期トップ10」の1位に選んだのは、作家・坂岡真さんの大人気作「はぐれ又兵衛例繰控」シリーズ。川西さんの“又兵衛愛”はとどまることを知らず、「ユニコーン」2年ぶりとなるアルバム『ツイス島&シャウ島』のなかで、「R&R はぐれ侍」という楽曲まで誕生させてしまった。対して坂岡さんも「群れない侍、ケッコー! たまらずにファンキーでイカす曲でした。又兵衛にも“ケッコー“と叫ばせたいです。モチベーションあがりまくり之助より」と歓喜のコメントを送っていた。そんな2人の初顔合わせが実現した。「ドキドキしてます」と互いに言いつつも、すぐさま又兵衛談義に花が咲く。シリーズ最新刊『はぐれ又兵衛例繰控【五】 死してなお』(双葉社)についてもたっぷりと語っていただきました!

(取材・文=河村道子 撮影=川口宗道)


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“又兵衛、ロックンロールだな、絶対”というところから楽曲「R&R はぐれ侍」が生まれてきました(川西)

はぐれ又兵衛例繰控【五】 死してなお
はぐれ又兵衛例繰控【五】 死してなお』(坂岡真/双葉社)

川西幸一さん(以下、川西) 僕は「はぐれ又兵衛例繰控」シリーズがずっと好きで。アルバムを作るとき、曲を書いていたらふとメロディが浮かんできて、“あ、はぐれだな、こりゃ”って(笑)。昔から侍ものの歌詞は時々書いていたんですけど、ここまでどっぷり書けたものはなかった。又兵衛の性格がすごく面白くて、共感する部分もあるんですね。四角いものは四角じゃなきゃいけないとか、かといって綺麗好きというほどでもないというか。

坂岡真さん(以下、坂岡) はい、はい(笑)。

川西 似てるなぁって(笑)。わりと僕、きっちりしてないと嫌なんです。キーボードやギターまわりでコード出ているでしょ? あれ、ぐちゃぐちゃになっているの、許せないんです。

坂岡 どちらかというと几帳面な?

川西 ぐちゃぐちゃになってしまったら、もうどうでもいいんですけどね(笑)。あと又兵衛の妥協しない感じが好きで曲にさせていただいたんです。

坂岡 ありがとうございます。「R&R はぐれ侍」を聴いたときは感動がまず先に来て。すごく突き抜けた感じでノリの良い曲ですね。

川西 今回のアルバムはロックンロールがテーマだったんで、それもあって又兵衛を曲にしたんです。“又兵衛、ロックンロールだな、絶対”って(笑)。

坂岡 時代物とロックンロールというミスマッチをうまくやっていただいているところがすごくうれしくて。僕もそういうのを日ごろから狙っているので。

川西 タイミング良く、(奥田)民生が尺八にハマっていたんですよ。あいつの吹いた尺八をレコーディングしているんです。

坂岡 ユニコーンさん、昔はハードロックっぽい感じでしたけど、今回のアルバムはロックンロールできたか、と。

川西 ロックンロールの一番大事なところは生き様だと思うんです。又兵衛、ちょっと変わってるじゃないですか。それを貫き通しているところがロックンロールだなって。きっちりしているんだけど、傍から見ればそこもまたおかしい部分で。でも又兵衛のなかで、それは筋が通っていて正しいことで。他の登場人物のキャラクターも面白いですよね。たとえば又兵衛の義父の主税とか。惚けているのか、正気なのか、その境目をギリギリでいってる。そのへんの色の付け方も含めてすごいなぁと思うんです。

坂岡 亡くなった僕の父が、晩年に自分のことを「まだら惚け」ってよく言ってたんです。物忘れがひどくて、昨日と今日の境目もよくわからないって。まだら惚けという、父の言葉が面白くて、どこかで使おうと思っていたら主税が現れてきたんです。

川西 剣の師である一心斎に「おぬしにちょうどよい」と言われ、静香とひとつ屋根の下で暮らすことになったら、彼女の父である主税がもれなく付いてきたというね(笑)。

坂岡 それ、最初から決めていたわけではなかったんですけど、書いていったら勝手に付いてきてしまった(笑)。でもいつの間にか主税はシリーズの肝にもなっていきました。このシリーズ、最初は唯一の親友・長元坊と2人で、いろんな事件を解決していくバディもので構想していたんです。だからサブキャラ的な人は誰もいなかったんですけど、1巻でそういうシステムをなんとなく作ったことで、僕自身、その関係が心地よくなってきて。だんだんそうしたホームドラマの一面も現れてきたんです。

「揚羽蝶蘭」でのこれまでにない又兵衛の饒舌さは、たまたまそうなっちゃった、ということだと思うんです(坂岡)

川西 5巻目となる最新刊『死してなお』では、又兵衛に静香を紹介した一心斎の恋が出てきたり、主税が拐かされたり、さらにこれまでのストーリーにはこういう意味があったんだ、この人にはこういう経緯があったんだということもわかってきて、すごく楽しい。1話目の「揚羽蝶蘭」では、又兵衛をみつければ皮肉をもらす年番方筆頭与力の「山忠」こと山田忠左衛門の息子・忠太郎が登場してくる。生意気なそのせがれを断罪するんじゃなく、ちゃんと引っ張り戻すことも又兵衛はしていますね。

坂岡 バンドの世界でもきっとあると思うんですけど、生意気な後輩にちょっと厳しいことを言っても最終的には可愛がってやるか、みたいな感じでしょうか。忠太郎はほんとに生意気で、もっとコテンパンにしてやっても良かったんですけど(笑)、ほどほどのところでやめておきました。本物の悪党を退治していくなかで、世の中の真実をわからせてやる、みたいな感じですね。

――“おそらく一生分は喋ったにちがいない”と作中にもあるように、珍しく又兵衛は饒舌になっていますね。

坂岡 忠太郎を前にして、たまたまそうなっちゃったということだと思うんです(笑)。

川西 そのセリフを吐いたあとの又兵衛の様子が目に見えるようでね。“はぁ、喋っちゃった”みたいな(笑)。

坂岡 “あんな立派なこと言っちゃった”ってね(笑)。

――「揚羽蝶蘭」では、御用桜を伐った咎人に絡んでしまった又兵衛と忠太郎が窮地に陥ります。その咎人が木を伐った事情を探るうち、思わぬ悪党が炙りだされていきますが、ストーリーは謎が謎を呼び……。

川西 謎が重層的ですよね。そして謎の解いていきかたも面白い。なぜ桜の木を伐って逃げたんだ? と、その謎を追ううち、当時の江戸庶民が見たこともなかったような別の花が出てきて、話がどんどん広がっていく。そこで登場してくるキャラクターもすごく面白い。

坂岡 揚羽蝶を家紋とする家のあの人ですね。鍵となる門外不出の秘密の花も、その家紋から思いついたんです。

4巻から5巻に行くあたりで、又兵衛には丸い部分もあったんだな、自分に対して正直になったんだ、と気付きました(川西)

――前巻にあたる4巻の『密命にあらず』では11年前、辻斬りに遭った又兵衛の父の死の真相が解き明かされていきました。長年にわたる心のわだかまりが解け、その後に続いた最新刊での又兵衛は、以前よりほんの少しまろやかになったような感があります。

坂岡 自分自身としてはそこ、ちょっと心配しているところではあるんです。やっぱり角がとれてしまうと又兵衛っぽくなくなってしまうので、どうした方がいいかなと今日、川西さんに訊こうと思って(笑)。

川西 いや、怒ると月代が赤くなるから大丈夫だと思いますよ(笑)。僕らも一回、ユニコーンを解散し、何年かのブランクの後、再始動してやっているじゃないですか。解散当時は“お前のはロックじゃない”みたいなことを言い合って、尖っていたんですけど、それを経て、今すごくバンドになっていると思っているんです。僕ら5人、まったく音楽の方向性が違う。でもそれぞれの違うところこそが面白いんだなということがわかってきたから。バンドとして視野が広くなったんだなぁと。だからすごくわかるんですよ、又兵衛のこの感じが。

坂岡 うれしいですね。

川西 丸くなったというより、もともとそういう優しさを又兵衛は持っていたんじゃないかな。4巻から5巻に行くあたりで、それをすごく感じたので、変わったとは思わないんです。親父さんが辻斬りに斬られていなくなり、閉ざしていた心が、家族ができたことによって開放されていったというか、そこで本来の又兵衛の生き方が出てきたんじゃないかなと。だから丸くなったのではなく、丸い部分もあったんだ、自分に対して正直になってきたんだなという感を持っています。

坂岡 なるほど。

川西 良い仲間もいますしね。幼なじみの長元坊がすごくいい味を出している。又兵衛を手助けするために、愛ある暴走をするじゃないですか。この2人のやりとりがまた面白くて。

坂岡 長元坊は料理が得意なので、旬の料理の描写と一緒にも登場させているんです。料理を作りそうもないやつが作るというギャップも面白いかなと。

川西 あ、それ、訊きたかったんです(笑)。長元坊が作る美味そうな料理、ご自身でも作るんですか?

坂岡 作らないです(笑)。

「死してなお」には“主人公”が登場しません。又兵衛が判断していくのは、“想いは伝えるべきだ”ということ(坂岡)

――最新刊2話目の「死してなお」では、又兵衛の義父、主税の銘刀が殺された札差の屍骸の傍で見つかります。どうやら小十人頭をつとめていた頃の配下に譲っていたらしく、義父に殺しの疑いが掛かることを恐れた又兵衛が元配下の行方を追うというストーリーが展開していきます。

川西 この話では又兵衛の丸い部分は消え、完全に仇討ちに行く。それもまたすごくいいなぁと思いましたね。

坂岡 このシリーズではそれぞれの話に主人公役の人物が登場するんですけど、「死してなお」では、登場していない人間がある意味、主人公となり、“想いを残す”。それを伝える役目を又兵衛がするというか、伝えるべきだ、という判断をしていくんですよね。

川西 3話目の「おきく二十四」は、自分も一心斎になりたいと思った(笑)。

坂岡 わかります(笑)。孫ほど年の離れている娘との恋ですね(笑)。

――上方訛りの抜けぬ娘と一緒に暮らすようになった一心斎。その頃、江戸の町では「数珠掛け小僧」という盗人一味が大店の金蔵から金を盗んでは貧乏長屋にばらまき、もてはやされています。けれどその裏には……、そして娘が突然一心斎のもとからいなくなり、というストーリーが「おきく二十四」では展開していきます。

川西 一心斎は“真実”をわかっていたんじゃないかなって。それをわからないことにして話が進んでいくところがすごく良くて。そして又兵衛がいろんな努力をするじゃないですか。

坂岡 師匠のためにひと肌、脱がなきゃみたいな。

川西 さらに一心斎は剣の師匠であるのに、又兵衛は彼と立ち合いをしたことが一度もなかった、ということが、この話のなかで判明する。“そうだったんだ!”って(笑)。

坂岡 又兵衛は一心斎からいったい何を習っていたのかと(笑)。実は自分でも忘れていたんです。なぜ又兵衛は一心斎を師匠としたのか、とかね。

川西 たしか父に言われて、でしたよね(笑)。

坂岡 きっと親父さんは一心斎の人のよさをわかっていたんでしょうね。

川西 それがこの話のなかでは存分に表れてきますね。

又兵衛はあくまで勝手に動いているのが面白い。手柄にはならないけども(笑)(川西)

川西 たとえば1巻『駆込み女』の「明戸のどろぼう」の泥棒、卯八とか、面白いキャラクターがいるじゃないですか。ああいう人がまたシリーズのどこかで出てきてくれないかとふと思ったりするんですよ。

坂岡 川西さんお薦めのキャラクターを伺えるなんてありがたいですね。

川西 「明戸のどろぼう」もすごく好きですけど、3巻『目白鮫』の「暫(しばらく)」も大好きで。

坂岡 あの話は、ちょっとロックンロールみたいな感じですよね。

川西 ラストに又兵衛と静香の祝言の場面が出てきますが、そこに御奉行・筒井伊賀守が祝いの酒樽を届けさせたり、山忠や「鬼左近」こと永倉左近など、普段、又兵衛と相いれない南町奉行所の仲間も角樽(つのだる)下げてやって来るじゃないですか。はぐれの家にみんなが集まってくるの、面白いなと。

坂岡 そうやってみんな仲良くなったら、次からは職場でも仲良くなるのかなぁって思うけど……。

川西 ならないのがいいんです(笑)。それとこれとは話が別だと。

坂岡 そうなんです。そこが一番、肝かもしれない(笑)。

川西 あと気になっているのは、又兵衛と御奉行との関係がこれからどうなっていくのか。御奉行、時々、出てくるけれど、もしかして又兵衛の理解者なのか?って。

坂岡 実はそこ、僕自身も謎なんです(笑)。

川西 又兵衛が御奉行の懐刀のようになって、密命下されていくというのもちょっと違うような気がして。

坂岡 御奉行は御奉行で、ちょっととぼけたところがあってもいいのかもしれないですね。

川西 あくまで又兵衛は勝手に動いているというのが面白い。手柄にはならないけども(笑)。

坂岡 そうなんです、出世とかしちゃうとまずいんで(笑)。

それぞれのジャンルから「はぐれ」てるところが僕たちは共通しているかも(坂岡)

坂岡 川西さんは「TSUTAYA BOOKSTORE 梅田MeRISE店」で「2021年時代小説上半期トップ10」を選出されるほど、時代小説のヘビーな読み手でいらっしゃいますけど、実は僕、同時代作家の方の作品は一冊も読んでいないんです。読むと影響を受けてしまうので。池波正太郎さん、山本周五郎さんなど、時代が異なる方の作品はずっと読んで勉強してきたんですけれど。

川西 あぁ、僕もそうかもしれない。今、流行っている曲は聴かないんです。そうした歌が自分のなかに入ってくると、“今、こういうビートが流行っているのか”ということから曲づくりに影響を受けてしまうかもしれず、それはちょっと違うような気がして。だから坂岡さんがおっしゃること、すごくよくわかります。

坂岡 川西さんもそうだったんですね。驚きました。

――なんだかお二人、ちょっと「はぐれ」っぽいですね。

坂岡 それぞれのジャンルからはぐれているところがね、共通しているかも。

川西 やっぱり好きになる作品って、それを作り出している人の考えが自分の考え方と合っているような気がしますね。最新刊『死してなお』では、それがさらに明らかになりました。シリーズを読んだことのない人は、この巻から入ってもらっても楽しめる。新キャラクターの登場の仕方もすごくいいんですよね。たとえば冒頭の、忠太郎が新参者として奉行所に入ってくるときの、又兵衛と駆けっこをする、子供じみた意地の張り合いみたいなところとか。多分この巻は、初めてシリーズを読む人にとってもすっと入りやすいと思う。そこから既刊に戻ってもらっても楽しめる。

坂岡 時代物だからといってハードルは高くないので、お茶請けというか、箸やすめというか、そういう軽い感じで手に取っていただけたらありがたいですね。

●川西幸一プロフィール
1959年生まれ広島出身。1987年に、ユニコーンのドラマーとしてメジャーデビュー。1993年、ユニコーン脱退後は、VANILLA、ジェット機、BLACK BORDERSなどで活躍。他に、PUFFY、甲斐よしひろ、フジタユウスケなど多くのミュージシャンのサポートも行っている。2009年年始に突如、ユニコーンが再始動を発表。シングル「WAO!」で鮮烈な復活を果たし、名作アルバム「シャンブル」を発表、大成功をおさめた。ライブでは、圧巻のステージを見せたかと思えば、独特の寸劇が始まったりするなど、個性豊かな5人の異才達からなる、日本を代表する唯一無二のロックバンドである。2021年は、「ロックンロール」をテーマに制作したフルアルバム「ツイス島&シャウ島」をリリースし、全27公演となるライブツアー「ユニコーンツアー2021“ドライブしようよ”」を開催。この模様を収めたライブ映像作品「MOVIE40ユニコーンライブツアー2021“ドライブしようよ”」を2022年2月16日にリリースし、”ドライブしようよ”スピンオフツアー「EBI & UNICORN “狙ったエモノは逃さねぇ”」を開催。
ユニコーン公式サイト http://unicorn.jp/

●坂岡真プロフィール
1961年新潟県生まれ。早稲田大学卒業後、11年の会社勤めを経て文筆の世界へ。四季折々の江戸の情緒と人情の機微を、繊細な筆致で綴る時代小説には定評がある。主なシリーズに「照れ降れ長屋風聞帖」「帳尻屋始末」「帳尻屋仕置」「はぐれ又兵衛例繰控」(双葉文庫)、「鬼役」「鬼役伝」(光文社文庫)、「あっぱれ毬谷慎十郎」(ハルキ文庫)、「火盗改しノ字組」(文春文庫)、「新・のうらく侍」(祥伝社文庫)、「人情江戸飛脚」(小学館文庫)、単行本『絶局 本能寺異聞』(小学館)、『一分』(光文社)などがある。

衣装協力(川西幸一):suzuki takayuki(スズキ タカユキ)
東京都港区南青山5-12-28メゾン南青山602
TEL.03-6821-6701

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