幸せレベルがあがる⁉【家事の段取り上手】になるための5つの秘訣! 料理研究家・大原千鶴の新刊エッセイ『茶呑みめし』インタビュー

暮らし

公開日:2022/6/25

 生きていくには「家事」という日々の用事がつきものです。「仕事」はがんばり次第で成果も対価もついてきますが、「家事」は対価の見えにくい、生きている限り終わりのない作業。毎日、掃除に洗濯、炊事、買物……とさまざまな家事に追われて、なんだかいつも「ああ、忙しい…!」。仕事においては「段取り8割」なんて言うけれど、どうしたら家事を手際よくさばいていく「家事の段取り上手」になれるのでしょうか。

 NHK『きょうの料理』『あてなよる』などで人気を博している料理研究家・大原千鶴さんが刊行された、発売すぐ重版を重ねている話題のエッセイ集『むりなく、むだなく、きげんよく 食と暮らしの88話 茶呑みめし』(文藝春秋)から、【家事の段取り上手】になれる秘訣を教えてもらいました。

秘訣1:朝いちばんに、家事スケジュールを段取り

むりなく、むだなく、きげんよく 食と暮らしの88話 茶呑みめし
むりなく、むだなく、きげんよく 食と暮らしの88話 茶呑みめし』(大原千鶴/文藝春秋)

 朝起きたら、まず窓を開けてキッチンに風を通します。淹れたてのコーヒーを飲みながら、10分ほどその日の自分と家族の予定、そして天気予報をおさらいするんです。

 お弁当は毎日作るので、そのおかずを決めつつ、今日は家でお昼を食べる人がいるからお弁当のおかずは多めに作っておこう、ごはんは何合炊いておこう、とか。午後からは天気がくずれるみたいだから午前中にお洗濯しとこかな、とか。自分の予定に家族の予定も合わせて頭の中でシミュレーションして、家事全般をざっくりまわしています。

 子どもがまだ小さかった頃はまだスマホがなかった時代で、「ゼッケン縫わなあかん」「今日は塾の日だからお弁当や」「銀行にも行かな」と多すぎるミッションを前の晩にTO DOリストにしていました。そのメモを見ながら用事をこなすのですが、時短のために、一番効率のいい道順までメモに書いていたことも(笑)。この道で北に向かって自転車に乗って出かけたら、あの用事とこの用事がいっぺんに終わるわ、なんて。そこは家事も仕事と一緒で、メモしておけば取りこぼししにくくなりますよね。いまは子どもも大きくなって、スマホもあるから、メモにすることもなくなりましたが、朝、頭の中で家事スケジュールをおさらいする日課は変わりません。そうして心づもりしておけば、無駄に慌てることがなくなります。

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秘訣その2:「切り置きストック」「ダッシュめし」、ごはんづくりをラクにする段取り

 メールの返信やお礼状などは、すぐにやってしまったほうが忘れないし、相手からの印象もいいのですが、つい「後でやろう」といったん置いておきがち。たとえば、何かおいしい物を送っていただいた時に、すぐならLINEでお礼でもよかったところが、時間が経てば経つほど、メールじゃなくて手紙にしたほうがいいか…、お返しの品も用意しないと…などと、時間と手間をかけないといけなく気持ちになってしまいます。「ああ、あの時やっておけばよかった!」と後悔すること、ありますよね。

 そんなふうに「その時やっとく」が実は時短になっていた、ということは家事にもたくさんあるんです。オススメなのが、「切り置きストック」。調理の中で地味に時間をとるのが、野菜の下ごしらえ。わたしのやり方は、はじめに野菜を使う時に1回で全部切り終えてしまうこと。その日の料理にキャベツを半分使うなら、残りの半分も「ついで切り」してから冷蔵庫にしまいます。時短になる上、切ってあるからじゃんじゃん野菜が使えて体にもいいし、野菜を半端に余らせてダメにすることもありません。さっきのメールの返信やお礼状もそうですが、一度手を止めて別の作業を入れてしまうと、またその「やらなければいけないこと」や「面倒くさいこと」をがんばるテンションに再度気持ちを持っていかないといけなくて、それが意外としんどい(笑)。なので、ぜひ一気にやってしまおうじゃないか、という技です。

 家事は先手必勝で、「その時やっとく」と本当にあとがラク。後回しにしない習慣が自由に使えるゆとり時間を生み出してくれて、「あの時がんばってくれた自分、ありがとう~~!!」って思います。ただ、疲れているときは「明日やろ」って切り替えも大事なので、無理はしすぎないように。

 ほかにも、5分でおかずができあがる「ダッシュめし」(簡単レシピ)を知っていたり、冷蔵庫の中に「すぐ食べトレイ」「ごはんのおともトレイ」(納豆やハム、佃煮などをいれたすぐに食べられるアイテムを載せたトレイ)をセットしておく。そんな前もってのちょっとした準備は、忙しい自分をかならず助けてくれます。ぜひ「家事は先手必勝」で!

秘訣その3:「我が家の当たり前」を見直してストレスを減らす段取り

 毎日料理を作りながら、調理しやすく片づけやすいように少しずつ改善しています。たとえば、ゴミ受けはここよりあっちに置いたほうがすぐに捨てやすい、あのお皿が出しにくいから手前に移そ、引き出しを開けてふたを開けるの面倒だから容器を替えよう……などなど。全部、本当にちょっとしたことです。でも、その小さな工夫で動線がよくなって無駄な動きが減ると時短になる。そして、日々の小さなストレスを取り除いてくれるんです。

 毎日台所を使っていると、向こうまでお皿を取りに行くというような作業が当たり前になっていたりして、でもそれに気が付いて、動線や収納場所を変えてみるとススーっと作業が進んで、パズルの最後のピースがハマった時のように、とってもスッキリします。

秘訣その4:自分にとって必要なものを段取り

 うちには使わないのに置いているものはほとんどないんです。なぜなら、収納スペースに対して物が多すぎると一生片づかへんから(笑)!

 ものが多いと、すぐに掃除にとりかかれないし、「コレどこに入れよう?」「これをもう一回こっちに移して」なんて迷ってしまう。これがすごいストレスなんですね。ものの多さは家が散らかる原因だから、片づけをしながら常に必要なものとそうでないものを分けるようにしています。不用品はメルカリで売る、ブックオフ持っていくなど、どんどん処分します。調理家電もすごいものがいろいろ出ているけれど場所もとるから、年中使えないとか用途がひとつしかないものは買わないようにしているし、調理器具もたくさんは持っていません。

 ものを減らして収納スペースにゆとりをもたせると、ものも取り出しやすいし、ものが見えやすいから必要かどうかの判断もしやすくなります。そうすると、自分の暮らしにとって、何が大事なものかもおのずと見えてきて、普段使っているもの、特別な時のもの、と持っているものを自分の中でちゃんと把握することができる。これが家事の段取りにつながります。もちろんコレクションが趣味なら、ときどき眺められるような場所を作ればいいと思うし、自分にとって価値のあるものを大事にするのが、豊かなものの持ち方だと思います。

 それから、食材のことも。コロナ渦になって、家の中にある食材をロスなくつかう才能、めっちゃ大事だなと実感しました。買い物の回数が増えると余計な物も買ってしまうし、食材の在庫が増えます。買わない日を作るのもいいし、非常食にもなる常備食をストックしてお気に入りを食べてはまわしていく……名付けて「ローリングストック」! うちでは米、そうめん、パスタ、ツナ缶、鯖缶、冷凍庫には生麩とうどんと餅、ごはん、冷凍野菜、お肉をストック。「もしも」対策にもなって安心です。

秘訣5:明日以降の暮らしを前に進めていく段取り

 ネットは興味のある情報だけが集まってきやすいから、普段から新聞を読んだり、本屋さんでいつもと違う棚に行ったりして、学びの時間を大切にするように心がけています、日経新聞は紙も電子版も購読していて、新鮮な「経済」を知ることができるのが面白い。食材の価値や流通、環境問題まで、料理の世界とさまざまにつながっていて、賢い消費者になるための準備ですね。京都新聞で紹介されていた下川哲先生の『食べる経済学』も面白く読みました。読書は思い込みを取り除いてくれて、本当のことを知る大切さを教えてくれます。

 そういう「気づき」の時間があると、いまの問題点も見つけられるし、「なりたい自分」が見えてくるんですよね。私は、生きていく中でも「風が通り抜けている」状態が好きです。毎朝、リビングに風を通している時間も好きですし、考え方も一つの方向に固まってしまうのではなく、流動的で前に進めて動いていることが大事だなあと思います。新しいことを見つけたりチャレンジしたり、読書をしたり。滞らないように家の中を片づけて、ちょっと迷った時のよどみも取りのぞいて「動き続ける」。その流れは「段取りのよさ」があれば自然に生まれていきます。家事の段取りを上手に取り入れて、無理なく無駄なく機嫌よく暮らしていきたいと思っています。

大原千鶴(おおはらちづる)/料理研究家。幼少から里山の自然に親しみながら和食の心得や美意識を育む。雑誌やテレビ出演、料理教室、講演会、エッセイ執筆、商品開発アドバイザー、CMやドラマの料理監修などで活躍。新刊に『むりなく、むだなく、きげんよく 食と暮らしの88話 茶呑みめし』(文藝春秋社刊)がある

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