「レジェンド」との仕事を経て堂々完成に導いた、副監督の仕事とは――『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』イム ガヒインタビュー

アニメ

公開日:2022/6/15

機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島
機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島
全国の劇場にて公開中
© 創通・サンライズ

 名作は色褪せない――1980年代に一世を風靡し、いまもなおシリーズ新作が作りつづけられているガンダムシリーズ。その原点ともいうべきTVアニメ『機動戦士ガンダム』の1エピソードが、当時のメインスタッフ・安彦良和の手によって翻案され、劇場版アニメ化された。

 翻案されたエピソードは第15話「ククルス・ドアンの島」。シリーズの前半にオンエアされた1話完結型のエピソードであり、一年戦争を描く『機動戦士ガンダム』のストーリーとは一線を画すような脱走兵と戦災孤児の人間ドラマが、当時から語り草になっていた。この物語を現在のアニメーション技術と、劇場版というスケール感で描いたのが、本作『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』となる。

 本作で監督を務める安彦良和を支えたのは副監督のイム ガヒ。彼女は『アイカツスターズ!』『ガンダムビルドダイバーズ』などで活躍してきた演出家だ。本作で彼女は副監督として安彦監督をサポート、絵コンテを担当し、演出として全カットの作業に関わっている。彼女が映画『ククルス・ドアンの島』でどんな仕事をしていたのか。本作のメイキングの過程をたっぷりと語っていただいた。

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シナリオを読んで「私でもやれることがあるかも」と思えた

――イムさんは「アイカツ」シリーズや「ガンダムビルドダイバーズ」シリーズなどでご活躍されてきましたが、そもそもガンダムシリーズとの出会いはいつだったんでしょうか。

イム:アニメは小さい頃からよく見ていました。小学生のときは『美少女戦士セーラームーン』を見ていましたね。メカものも好きで『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』が好きでした。高校生に入るくらいのころ、韓国で『新機動戦記ガンダムW』の放送が始まったんです。そこから、リアルタイムで『機動戦士ガンダムSEED』『機動戦士ガンダム00』『機動戦士ガンダムUC』を見て。サンライズに入社することになってからファースト(『機動戦士ガンダム』)を観ました。ファーストは深くて、重くて、面白くて。3日くらいで全部一気に見てしまいました。初放送時は17時半ごろに放送されたと先輩から聞きましたけど、これは子ども向けじゃないな(笑)と。まさかそのあと自分がファーストと関わることになるとは思っていませんでした。

――イム ガヒさんはガンダムシリーズにもいろいろ関わられていますよね。今回の『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島(以下、映画『ククルス・ドアンの島』)』と出会ったきっかけは何だったのでしょうか。

イム:2019年に『ガンダムvsハローキティ 対決プロジェクト』という企画があったんです。そのときの映像が、私にとって初めての監督作ということになっています。『機動戦士ガンダム』ということで、アムロを描くというプレッシャーが大きい企画だったんですが、ショートフィルムだったから自由にやれそうだなと。楽しみながら仕事することができました。そのあとに、福嶋(大策)プロデューサーから仕事の話があると言われて、安彦さんの『ガンダム』をやってほしいと言われたんです。

――安彦良和監督は映画『ククルス・ドアンの島』の制作に、若手のスタッフに参加してほしかったようですね。

イム:福嶋プロデューサーと安彦さんが打ち合わせをされたときに、安彦さんから『若い演出の人と仕事をしたい』という要望があったので、福嶋プロデューサーがそれなら今回のストーリーにも合いそうなイムさんはどうだろうか、ということでお声がけ頂いたようです。『ガンダムvsハローキティ』を一緒にやったスタッフにもヒアリングして、仕事ぶりを評価していただいたということで、私を選んでくれたと聞きました。最初に「シナリオが上がっているので読んでもらえませんか?」と言われたので、まず読んでみたんです。そうしたら、すんなりと最後まで読み通すことができまして。この話なら「私でもやれることがあるかも」と思ったんです。それでプロデューサーとお話をして、私は副監督としてこの作品に参加することになりました。

――安彦良和監督は、『機動戦士ガンダム』のアニメーションディレクターです。安彦監督にはどんな印象をお持ちでしたか。

イム:安彦さんのお名前はもちろん存じ上げていたんですけど、自分がお会いすることはないと思っていたんです。昔、サンライズの大忘年会で富野由悠季さんや安彦さんをお見かけすることがあって、レジェンドだなあと思っていたんです。もちろん『THE ORIGIN』のお仕事も知っていましたけど、まさかご一緒するとは夢にも思っていませんでした。

――今回の映画『ククルス・ドアンの島』は、『機動戦士ガンダム』の第15話「ククルス・ドアンの島」がベースとなっています。第15話にはどんな印象を抱かれていましたか。

イム:今回の映画は第15話をベースにするという話を最初に聞いたときは、たしかにファーストにそんな話があったなって、内容を覚えていたんですよ。本編のストーリーに直接的な関わりのないエピソードですし、ファーストの劇場版をもう一度作るとしたら、真っ先にカットされるエピソードだろうと安彦さんもおっしゃっていて。でも、すごく好きな話だなと思いました。私もこのドラマをちゃんと描いてみたいなと思ったんですよね。私は演出として人情芝居を描くのが好きなんです。先ほど、シナリオを読んで「私でもやれることがあるかも」と言ったのは、その人情芝居的な部分なんです。この話ならばいろいろ挑戦できるかもしれないなと。

――人情芝居的な部分で、イムさんが最も興味があったところ、描きたいなと思ったところはどこですか。

イム:子どもたちのシーンですね。子どもたちの描写をしたときに「(観客に)嘘だと思ってほしくないな」と思っていました。それで、自分の小さいころの記憶を引っ張り出してきたり、子どもがいる友だちの家に行って子どもたちを観察しました。子どもって大人と違って、余計な動きが多いんですね。それぞれの性格がそういうところに出ているんだろうなと。食事のシーンも身長が高くて大人の子は自分で食べられるけど、まだ幼い子は自分たちだけで食べることができない。そういう要素を入れてみたりして、お客さんが「子どもってこうだよね」「大変だね」って共感してもらえるとうれしいです。

――絵コンテは安彦良和監督と連名で担当されていますね。どのあたりを受け持たれたんでしょうか。

イム:最初に安彦さんから「絵コンテをやってほしい」という話があったので、全修(全部修正)される覚悟でキャラのパートとメカのパートをひとつずつ担当しました。担当したのは子どもたちの食事シーンと、サザンクロス隊が初登場するカサブランカの戦いのシーンです。安彦さんが最初に担当したAパートがすでにあがっていたので、そのパートを参考にして描いていきました。私が担当した食事のシーンの絵コンテを見て、安彦さんが「レイアウトをやるよ」と言ってくださって。レイアウトを全部担当してくださったんです。これは先輩にも自慢できる経験だなと思っていました。

――安彦監督によるレイアウトの印象はどうでしたか。

イム:子どもたちがたくさんいるので、食事するテーブルのサイズとか広さが大きく描かれていて、下手に描くと崩壊した絵になってしまうんです。でも、安彦さんが描くから、それが絵として成り立つんです。さすがだなと思いました。

――実際に副監督として安彦監督とご一緒してみていかがでしたか。

イム:安彦さんが描かれている漫画は、安彦さんが基本的におひとりで全部描かれているので、ひとつの完結した作品になっていると思うんです。でも、アニメはひとつの作品をつくるときも、各セクションでバラバラにパーツを作って、それを組み合わせないといけない。最初に組み合わせたものを確認するラッシュチェック(すべての素材がコンポジットされ、撮影が終わった映像を確認するチェック作業)のときは怖かったです。できるかぎり私が各セクションのスタッフのみなさんとコミュニケーションを取って、安彦さんのディレクションを各セクションのスタッフに伝わるように翻訳して、みんなで同じ方向性の映像を作るようにしないといけない。それが本当に大変でした。

 最初は安彦さんの考えているとおりのものを作ろうと思っていたんですが、だんだん「こうしたほうがより良くなるな」というのが見え始めて。こちらで考えた修正を、安彦さんに申し送りをすると、安彦さんが「OK」と言ってくださることもありました。安彦さんはレジェンドですけど、良いと思ったら何でも受け入れてくださる。そういう安彦さんの姿勢はすごいなと思いました。今回のスタッフは、みんなガンダムが好きで、安彦さんの作品が好きで、その思いをみんなに届けたいと思っている人が集まってくれたので、向かっている方向はひとつだったなと。だから、上手くできたかなと思います。

――安彦監督はかなり柔軟に作品づくりをされていたんですね。

イム:本来は監督の絵コンテがあがったら、それで決定稿なんですが、安彦さんはスタッフを集めて、「読んだ感想を聞かせてほしい」とおっしゃるんです。それで直していく。私から見れば、安彦さんの絵コンテは「すばらしい」のひと言なんですが、安彦さんはもっと良いものを目指していらっしゃるんです。そこで私や田村篤さん(キャラクターデザイン、総作画監督)が、ガンダムファンとして「このシーンも見てみたいな」と思うところをいうと、安彦さんはそれを聞き入れてくださるんです。若手の意見をしっかりと聞いてくださる安彦さんの姿勢を見て、「私もこういう大人になりたいな」と思いました。

――イムさんは以前、撮影のお仕事をされていたと聞きましたが、今回も撮影作業も細かくやりとりされていたんですか。

イム:自分が撮影していたときから、だいぶ時間が経っているので、今の撮影の現場では自分が知らない技術がたくさん使われているんですよ。今回の撮影監督の葛山(剛士)さんと飯島(亮)さんは『THE ORIGIN』も手がけられていましたし、ガンダムシリーズをずっと手がけている方なので、こちらもどんどん要望を出していくことができました。

機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島

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15歳の男の子としてのアムロ

――イムさんは今回、『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイを描くことになったわけですが、アムロという人物を描くうえで意識したことはどんなことでしたか。

イム:自分としては、アムロを「15歳の男の子」に見えるように描きたいと思っていました。彼はこれまでガンダムのパイロットとしていろいろな経験を積んできましたが、今回は島に行ってホワイトベースから離れたことで、子どもとしての15歳に戻るんです。自分と同じ年代の男の子や、自分よりも小さな子どもたちと出会い、自分(アムロ)を子どもとして扱ってくれる、ドアンという大人にも出会うことができる。そうやって戦争に巻き込まれる前の、15歳の少年の顔を描ければいいなと思っていました。

――アムロが子どもたちに出会って、変わっていくところを描こうとされていたんですね。その子どもたちもたくさん登場します。第15話のときは子どもたちが4人でしたが、今回は20人になっています。

イム:人数が多くて大変でした(笑)。最初は「子どもの人数は半分くらいになりませんか?」とお願いしたこともあるんですけど、安彦さんは「20人いないとダメだ」とおっしゃって、こだわっていましたね。安彦さんは「トラウマはあるかもしれないけど、見た目は普通の大家族のようにしたい」とおっしゃっていたんです。一度家族を失って辛い思いをした子どもたちも、ある程度時間が経って、ドアンのもとで平和に暮らしている。ドアンと子どもたちにはすでに絆ができていて、実の親のような存在になっている。むしろ、それがドアンにとっては重荷になっているのかもしれない。ドアンは守るために戦わなくてはいけなくなっているんです。

――ちょっと脱線した質問になるのかもしれませんが、子どもたちはヤギを飼っていますよね。ヤギのブランカ。あのヤギが、子どもたちを振り回します。イムさんとしては、ヤギをどんな存在として描こうと思っていましたか。

イム:ヤギを登場させたのは安彦さんのアイデアだったと思います。安彦さんは幼いころ、ご実家でヤギのお世話をされていたそうなんですよ。ヤギの乳しぼりは、安彦さんご自身の経験がベースにあったので、とてもリアルに描かれているんですよね。「よくヤギにしぼった乳をひっくり返されたんだよ」とおっしゃっていて。ヤギがいることで、生活のリアリティが出たんじゃないかなと思います。ただ、ヤギって顔が怖いんですよ(笑)。

――たしかに、目つきが怖いですね。

イム:もっとタレ目にして、と安彦さんもけっこうこだわって描いていらっしゃいました。

――後半、ヤギがハーモニー処理されたカット(絵画的なタッチで描き込む止め絵)に出てきたりして、この作品には重要な存在なんだなと思いましたね。

イム:ヤギへの思い入れは、確実にあると思います。たしか、あのハーモニー処理のカットは、ラフはシーンのアニメーターである土器手司さんが、清書はキャラクターデザインのことぶきつかささんが描いてくださったカットだったんじゃないかな。現場でも、ヤギは力を入れて描写していました。

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キャラクターとして描かれたモビルスーツ戦

――今回、モビルスーツを3DCGで描いています。モビルスーツの戦闘は今回、どのように描こうとお考えでしたか。

イム:モビルスーツ戦は難しかったです。自分がアクションシーンを描くときは、爽快感をメインにしてテンポ感を出していくんです。でも、安彦さんの『ガンダム』はこれまでとちょっと違って。モビルスーツをキャラクターとして描いているんです。人間として殺陣をしている感じもあるんです。3DCGの森田(修平)さん(3D演出)やYAMATOWORKSさんとやり取りをしていきました。

――イムさんは3DCGパートにどのように関わられていたのでしょうか。

イム:3DCGモデルのチェックから動きのカット単位のチェックまで、全部森田さん、安部(保仁)さん(3Dディレクター)と一緒にやっていました。森田さんとは「ここ、どうすればできますかね」といった細かな相談もしましたし、森田さんから「こうしたいんですけど良いですか?」という提案も受けていました。YAMATOWORKSさんとお仕事するのは今回が初めてだったんですが、カトキハジメさんが監督をしていた『武器よさらば』(制作:YAMATOWORKS/オムニバス映画『SHORT PEACE』の一作)も拝見していましたし、彼らの良い意味でCGっぽくない絵作りや、作画へのリスペクトはすばらしいなと思っていたので、かなり作業がしやすかったです。森田さんは2Dアニメの演出もされている方なので、私たちがリクエストしたことを3Dスタッフに上手く伝えてくださるんですね。2Dの知識で対応してくださったので、とても助かりました。

――モビルスーツの描き方もこれまでのガンダムシリーズとは違う印象があります。

イム:そうなんですよね。子どもたちから見るとモビルスーツは大きな鉄の塊だし、後半のモビルスーツ同士が戦うシーンでは侍が一対一で斬り合うように描かれています。今回は地上戦ということもあって、重量感も意識しつつ描くことができました。

――後半のストーリーで、ガンダムに乗ったアムロが、ジオン軍の兵士を殺すシーンが描かれていますね。かなり大胆な描写だと思ったのですが、イムさんとしてはどんな思いでこのシーンを描きましたか。

イム:はい、思い切ったシーンだなと私も感じていました。このシーンについては、私も悩んだんです。安彦さんに「これは大丈夫なんですか?」と聞いたら、「これは必要な表現だ」とおっしゃったので、私たちはなるべく、そのときのアムロの気持ちをお客さんに届けようと、アムロを丁寧に描いています。おそらく、TVアニメ時の『機動戦士ガンダム』の話数と話数の間には、私たちが観ていない、こういうシーンがあったのかもしれないなと思うんです。アムロはどこかでああやって人を殺してしまったことがあるのかもしれない。生々しい描写でびっくりしましたけど、アムロはこれまでも戦ってきたんだから、そういう問題にはこれまでも向かい合ってきたんだろうなと。今回は、そこを避けずに描いたんだろうなって思いました。島には子どもたちもいるから、ここでザクを止めないと犠牲者が出てしまうかもしれない。アムロは、ここでジオンの兵士を殺すことが最善だと思って行動せざるを得なかったと思うんです。でも、そう思うと、アムロって相当頑張ってきたんだなと思いますよね。たぶん、彼は普通の人の何倍もの人生を経験しているんでしょうね。

――島に来たことで15歳の少年に戻ったアムロが、ガンダムを取り返すことでまた兵士になってしまう。その変化がとても印象的です。そして、最後にアムロはドアンにある決断を迫りますよね。あの結末を、イムさんはどうお考えでしたか。

イム:アムロ、頑張りすぎだよって思うんですよね。辛い思いをするのは自分だけで十分だと、彼は思っているんです。最後の彼のセリフを聞くと、うるっとなってしまうんです。15歳の少年にそれを言わせるのかという感じがあって。あのラストでは、アムロの背負っている覚悟のようなものを、私は感じていました。

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自分で決め込んでいた天井が壊された作品

――おそらく制作期間も長い作品だったと思いますが、安彦監督と一本作品を作り終えてみて、どんな手ごたえを感じていらっしゃいますか。

イム:安彦さんとお仕事をして、最初に驚いたことが「避けないこと」なんです。登場人物ひとりひとりをちゃんと全部描くんです。アニメは動きのリピートを使って表現することが多いんですけど、安彦さんは「今回もリピートはしないでほしい」とおっしゃっていて、ひとつひとつ動かそうとするんです。今回登場する子どもたちは、ひとりひとり歩き方が違うんですよね。やっぱり、安彦さんが描くキャラクターは生きているんだなと。大変な作業だなと自分も思ったんですけど、そこは田村さんも力を注いで作業をしてくれたところです。

――安彦さんはレジェンドアニメーターでもあるわけですから、そのこだわりを上手く映像に組み込んでいらっしゃるんですね。

イム:アニメーターさんから上がってきたカット(レイアウト)をチェックするときに、まず安彦さんが見るんです。それで安彦さんが修正指示を入れたカットが、私と田村さんのところにくる。私から見ると、安彦さんの修正は、レジェンドの直しですから、そこに手を入れるのは畏れ多いことなんですけど、私も勉強に来ているわけじゃなくて、仕事をしにきているのだからと、安彦さんの指示をうまく読み取ってフィルムに織り込んでいきました。

――田村篤さんとのお仕事はいかがでしたか。

イム:安彦さんはフィルム時代のアニメーターなので、素材の良さを残したいと思っていらっしゃるんですね。田村さんは以前スタジオジブリでお仕事されていて、フィルム時代からデジタル時代を両方ご存じだし、安彦さんへのリスペクトが強い方なので、いろいろ教えていただきながら、力になってくださいました。

――完成した『ククルス・ドアンの島』の映像をご覧になっていかがでしたか。

イム:私達は初見の感覚がもうないんですよ。どのカットも思い出が深すぎて普通に見れないんですよね。今回は全部で1600カットくらいあって、その全部をチェックしていたんですね。チェックをしてもしても終わらない(笑)。コロナ禍のために、自宅でひとりで作業しなきゃいけない時期があって、気分が滅入る瞬間もありました。でも、そういうときは田村さんとLINEでコミュニケーションを取って、なんとか乗り越えていったんです。田村さんは作業が早いんですよ。しかも、絵が本当に上手い。すごく高いクオリティで、早いペースで上がってくるので、私がとにかく早いペースで上げないと、田村さんが手隙になってしまう。田村さんに早くチェックを回さないと、と思って、最後までチェックし切ることができました。制作のスタッフも要望を聞いてくれて、いろいろと気配りをしてくださったので、本当に助かりました。

――映画『ククルス・ドアン』は無事に公開を迎えましたが、イムさんのキャリアにとって『ククルス・ドアン』はどんな作品になりそうですか。

イム:自分が今まで勝手に決め込んでいた天井がすべて壊された作品になったと思います。上にはさらに上があって、その上にいらっしゃる先輩方は、やっぱり違うんだなと思いました。そういう大先輩の方々を見習って、私も妥協せずに上を目指し続けようと思いました。今回、みなさんとお仕事をして感じたのは、ベテランの方はほかのスタッフの意見を聞いて、すごく柔軟に対応してくださるんです。たぶん、みなさんは自分のやり方が正しいと決めつけていなくて、もっといろいろなやり方があるはずだと信じている。だからこそ、まわりの人たちの助言を聞き入れる余地があるんだろうなと。そういう器の大きさを感じたので、今後は自分もそうなれるようにがんばろうと思っています。今回は全部のセクションに関わらせていただいたおかげで、エンドロールのテロップを見ると、名前が出ている人の顔がだいたいわかるんです。それが個人的には嬉しいポイントですね。今回一緒にやってくださった方々が、次も一緒に仕事をしてくださるといいなって思ってます。

――映画『ククルス・ドアン』の完成後、安彦さんとお話はされましたか。

イム:安彦さんからは、落ち着いたら美味しい日本酒を飲みに行こうねと話をしていただきました。田村さんたちとまた行きたいなと思います。

取材・文=志田英邦

▼プロフィール
イム ガヒ
アニメーション監督、演出家。『ガンダムvsハローキティ 対決プロジェクト』で初監督を努める。「アイカツ」シリーズ、「ガンダムビルドダイバーズ」シリーズで演出家として活動する。

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