『キミスイ』から『青くて痛くて脆い』まで! 住野よるの小説全5作品

文芸・カルチャー

更新日:2018/8/27

 普段小説を読まない人にも広く人気を博した「キミスイ」こと、小説『君の膵臓をたべたい』。同作は2017年に実写映画化され、2018年9月には、ふたたび劇場アニメとして映画館に帰ってくる。幅広い年代のファンを魅了するインパクトのある独特の言葉づかいと、それとは間逆に繊細な心の機微を描くストーリー展開。ここでは住野作品を、デビュー作から近作まで一挙紹介する。

住野よる(すみの・よる)
学生時代より執筆活動を開始。小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿したのち書籍化されたデビュー作『君の膵臓をたべたい』はベストセラーとなり、略して「キミスイ」とまで呼ばれるブームとなった。同作は2016年の本屋大賞第2位となり、2017年には実写映画化。新境地を切り拓く最新刊『青くて痛くて脆い』(KADOKAWA)が2018年3月2日に発売された。

■「セカチュー」に匹敵する! 映画化された大ヒットの純愛小説『キミスイ』

『君の膵臓をたべたい』(住野よる/双葉社)

 かつてブームとなった「セカチュー」こと『世界の中心で、愛を叫ぶ』(片山恭一)を彷彿とさせる純愛小説が登場した。その小説の名は、住野よる氏の『君の膵臓をたべたい』(双葉社)。

 タイトルだけみると、「ホラー小説?」なんて思ってしまうが、本を開けば、この純情な青春の匂いに圧倒されるに違いない。そして、クライマックスにかけて明らかにされるタイトルの意味に、胸が締め付けられる。

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 物語の舞台は、今より医療技術が発達した少し先の未来。周囲と関わることを避けて生活してきた高校生の主人公は、ある日1冊の文庫本を拾う。それはクラスの人気者・山内桜良が綴っていた、秘密の日記。それによれば、彼女は膵臓の病で余命いくばくもないという。全く接点のなかった2人がこれをきっかけに、関わりを持ち始める。

 とても死が近いとは思えないほど、天真爛漫に振る舞う桜良に振り回される主人公。主人公と桜良の性格は「正反対」だ。友人がおらず閉じこもりがちな主人公と、多くの友人に恵まれ好奇心旺盛な桜良。

 余命わずかだからこそ結びつけられた2人の関係を恋と呼ぶのも愛と呼ぶのも、なんだか、苦しい。この小説には、友情と恋と、そして青春とが凝縮されている。

■「キミスイ」を超えると話題に! 小学生の女の子の不思議な物語

『また、同じ夢を見ていた』(住野よる/双葉社)

 お菓子、本、歌…。自分を幸せにしてくれるものを挙げるのは簡単だが、いざ「本当の幸せ」とはと考えると、その答えは難しい。大人になれば、誰でも幸せになれるような気がしていたが、人生そう簡単ではなさそうだ。忙しく毎日を送っていると、自分が本当に幸せなのか、わからなくなってしまう。もっと良い道もあったのでは…? やり直したいことだってあって当然だ。

 デビュー作『君の膵臓をたべたい』(双葉社)が大ベストセラーとなった住野よるの新作は、読む人すべてを幸せにする物語だ。小学生の主人公・小柳奈ノ花が、いろんな友だちや大人たちと関わりながら、幸せとは何か、その答えを見つけていく。主人公は、生意気なことばかりいう優等生だが、出会った人々のことを話しながら、次第に変わっていく。まるで童話のような不思議なこの物語には、優しさと温かさがある。誰もが自らの子どもの頃を思い出すことだろう。そして、大切にしたいものとは何なのかも、思い出すに違いない。

 これは、やり直したいことがある、あるいは今がうまくいかないというすべての人たちに読んでほしい物語。悩み多き私たちを包み込む温かさに、あなたもきっと癒されるだろう。

■第3作は、ファンタジーの手法を取り入れた切なくてピュアな青春小説

『よるのばけもの』(住野よる/双葉社)

 主人公はなんと、夜になると怪物に変身してしまう男子中学生。〝切なくてピュア〟なだけではない、新しい住野ワールドを読者に披露している。

 主人公の「僕」(=安達)は、目立つところのない中学生。しかし、夜になると真っ黒い怪物に変身してしまうという、誰にも言えない秘密を抱えていた。最初は戸惑っていた僕も、今ではすっかり慣れ、怪物の姿で夜の散歩を楽しんでいる。

 ある晩、夜の学校に忍びこんだ僕は、そこで同クラスの女子生徒・矢野さつきと遭遇し、怪物の姿を見られてしまう。秘密を守ることと引き替えに、会う約束を交わす2人。クラスでいじめの対象になっているさつきと僕は、学校で「夜休み」の時間をともに過ごすうち、少しずつ理解しあうようになってゆく。

 しかし、夜の時間が楽しいほど、昼間とのギャップは大きくなる。いじめに荷担する昼間の僕と、怪物の姿でさつきと遊ぶ夜の僕。切なくいびつな関係が、どんな決着を迎えるのか、あなた自身の目で見届けてほしい。希望の光に満ちた力強いラストは、心のどこかに「ばけもの」を飼って生活している私たちに、きっと新しい一歩を踏み出す勇気を与えてくれる。

■ちょっとだけ特別な力を持った5人の高校生がつむぐ、繊細な連作短編集

『か「」く「」し「」ご「」と「』(住野よる/新潮社)

 本作のテーマは「かくしごと」だ。人は誰しも、大きなことから、小さなことまで「かくしごと」を持っている。本作は高校生〈京くん〉〈ミッキー〉〈パラ〉〈ヅカ〉〈エル〉の5人が、代わる代わる主人公として登場する連作短編だ。

 この変わったタイトルは、主人公たちが持つ“ちょっとだけ特別な力”に関係しており、文字間に入った記号は能力そのものを表している。そして、その特別な力が、本作の「かくしごと」であり、主人公たちは能力を秘密にしながら生活する。高校生同士の繊細な心の動きを描く青春ストーリーだ。

“ちょっとだけ特別な力”は、どれも人の心を少しだけ探ることができるものばかり。少ししか探ることができないからこそ、主人公たちは相手の気持ちを推測しながら頭を悩ませていく。そして、登場人物たちは人の気持ちがわかる分、自分のふるまいにも人一倍気を使う。

 本作ではこのように人と接する中での思いや悩みが多く描かれている。自分の気持ちを代弁してくれるだけでなく、自分の気持ちをわかってくれる人がいるんだと感じさせ、心をすーっと軽くしてくれる。もやもやした思いを少しだけ解決に導いてくれる一冊だ。

■『キミスイ』を超える最高傑作! 最新作『青くて痛くて脆い』

『青くて痛くて脆い』(住野よる/KADOKAWA)

 「読者さんに何かを届けられるんじゃないかという自信が、今まで出した本の中で一番あります。最高傑作だと思います」と住野よる本人が自信をもって世に送り出したのは、5作目となる『青くて痛くて脆い』だ。本作は、初めて大学生を主人公に据え、大学という時空のリアリティをたっぷり吸い込んだ、青春小説。大学1年生の「僕」こと田端楓は、新学期早々のキャンパスでも浮かれていない。彼の人生のテーマは、〈人に不用意に近付きすぎないことと、誰かの意見に反する意見を出来るだけ口に出さないこと〉。その結果、孤独な日々を送っていた。しかし、大講堂での講義中に理想論を突然ふりかざし、周囲をぎょっとさせた同級生の女の子・秋好寿乃とひょんなことから仲良くなる。そして、二人きりの「秘密結社」のようなサークルを作ることに。活動目的は「四年間で、なりたい自分になる」。物語の始まりは、青春のきらめきに溢れている、が……。