あの頃の熱い気持ちがよみがえる! 王道サッカー漫画まとめ

マンガ

更新日:2018/9/27

 スポーツ漫画の王道といえばサッカーものだろう。ここではそんな王道である数あるサッカー漫画の中から、これこそ“サッカー漫画の王道”といえる10作品をセレクトした。『キャプテン翼』が筆頭の1980年代の名作から、2010年代の最新作品までをピックアップ。かつてサッカー少年少女だった大人たちも、現役でプレーしている今の子どもたちも楽しめるラインナップにしてみたつもりだ。

■W杯優勝メンバーもガチファン公言! 大空翼が世界への夢をみせる!

 絶対に外せないのが『キャプテン翼』(高橋陽一/集英社)だろう。2018年現在も新作アニメが放送されており、最新シリーズの『ライジングサン』も連載中だ。大空翼(おおぞらつばさ)を中心に描かれたファーストシリーズは、大人になって読んでも「こんなに重厚な話だったっけ?」と改めて感動できる。

 驚くべきはその知名度。日本代表になったサッカー選手たちも影響を受けたと公言しており、さらに世界トップクラスの選手たちまで、翻訳された『翼』を見て育っているというからすごい。W杯で優勝した元ドイツ代表ルーカス=ポドルスキ選手は、『翼』のイラスト入りのすねあてやスパイクを着用し、そのガチファンぶりが話題になった。日本サッカーの黎明期に世界一を目指していた『翼』は、その魅力ですでに世界を制しているのかもしれない。

advertisement

■「トシ…サッカー好きか…?」涙の高校サッカー漫画

 高校サッカーの王道作品と言えば『シュート!』(大島 司/講談社)だ。日本にプロサッカーが生まれつつあった時代から、10年以上にわたって連載された高校サッカー漫画だ。TVアニメ化もされ、国民的アイドルグループが主演した映画も話題となった。

 主なシリーズは、夏の高校総体制覇を目指す第1部の続編、『シュート! 熱き挑戦』。幻の左をもつ新キャラクターとの激闘を描く『シュート! 新たなる伝説』。田仲たちの中学生時代を描いた『シュート! 蒼きめぐり逢い』がある。主人公トシこと田仲俊彦(たなかとしひこ)は、新設されたばかりの掛川高校サッカー部へ。トシは憧れの“天才”久保嘉晴と、中学時代の仲間とともに、強敵たちに戦いを挑む。いつしか掛高サッカー部は“ミラクルチーム”と呼ばれることになる。もしあなたが未読であるならば「サッカーが好き」このキーワードが物語中で繰り返し語られる意味を知り、涙するだろう。

■日本代表を夢みていた少年は、困難を乗り越え高みを目指す。

 天才サッカー少年、一条龍(いちじょうりゅう)の成長を描く大長編サッカー漫画が『BE BLUES!~青になれ~』(田中モトユキ/小学館)だ。『リベロ革命!!』や『最強!都立あおい坂高校野球部』など、さまざまなスポーツ漫画を描いてきた田中氏だが、実はデビュー作はサッカー漫画「コンビ!」だった。

 2011年に満を持してスタートした本作は、小学生編、中学生編を経て、現在の高校生編へと続く長期連載となっている。周囲がその才能を認める小学生、龍は埼玉県大会で優勝したその日、普通に生活するのも難しいほどの大怪我を負う。龍はリハビリの後、中学でサッカーに復帰。強豪である武蒼高校に進学する。小学生で日本代表を夢みていた少年の物語は、ついに世界を体感する段階に入っている。困難を乗り越えた天才プレーヤー、龍の活躍から、目が離せない。

■これもリアルな高校サッカー! 望みは観客を魅了し美しく負けること

 主人公の高校2年生、今中一輝(いまなか かずき)は神奈川県内でも「そこそこ」のドリブラー。彼とその仲間たちが、ひとクセある雨宮監督とその娘、雨(あめ)の指導を受け、全国を目指す。これが『夕空のクライフイズム』(手原和憲/小学館)のストーリーだ。こう書くと普通のサッカー漫画だが、本作のポイントは「絶妙にゆるい学園もの」でもあるところだ。会話、いつもの帰り道、盛り上がるファミレスでの様子、そして甘酸っぱい恋模様。なんともフツーな高校生活の描写は他のサッカー漫画にはない魅力だ。

 とはいえサッカーに関してはガチ。サッカーマニアな雨が解説する今どきの戦術。今中たちが話題にする古今東西・国内外のサッカーネタも楽しい。そして本作のテーマ「攻撃的なスタイルを展開して周囲を魅了し、美しく敗れよう」である。これは名選手であり名監督でもあったヨハン=クライフの言葉であり、イズムである。物語はこのクライフイズムから始まり、同じくクライフの言葉で締めくくられる。サッカーファンなら思わずうなる、余韻のあるラストをぜひ読んでみてほしい。

■サッカー監督業は辛い? 番狂わせを起こし続ける男たちの物語。

『GIANT KILLING』(ツジトモ:画、綱本将也:作/講談社)で描かれているのは弱小プロサッカークラブ「ETU」(イースト・トウキョウ・ユナイテッド)。その監督に就任したのは元日本代表の達海猛(たつみたけし)だ。いわゆる番狂わせ=ジャイアントキリングが大好物の達海は、くすぶっていたチームをまとめ上げ、強敵を撃破しETU旋風を巻き起こしていく。

 采配や戦術などの視点に加え、“キャラが立った”男たちの活躍が魅力で、まさに王道と呼ぶにふさわしい物語だ。一見クールだが内に闘志を秘めた達海。復活を期すベテラン村越。才能を開花させて日本代表にまでのぼりつめる椿。個性的な監督や選手たち以外にも、地元サポーターたちのアツい想いも描かれる。伊達に10年以上の長期にわたって連載されていない。ライトなサッカーファンも間違いなく楽しめる作品だ。

■成長度ハンパない! 弱小チームのGKから超高校級のフィールドプレーヤーに!

 1980年代を代表するサッカー漫画のひとつが『オフサイド』(塀内夏子/講談社)である。主人公の熊谷五郎(くまがやごろう)は、サッカーの名門「ヨコナン」こと横浜南高校への進学に失敗し、川崎高校サッカー部へ入部することに。そこで巡り会ったのが中学ベストイレブンに選ばれた織田、高い才能をもった佐藤や薬丸だった。五郎は彼らとともに打倒ヨコナン、そして全国大会を目指す。さらにGKだった五郎は後にMFへ転向、全国レベルのフィールドプレーヤーとなる。

 弱小高校と主人公がトップレベルへ成長していく、まさに王道のストーリーだ。なお『オフサイド』には、奇想天外な必殺技や展開などはほぼ出てこない。同県内の選抜チームで戦う「国体(国民体育大会)」のエピソードや、硬いグラウンドの土のにおいといったディテールも丁寧に描かれている。サッカーファンに対して、説得力のあるリアリティを感じさせるのが『オフサイド』だ。

■王道+熱! 90年代を代表する名作、その名は『俺フィー』

 Jリーグが開幕する直前に連載が始まった、90年代を代表するサッカー漫画が『俺たちのフィールド』(村枝賢一/小学館)だ。実業団チームで選手だった父をもつ高杉和也(たかすぎかずや)は、事故で最愛の父を失いサッカーをやめてしまう。だが高校2年生になった和也はあるきっかけから再びピッチに立つ。高校サッカーからJリーグ、そしてワールドカップまでの大河ストーリーは、この時始まる。

 不幸を乗り越え、己の実力を高めていく王道の物語。現実のサッカー史にリンクしたディテール。完成度の高さは間違いないが、『俺たちのフィールド』の最大の魅力はなんと言っても「熱」にある。ただでさえアツいキャラクターたちが主張し、ぶつかり合い、しのぎを削り勝負する。村枝氏の高い画力も相まって、作品の熱量はサッカー漫画随一かもしれないと個人的には思う。ぜひ読んで『俺フィー』の「熱」を体感してみてもらいたい。

■レトロなスポ根テイスト強め! サッカー初心者が努力と根性でW杯へ!

 キャプテン翼の連載開始から数年後となる1985年にスタート。それから15年間にわたって連載されたのが『イレブン』(七三太朗:原作、高橋 広:漫画/集英社)だ。サッカー日本代表だった父をもつ主人公の青葉茂(あおばしげる)は、中学まで陸上部で鍛えてきた脚力を生かし、高校からサッカーを始める。サッカー初心者だった茂は努力と根性で成長を重ね、ユース日本代表からプロとなり、日本代表として世界大会を戦うまでになる。長期連載の間に現実ではJリーグの開幕やW杯への出場もあり、その内容を盛り込みつつのストーリー展開である。

 高橋氏のあたたかみのある絵柄と、強烈すぎる特訓の描写は、『巨人の星』をはじめとする70年代の「スポーツ根性もの」を思い起こさせる。レトロなスポ根テイスト強めの『イレブン』は、幅広いスポーツ漫画ファンにおすすめだ。

■プロ選手となった少年が弱小チームを勝利へと導く!

 知る人ぞ知る王道サッカー漫画が『ビクトリー・ラン!』(仲久晃央:原作、秋月めぐる:作画/秋田書店)だ。同時代に連載していた『キャプテン翼』はブラジルを目指していたが、本作は天才サッカー少年・結城ラン(ゆうき・らん)が、ブラジルからやって来るところより物語が始まる。日本プロサッカーリーグの弱小チーム「F・Cファルコン」へ入団したランは活躍し、日本で開催されるW杯出場を目指していく。

 連載中の1989年当時、日本のプロリーグが舞台となったことに興奮し、「日本でW杯開催」?ぶっ飛んだ設定! と思ったりした記憶がある。(W杯は13年後、日本で開催される)。また独特のテンポとユーモア、そして高い画力も魅力で、今読んでも古さを感じさせない。物語終盤、二重国籍をもっていたランは、セレソン(ブラジル代表)からも誘われる。W杯でカナリア色のユニフォームを着るのかどうかが見どころになる。個人的にW杯開幕前夜のシーンは、今読んでも泣ける。

■目指すはプロ! Jユースを舞台に描かれるモダンサッカー+成長ドラマ

 累計発行部数はついに200万部を突破。今、最も勢いがある王道サッカー漫画と言えるのが『アオアシ』(小林有吾:著、上野直彦:取材・原案協力/小学館)だ。架空のJリーグチーム「東京エスペリオン」のユース(高校生年代のジュニアチーム)に、アシトこと青井葦人(あおいあしと)が入団する。プロを目指すアシトは、粗削りながらその強烈な才能を認められていく。

 ストーリーはまさに王道。アツくなり勝利を目指す少年たちは、時にはもがきながら実力を開花させ、成長していく。彼らのセンシティブな心の動きもしっかりと描かれ、さらに物語のベースには、サッカーファンもうなる、モダンな戦術やリアルなプレーの描写がある。今はテレビでもネットでも最先端の海外サッカーを気軽に観ることができる。そんな時代の目が肥えた子どもたちがハマっている理由を、ぜひ確かめてみてほしい。

 まだ日本にプロが存在せず、W杯本大会が遠すぎる目標だった時代から、サッカー漫画は子どもたちに人気だった。うれしいことに、その時漫画で描かれた夢のような状況に、現実は追いついてきている。多くの日本人選手が海外のリーグで活躍し、中には10代の選手もいる。日本人がイタリアの名門チームで背番号10を背負ったこともあった。それでもサッカー漫画は依然として私たちを楽しませてくれている。王道の物語は進化し、新たな日本サッカーの希望や未来を私たちにみせてくれるはずだ。

文=古林恭