サッカー好きが本気出して選んでみた! おすすめサッカー漫画まとめ

マンガ

更新日:2018/10/1

 タイトルを見てこの記事を読み始めたあなたは、現実のサッカーもサッカー漫画も好きな“通”なのだろう。ならば、と期待にこたえるべく厳選に厳選を重ね、紹介するのはこの5作品だ。

 ライターの私自身、『キャプテン翼』(高橋陽一/集英社)のような王道サッカー漫画はもちろん読んだし今連載中の王道ものも読んではいる。だが最近は、サッカー好きの友人と「新連載のアレ読んだ?」「あー××のシーンを思い出すね…」。なんて身も蓋もない会話もしてきていた。ようするにサッカー漫画を読みすぎてスレすぎているのである…。

 それでも、出会いはあった。「アレはイイ! 目のつけどころが違うな!」と盛り上がった作品があった。本稿で“サッカー好きが楽しめるサッカー漫画”をおすすめする機会をいただけたので、しばしお付き合い願いたい。

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■日本がサッカーの先進国になるために。選手が使うべき筋肉とは

 アマチュアチームが、現実にあるプロアマ混合の大会で勝ち上がり決勝へ…。痛快な王道ストーリーだが『フットボールネーション』(大武ユキ/小学館)の魅力はそこだけではない。油断して読んでいると、非常に現実的なサッカー理論を私たちにバンバン叩きつけてくるのだ。

 そのひとつが「もも裏理論」。多くの日本人選手はもも前の筋肉を使い、背中を丸め、腰を落とし、消耗し、ケガもしやすい。だが海外の一流選手はもも裏の筋肉を使うという。このような説得力のある理論やセオリーが作品中、繰り返し語られる。これは作者のサッカー観と知識量によるものだ。大武氏はJリーグ以前からのサッカー好きで、大学サッカーものの『サッカーボーイ』や、超進学校のサッカー部の挑戦『我らの流儀』も描いている。日本がフットボールネーション(サッカー先進国)になるにはまだまだだと、教えてくれる作品である。

■Jリーグと歩み始めたばかりで見た、夢と現実。

 プロサッカーの現実は厳しい。今ならわかる。超高校級ともてはやされた多くの選手たちは、日本代表はおろかJリーグですら活躍できず姿を消していった。当時の私は本作でプロの厳しさを知った。『オフサイド』(講談社)の作者、塀内夏子氏が1993年、Jリーグ開幕と共に世に出したのが『Jドリーム』(塀内夏子/講談社)だ。

 赤星鷹は少年誌の主人公らしい天才サッカー少年。ただ脇をかためつつ目立っているのは渋いベテランたちである。プロ化で足に値段をつけられた、と戸惑う本橋はケガを負い、鷹と入れ替わるように夢の舞台から退場する。鷹が選出された日本代表には、若手GKとポジションを争う富永、骨折するまでピッチに立ち続けたDF本郷がいた。プロになったのに、スタメンになったのに、ケガをおしてがんばったのに、勝てるわけではない。泣けるシーンとセリフの宝庫であるプロサッカー漫画の味は、ビターで切ない。

■ない袖は振れないっ! それでも2部から飛躍したいクラブと選手の物語!

『マネーフットボール』(能田達規/芳文社)にはサッカーファンが知っておくべきことが描かれている。能田氏はサッカー好きを公言しており『オーレ!』『ぺろり!スタグル旅』(小学館クリエイティブ)などいくつものサッカー漫画を描いてきた。氏のサッカー愛と知識がつめこまれたのが本作だ。

 2部リーグに所属する愛媛イーカッスルは、主人公カジこと梶本洋平らとリーグ戦に挑む。年俸を上げたいと息巻くカジにベテランGKの船井は語る。イーカッスルの年間予算は約10億。ここから広告料やスタジアム運営費などで5億円が消える。さらにジュニアチーム運営費、トップチームの移動費用などの運営費、監督やコーチの年俸を引く。残った3億円を40人の選手で分け合うのだという。強化費と言われる選手の年俸が、予算の30%というのは標準的なのだそうだ…。これを読んだJリーグサポーターは、自分が応援するクラブの心配をしてしまうかもしれない。

■コアサポーターのいるゴール裏ってどんな場所?

 チームを応援する人間をサッカーではサポーターと呼ぶ。その中でも声を出し、歌い、コールをリードするサポーターは“コアサポ”や“ゴール裏住人”と呼ばれる。(正確に言えばコアサポはゴール裏にいるとは限らない。また日本代表サポーターについては割愛する…)。

『サポルト! 木更津女子サポ応援記』(高田 桂/泰文堂)は、このコアサポを描いたサッカー漫画である。2部リーグ所属のサッカークラブ、木更津FCのゴール裏にもコアサポはいた。そこにサッカー観戦初心者のムー子こと室町花子たちが入りこむ。彼女たちの目を通して、ゴール裏住人のふるまいやサポート方法、クラブへの想い、寂れる地域の問題などが可視化されていく。なぜサポーターは応援するのか? 本作はその理解の助けになるかもしれない。そしてゴール裏を含むサッカーの応援席とは何をするべき場所なのか、何をしていい場所なのか、それは作品ラストのセリフが教えてくれる。

■女子サッカーの未来を明るく照らすのは…ワラビーズ!

 才能あふれる少女たちが集った。周防すみれ、曽志崎緑、そして恩田希。彼女らが入部したワラビーズこと埼玉県立蕨青南高校サッカー部は、その輝きを徐々に増していく。『さよなら私のクラマー』(新川直司/講談社)はリアルな女子サッカーを描き、応援する物語だ。

 顧問の深津は言う。「女子サッカーに未来はあるのか?」。作中の女子サッカーを取り巻く状況は現実を下敷きにしており、ときおり作者の女子サッカーへの危機感と愛がだだ漏れる。(新川氏はアニメ化された『四月は君の嘘』(講談社)の他、本作の前日譚にあたる『さよならフットボール』(講談社)も発表。サッカー好きとしても知られている)。

 女子サッカーは2011年のW杯優勝をピークに、カリスマが引退し、世界大会への出場を逃し、徐々に落ち込んでいるようにみえる。それでも彼女たちは前向きにボールを蹴っていた。先日20歳以下の女子代表はU–20W杯で優勝。トップのなでしこJAPANもアジア大会で金メダルを獲得し、再び未来の光明がみえている。次はワラビーズの番だ。たとえ厳しい状況でも、少女たちは仲間とサッカーを楽しみ、現実を明るく照らす。

 サッカーに使う筋肉、プロ精神とお金、サポーター、女子サッカー。ジャンルは異なるが,いずれもサッカーを深掘りし、ピッチの内外や、厳しい現実を描いた作品だ。選んでから気がついたが、ここで取り上げた作者のうち4名は、サッカー漫画を複数描いており、さらに5名とも例外なくサッカー好きである。(プロフィールに書かれ、本人がSNSで公言している)。そんな彼らだからこそ、サッカーの周辺に存在するネタを見つけ、“通”も満足できるサッカー漫画を生み出すのだ。

文=古林恭